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【完結】決戦世界のダンジョンマスター【書籍一巻発売中】  作者: 鋼我
一章 ダンジョンはコボルトからはじめよ
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現実と覚悟とモンスターカタログ

 止めておけばよかった。道を進んだ感想である。最初はよかった。平坦でまっすぐな道がずっと続いているだけだったから。コアの光はすぐに届かなくなり、例の暗視能力に頼ることになった。大昔のゲームのような、ワイヤーフレームじみた通路をしばらく進むと自然の洞窟に合流した。


 これが厄介だった。まず、まったくもって未整備だったという事。地面は凹凸激しく、石も多数転がっている。あちこちから水が染み出していて、水たまりを作っていた。中には通り道がないほどにでかいものまであった。


 次に、小さな住民たちについて。虫やら小動物やら。ネズミらしきものはまだいい方。絶対に地球にいそうにない、ムカデとクモの悪魔合体したようなやつを見た時はここが異世界なのだと恐怖とともに確信した。


 最後に、環境の悪さ。湿気がある。寒い。足元がすべる。壁もぬめっている。ちょっと踏み込むと見たことのないやばそうな生き物が視界をかすめる。


 なるほど、そりゃあのクソカタログがまかり通るわ。借金してもこんな環境改善したいと思うわ。だけど、生活基本パックですらあの値段。この洞窟全部となったらどれだけかかるやら。ほかの工務店と相見積を取らせろと言いたい。


 靴が良くて助かった。俺の趣味の一つに、一人キャンプがあった。これはアウトドア用に買ったもので、このひどい地面でも転ばずに進めている。……この靴がだめになる前に、洞窟を何とかしなければならない。


 靴はよいが、服はだめだ。家でくつろぐためのただの黒ジャージである。このひどい環境では、着れなくなるのも早いのではないだろうか。しかし、休日の服にこの靴。一体俺はどんな状況で連れ去られたのだろうか。記憶はない。


 ともあれ、そのように四苦八苦して進むことしばらく。視界に変化が表れてきた。白黒世界の白が強くなってきた。つまり、光が見えてきたのだ。暗視能力を切れば、道の先に光が見えた。


 一歩踏み出す。とたん、頭上からすさまじい数の羽音が響いた。虫ではない。


「蝙蝠か!?」


 ぱらぱらと落ちてくる何かから、とっさに両腕で顔を守る。ばっさばさと、それこそ蝙蝠傘をいくつも開閉させるような音がしばらく響いて、治まった。出て行ったのか奥にいったのか。前者であってほしい。


 頭にかかったものを払いながら、これは何かと見てみる。光が届くここなら色が見える。色は黒。乾いた感じ。見れば、足元にかなりある……これは。


「げぇ! フンだ!」


 ぎゃあー、と体にかかったものを払う。で、思い出す。たしか蝙蝠のフンというのはネズミのソレと同様、病気の原因になるのではなかったか? うろ覚えの知識だが、無害であると考えるのは早計だろう。


 一応、と思い壁から染み出る水で顔と頭を洗っておく。水たまりはともかくこちらならまだまし、と思いたい。


 ジャージの上着を脱ぎ、洗う。タオル代わりに使って再度洗う。絞る。着るのではなく昔のTVプロデューサーのごとく袖を縛って肩にかける。よし。


「さて、いくか」


 光に向かう。いよいよ暗視能力が光で邪魔されるようになってきたので解除する。薄暗い中を、一歩一歩ゆっくりと進む。上にも注意するが、蝙蝠の姿はない。


 そしてついに、出入り口に到達した。空が赤い。夕方だろうか。風は冷たく、しかし澄んでいた。洞窟の目の前は背の高い草がみっしりと生えていた。分け入って行くには苦労を伴うだろう。さらにその先には森が見える。人工物は何も見えない。


 根拠のない確信がある。それを確かめるために、外に向けて足を踏み出した。


 止まった。洞窟から、足先すら出ることができない。足が動かない。壁があるわけではない。俺の足が、意思に反して動きを止める。停止プログラムを突っ込まれたロボットのごとく。


「やはり、か」


 こんなことになるんじゃないかとは思っていた。あの巨石がある限り、俺はここから離れられない。かといってあれを壊す、というのもまずい気がしている。暗視能力もそうだし、ここまでこの洞窟を進めたのもアレの力によるところがある。こうやって止まっているだけでも、じんわりと失った体力を補充されている気がするのだ。


