たった一つの冴えたやり方
包帯が巻かれた手が、大きく上げられる。
「待った。ルール決めが先でしょ」
アマンテの言葉に、先輩が思いっきりつんのめった。即座に殴り合いを始めようかという雰囲気だっただけに、まあ当然の反応だった。
「……アマンテ、貴女ねえ」
「手加減抜きで戦ったら、損するのはオリジンよ? こんなケンカでマスター減らして防衛に穴開けたくはないでしょ」
ぐうの音も出ないとはこの事だ。周囲のマスター達も、うわあと惨状を憐れむ声を上げている。ラスボス宣言した後にこれだから、格好つかないことこの上ない。
「まず、これは私闘よね? じゃあ、互いにダンジョンコアのパワーは使わない。よろしい?」
「……いいでしょう。自爆回避もできますし、うっかり死んでも蘇生ができます」
途端に、コアとの接続が途絶えた。他のマスター達も呻いている。先ほどの激闘の疲労は霊薬を使っていたので回復しているが、そうでなかったら倒れていたかもしれない。
「何でこっちの不利になるような事を」
誰しも思っている疑問に答えてくれたのはヤルヴェンパー様だった。
「仕方がないのです。グランドコアの支援を受けたオリジンは天下無双。天魔ですら抗いきれません。無限のエネルギーと無限の物資。常に常人の数倍で動いて暴れ倒すのです。我ら三大守護神を一人で制圧した実力は伊達ではないのです」
化け物かな? 竜だの亜神だのよりよっぽど怪物だと思う。俺たちのそんなざわめきをよそに、城塞蜘蛛はさらに話を続ける。
「次、物資制限。手に持てるものを一つ準備。それ以外は持ち込まない。こんな所で貴重品を使い込むのもダメでしょう?」
「……そうですね。まあ、何とかなるでしょう」
この取り決めにはゲェー! と悲鳴が上がる。かくいう俺もその一人だ。先輩との殴り合いで少しでも貢献するのなら、アイテムでどうにかするしかないと考えていたんだ。それをほぼ封じるようなルール設定。頭を抱えざるを得ない。
「ティフォーネ様! このルールはきつすぎます!」
近くのマスターに泣きつかれた二メートルの美女は、ゆっくりと首を振った。
「だめだ。これも封じねばやはり勝ち目がゼロになる。あ奴は、この世界で最も金と物を持っているのだ。それで殴られたら絶対に勝てぬ」
「じゃあ、これで?」
「うむ。これでただの現人神にまで落とせたな」
「……ただの?」
「そうだ。まあ、奴は己の神性を否定しているから能動的に奇跡を使えん。だが三千年の間、帝国臣民に崇められ続けたあ奴は限りなく神に近い。受動的に、様々な奇跡が起きよう。耐えよ」
「どうやって?」
現実逃避したいと言わんばかりの表情で、彼はそう呻いた。気持ちはとても分かる。ダンジョンコアと物資縛ってなおこの理不尽。何だあの人、ラスボスかな? ラスボスだったわ。
「はーい、それじゃああんたあっちのほうに離れてねー。あと、作戦会議で五分貰うから」
「どこまで譲歩させる気なんですかアマンテ」
「しょうがないじゃない。この人数差を正しく生かさないと逆にペナルティになってあっという間に負けるんだもの。実力差を分からせたいなら、手順が必要なのよ」
「まったく……五分しか待ちませんからね!」
ぶつくさ言いながら、先輩は指定された場所に離れていった。……改めて思うが、基本的にはいい人なんだよ。今回の方針がやばすぎるだけで。
オリジンを見送っていた俺たちを促すため、アマンテが手を叩く。
「はい、それじゃあ時間無いからさっさと役割を決めるわよ」
「……そういえば、さっきから何でアマンテ様が仕切ってるんです?」
「私より悪だくみが得意な奴がいたら前に出なさい」
「ぐうの音も出ないや」
ここに集まっているのは古参マスターだ。誰もがアマンテのやり口を知っているらしい。それでいて恨まれていないというのは稀有な事だと思う。やはり定期的にシバかれているからだろうか。今もボロボロだしな。
