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決戦開始を告げる声

 転送装置をくぐって地下十一階を見た地球側一行の表情は驚愕の一文字だった。かつてはプルクラ・リムネーという都市一つを抱え、今も地底湖まで湛えている巨大空間はそれだけで十分にインパクトがある。


 加えて遠方には巨大なアーコロジーが立ち並び、転送装置前にはちょっとした街が広がっている。道行く人々は種族が多種多様。エルフ、ドワーフ、ハーフリング、コボルト、オーク、トロル。もちろん普通のヒトもいて、剣やら鎧やら、ファンタジーな装備を身に着けている。


 テーマパークじみた光景に、ほとんどの者が口を開けたまま動けない。例外は我が義兄殿である。


「夏雄くん」

「はいなんでしょう」

「商売の話をしよう」


 流石義兄さんである。即座にこの空間で動く金を理解したようだ。伊達に金の力で外見のハンデを蹴散らしてはいない。


 俺は努めて穏やかに話す。


「義兄さん、ソロバン弾くのはまだ早いかと。まずはどんな商品があるか見てもらわないと」


 義兄はこの言葉にいつもの冷静さを取り戻した。少しばかりバツが悪そうに笑う。


「うん。全くその通りだ。ごめんよ、ちょっと舞い上がっていた」

「いやあ、義兄さんが俺のダンジョンをそこまで買ってくれるなんて嬉しいですよ」

「とてもすごいと思うよ。ここで動いているお金、労働力、消費材……わあ、わあ!」

「はいそこまで」

「とても痛い!」


 姉さん、義兄さんのケツを蹴り上げる。つま先ではなくスネでやっているので怪我はない。ご安心ください。


「全く。お金のことになるとこれなんだから。身内の所っていっても限度があるよ」

「まあ、その小僧は商業神の転生体みたいだからしょうがないんじゃない?」


 ……ミーティアの何気なく放たれた一言に、深山一家は動きを止めた。俺もそうなったが、問いたださなきゃいけないので頑張って再起動。


「……商業神?」

「そう。死んだのか信仰なくしたのかは分からないけど。金の話題で酔っ払ってる姿を見てやっとピンときたよ」

「ああ、なるほど。妾もなんとなくそういう気配を感じていたが、商業神じゃったか」


 同じ亜神であるラケルタもそのようにいってくる。義兄さんが、油の切れた機械のような鈍い動きで手を上げた。


「あの。僕はこの通り外見が中学生のままなんですが。これも?」

「たぶん、その辺だと思うよ。物心ついて金勘定をしっかり認識したあたりで魂が目覚めたんじゃない?」


 彼は無言で崩れ落ちた。


「義兄さんしっかり!」

「お父さん!」

「……言われて、思い出した。確かに、数字を扱う授業がとても好きだった。経済の授業はより楽しかった。親戚の手伝いでアルバイトして、自分でお金を稼いだのが……中学の時!」

