絶望の闇と希望の炎
問い:ダンジョンで神は殺せるか
黄金色に輝く霊薬を腰に手を当てて一気飲みする。素材に神樹の果実を使用した、逸品である。加速を使用して疲労した状態では、この先の戦いは乗り越えられないと判断した。
「ぷはあ……高いだけあって、効くわぁ」
「命よりは安い。特にマスターのよりは」
「どーもジアさん。じゃあ、お気をつけて」
「みんな頑張って」
我が錬金術工房の重鎮も、長年の戦いのおかげでだいぶ落ち着きを見せて……。
「あ。マスターこれ。新作の爆弾試作品。感想よろしく」
「この間みたいに、手の中でいきなり爆発しないよねぇ!?」
「今回は大丈夫。きっと。たぶん」
手を振って去って行ってしまった。あれで一児の母だってんだから本当に。パラマさんといい、一生あんな感じでエキセントリックかもしれん。
渡されたボールのような危険物はとりあえず横に置いておく。俺は今、プルクラ・リムネーの防壁の上にいた。眼下には焼けこげたラーゴ森林と、襲撃するモンスター達。そしてその向こうに、銀色の壁が見えた。それはダンジョンをぐるりと囲み、さらに天井まで覆っている。いわゆるドームと表現していいだろう。
グランドコアによる接続は、開始していると見ていいだろう。……自分で言い出した事とはいえ、エラい話になっちまったなぁ。
「エラノール、みんなの状態はどう?」
「現状、予定通りに推移しています。新人マスター様への増援派遣ですが、相手側の受け入れ能力がかなり低くこちらで待機することになりました」
「うん、よろしくやってくれ」
「かしこまりました。その増援でいくらか戦力を裂きましたが、戦闘参加希望者は増大しております。現在、臨時の戦隊を編成中です」
「予備戦力はあればあるほどいいからねえ」
常日頃から全力で戦っているわけではない。それでは息切れして倒れてしまう。長期休暇も含めて、交代で休みながら戦っている。今回は全力だから、そういった休みの連中も声をかけている。病気や蘇生したばかりで力が出ないとかいう一部を除いて、できうる限りを準備させていた。
「トラヴァー、精霊の調子はどうだ?」
「皆さん、元気いっぱいですぞ。最近、無理をお願いした事もありませんでしたし」
「今日ばっかりは、頑張ってもらう必要がある。弟子たちにも伝えておいてくれ」
「はい、かしこまりました」
四大精霊とホーリー・トレントはうちのダンジョンの切り札だ。この大襲撃でも大いに役に立ってくれている。今日は、大暴れしてもらう事になりそうだ。
……尻尾に元気のないコボルトの頭をなでる。
「安心しろ。お前の息子たちは、マスターの元でうまくやるさ」
「し、心配などしておりませんぞ!」
そう。秋達に送ったあのコボルトは、トラヴァーとアミエーラの子なのだ。コボルトの中でもとりわけ優秀なこの二匹。その子らのすべてが優秀になるなら苦労はない。いや、とびっきりダメな子がいたという話ではない。シャーマンに覚醒したのが二匹、錬金術に興味を持ったのが三匹。残りは、五体満足健康な普通の子だったという話だ。コボルトは子だくさんな種族である。
族長の子が職も持たず群れの中に混ざるのは難しい、らしい。コボルト文化ではそうなっていると言われては仕方がない。そういう子らは、群れの外に出すのが習わしなのだそうな。
流石に、何の世話もせず外に放り出すことはできなかった。何せトラヴァー達の子である。俺もまた、ずっと家族同然に接してきたのだ。情はたっぷりある。
なので、知り合いのダンジョンに里子に出すことにした。新人たちに送ったのはそういった中の三匹である。
「そうだな。お前らに似て賢い子らだもんな。大丈夫だ」
「……我らは、マスターの元に来ることができたことをあらゆる神に感謝しておりますぞ」