「まず、近接戦闘でハイロウに勝てる連中。いたら集団から離れて。あんたらがメイン戦力だからね」
少数ながら、その人たちが別チームを作る。あ、ソウマ様がいるじゃないか。流石だなぁ。
「次、物理以外、道具も含めて一発デカいのがある奴も離れて。切り札として使うから」
また、十数人が新しいチームを作る。サイゴウさんの姿が見えた。……アイツを使う気か。確かに、あれなら切り札になりうるだろう。目が合ったので手を上げて挨拶しておいた。
「最後、残りの連中。お前ら殴られ役ね。オリジンに張り付いて兎に角消耗させなさい。以上」
「ひでえ! 流石にそれはひでえよ!」
「ほかになんか無いんですか!」
「煩い。オリジン相手に下手な作戦なんて通用しないのよ! あれは本物の英雄なんだから! 通じるならとっくに私がオリジンをモノにしてるのよ!」
「ちくしょう、なんて嫌な説得力だ!」
伊達に何度も先輩に挑んでは返り討ちにあっていない。アマンテが一番、オリジンの実力を理解しているという事か。全くもって酷い話だが、実を言えば俺も同じ考えだ。これがダンジョンならば別の戦い方もできるが、正面から挑んだ場合どうしても勝てる未来が見えない。
せいぜい、一度に二人以上で挑むくらいだが。自分たちは全く攻撃を合わせる訓練をしていない。即興のそれが、先輩に通じるだろうか。たぶん無理だな。
となれば勝負を決めるのはソウマ様たちに任せて、俺たちは根性を見せるのみだ。
「で、アマンテ様はどう戦うんです?」
「え? 私、契約でオリジンに逆らえないからこれには参加しないよ?」
一同からブーイングが上がった。俺も参加した。……果たして勝てるのだろうか。勝てないと地球人類壊滅なんだがなあ。
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「はい、時間よー。それじゃあよーい、ドン!」
アマンテのこれ以上ないほど呑気な号令と共に、運命の戦いがスタートした。武器を構えて歩き出したのは俺たち、殴られ役である。走って近づくなんて無謀な事はしない。まずはゆっくりと包囲して……。
「はい、ドーン!」
「ごっふぅ!」
マスターが一人、蹴り飛ばされたボールのように後方へ転がっていった。は? とそちらを見ると、次の人を蹴り飛ばしているオリジンの姿。……十メートル以上の間合いを一瞬で詰めてきたあげく奇襲成功しやがった。
「か、囲めぇ!?」
「させると思ってるんですか。考えが甘い」
「うわぁ!?」
三人目が吹き飛んでいく。……何だあれは。投げると跳ねる、スーパーボールが人の姿をしたかのよう。問題は叩きつけられるのが壁や床ではなく敵だという事なんだが。
とにかく、移動が速い。攻撃が早い。次へのターゲッティングが早い。総じてあらゆる行動が早い。戦闘という行動に慣れ切っている。俺たちは心臓の鼓動や内臓の働きなどは意識せず行っているわけだけど、それと同レベル。息をするように戦いをこなしている。
現人神がどうとかいう話ではない。ダンジョンコアのサポートなどない。長く長く戦い続けた結果、このような領域に至ったという話。
「これが、先輩の本気……いっ!?」
「おや、よく防ぎましたね……ってなんだ、リビングメイルですか。後輩君、それじゃあいつまでたっても成長しませんよ?」
気が付いたら、先輩が目の前にいて平手打ちを叩き込み来ていた。クラッシャーが反応してくれなかったら、俺も吹き飛んでいた事だろう。
「俺に、戦いの才能はないので……」
アーマーのパワーアシストを使って全力で踏ん張る。いかなる異能か、それとも鍛え切った身体能力のなせる業か。先輩はそんな俺を涼しげな顔で押し込んでいる。
「才能あるなしなど、ただの言い訳に過ぎません。何が何でも生き延びねばならないのですから、才能以外で勝負しなければ」
「だからアイテムの力でどうにかしているわけでっ!」
蓄えたエネルギーをクラッシャーに供給。出力を上げて押し返す。少しでも削らなければ!