「それじゃなー」


 ラケルタのやっぱり何気ない相槌に、義兄さんは倒れ伏した。


「義兄さんー!」

「……ねえ、それって私にも当てはまる?」


 俺たちの騒ぎに乗らず、眉根に皺を寄せて悩んでいた姉さんが手を上げる。亜神二人はそんな彼女に思いっきり顔を近づけた。


「んーなんだろねえ? 神か悪魔か精霊か。そっち関係なのは間違いないんだよねえ、魂の力が肉体に影響を与えている」

「ううむ。特に気にしていなかったが、こうやって見ると確かに普通とは違うのう。しかし、由来となると……好きな事はなんじゃ?」

「好きな事……? うちの旦那みたく金に飛び込んでいくような趣味はないけど」

「僕はそこまでじゃないよ!」


 あ、義兄さん再起動。しかし姉はガン無視して悩み続ける。これが熟年カップルか。


「テレビだの映画だの、娯楽は楽しむけどのめりこむほどじゃない……むしろ、仕事をきっちり片付ける事の方が……」

「「それだ。法律神!」」


 亜神二柱が、ピタリとそれを言い当る。途端に、姉さんの何かがカチリとハマったような感覚があった。


「お母さん、厳しいもんね。ピッタリだね」

「俺もね、約束破るな嘘をつくなとそりゃあもう厳しくしつけられたよ。母親よりよっぽど」


 姪と握手をした。同じ体験をした物だけが得られる共感というものはある。しかし法律神か。なるほど、思い返せばそれっぽい所は多々あった。姉さんを慕った友達や同級生も、彼女の公平でルールを敷くところに安心を見出していた気がする。


 法は他人と共にあるために必要なものだ。無法のままでは、誰が何をするかわからない。害を与えられても裁きが無ければ泣き寝入りするしかなくなる。


 だから彼女のルールは、グループがまとまるうえでこの上もなく大事なものだったのだ。


「ほらそこ、なに馬鹿な事やってんの」


 それはそれとして、握手をしていた俺たちに突っ込みを入れてくる姉である。


「姉さんは、あんまりショックじゃないみたいね?」

「自分が人様と違う事ぐらい、とっくの昔に自覚してるわよ。それの原因が分かってむしろ清々したくらい」


 ふん、と鼻を鳴らしてふんぞり返る。相変わらず強い。心なしか輝いて見えるぜ……。


「自覚が芽生えたことで、亜神として覚醒したっぽいねえ。信仰もあるみたいだし」

「……もしかして、妾よりも信者がいる?」

「姉さん、地球で何かやってるの?」

「PTAと自治会に参加している程度だけど?」


 学生時代の友達に加えてご近所付き合い、さらに同級生の親御さんと学校関係者……増えてるなあ、確実に。


「あの、すみません。それじゃあ私は?」


 姪の質問に、ミーティア達の視線が彼女へと向けられる。その表情はいたって普通だ。


「ほんのちょっぴり、親から神秘のかけらをもらってるねえ。とはいっても亜神には程遠い。せいぜい魔法の才能に恵まれる程度だろうさ」

「それだけですか?」

「贅沢なことをいうでない。五体満足、健康な体を貰ったではないか。加えてその年まで育ててもらって、それ以上をねだるなど」

「あ、はい。ごめんなさい」


 直ぐに己の発言を顧みて反省できる。それもまた、両親の教育の賜物だろう。……そんなことを考えていたら、亜神の視線がこっちに向いていた。おいバカ止めろ。


「ボスに生まれ持った特別な才能はないよ。いたって普通の凡人。一山いくら」

「知ってるよ! 余計なお世話だよ!」

「それでも五体満足で健康な身体はある。知識も常識も良識もある。親がそれを得る環境を整えてくれたのじゃぞ? 異能よりよほど大事だとは思わんか?」

「父さん母さんありがとねぇ……」


 ラケルタの言う事については、全くもってその通りだ。しかし……もういい歳だし、身の程はよく分かっている。だが面と向かってはっきり凡人と告げられて、傷つかないほどメンタル鋼にはなってないんだよなぁ。


「まあ、どんだけ才能があっても磨かなきゃないのと一緒。ゼロから積み上げたものが才能のそれに勝てないという法もなし。最後に立ってるやつが最強なのよ、ボス」

「……ラケルタさんに食われたのに転生して亜神にまで復活するとか?」

「そうそう! 今度リベンジする機会頂戴ねえ!」

「ははは、今度こそ止めをさしてやるからのう」


 楽しそうに笑い合っている二柱だが、こいつらは状況が許せば次の瞬間には命の取り合いができるメンタルをもっている。一言で崩れ落ちる俺たちとは大違いだ。


「ほーら、男ども。そろそろ起きな! 皆さんとっくに移動しちゃったよ」


 姉さんの言う通り。俺たちがその場でドタバタやっている間、ほかの人たちは仲間が休憩できる場所に案内していた。優秀な部下をもって俺は幸せ者である。


 さて、状況説明なのだが。流石に俺一人でこの人数を対処するのは無理だ。与える情報量も相手によって変わってくる。簡単な説明については、バイトを雇って対処してもらう事にした。