「おれも、お前たちが来てくれてよかったよ。……さあ、そろそろみたいだ。精霊の事、頼んだぞトラヴァー!」
「お任せください!」
四つ足で走っていくコボルトシャーマン。連枝の館前に特別に設置した祈祷場で、弟子たちと精霊の為に祈ってくれるのだ。
「準備をする。琥珀を預かる」
「こちらでございます」
俺は、エルフの神官が盆にのせて厳かに運んできたそれを預かる。エルフの銀細工によって飾りと鎖をつけられた、神樹の琥珀。今まで、散々世話になったこれに今回も頼ることになる。
「また、お祭りでしっかり感謝を伝えないとな」
「今年こそは、周囲が騒がしくないとよいですな」
「違いない」
エルフ神官とそう笑い合って、控えていた魔剣と鎧に命令する。
「武装だ」
『決戦だー! 気合入れるぞ相棒ー!』
浮かび上がった武装が、その意志で俺の身に装着されていく。防壁に居並ぶは、歴戦の戦士たち。蓄え十分、戦力十分、切り札まである。たとえどんな敵が来ても、凌ぎ切って見せるという決意もある。
腹はくくった。後はやるだけだ。時をじっと待つ。幸い、その時はすぐに訪れた。銀のドームが消え去った。夜でもないのに、星空が見える。日の光はないのに、暗くはない。周囲を見渡せば、奇妙な光景が次々と現れていた。
様々な文化による、城塞が見える。敵を撃滅するための壁や罠で守られた砦が見える。様々な怪物が、襲い来る相手を食い散らかしている街が見える。
ダンジョンだ。ダンジョンと、その砦だ。寄せてくる敵を蹴散らし、侵入したら食い殺す。決戦世界の防御機構。それが次々と現れていた。次元迷宮と接続されたのだ。
帝国だけでも数千あるとされるダンジョン。世界全体を含めれば一体どれだけあるのか。それが一堂に会したわけだから、敵を殲滅する力は相当な物はずだ。異世界からどれだけ侵略者が来ていても、きっと大丈夫……。
「て、敵影ー! ホーリー・トレントの向こうに!」
誰かの叫びを耳にして、そちらを振り向く。雄々しくそびえ立つ、我らがご神木。……その向こうに、ほとんど同サイズの何かが見える。ホーリー・トレントよりも太く、分厚く、硬いもの。
塔……にしても幅がありすぎる。木、石、鉄。雑多な素材を取り込んで形作られた、建築学のケの字もないなにかがそこにあった。それが、じわりじわりとこちらに近づいていた。
「……なんだ、あれ」
「まさか、あれは……」
「知っているのかエラノール」
兜によりわずかにしか見えないエルフ侍の顔は青ざめていた。震えている。今まで幾多の危機を乗り越えてきた、ガーディアンが。
「大襲撃時に、稀に現れるとされる殺戮機械の地上戦艦。際限なく物資を取り込み、機械を生産しバラまくという最悪の怪物。一度確認されれば、国が亡びるのは当たり前。古参のダンジョンすら破壊し、その自爆をもって退治されると古書に記されていました」
「……地上、戦艦?」
その言葉を飲み込む前に、轟音が響いた。何かが、地上戦艦から射出されたのだ。放物線を描いて迫るソレ。俺は叫んだ。
「魔法尖塔、対空モード!」
ダンジョンコアからの直接操作。動作テスト以外では使用しないそれは、しかししっかりと働いてくれた。高速の稲妻が、飛来物を貫く。次の瞬間、空に爆音を響かせた。
「くっそ! 自殺個体じゃねえか! あの戦艦、とんでもないものを撃ちだしてきやがる!」
バラサールの悪態が聞こえてくる。あんなものが直撃したら、街の設備が吹き飛んでしまう。連枝の館だって危ないかもしれない。いくら神樹アラニオスがあったとしても限界はあるのだ。
「対抗魔法!」
イルマさんの叫びと、赤い閃光はほぼ同時だった。空気を焼きながら突き進むそれは、着弾する前に消し去られた。