「確かにそれは一つの手です。ですが手数は多くなければ。才能がなくとも、練習でこういったことはできるようになりますよ」
「がはっ!?」
肺から、息が強制的に排出された。先輩の手が胸部装甲に添えられ、少しばかり押し込められた次の瞬間だった。
「道具に過信してはいけません。衝撃吸収能力があっても、やりようによってはこの通り機能を殺せますからね。では、罰ゲームでーす。あ、グレートソードは手放した方がいいですよ、酷い事になるから」
「ごほっ、お、おおおお!?」
細腕からは考えられない怪力。あれよあれよという間に両足を掴まれ、ジャイアントスイングをかけられてしまった。何とか逃れようとしても、鎧がきしむほどに掴まれてはどうしようもない。速度が出る前にブッチャーを手放して良かった。危うく回転殺人カッターになる所だった。
しかし、こんなプロレス技をかけてどうするというのか。こんな技をかけていては、先輩もさっきのようなUFOじみた動きができなくなっている。むしろ不利になるだけでは……。
「そこ、ドーン!」
「「ぼはっ!?」」
オリジンの意図するところはシンプルだった。俺を鈍器としてほかのマスターに叩きつける。なるほど、鎧の硬さと重さ。そして速度が合わされば非常に強力な衝撃を生み出せるだろう。加えて俺自身にもダメージが入る。何て効率的なんだ! 最悪だ!
というか鎧装備の大人一人を振り回すなんて雑な攻撃をしているのに、ほかのマスターの攻撃が当たらんのはなんでだ!
「もいっちょ、ドーン! さらにドーン! おまけにドーン!」
「止めろ! だれかオリジンを止めろー!」
「殴りに行こうとすると、あの鎧でけん制されるんだよ! 動きを完全に読まれてる!」
「あんなぐるぐる回ってるのにか!? こんなに人数いるのにか!?」
……こんな雑な攻撃をしているのに、戦場把握は完璧なのか。目が回りそうな攻撃をしているというのに。一体どれだけの戦場を越えればこんな能力が身につくのか。というか、痛い。かつ苦しい。血が頭に昇るし、マスター吹っ飛ばす時の衝撃もきついし。
このままでは武器にされるがままダメージが増えていく。無理にでも脱出しなければと、気合一発腹筋を曲げる。上体を起こされてはまともに回転できまい!
「じゃあいらないです。いってこーい」
「うぁぁぁぁぁ!?」
投げ捨てられた。おそらくは誰かを狙っただろうけど、その人物の努力のおかげか直撃はしなかった。なので俺自身が地面に打ち付けられてごろごろと転がるだけで終わった。いや、きつかった。目はぐわんぐわん回っているし、打撲の衝撃も残っている。ぶっちゃけ立てない。
「おおお。ミヤマ、生きてるか?」
「どーも、サイゴウさん。とってもきついです」
「だろうな」
通信では時々やり取りしているが、面と向かって話すのは久しぶりだった。……俺、うつ伏せで倒れているから面と向かってというのは若干違うか。
「ババア、無茶苦茶するなぁ。……さっきのキレてる時よりは大分マシっぽいが」
「あ。やっぱそう思います?」
「おう。なんかはしゃいでるぜ。その分こっちの被害が甚大だがな」
さっきから聞こえてくる先輩の声、やっほうとかきゃっほうとかそんな感じなんだ。この状況を非常に楽しんでいらっしゃる。俺たちが悲鳴を上げるたびに、彼女のテンションも追随する。そしてさらに被害者が出るという。
こんな状態でも士気崩壊しないのは、流石歴戦のダンジョンマスターたち。だけど、幾らなんでも全く有効打のないままでは気持ちも折れる。何とか体を起こしたその時、地面を揺らす衝撃があった。その原因はすぐに分かった。何せとても大きかったから。
大海竜ヤルヴェンパー、雲巨人ティフォーネ。それぞれが本来の姿と大きさをもって戦場の端に現れた。中心にいるのはもちろん、オリジン。
「何をする気なんだ……?」
「それはもちろん、封印よ。あの二人、ぶっちゃけこの戦いだと戦力外だしね。大きすぎて攻撃が雑になるし、ヒトサイズだと勝手が違ってまともに戦えないし」