「で、俺たちですか」

「バイト代、たすかりまっす!」


 オダケさんとノザカさんに、一般メンバーへの説明を頼んだ。具体的にいえば義兄さんが雇った探索者とラケルタの信者たちである。俺の仲間もサポートに付けたから、何とかなるだろう。なお、情報に全く興味のないものはのんびり休んでもらっている。ラケルタの配下モンスター達は、コボルトに世話してもらってご満悦らしい。接待成功、ヨシ。


 俺が担当するのは姉さんたちと、昼神さんという政府の人である。部下の猫屋敷さんとやらは、一般メンバーの方に行った。お目付け役らしい。確かに、この場の情報を一般社会に流すのは大きく問題があるだろう。本人たちの安全の為にも、吹聴させない方がいい。


 さて、場所を屋敷に移した俺たちは家族を加えて今までについて話をした。……話を始める前に嫁二人を紹介した所、ローキック刑を再び執行されそうになった。妻二人の説明と説得によって回避されたけど。俺が苦し紛れに放った『後で娘に会ってね!』の一言も効果があったと思う。


 しかし、流石に赤子が高校生になるまでの時間のすべてを伝えるのは大変だ。重要な点以外は端折らないといけない。説明も簡潔でなければならない。……だが、し過ぎると話が伝わらない。たとえば。


「……で? この広い空間は何? 自分でほったの?」


 などと質問されてしまう。答えるしかないわけで。


「ええっと……千年前のエルフの都市が埋まってた場所。ダンジョン拡張した時にうっかり繋がっちゃって、封印されてたアンデッドとか苦痛軍アーミー・オヴ・ペインズとかが復活しちゃって」

「待ちなさい待ちなさい。さっぱりわからない。最初から説明して」


 ……という感じで、大きなイベントについては説明が長くなる。お茶を何杯もお代わりすることになったしトイレ休憩もあった。さらに大騒ぎになる事も何度もあった。特に、ダンジョンコアとマスターの関係についてだ。


 コアが壊れればマスターも死ぬ。つまりみのりの生き死にに繋がる話だ。両親としては大騒ぎして当然だろう。さらに言えば、義兄さんからこんな提案もあった。


「ねえ夏雄くん。試しに聞くのだけど、僕がマスターになることはできるのかな? 血縁者なら交代できるんだろう?」

「……その発想は無かった。すみません、担当者に問い合わせてみない事に何とも」


 果たしてそれは可能なのだろうか。嫁達も知らないという事なので、これは上に掛け合わないといけない。ちょっとグランドコアをコールしたが返答は無かった。やはり忙しいのだな。


 そんなこんなで時間も流れて、今日はお泊りしてもらおうという話まで出る始末。そうしてやっとあらかたの説明が終わった。


 話し終えた時は俺もだいぶ疲れてたし、聞いていた一同もそう。特に姉さんたちは驚き疲れというのもあったようだが。


「よくもまあ、凌ぎ切ったものだね夏雄くん」


 義兄さんが弱々しく笑いながら労ってくれた。


「仲間がいたし、立場も道具もあった。後は俺が根性出すだけだったから」

「うん、夏雄。あんたよくやったよ。立派」

「……ありがとう、姉さん」


 その一言は、とてつもなく俺に染み渡った。ずっと、頑張る姉の後ろを歩いていた。頑張らず、楽な生き方をしていた。そんな俺が、この世界で結果を出して。それを姉さんが認めてくれた。みんながいなかったら、泣いていたかもしれない。