「今度は、魔法攻撃!?」
「大したことはありません! 消せます! でも、私はこれに専念しますからね!」
「頼む! 術者、サポートを!」
何たることだ。砲撃対策だけで、防衛用魔法尖塔と魔法使いをほぼ動員することになってしまった。これらは、周囲の怪物退治に回せない。それらの退治には、城壁の戦士たちを回さなければならない。迷宮部分にも振り分けるが、そちらにしたって手一杯だ。
地上戦艦退治へ振り分けられる戦力が、どんどん削られていく。
「レケンス。あれ、倒せるか」
『視界のすべてが湖という状態でもない限りは、不可能です。あれを我が本体に沈めることができれば話は別なのですが』
「誘導、できるか?」
『マスターとダンジョンコア。両方を囮に使っても難しいかと。ヤツの狙いはレイラインです。エネルギー補給地点の確保を第一に動くでしょう』
「……四大精霊にホーリー・トレント、ミーティアを動員して、どうにかなるか?」
『相当に厳しいかと』
無理を言っているのは理解していた。相手は、オーストラリアにあるエアーズロックがそのまま動いているかに見えるような化け物だ。質量がありすぎる。生半可な攻撃では小動もしないだろう。
振り返る。厳しい表情を浮かべる英雄冒険者達がそこにいた。
「ラニ先生、どうでしょう?」
「うーん……中に入り込んで、時間をかければ、なんとか」
「とはいえ、中には機械がやまほどおるじゃろうからのぅ。わしらも結構厳しいぞ?」
いつも豪放磊落なジジーさんすら、このようにコメントする。他のメンバーも、首を横に振る。これにて、俺のダンジョンで抱える切り札全てが通用しないという事が確定した。
腹をくくったつもりだった。どんな敵が相手でも生き延びるつもりだった。しかし、今回の敵はあまりにも巨大で質量があった。こんなの、一体どうやって倒せというのだ。
「殺戮機械、接近! 数五十! 後方からさらに接近中!」
「射撃開始、一機ずつ確実に落とせ!」
「罠を活用しろ! トラップへ追い込め!」
仲間たちが、いつものように防衛戦を開始する。エルフ兵が矢を雨のごとく降り注ぐ。相手の皮膚が鉄だろうと石だろうと、かまわず貫き穿ってみせる。コアを射抜かれ、機械が一体停止する。それを乗り越えて新しい者が進撃してくる。
それをバリスタの巨大矢が貫く。ドワーフ製のそれは太く頑丈だ。エルフの繊細な技術が無くても、力技で破壊する。動けないそれを踏み潰し、さらに大きな個体がやってくる。
今度はハイロウが動いた。魔法や異能による一斉攻撃が決まる。分厚い装甲も、野太い手足も強烈な連続攻撃に耐えられない。新しいスクラップが生まれる。そしてまた増援がやってくる。
敵は殺戮機械だけではない。通常のモンスターもいる。それらがあとからあとから群がってくる。倒さなければお終いだ。仲間たちは、よくやってくれている。しかし、地上戦艦については何も手が出せていない。どうすればいいのか。
物理攻撃……否定。大砲なんて持ってない。大砲みたいな威力がある竜髭の弓はあるが、あれ一つで倒しきれるなんて到底思えない。
魔法攻撃……否定。ラニ先生ですら攻めあぐねる相手だ。隕石落としが使えるとか前におっしゃっていたが、それにしたって一発だけで破壊しきれるか怪しい所だ。加えて、あれはラニ先生的にも切り札の呪文。簡単にポンポンブッパしてもらえるものじゃない。
冒険者による突撃、否定。ガーディアンによる突撃、否定。滑空兵による爆撃、否定。……ダンジョンマスターを始めてからずっと、蓄え準備し続けたすべてが歯が立たない。圧倒的過ぎる、物量。
それでも、考えなければならない。負ければすべてがお終いだ。家族も仲間も助けられない。諦めるわけにはいかない。さっき自分で思ったじゃないか。実力以上の相手と戦うならば、命だろうと全部をかけて博打を打つしかないんだと。