アマンテが説明に現れる。というか、俺が転がった先がいわゆる本陣だったわけだが。
「亜神二柱の力を使って、現人神の権能を封印するわ。これでやっと体力ほぼ無限回復状態を解除できるってわけ」
「……それじゃあ、今まで俺たちが必死になって戦っていた分は?」
「回復済みね。でもまあ、時間稼ぎにはなってたわ。おつかれ」
やっぱこの城塞蜘蛛は退治しなければいけない気がする。次があったらエルダンさん達に確実にとどめを刺してもらうよう依頼しよう。うっかりを装ってもらおう。
「さあ、これでやっとオリジンがただの超人、達人にまで落ちたわ。ここまでやらないと勝ち目がないとか、ほんと最高よね」
「……アマンテ様、オリジン様にベタボレしすぎでは?」
「恋は盲目なものなのよ!」
その恋の具体的な形が卵産みつけってあたりがやっぱ異種族なんだなって。まあさておき、戦場の状況は変わった。さっきまでの無茶苦茶で一方的な蹂躙は終了した。その代わりに起きているのは。
「ふっ!」
「だぁっ!?」
見える速度だった。しかし、反応できていなかった。懐に入ったオリジンが、マスターの一人に足払い。転んだ所で胸部を踏みつけ、行動不能に追い込む。その背に向かって別のものが武器を振り下ろす。
「不意打ち御免 ……がっ!?」
しかしオリジンはそれに反応した。地面に両手をつくと、天高く蹴り上げたのだ。蹴りによるアッパーカットを受けて、また一人ダウンする。さっきのジャイアントスイングの時でさえ周囲の把握は完璧だった。ただ後ろから攻撃するだけでは不意打ちになどならないのだろう。
そしてその勢いを使って体勢を立て直すと、新しい相手に向かっていく。その表情は、笑顔である。獰猛で物騒であるが、心底楽しんでいるのがよくわかる。ここまで不利な状況に追い込まれているというのに。
「さあ、出番よ戦士団。オリジンをイヤンと言わせるのよ!」
「アマンテ様の為じゃないんだがなぁ……」
ぼやきながら、腕に覚えのあるマスター達が前に出る。俺たち前座の出番は終わった。いよいよ主力のお出ましである。……それはそれとして、俺も何かできるかもしれない。身体を動けるようにして準備しておこう。最後の切り札も、一応あるし。おっと、ブッチャーも拾っておかなければ。
達人とオリジンの戦いは、一対一で行われた。先ほども述べたようにマスター達は協力し合えるように訓練はしていない。これが雑兵相手なら問題なく二対一をやれるのだが、相手は達人中の達人であるオリジンだ。わずかな隙が命取りになる状態で、慣れない相手と組んで戦えないのだ。
一人目は大型の丸盾に肉厚の短剣、グラディウスを装備した人だった。接近戦狙いの相手に対し、オリジンは大型のナイフを抜いて応戦。
序盤、にらみ合いつつ間合いを詰めていく流れ。じりじりと、ともすれば動いていないように見える。しかし気が付けば立ち位置が変わっている。先輩はともかく、相手方も相当なのだなとこの時点でよく分かった。よっぽど練習を重ねているに違いない。
「なんでマスターなのにあんなに殴り合いの技磨いているんだよ」
「……趣味なのでは?」
「ああ、趣味じゃあしょうがねぇなぁ」
以上、サイゴウさんとのやり取りである。さて戦いというより試合という呼び方が正しくなりつつある戦場だが、事態は瞬間的に動いた。おそらく相手の行動を制限する為だろう、丸盾がオリジンの眼前に押し出された。視界を塞がれては相手の動きが読めない。通常ならそうなるのだ。
しかしオリジンは違った。すぐさま左手で丸盾の外側のふちを掴むと、自分の側へ引っ張ったのだ。相手方はたまったものではなかった。盾を掴まれて、逆に己の行動を制限されることになったのだから。
オリジンの行動は早かった。空いている右手のナイフで、素早く相手の肩とふとももを刺した。動きが鈍った所で、喉元へナイフを突きつける。
「……参った」
「はい、お疲れ様。足の動きは良かったのですけど、盾に頼りすぎですね。精進を怠らぬように」
