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鼻つまみもの、ふたつ

 訓練場。それは必要に迫られてダンジョンメイカー(グランドコア)が生み出した設備。戦いのたの字も知らない一般人を、戦列に立たせられるようにする場所。有事においては多くを救い、平時に置いては乱を生み出す場所である。


 大襲撃が予告されてから、うちのダンジョンにもこれを設置できるようになった。早速仕入れて、仲間たちに使用してもらった。すでに十分な経験を積んでいた彼ら彼女らにとっては、よい訓練場所以上ではなかった。俺を含む未熟な者達には、非常に学びのある場所だった。


 そして大襲撃から逃れてきた者たち。それらには、高額収入を得られるチャンスを与えてくれる場所だった。ダンジョンにはいろんな働き場所を用意した。食料はもとより生活物資、戦いで消費される物品を生産する農場や工場。防壁を作る工事部。運搬や清掃などの環境を支える部門などなど。


 しかしやはり、ダンジョン防衛はその中でも別格だ。やはり戦う者は多い方が良い。絶え間なく襲われ続けるのだから交代人員はなるべく確保しておきたい。粗製などと揶揄される、経験不足は訓練で補う。幸い、教官役には事欠かない。


 今日もまた、戦場で生き延びられるようになるべく若手たちがしごかれている。


「伏せろ! 立て! 伏せろ! 立て! ……そこ、遅いぞ! 気を緩めるな! 全員、腕立て十回!」

「「「はい!」」」


 一人の遅れを咎められ、訓練を受けている若者全てが連帯責任を負わされる。ヒトというのは、言われて覚えられるものは少数だ。痛い目を見てやっと覚え理解する者が圧倒的に多い。


 訓練で限界まで追い込まれた経験は、必ず実戦で生かされる。生き死にの極限に立った時、根性出せるかどうかはそれまでの経験で決まるのだから。


「厳しくやってますね」


 ノザカさんは笑みすら浮かべながら見学している。オダケさんは渋い表情で目の前の光景に否定的。ミノリさんは肯定とも否定とも言えぬ半笑いだ。


「実際に命のやり取りとなった時に比べればたいしたことないさ。まあ……最近ちょっと人が増えたから、訓練ハードになってるんだけどね」

「何かあったんですか?」

「君たちが来たからだよ、オダケさん」


 三人が首をかしげるので説明する。ダンジョンと契約する、ガーディアン制度。疑似的で限定的な不老不死。ダンジョンに住む事の出来る権利と、それを求めるハイロウなどなど。


「君たちという新しい雇用先が生まれたから、新人である自分たちでもチャンスがあるんじゃないかと奮起しているわけだね」

「ええ……マジですか。俺たちに選択権ないんですか」

「もちろんある。大ありだ。採用したくなかったら全然やる必要はない。……でも、戦力欲しいだろう?」


 俺の問いかけに頷かないマスターはいなかった。


「君たちが募集始めます、って言いだしてから訓練し始めても遅いからね。あんな風に頑張っているのさ。とはいえ、ガーディアンは狭き門。まずはモンスター配送センターに認められなきゃいけない。その為には実績が多く必要だ。例えば武術大会などでの入賞経験とか」


 実はそれをキャンセルして完全な縁故採用とかできなくもない。ダンジョンマスターがガーディアンにしましたと一言報告するだけでいい。だけどダンジョンは一つの社会。依怙贔屓えこひいきしたら、当然周囲のものはこう思う。


 ずるい。自分だってそうしてもらいたい、と。やるならば、周囲が納得するだけの理由が必要だ。そうしなければ、たちまちマスターは住民に囲まれることになるだろう。


 うちのダンジョンのガーディアンは皆、センターの試験を通っている。イルマさんもロザリーさんも、これらをクリアーした上でガーディアンになってもらった。


 苦労したのはバラサールとその一党で、面接系を何度も受けることになった。マスターが下駄履かせても限界はあるという話である。ヨルマ? あいつは最初から資格持ちだった。本当、そつのない男である。


「大会って、どこでやるんです? 甲子園みたいのあったり?」

「帝都へ行けば、その手の施設はたくさんあるね。今はこういう時期だから、それこそダンジョン内の私的な大会でも実績扱いになるんだよ」

「それって不正の温床になりません?」

「ケースバイケースかなあ、オダケさん。身内だらけのお遊戯大会だったりすると無効にされることもあるらしい。でも大抵は、ガーディアンになりたい連中がこぞって参加しているからね。そりゃもう、ガチでマジなゴリゴリバトルだよ」