「そのためには、勝機を見つけなきゃいけない」
勝てるならば何でもかける。だが、わずかな希望の光すら見えない状況。……俺が見えないならば、ほかのヤツに頼むまでだ。
グランドコア、情報を寄こせ。地上戦艦はどうやって倒せばいい。今までは、どうやって倒してきた。
『回答。物理、魔法攻撃での撃破は極めて困難。神罰封入核弾頭が最も効果的であるが現在は使用不能。次点で重力加速徹甲弾による砲撃だが、こちらも別方面で使用中。ダンジョンマスターによる撃破例は一件のみ。大海竜ヤルヴェンパーが海中に引きずり込み、水圧によって圧壊させた』
何とも厳しい答えが返ってきた。科学と魔法を合体させたような武装など当然持っていない。ヤルヴェンパー様のような特殊能力もない。ここは海ではないから、水圧などかけれるはずもない。当然、海の底に引きずり込むのも……。
「引きずり、こむ?」
小さな火花が、脳裏に散った。絶望の真っ暗闇に、一瞬で消えてしまうような火花だ。なんとしても、これを育てなくてはいけない。火は育てるもの。希望の輝きもまた、そうなのだ。
小さなごみでも構わない。ポケットの中のそれをかき集める。周囲を見渡す。相手をよく見る。情報を、集める。ここは何処だ? 俺のダンジョンだ。次元迷宮に接続されても変わりはない。相手は何だ? 地上戦艦。巨大で、あらゆるもの飲み込み、様々な部品と素材で構成されて……。
「さまざな部品と、素材」
あえて口に出す。双眼鏡(帝国工房製。とても高い)をコボルトから受け取って、相手を睨むように観察する。石、鉄、木材。宝石もあれば炭のようなものもある。本当にいろんな素材が使用されている。パーツ数も膨大だ。同じ形のそれがあるかどうかさえ疑わしい。とんでもなく巨大なパズルのよう。
「……でたらめだ。無理やりくっつけて、戦艦の形をしている」
見つけたゴミに、火花を当てる。ゆっくりと、息を吹きかける。情報を見つけた。さあ、考えろ。やつは無茶な形をしている。あらゆるものを取り込むなんてのは聞こえはいいが、それはつまりまっとうな製品ではないという事だ。
仲間たちが戦っている殺戮機械にしたってそう。拾い物をかき集めて、それっぽい形にしてゴーレムに仕立てているだけ。どいつもこいつも不揃いで、性能もまちまち。壊れたら周囲のものを取り込んで機能を回復しようとするが、同じ性能には絶対にならない。
つまるところ、殺戮機械という連中は本当に雑な作りをしている。ガラクタの兵隊。ゴミを集めて兵器にできるという点は本当に脅威だが、超高性能なそれは存在しない。地上戦艦だって、常識を超えて巨大で大質量というだけで基本的には同じ物なのだ。
「どうやって、それを成している? ……魔法の力、レイラインエネルギー」
生き物を直接取り込んだりもするが、その理由は相手がもつエネルギーを吸収する為。質量よりも熱量。熱量よりも物質を超越したエネルギー。魔力や魂といったものを己を動かす燃料にしている。
最も効率よく吸収できるのが星の命、レイラインエネルギーだ。エネルギーさえあれば、幾らでも自分を強化および複製できるわけなのだから。
逆を言えば、殺戮機械はそれが無くなったら消滅する。物理的なエンジンも駆動機械も搭載していないのだから。
グランドコア。再度情報を要求する。ヤルヴェンパー様がヤツを破壊した時の事だ。あいつが壊れた理由は、エネルギーがゼロになったからじゃないか? 単純に水圧に潰されたのではなく、それによってエネルギーが消費されたから。巨体の全方位から圧力をかけられて、己を維持するためにエネルギーを大量消費したんじゃないか?