「お手合わせありがとうございました」
頭を下げて終了。救護班に傷の手当の為連れていかれる。二人目は、なんと素手だった。しかも、動きはどう見ても中国拳法のそれ。それに対してオリジンも、ナイフをしまってこぶしを握ったのだ。
誰かが、自分と他人の兜を打ち合わせた。くぐもったコングが響く。やはり、最初の動きは間合いの詰め合いとなった。
「さっきといい、なんであんなにゆっくりとやるかね?」
「オリジン様相手なんで、下手な攻撃するとカウンター決められるからだと思いますよ? 家の達人連中は普通にそういう事やってくるので。あ、サイゴウさん。あっちで水配ってますよ。騎士団の人かな?」
「おー、助かる。喉が渇いて仕方がねぇや。……酒はねえのか?」
「酒は駄目よ! まだ出番あるんだからね」
他のマスターが観戦モードに入りつつある中、戦場から乾いた音が響いた。改めて視線をそちらに向けてみると、ついさっきとは違って大きく間合いを開けた二人の姿が。
「え? 何が起きたの?」
「こっち側が仕掛けたけど、オリジンが弾いて掴みかかったの。ギリギリで逃れてあそこまで離れたって感じね。やっぱ反応速度が普通じゃないのよねー」
どちらが優勢かは、互いの表情でよくわかる。オリジンは笑顔で、対戦者は苦い顔。やはり一筋縄では、と思っていた時。事もあろうに先輩が、『歩いて』近寄り始めたのだ。これがいかに無謀な事かは、少しでも運動を知る者ならわかるだろう。
普段ヒトが何気なく行っている歩くという行動は、自らバランスを崩すことで行われている。前に重心を置くことで、その勢いを使って移動しているのだ。人が咄嗟に止まるのが難しいのは、その勢いのせい。
それを踏まえてこの状況。前への勢いがある状態で殴りかかられたら、普通だったら困窮する。相手は格闘技術を深く習得している。好きなだけ攻撃できる状態だ。……普通ならば。そして、オリジンが普通でない事はここにいるすべての者が理解している。
こうなると、苦しい立場に追い込まれるのは対戦者になる。ついさっきの事もある。何をしても返されるのではという恐怖に苛まれる。……厳しい話だが、こうなってしまってはお終いだ。
「気持ちで負けましたね」
「いやでも、無理だべ? あそこに俺立ってても、あれに対応はできねーわ」
「俺も無理です」
結局その後、何度か拳の応酬をしたが押し切られてしまった。ダウンした所を足四の字固めを決められてしまいギブアップした。肩を落として帰ってきた彼に、皆がドンマイと声をかけていた。
そして三人目。身の丈を越える槍を携えて現れたのはソウマ様だった。
「……お手合わせいただけることに、感謝いたします。この一戦に、諸々の遺恨を込めさせていただくことをお許しを」
「許します。思う存分やりなさい」
今度は澄んだ鐘の音が響いた。一体だれが持ち込んだのか、まともな楽器が用意されたようだ。さて戦いは、今までのそれとは違ったものになった。開始からソウマ様が果敢に攻撃し、オリジンがそれを凌ぐという展開に。
理由はやはりあの槍にある。やはり、相手より遠い間合いから攻撃できるというのはそれだけでアドバンテージだ。オリジンの手にはナイフがあるが、それを届かせるためには槍をかいくぐらなければならない。ソウマ様もそんなことは当然のごとく理解しているから、相手を前に出さないように槍を振る。
「流石のオリジン様も、槍だけにやり辛そうに……いかん。ダジャレ言いそうになった。俺もおっさんになったもんだ……って、サイゴウさん?」
ふと気が付けば隣にいた彼がいない。見回すと、十数人が一か所に集まっている。中心にいるのはアマンテだ。みんな嫌そうな顔をしている。……何を企んでいるのやら。
さて、戦いだが徐々に天秤がオリジンへと傾きつつあった。何故かといえば、徐々に槍が弾かれるようになったからだ。大型とはいえナイフ一本。質量も運動から来るエネルギーも槍とは比較にならない。それでも弾ける理由といえば、ソウマ様の動きを覚え始めたからだ。