 うわあ、と皆が呻く。うちでも定期的に大会を開く。腕っぷしの立つ連中ばかりが集まっているから、競い合いたいと思うのは当然の流れ。ガス抜きをしてやらないと、勝手に野試合初めて騒ぎになる。


 大会を開く目的はガス抜きやガーディアンの実績作りだけではない。見込みのある新人を発掘する役割もある。何といっても、人が増えた。戦闘員ですら、俺一人では到底把握しきれない。


 各国、各家の人員は責任者に管理してもらっている。だが避難民となるといけない。一応責任者は選出した。しかし彼らは複数の土地から流れてきた。まとまりがないのだ。こちらがテコ入れしても限度がある。


 なので、色々漏れがある。件の反乱に参加するような連中などがその具体例だ。そもそも、ダンジョンや俺たちを信用していない者も多い。


 だからこそ、大会はちょうど良いイベントだ。向上心と戦闘力がある若者を発掘できる。スカウトして、こちら側に引き込めるなら後々の問題も起こりにくい。……それに、人員の新陳代謝もしてかなければいけない。


 ハイロウやエルフ、ドワーフ、一部モンスターなどは現役が長い。だがヒトやコボルトなどはそうではない。戦士でいられる時間は有限だ。そしてそれが終われば次の人生に向かわなければいけない。


 今、訓練場で新人を鍛えている人物もそう。彼の名はハイラン。かつて国境最良と呼ばれた冒険者パーティーのリーダーだった。だいぶ前に引退した彼は、ダリオの町グルージャに住まいを持った。同じパーティメンバーだったドナさんと結婚し、今では子供も三人いる。


 大襲撃で町の人々と一緒に避難してきて、今はこのように後輩の指導をやってくれている。彼の経験は得難いものだ。……ついでにいえば、彼の仲間たちの経験も。実は、いまこのダンジョンに彼のパーティーメンバー全員いるんだ。それぞれ故郷に帰ったのだけど、大襲撃のせいで避難してきたわけで。再会して笑っていたのをこの目で見ている。


 それぞれ適材適所で働いて、そこそこよいお給金貰っていたはず。手に職があるって強いよね。


 ハイランさん達のように、かつてうちで働いていた冒険者達。大半が、同じような理由で解散か引退してしまった。冒険者たちのその後をすべて知っているわけではないが、大半がセルバ国とバルコ国に永住した。中にはダンジョンの門前町に残った者たちもいるが。


 初めて会った時は初々しかったヘルム君のパーティも引退解散。彼はネピスさんと結婚しセルバ国首都であるリベラートに家を構えた……のだけど、大襲撃で今はサイゴウダンジョンにいると聞いている。残りのメンバーだったカーラとナイヴァラは色々あってうちのダンジョンで働いている。デルクだけは実家のある都市に戻ったと聞いた。


 一緒にパーティを組んでいたハイロウ貴族たちも、一度は帝都の実家に帰っている。元々問題を起こして放逐された彼ら彼女らであったけど、俺から『ダンジョン一時退避許可証』を貰ったからには話が変わる。


 明確にウチのダンジョンとコネを結んだという事の証なので、大手を振って戻れるというわけだ。まあ、各ご家庭ごと複雑なものはあっただろうけど俺が関与する事ではない。


 そんな貴族たちも、大襲撃が始まって避難という形で招集した。今では家人を率いてダンジョンで戦ってくれている。大量の新人だけでは戦線は支えきれない。ハイロウ貴族はやはり大駒なのだ。


 話がわき道にそれた。ともかく、色々な理由があって訓練場はにぎわっている。俺としては、彼らがここで磨いた力と技を健全な事に使用してくれと願うだけだ。……大襲撃が終わったら、彼らの受け皿として傭兵団を作ろうと思っている。


 ダンジョンへ纏まった襲撃が無くなっても、地方にはたくさんモンスターが放浪するようになると聞く。復興のためには邪魔だ。それらを倒すための傭兵団。暴れたい盛りをそのまま放逐するよりよほどいいだろう。