『情報精査中……完了。その指摘は高確率で正しいと推察される。物理法則にしたがうなら圧壊するべき深度にまで沈んだにもかかわらず、戦艦はそのようにならなかった。しばし形を保った後に、圧壊した。これは保有エネルギーによって己を守ったからだと推測される』
つまり奴を物理的に破壊できなくても、膨大な過負荷を与えればエネルギー枯渇させて倒すことができる。
『肯定』
火が灯った。絶望の闇の中で、小さいがしっかりと明かりを放つ希望の火だ。後はこれを炎に変えねばならない。
さあ考えろ。まともな方法では、奴のエネルギーを枯渇させられるほどの過負荷は作れない。英雄の超強力な攻撃では、足りない。魔法尖塔の雷でも足りない。神の奇跡、琥珀を使ってもまだ足りない。
そういうのじゃだめだ。もっとシンプル。もっと物理。もっと理不尽。……いや、思い出せ。最初の火花を。お前は何に希望を見出した? 引きずり込む。ヤルヴェンパー様は水圧で奴を倒した。海の底に放り込んだ。
ここは陸だ。湖はあるが、奴が沈むほど深くはない。もっと深くに、落とす……。
「落とす!」
今ここに、希望の火は炎となった。稲妻にも似た閃きが、俺の意識を満たした。ダンジョンアイを使い、仲間たちに作戦を伝達する。
『ダンジョンマスター、ミヤマである。各自、戦闘続行しながら聞くように。無理なら戦闘を優先し、仲間から聞くように』
我ながら無茶を言っているがしょうがない。悠長にやってられないから緊急時なのだ。
『これより、殺戮機械の地上戦艦を撃破する。方法は単純。相手をギリギリまで引き付けたのちに、奴の足元に地下十一階まで直通の大穴を開ける。落として、潰す。それだけだ』
誰かが言った。落下ダメージは神をも殺すと。あの大質量が下まで落ちたら、一体どれだけの運動エネルギーを生むだろうか。それを受けた場合、奴は己を保てるだろうか。分の悪い賭けではないと思っている。
やつはデカすぎる。ただ存在するだけでエネルギーを食う。それが今は移動し、兵隊を生産しバラまいている。命を切り刻みながら行動している。その思考がどうなっているかはさっぱり分からないが、補給したいとは思っているはずだ。
そしてもっともそれに適した場所が俺のダンジョン。ここを壊して、俺たちごと全てを吸収したいだろう。だからこそ、真っすぐ突っ込んでくるし落とすためにあらゆる投資を惜しまない。
『作戦を説明する。まず、ダンジョンの迷宮部分および地下十一階を放棄する。モンスターが入り込んでも気にするな。ダンジョン内にいる人員は、アーコロジー、トゥモロータウン、訓練場のいずれかに避難せよ。完了次第、配置変更により地上に脱出させる。貴重品以外の財産は放棄せよ。私が補填する』
やつが落着したら、凄まじい揺れが起きるだろう。迷宮部分の崩落は避けられない。地下十一階だってひどい事になるに違いない。設備のほとんどを放棄する必要がある。持ち出せるものは少ないだろう。
出せるものを多くできない事情もある。なにせ、外は戦闘の真っ最中だ。防壁もない所に、放り出すしかできないのだ。守るべきものは少ない方がいい。
「マスター様、果樹園はどうなりますか?」
「もちろん、外に出すよ。守るのは厳しいだろうけど」
エルフ兵の心配もわかる。単純に富を得られるだけでなく、神からの贈り物でもある。単純に放棄できるものではない。後はせいぜい、転送措置を街の中に放り込むぐらいか。もちろん、ダンジョンコアも。
そう考えていた所で、別のエルフ兵が質問してきた。
「あの、刑務所はどうされますか?」
「……あ。素で忘れてた。ありがとう!」
危ない危ない。無意識に放棄してもいいんじゃないかとか考えていたかもしれない。俺の法で裁いているのだから、責任もまたある。ここで見捨てたら、どんな非難を受けるやら。……忘れてた時点でダメか。後で何かしら謝罪しよう。
念のため、ほかに大事な所がないかを周囲に聞いてみる。……ないな、よし!
『今後の事を踏まえ、プルクラ・リムネーは守らねばならない。全力で防衛せよ。ホーリー・トレントは防御に回す。レケンスはとどめの為に待機。残りの精霊とミーティアは敵兵の撃破に回す。倒せば倒すだけ相手も生産する。エネルギーを減らし、地上戦艦撃破を確実にする。総員奮起せよ』
ミヤマダンジョンが動き出す。この命令に思う所はあるだろう。俺だってある。長年にわたって作り上げたダンジョンのほとんどを放棄することになる。修理は難しいだろう。部品を回収するのが関の山だ。
だがダンジョンの仲間たちと比べたらどちらが大切かなど、考えるまでもない。生きていればまたやり直せる。ダンジョンコアがあれば、新しく作れる。あのガラクタ戦艦をぶっ壊して、この戦いを生き延びる。
「損害賠償……は、きっとダメっていうだろうけど。ボーナスは弾んでもらうからな、先輩」
答え:めちゃくちゃ深い落とし穴に落とせれば
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