 しばらく、穏やかな無言の時間が過ぎた。そして、今まで空気を読んで黙っていた人物が手を上げた。


「すみません。一つ、確認させてください。こちらの世界へ日本人を拉致している人物。ダンジョンメイカーとその協力者、オリジン。この二名とコンタクトを取ることは可能でしょうか」


 政府の人物、昼神さんへ俺は居住まいを正して返答する。


「先ほど見ていただいた通り、現在は大襲撃の真っただ中です。その二名はそちらへの対処に忙しく、ほぼ不可能です。一応、コンタクトを取りたいという連絡をすることはできますが、いつになるか不透明です」

「では、それで構いませんのでお願いします。未成年を含む我が国の国民を拉致、強制労働させているという事実を看過するわけにはいきません。私にはこの問題に対処する権限はありませんが、そのための道筋はつけておきたい所です」


 とてもまっとうだ。政府の人がこういう対応をしてくれるというのは、日本人としてとてもうれしい。だが、ダンジョンマスターとしては何とも難しい所だ。


「夏雄。あんた、現状に不満はないの?」


 俺の考えが表情に出ていたのだろう。姉さんが直球ど真ん中の質問を投げてきた。俺の左右に座る妻たちが身を固くしたのがわかる。だからこそ、俺は微笑んだ。


「ないわけじゃない。でも、もうここには家族がいる。一緒に働く仲間もいる。財産もある。放り出して日本に戻るわけにはいかないよ」

「……まあ、そうよねえ」

「皆さんの置かれた状況に、最大限配慮してもらうよう報告を上げます」


 昼神さんが、真摯に頷いてくれた。……そんな彼へつい、いたずら心が芽生えてしまう。


「ちなみに昼神さん。俺が世話になっている日本人がいるんですが」

「ええ、その人につきましても……」

「戦国時代末期にこっちに連れてこられた人なんですが、どうなりますかね?」

「……いま、なんと?」


 日本国成立前の人物を、日本人として扱えるのだろうか? まあ、戸籍が無いので無理というのが普通の対応だろうけれど。


 冗談だ、と一言告げようと思ったその時、ダンジョンコアを通じて強烈な思念が叩きつけられた。


『緊急。戦力抽出要請。現在、次元迷宮にてオリジンが敵戦力内で孤立状態にある。救出部隊の掩護に使用する為、各ダンジョンより戦力を抽出する。戦力を転送せよ。繰り返す……』


 殴りつけるような、グランドコアからの命令。俺も流石に耐えられず頭を抱える。


みのり! 夏雄も!」

「あなた、しっかり!」


 姉さんとイルマさんの声が聞こえる。そちらに気を向ける余裕はない。手だけで何とか答えるので精一杯だ。それよりも、送られてくる情報に集中する。


 グランドコアは、状況についてもデータを送り付けてきた。大襲撃の大半をせき止める次元迷宮。世界と世界の間に築かれた空間要塞。


 先輩の率いる主力、世界最大の戦闘力をもつ大軍団が日夜防衛にあたる場所。現在そこでトラブルが起こっている。最高責任者兼前線指揮官である先輩が、敵陣真っただ中で孤立している。


 もちろん救出は試みている。攻撃を強め穴を開けようとしている。しかし次々と押し寄せる敵戦力によって、全くそれが進まないのだそうだ。


『これは、無理だろう』


 という考えは俺のものであり、ほかのダンジョンマスターのものでもあった。今、グランドコアの力で全てのマスターの意識がつながっている。あくまで表層的なものだ。心のすべてをさらけ出すものではない。ダンジョンアイによる魔法的繋がりと大して変わりはしない。規模が大きいだけだ。


『生半可な戦力では焼け石に水だ』

『うちの仲間をこんな地獄に放り込むなど冗談じゃない』

『ダンジョン防衛で精いっぱいだ。余剰戦力などあるものか』

『うちのダンジョンに支援が欲しいくらいだ』


 マスター達の現状も、決して楽なものではない。どこもかしこも、この大襲撃にギリギリで抗っている。オリジンを救出できるほどの戦力を供出したら、自分たちが危険にさらされる。どこもかしこもそんな状態だ。しかし。