どんなに重い武器といえど、動き出す前は止まっている。そこを突く事によって攻撃をキャンセルし始めた。昔やったダークファンタジーなゲームを思い出す。……ラスボスが、こっちの攻撃覚えてパリィ始めやがった。
危ない場面がいくつも続き、ついにその時がやってくる。槍を弾かれたソウマ様の懐に、ナイフを掲げたオリジンが踊りかかる。
「今よ」
「ひっでえなぁ!」
その瞬間、試合中の二人がまとめて光とともに爆発した。
「はーーー!?」
見物していた多くのマスターとオリジン騎士団の面々が悲鳴じみた驚愕の声を上げる。ふと思って振り返れば、切り札チームが道具や魔法の杖やらを掲げていた。サイゴウさんも、大型の酒樽のような壺の隣で渋い顔をしていた。
知っている。あれはサイゴウさんのガーディアン、超能力タコだ。ガーディアンというのは老化をしない。だが成長はする。その為、気が付いたらあんな大きさになっていたらしい。いつだかぼやかれた。おそらく、テレポーテーションでやってきたのだろう。アレの超能力で攻撃したのか。さしものオリジンもこれは……と思っていたのだが。
「ぎっ!?」
唐突に、頭の中に直接釘をぶち込まれたかのような痛みに襲われた。これも知っている。超能力による精神波攻撃だ。ゼノスライムの上位個体がときどきぶつけてくるやつ。
他のマスター達も苦しんでいるが、一番ダメージもらったのは他でもない超能力タコだ。壺の中から飛び出してひっくり返っている。サイゴウさんが自分の痛みも忘れて心配していた。
で。
「ふ。ふふふ、いい不意打ちです……といいたい所ですが、アマンテー! ルール違反は見逃せませんねぇー!?」
服を若干埃まみれにしただけの先輩が、怒りの形相で仁王立ちしていた。ソウマ様は……あ、普通に起き上がっている。何かしらで防いだらしい。しかもその表情は残念そう。この奇襲、最初から仕組んでいたのか。
「えー? ルール違反ってなーにー?」
「とぼけるんじゃありません! 援軍は禁止でしょう! それ使っていいのなら、私は騎士団動かしますよ!?」
「そんなルール決めてないわよー? でも確かにそれされると困っちゃうから、こっちが使った分はそっちも増援どうぞ。えーと、五人分ね?」
「アマンテー!」
うん、先輩は怒っていい。暗黙の了解を勝手に破ったあげく、理由つけて新ルール押し付けてるんだから。
「そういう話なら、私も遠慮なく使います! 騎士団、アマンテを縛って見張ってなさい! アマンテは抵抗しない!」
「わーい、命令されちゃったー」
「無敵かこの城塞蜘蛛……」
誰かの呻きに、素直に同意する。やだなあ、恋する乙女蜘蛛。
「おい、ババァ! うちのタコ助が目ぇ回して起きてこねぇんだけど、アンタ何しやがった!」
「何って、サイコウェーブ返ししてやっただけじゃないですか」
「ハァ!?」
「私がどれだけゼノスライムと殺し合ってると思ってるんですか。あれ以上の精神波を、数えきれないほど浴びてるんですよ? 超能力の一つや二つ、目覚めて当然じゃないですか」
「……うわあ」
絶句せざるを得ない。ダンジョンマスター、現人神、戦闘の達人ときて、超能力まで。自由度の高いゲームの、レベル上がりまくった主人公のよう。やれることが多すぎて、普段は全部出さずに戦えてしまうとかそんな話。
……まあ、オリジン先輩だ。どんな能力があっても不思議はない。それよりも、どうやって倒すべきか。それが問題だ。ぶっちゃけ、さっきの奇襲は現状望めるだけの最良の手だった。
先輩の攻撃を凌ぎ切れる達人が釘付けにして、最大火力で殴る。これ以外の方法では攻撃を当てる事すら難しい。ソウマ様が自爆覚悟で、やっと当てたのだ。これ以上では……。
「自爆、かあ」
ダンジョンコア封印で 三回行動→二回行動 補給が無くなります。
現人神を封印で HP回復(大)、EN回復(大)が停止。二回行動→一回行動になります。
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