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【完結】決戦世界のダンジョンマスター【書籍一巻発売中】  作者: 鋼我
二章 迷路なくばダンジョンにあらじ
28/207

お貴族様 いらっしゃい

 ヒトによる襲撃があった翌日。ダンジョンは朝から騒がしかった。


「さー、時間ないぞ-。いつまでも寝ぼけてたらだめだぞー。ご飯なくなるぞー」


 ねぼすけが多いコボルト達を巣穴のようになっているテントからたたき出す。


「一列になって、器をもって並ぶ。はいそこ、ふらふらしない、寝ない!」


 エラノールさんがコボルト達を統率している。アルケミストは昨晩遅くまで修理にかかりっきり。シャーマンには別の仕事を頼んでいたが……。


「主様、申し訳ありません。自分ではどうにも」

「うーん、駄目だったか。わかった。俺がなんとかする。シャーマンはエラノールさんを手伝ってくれ」

「かしこまりました」


 列に向かっていくシャーマン。それを見送って、俺は一つのテントへと向かう。最初に俺が買ったテント。今はこれをミーティアが使用している。彼女は、下半身が蛇だからか朝に弱い。いつもなら寝かせてやるが今日はそうも言っていられない。


「おーい、ミーティアー。朝だ……げっ」


 テントをのぞき込んだ俺は、慌てて目をそらす羽目になった。まず第一に、彼女は何も身につけていなかった。元々衣服を着る習慣がなかったミーティア。今も煩わしく感じているようで、風呂などの後は促されるまで(あるいはエラノールさんが怒るまで)裸でいることが多い。


 昨日、寝る前は最低限身につけていたはず。つまり寝る前に脱いだか、寝ている最中に無意識に脱いだか。あまり変わりは無いか。床には、脱ぎ散らかされた白い布が落ちている。さらには酒瓶やら、シャーマンから強奪した呪物やらが散乱。かろうじて汚部屋ではないが、すでにその片鱗がある。


 ともあれ、目の毒である。しかし、起こさねばならない。


「朝だぞミーティア。おきなさい、ほら」


 ばしばし、と手を叩く。モンスターといえど一人の女性。揺すって起こすのはセクハラになるような気がする。


「んぅー? ぼーすー?」

「そうだよおまえのボスだよ。今日は早く起きてくれって昨日伝えたろ? 覚えてる……ぬぁっ」


 突如、足に何かがまとわりついた。ものすごい力でテントに引きずり込まれる。考えるまでもない、ミーティアの尻尾だ。あっという間にベッドに引きずり込まれる。やわらかい! 何がどう、というのは言明を避ける。いろいろ危ない!


「んっふー。いけないんだぁボス。ラミアの巣に不用意に近づいたら襲われちゃうんだよぉ?」

「ええい、冗談はここまでにしとけよミーティア! 洒落で済まなくなるぞ!」

「じゃあ、本気ですごいこと、しちゃう?」

「ほう」


 極寒の吹雪のような声が響いた。声の主はもちろん、我らがエルフ侍、エラノールさんである。


「このもろだし女。目覚めにミヤマ様の手を煩わせるだけに飽き足らず、朝も早よから不埒なまねを。辞世の句を読め」

「じせいのく、とかよくわからないけどー。あんたも混ざる?」


 激怒のオーラを放つエラノールさんに対して、ミーティアは余裕……ではなく、これは寝ぼけている。というか本当に放してほしい。これはいけない。とてもいけない。暖かさが、柔らかさが!


 もはや待ったなし、と木刀に手をかけたのが見える。間違いなく、次の瞬間ひどいことになる。が、それよりも早く、別のひどいことが起きた。


 俺たちに、冷水がぶっかけられたのだ。


「「冷たいぃ!」」


 悲鳴を上げる俺たち。ミーティアもたまらず俺を解放する。バケツの持ち主は、ふんすと鼻を鳴らしてからわんと吠えた。寝不足のためか、やや目がすわっているアルケミストだった。


「じゃれ合うのはそこまで。今日は忙しいのですから、早くしてくださいまし」


 び、と指を指したのが合図だったのか。スライム・クリーナーがテントの中に飛び込んできた。容赦なく俺たちにまとわりつき、服や体についた水を吸収していく。日常的に慣れたものなのでそれは別にかまわない。ただしミーティアの方は見ない。全裸のラミアにスライム? 危険すぎる。


「エラノール様も。ここは私が見ますので」

「う、うむ。……アルケミスト? その、ミヤマ様に冷水をぶっかけるというのは流石にどうかと……」

「時間が無いと、申し上げましたが?」

「うむ! すまない!」


 下から睨み付けられて、エラノールさんが逃げていった。母上みたいとか呟いていたか? それはさておき。解放されたので俺もテントから這い出す。


「うう、寒いよう寒いよう。冬眠しそうだよう」

「服を着てたき火の所へ行け」

「そーするー」


 のそのそと、ミーティアも動き出した。それを見届けて、力強い足取りでアルケミストも持ち場に戻っていく。……寝不足のアルケミストを怒らせてはいけない。ナツオ覚えた。


/*/


 前回の騒動の結果。あのロクデナシ組織、デンジャラス&デラックス工務店内にヨルマ・ハカーナという協力者を得た。そのおかげで、様々な抱き合わせセット販売から必要な部分だけを注文するということが可能になった。