『オリジンが倒れたら、帝国はお終いだ』


 誰かの発言に、多くが同意する。三千年、現人神として君臨したオリジンが死亡した場合の混乱は容易に想像できる。精神的支柱を失うというだけではない、今まで彼女に押さえつけられてきた有象無象が好き勝手に暴れ出す。たとえ転送装置や長距離通信といった設備が残っていても、帝国という巨大な組織は維持できないだろう。


 帝国は、ダンジョンへ戦力と物資を供給している。この決戦世界での戦いを支える大事な後方支援組織だ。帝国が失われたら、ダンジョンも現状のままではいられない。遠からず、限界を迎えるだろう。


 オリジンが三千年も戦い続けなければならなかった理由の一端。彼女の代わりはいない。それを求めた場合、すべてが滅びる可能性が大いにある。


 オリジンを助けなければ世界が滅びる。オリジンを助けても我々は倒れる。我々が倒れたら世界が滅びる。……端的にいって、詰んでいる。場当たり的な対応では解決できない。ではどうすればいい。誰かが言っていた、生半可な戦力でダメならば。


『全部だ』


 はっきりと告げる。この世界で戦い続けた俺の経験がそう言っている。相手が自力で勝てないほど強いなら、自分の全部を使って賭けに出るしかない。どうせ負ければ死ぬのだから、ならば少しでも勝ち目がある方法を取るまでだ。


『この世界にある、すべてのダンジョンと次元迷宮を接続する。ダンジョンに襲ってきているモンスターごと、次元迷宮に突っ込む。オリジン救出と世界防衛と俺たちの生存。全て取ろうと思うなら、これ以外ない』


 頭が痛くなるほどの思念が飛び交っていたのに、それがぴたりと停止した。代わりに、グランドコアのやや戸惑ったものが返ってくる。


『……不可能では、ない。しかし、それには膨大なレイラインエネルギーを必要とする。これからの長期戦略を考慮する場合、ジャガル・フォルトの許可を得るのは困難である』

『ふざけるな。ここで負けたら長期戦略もクソもあるものか。むしろここまでの三千年が全部おじゃんになる可能性すらある。今、この世界は、地球と繋がっているんだぞ!』


 決戦世界の防衛が失敗したら、その戦力は地下世界アンダーワールドを通過して地球に到達する。八十億の人類と、大量の資源。三大侵略存在がそれを飲み込んだら? 地球を橋頭保として、後方世界に侵略を開始したら?


 あらゆる次元世界が食い散らかされる。連中の手が届く範囲は全て滅びる。それはもう、過去の歴史が証明しているのだ。


『必要な犠牲だ、グランドコア! ジャガル・フォルト! オリジンが三千年も人柱を続けたように! マスター達がダンジョンに縛られたように! 長期戦略、まとめて捧げてもらうぞ!』


 その一言は俺のものだったが、あらゆるダンジョンマスターの怒りでもあった。やりたいことは山ほどあった。しかしこの場の必要性は納得している。この地獄に付き合っているのだから、お前らもこっちにこい。


『っていうか、そもそも多すぎて地球と繋がってるくらいだろうが! エネルギーくらいさっさと供出しろ!』

『え? 何それ初耳』

『は? 知らない人いたの? オリジンなにやってんの?』

『年末の集まりもできてねぇからなぁー。情報交換もできねー』

地下世界アンダーワールドは、この星のレイラインエネルギーに引っ張られて定着してるって情報、マスター間じゃオープンだったのでは?』

『知ってる』『知らない』『初耳』

『オリジンなにやってんの』


 再び、雑談じみた思念が飛び交う。大襲撃が始まってこっち、年末の祭りも行われていない。顔を合わせる機会も無い。交流が滞っている。


 これ、地球側から乗り込んできた一団がいるって情報流れたらえらい事になるな。


『え、なにそれ。そんなことになってるの?」』

『うっそだろ。軍隊でも送り込んできたのか?』

『は? 地球に渡った亜神が手引きした?』

『オリジンなにやってんの』


 ……しまった。思考が漏れてしまった。慣れないシステムに繋がった状態で、変に考えてしまったのが不味かった。例のロックが外れているのも悪さをしたのかもしれない。まあ、もうどうしようもないな! とりあえず誤魔化そう。