 力を与えられている代わりに、命を握られている。そんな気がするのだ。


「やっぱり、ダンジョンマスターするしかないか」


 ショックはある。大いにある。でも落ち込んでもしょうがない。ぎりぎり、まだ受け止められている。


 さて、状況は確認できた。まずは、この劣悪な環境の改善。あと、生活環境の構築。そして、防衛戦力の獲得。現状手を付けるべきはこんなところだろうか。


 そして、あのクソカタログは使えない。使いたくない。となれば、もう片方に希望を託すしかない。俺は最初の部屋に戻るため、洞窟の中へと足を踏み出した。


 ……あの道を戻るのか。ちょっと、めげる。心が折れそうです。


 /*/


 ふらふらになりながら、戻ってきた。のどが渇いた。湧き水なら大丈夫かとも思うのだが、やはり最低限沸騰させないと怖い。生活用品を手に入れないといけない。俺のキャンプセットがあればなぁ。


「つっかれたぁ……」


 石の椅子に座る。硬く、冷たく、座り心地最悪のこれでこんなに休まるとは思っていなかった。……いや、本当に休まるなこれ。みるみる疲れが抜けていくぞ。え、もしかして魔法の椅子だったりするの? ううむ……もしかして気のせいということもありうる。保留にしておこう。


 疲れがだいぶ取れたので、台座の前に立つ。変わらず、本が二つ、小箱が一つである。正直クソカタログのほうは捨ててしまおうかと思うのだが……あ、今度焚き付けに使おう。着火剤としてはきっと優秀に違いない。


 クソカタログはさておき、もう片方。モンスターカタログを開く。光があふれる。読書用の光が自動で現れるとか、思えば高性能な本である。


 さて、改めて頭から読んでみる。冒頭の注意文をもう一度。……この環境をどうにかできるモンスターとか、いるんだろうか。ええと、建築、建築……。


『デヴィル・オヴ・キャッスル 三万コイン 炎の姿をした悪魔です。対価を与えれば、あなたの住処を望みの通りに変化してくれます。罠も壁も悪魔の思い通りで、ダンジョンを移動拠点にすることさえ可能です。対価はコインで支払えば問題ありませんが、悪魔はそれ以上を求めてきます。使用には十分な注意が必要です。悪魔の作り出す防衛設備は対価に比例して強力になりますが、製作者は極めて非力です。倒されれば被造物は全て壊れてしまいますのでお気をつけて』


「うーん、論外」


 三万とか借金しても払いきれないに違いない。さらに環境整備に追加コインが必要とか。気になって上位モンスターから見てしまったが、やはり上ともなると色々いるものだ。面白い。いや、面白がっている場合ではない。実用性、実用性……。


『アントクイーン 五千コイン 巨大アリたちの女王です。作業アリ、兵隊アリ、近衛アリに変化する卵を産みだします。巨大アリたちは巣を作るため、ダンジョンの防衛役に最適です。作業アリたちはキノコの栽培すら可能ですので、薬用キノコを与えれば副収入も期待できます。アントクイーンは知能が高いため追加オプションで竜語を最初から覚えさせることが可能です』


「んんん……実用性が一気に上がったが、まだ高い」


 こいつ一体で防衛と環境整備が進むのはかなりポイント高い。モンスターで副収入、という知見を得られたのも大きい。……副がこれなら主はなんだという疑問が新たに生まれもしたが。あと竜語なるものも。


 とはいえ、これも高い。やはり初心者枠から見ていくしかないのか。えーと、ページ前半……しかし本当分厚いな。こういった台がないとまともに開いていられないぞ本当。


『ゴブリン 一コインで三十体 人間の子供ほどの体格をもつ邪妖精です。卑劣で下劣、弱者を虐げるのを好み、平然と怠けます。きわめて弱いのですが、その邪悪さから暴力に抵抗を持ちません。味方の犠牲を(そもそも味方という概念が希薄です)何とも思わないため、周囲に自分より強いものが戦っている限りは士気崩壊することがありません。細かい命令を理解する知能はありません。自分が不利になる命令には従いません。敵に損害を与えるための使い捨てと割り切って運用してください。場合によっては、ダンジョンに損害を与えることもあります。常設は避けたほうがいいでしょう』


「デヴィルと別の意味で論外。……しかし、この安さはすごいな」


 使い捨ての戦力としてはアリ、か? しかし命令を聞くかわからんというのがなぁ。うーん、やはり文章とイラストだけではなんとも。


 ここは……ひとつ、やってみるか? 注意文の下、親指大の細かい模様。多分これ、魔法陣とかいうやつ。ヘルプセンターへの、連絡。意を決して、魔法陣に触れてみる。何かが、体からわずかに抜けた感覚。


 次の瞬間、モンスターカタログが大きく光った

初日のみ三話更新。以後一日一話とさせていただきます。

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