 例えばこれ。


『補強 一コインから 自然洞窟に支えを入れます。ダンジョンといえど無計画な拡張や激しい戦闘があれば崩れます。それを回避するための処置です。素材によってダンジョンの耐久度は変化します』


 馬鹿正直にカタログから頼むと、いらないオプションがたくさんついてくるのだ。照明や壁の化粧とか。照明はすでにあるし、飾っている余裕はまだないのに。ヨルマを通せばその辺を外してくれる。実に有り難い。


 そんなわけで、自然洞窟部分に木材の支えが入った。正直、全く気にしていなかったがヨルマからの指摘を受けてなるほど、と思い導入した。コインたった三枚で済んだ。


 ほかにもいろいろ導入したくはあったが、取り急ぎで入れる必要があった設備がある。


『転送室 十コイン 物質、人員、モンスターを転移させるための部屋です。すべてのダンジョンはレイラインによってアルクス帝国帝都アイアンフォートと繋がっています。工務店および配送センターはこれを利用してダンジョンに設備やモンスターを転送しています。この部屋はその機能に相乗りすることで、極めて低コストで人員や物資を遠方から転移させることが出来ます。転移には送り側、受け取り側の同意が必要です』


 転移ならコアルームがあればいいんじゃね? と思っていたのだが、あれは配送センターと工務店だけが使えるシステムらしい。それ以外から人員や物資を送るのであればこの部屋が必須とのこと。……エラノールさんの実家からの仕送り、配送センターというかイルマさんに負担をかけていたんだなぁ。反省。


 ともあれ、この転送室を設置した。場所はバリケードのすぐ近く。本当なら居住区に置きたかったが、万が一を考えるなら防衛設備の近くに置くべきとのこと。ここなら常にコボルトがいる。


 設置代金を削るために、ストーン・ゴーレムを主力として必要スペースを掘って広げた。こういった節約方法もヨルマからの情報だ。なお、セット価格だと三十コインだった。防衛用罠やアラームとか、あると便利かなとか思ったけど……冷静に考えればいろいろ代用は可能。わざわざコイン支払うまでもない。おのれ商業派閥め!


 朝どたばたと準備した俺たちは、その転送室の中にいた。床には転送用魔法陣。台座に固定された水晶球。壁に設置された魔法の明かりを放つ照明。部屋の中にはこれしかない。


 その水晶球が、ほのかに赤い光を放つ。同時に、小さなベルの音も。俺は水晶球に手を触れる。脳裏に現れるイメージ。連絡の通り。


「転送、承認」


 魔法陣が光を放つ。強い輝きが放たれ、消えた後には三人の人影があった。


「ようこそ、ミヤマダンジョンへ。歓迎いたします」


 現れた三人に対して、俺は一礼をした。相手方もまた、見事に整った礼を返してくれる。


「お招きいただき、感謝します。ダンジョンマスターミヤマ様」


 髪は夜闇の黒。瞳は琥珀色。よく知る彼女と同じなのは兄だから。ヤルヴェンパー公爵家当主、エドヴァルド・ヤルヴェンパー。今日招いた三人のうち、最も地位が高い。歴史も長い。勢力もある。そして、イルマさんの兄だけあってとってもイケメン。背も高い。全方位隙が無い、パーフェクトである。


「マスター自らお出迎えいただき光栄です。本日はよろしくお願いします」


 続いて、もう一人の挨拶。髪は黒で瞳は茶色。つまり日本人的であるが容姿がちがう。短いながらもとがった耳、整った顔立ちは間違いなくエルフの血。ハーフエルフにしてハイロウ。ソウマ伯爵家当主、ハルヒコ・ソウマ。服装も帝国貴族のそれだが、腰にはしっかり刀の大小が。


 そして最後。背が低く見えるのは、左右に立つ二人が長身だから。実際は年齢相応だろう。燃えるようなオレンジ色、ボリュームのある髪と金の瞳。立ち振る舞いも見事な美少女。目に映える紅のドレスは腕の良い職人に作らせたのだろう。彼女の発育の良い肢体にピタリと合わされ、しかし動きを阻害しているように見えない。


 しかし、それらの特徴以上に彼女には目を引く要素がある。まず、耳だ。人のそれが付いている場所に、ネコ科の耳が備わっている。腰の後ろからは、ピンとたった細い尻尾があり、その先端にはよく整えられた毛。


 彼女はライオンの獣人……では、ない。その証拠に、背に白い羽があるのだ。そう、彼女はスフィンクス。獣人ではない、モンスターだ。


 そんな彼女は優雅な一礼を見せてくれた。


「本日のことを、とても楽しみにしていました。心より感謝を」


 ブラントーム伯爵家当主、ロザリー・ブラントーム。貴族派閥の重鎮の一人。今日はアルクス帝国貴族三名のお客様が来る日だったのだ。

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― 新着の感想 ―
女性陣の序列1位がまさかアルケミストになるとは…w ダンジョンマスター物好きで検索でたどり着いたけどこんな面白い小説あったとは…! 楽しく読ませてもらってます。
母上怖いw
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