「ガーディアンの受け入れ態勢が整って、配送センターのチェック通ったら一人ぐらいは入れることを考えていいと思うよ。一人いるだけでも全然違うからね」

「教官は、最初どんな人にきてもらったんですか?」


 オダケさんの問いかけに、軽率に答えようとして一瞬止まる。……姪の前だ、言葉には気を付けなくてはならない。


「……コボルト、シルフ、スライムクリーナーという非力な戦線に、エルフ侍のエラノールという女性が参加してくれたよ。戦闘のプロフェショナルで、しかもエルフらしくキリっとした人でね。素人ダンジョンに活が入ったものさ」

「へー……エルフの、侍?」

「そう。昔からそこそこ日本人がダンジョンマスターにされてるからね」


 などと話しつつ、ミノリさんの様子を盗み見る。……よし、睨まれてない。セーフ! さらにフォローを追加する。


「まあ、うちのは少々縁故採用みたいな所あったけど。でも基本的に配送センターの紹介に間違いはないよ」

「……叔父さんの紹介、というのはアリですか?」

「おっと、意外な提案。……そうだね、できなくはない、かな?」


 俺という重しが乗っているなら、ハイロウも無茶はしない。能力と性格はあらかじめチェックするのが当たり前だし。そう考えると、縁故紹介も悪くはないか。……パトロン系列の家臣たちが、ガーディアン筆頭の座を狙ってゴリ押してくる可能性もなくはない。だがそれは俺が押さえれば済む事。もっと上の人に連絡するなり、ダンジョンから放出すなりやりようはある。


 問題は誰を推薦するかという話だ。……やはり初手ハイロウ貴族は止めるべきだろう。己の右腕とすべき人物に、面倒事を抱えさせるべきではない。帝都の無頼たちは……悪くないんだが、どうしても個人の戦力に頼りがちだ。全体を見る目が欲しい。


 この際ハイロウは除外しよう。冒険者……も、少数の戦闘はともかく大局を見ろというのは無茶ぶりになる。エルフは例外を除いて局地的過ぎる。その例外たるエルフ侍は……保留。俺の一存じゃ通らない。


 ドワーフやハーフリング……は、悪くない。ドワーフ砦といえば名が通ったものがいくつもある。拠点防衛はお手の物。ハーフリングも、自分が非力であるが故に頭と手先と移動力を使う。ダンジョンでの戦いはうってつけだ。この二種族は候補に入れる。


 ダークエルフ……も、保留。彼らが謀らないと誓ったのは俺のダンジョンだ。本人たちが自発的にほかのダンジョンでもそうしてくれるなら別だが、どうなるかは分からない。強要できるものではないので、意識調査から始めないといけない。


 そのほかに、推薦できるような人物や組織はあるだろうか。……ちょっと初心を思い出してみよう。一番初めの頃、俺はどんな戦力を欲していただろうか。戦いのプロ。前線で戦えるもの。魔法や回復の力があればなおよい……。


「……は」


 思いついてしまった。ピッタリな組織を。ゆっくりと三人に向き直る。


「君たち、死の神様の使徒とか大丈夫かな?」

「「「は?」」

「いやね? 死を司るキアノス神の聖堂騎士団って人達がうちのダンジョンにいるんだけどさ。ガーディアンにぴったりな人材なんだよ。前線で戦える。回復もできる。知識も経験もある。礼儀正しいし、みんな真面目でまっすぐ。……ただちょっと、死を直視しすぎているというか、死生観がエッジ効いているというか。その辺さえ気にならなければ完璧なんだけどね」

「そこが一番やべーのでは?」


 ノザカさんのツッコミに、真顔で俺は頷く。そうね。本当ね。でもそこさえ折り合いつけられれば完璧なんだよなあ、キアノス神聖堂騎士……。聖騎士パラディン僧侶プリーストのほかにさらっと野蛮人バーバリアンも参加してたりもするが。あのソリッドな死生観に同調したらしい。