『次元迷宮への全員参加について、ご意見のある方はいらっしゃいますか』

『それよりさっきの話、詳しく』

『やりたくねーけど、やるしかねー』

『むしろうちのダンジョンに支援が欲しい』

『他所のダンジョンに自分の所に来ているやつ押し付ければ?』

『その手があったか』


 数千のダンジョンマスターがつながっているだけあって、思考がポンポン飛んでくる。あっという間に話題が流れていく。あれだな、多人数が参加しているチャットルームに似ているな。ログの進行が速すぎて話題そのものが作れなくなる奴。


 ……ダンジョンマスターに、高尚な志など必要ない。自分のダンジョンを守りたいという気持ちだけあればいい。それが結果的に世界を救う事になる。


『つまり、無理やり巻き込めばいいわけだ。なんだ、先輩オリジンがいつもやってることじゃねーか』

『おい、なんかオリジンの手下みたいなやつがいるぞ』

『可哀そうに、あの外見に惑わされたんだな。気持ちは分かる』

『昔はワシもそうじゃった。だけど嫁さんの方が可愛い』

『私は今でも押し倒す気満々だけど』

『城塞蜘蛛様がいらしたぞー!』


 ざわざわと、それぞれが好き勝手騒ぎ立てる。いよいよもって思考の嵐に酔っぱらいそうになっていた時、それらがすべて消えた。代わりに、稲妻のごとき一つの命令が下される。


『ジャガル・フォルトより許可が下りた。全ダンジョンの次元迷宮との接続を開始する。各員は大規模戦闘に備えよ』


 グランドコアのその一言が終わると、やっと圧迫感がクリアーになった。気が付いたら、妻二人に左右を支えられていた。


「ナツオさん、気が付かれましたか!」

「一体何があったんです!?」

「ちょっと、一大事が……みのり、大丈夫か?」

「くらくらしますぅ」

「娘の事は私らが見ておくから、あんたは自分の仕事をしな」


 姉さんの叱咤に、素直に従う。確かに急がなくてはいけない。


「義兄さん姉さん、急いで秋を転送室へ移動させて。自分のダンジョンに戻さなきゃ。これから大規模な戦いが始まる。ウチから追加戦力を送るから、そいつらと一緒にダンジョンを守って。それが秋を守ることになる」

「さっきの説明にあったダンジョンコアが壊れると、ってやつね。わかったわ。あんたも気を付けて」


 姉さんたちが、家人たちと部屋を出る。さらに指示を追加する。オダケさんとノザカさんにも傭兵を送る。あの二人も、これからの戦いは辛いだろう。教育を任されたのだから、その程度の世話はする。


 そしてダンジョンアイを通し、全員に通達する。


「告げる。こちらダンジョンマスター。非常事態宣言。大規模戦闘が発生する。総員戦闘準備。くりかえす、総員戦闘準備。……みんな、全力で生き延びるぞ」

このライトノベルがすごい!2024 のアンケートが開始されています。

決戦世界のダンジョンマスター 一巻もエントリーされています。

よろしければ投票していただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 決戦っていつも熱くなるね
[良い点] ここで啖呵を切れるようになったのマジでカッコいいぜ。 決戦じゃ決戦じゃ!この先も続く、続けさせるために一心不乱の大決戦じゃ! [気になる点] オリジンさんまた皆にいじられるネタができちゃい…
[一言] さぁ、総力戦の時間だ─────!!
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