 ……まあ、急いで結論を出す必要はないか。仲間にも相談しないといけないな。……騎士団を候補から外すことはしないけど。


 などと、訓練を眺めながら雑談をしていたら。地下十一階全体に聞こえるほどに大きく警鐘が鳴らされ始めた。


「きたか」

「叔父さん、これは!?」

「例の反乱だね。まあ、慌てる必要はないよ。落ち着いて」

「いやいや教官、これはやばいやつでは?」

「ぜんぜん。この時の為に数年準備をしてきたんだ。必要な人員はもう仕事しているよ」


 慌てるオダケさんをなだめていると、軽やかに現れるエルフ侍。であった頃と外観はほとんど変わらぬエラノールが、短い挨拶の後に報告をくれる。


「ミヤマ様、予定通り動きました。連中はトゥモロータウンを占領。立てこもっています」

「人質は?」

「現在、民衆は町から逃がしております。想定通りになるかと」

「結構。各署への連絡については?」

「滞りなく」

「ほかの場所で動きは?」

「報告されておりません。事前の調査通り、計画段階であきらめたものかと」

「よろしい。……それじゃあみんな、反乱見学にいこうか」

「いや、この切羽詰まった状態で何を学べっていうんすか」

「事前準備は大事だよって話だよノザカさん。さあみんな、立った立った」


 引き気味の新人を促して、訓練場の外に向かう。さてさて、これでやっと厄介事が片付く。イルマさんも気楽に外へ出られるようになるってもんだ……。


 そんなことを考えて歩いていたら、エラノールか軽く両耳をはね上げた。驚いたりしたときにそういう仕草をするエルフは多い。


「あ。……失礼しました、報告が一件。あのバカがやっと目を覚ましました」

「は!? このタイミングで!?」

「はい。あの警鐘で」

「あの程度で起きるなら、とっくに目を覚ましていただろうに……まあ、いい。せっかくだから、現場に来るよう伝えて」

「は。身支度を整えさせてすぐに」

「叔父さん?」

「ああ、うん。ちょっとね。何がきっかけで物事が動くか、分からんものだねえ」


 訓練場では変わらず新人たちが汗を流している。警鐘で浮足立ったが、教官たちが引き締めてくれた。そんな彼らに内心感謝しつつ、俺たちは現場へと向かった。


/*/


 トゥモロータウンの周辺は騒然としていた。入口付近を野次馬が遠目で囲んでおり、それ以上はいらない様に警備の者が体を張っている。


 手早く設置された対策本部へ足を運ぶと、ヨルマとバラサールの姿があった。二人とも武装して準備万端である。


「お疲れ様。どんな感じ?」

「客と従業員の九割は問題なく離脱させることに成功しました。残り一割は、連中の縁者です」

「大変結構。人員配置はどこまで進んでる?」

「ミヤマダンジョンについては、予定通り……失礼、一名を除いて予定通りです。ヤルヴェンパー、ブラントームは移動中。完了までまだかかるかと」

「一名……ああ。あいつはもともと予定になかったし。他の準備が終わったら始めよう。連絡よろしく、ヨルマ」

「はい、ただちに」


 新人たちは用意された椅子に座ってこそいるが、落ち着かない様子。場の雰囲気に流されているな。それでいい。


「今の雰囲気を良く感じておくといいよ。多数の民衆が不安を覚えると作り出されるこの独特の空気。刺激があると暴走してパニックを起こす。そうならないために分かりやすく警備員を置いているけどね」

「……叔父さん。色々準備したっていってましたけど、仮に何もしなかったらどうなってたんです?」

「うん、中々いい質問だ。そうだなぁ……」


 俺は何が起きたか、指折り数えようとする。だがその前に、今回の騒動を起こしている張本人たちについて語らねばならない。


 今回の主犯格の一つ、ヤルヴェンパーの譜代家臣ムルタラ家。祖先を北海系バイキングに持ち、セヴェリの母親であるヒルダさんの実家とは親戚である。まあ譜代であるから、そういう繋がりは少なからずある。


 しかしこのムルタラ家、昔から強硬派として色々問題を起こしていた。いざ戦いとなればそれなりに活躍もするが、それ以外においては領地の内外を問わずもめ事を起こす。他家と私戦にまで発展するような事態を起こしたのも一度や二度ではない。


 それでも処罰されなかったのは、代々の働きで確保した既得権益のため。交易や略奪品、傭兵業といった面では確かに実力を持っていた。だから厄介だった。


 ヤルヴェンパー家当主は数代に渡ってムルタラ家の横暴に頭を悩ませていた。先代だったユリウス氏が電撃引退したのもこれの問題を強引に解決しようとしたからだと内緒で聞いている。


 何かにつけて、自分の家の利益を主張する厄介者。ここまでくれば譜代と言えど情はない。他の家臣の合意も取ったうえで、長く時間をかけて干すことにした。その甲斐あって、今回の大襲撃ではヤルヴェンパーダンジョンへの避難を拒否された。


 譜代家臣であれば当たり前の権利である。それをはく奪されるほどに政治工作を受けたムルタラ家。いかなる暗闘があったのか、想像する事しかできない。


 ともあれ極めて屈辱的な体験をして、残る政治力をつぎ込んでどうにかうちのダンジョンに逃げ込んできた。この時点でヤルヴェンパー勢力が望む通りにやせ細っていた。で、俺は依頼された通りに追い打ちをかけた。力を蓄える機会を奪い、事あれば罰を与えたわけだ。


 ぶっちゃけると、そこはとても楽だった。何せ地元でやりたい放題やらかしてたやつらである。地方の出来立てダンジョンを舐め腐っていた。歴史と権力、伝統あるムルタラ家の名前もここでは通じないと理解するまでずいぶんかかりその代金を一杯支払う事になったのだ。


 頭を押さえつけられた彼らの怒りは相当なもの。その結果がこのざまである。なお、この計画の為にさらに金やらなにやら出しているので、ガチで後がない模様。


 もう一つの主犯格、ブラントーム家のシュタインヴォルフ戦団は小物である。戦闘力は間違いなくこちらの方が上。だが力ばかり強い無法者の集まりであり、戦うたびに損害を出している。それでも形を保っていられるのは中枢メンバーが死なないから。


 金と力はあるがブラントームの命令を聞かない傭兵団。今までの功績と戦力でうちのダンジョンへの避難権をもぎ取ってきた。クロード殿からも『いくらでも使い潰してくれて結構』とか言われてしまった。流石にそれはどうかと思ったので、とりあえず初手でうちの猛者たちと模擬戦してもらった。


 力任せ、種族特性まかせの暴れん坊がエルフ侍に勝てるはずがない。主要メンバーは全員エンナさんにボコられた。他にも末端人員に至るまで、徹底的にこちらが上であると体に教え込んだ。


 その甲斐あって、大多数は戦団から離反。うちのダンジョンの戦力として取り込むことに成功。戦うたびに損害を出し、行く当てのない連中を被害担当役として仕入れていたのが仇になった。


 ボコられたのと末端の離反がよほど腹に据えかねたらしく、主要メンバーはこちらに反抗するようになった。もっと軟着陸を目指すべきだったのではという思いもなくはない。しかし悲しいかな、大襲撃という危険の前にしてかけられる手間というのは多くない。うちも余裕はないのだ。


 初手から全員すりつぶさなかっただけで十分恩情をかけた、とは仲間たちの弁だが……これも俺の罪の一つである。ともあれ、そういう理由で戦団も反乱に加わった。


 以上を踏まえて、ミノリさんの質問を考えてみよう。何もしなかった場合、ムルタラ家はダンジョンの戦力と物資、金銭を取り込んで自勢力を強化しただろう。そのままダンジョン乗っ取りに動き出すのは容易に想像できる。ウチを丸々飲み干せば、ヤルヴェンパー本家も無視できない勢力になれるからだ。


 シュタインヴォルフ戦団は、いまと同じくムルタラ家に取り込まれただろう。うちのダンジョンでは厚遇されない。であれば新しい勢力に尻尾を振った方が取り分が大きい。そもそも彼らに主義主張はない。暴れられて、かついい目を見られればそれでいいのだ。


 大襲撃の最中に、こんな身勝手な勢力を内側に抱え込む。いくらうちのダンジョンが大きく成長したからと言って限度がある。つまり。


「なにもしなかったら、良くて指揮系統崩壊からの大損害。悪くて俺死亡でダンジョン大爆発、かなぁ」

「そこまでっすか」

「今はこんなしょぼい反乱しか起こせてないけど、これはあくまで数年単位で対処した結果だからね。好き勝手やられてたら、それが起こす負荷でダンジョンが回らなくなる」


 そんな話をしていると、トゥモロータウンの入り口が騒がしくなる。どうやら何かしらの主張をするようだ。これは好都合。まだ時間も必要だ。少しばかり付き合ってやるとしよう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おっ、ここで彼女が起きますか。 [一言] 厄介者の対処に数年かけて政治工作で削る、これが貴族のイクサだ…!
[一言] 戦は事前準備が8割と聞きます。 準備期間数年、1度乗っ取られたから隙もなく、人質も無しなら負ける要素がありませんね。
[気になる点] ミヤマダンジョンは初期から運が悲惨だったとはいえ人の縁に恵まれていたからこうだけど失敗したダンジョンの悲惨さもえげつないからなぁ
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