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【完結】決戦世界のダンジョンマスター【書籍一巻発売中】  作者: 鋼我
一章 ダンジョンはコボルトからはじめよ
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不穏な空気と新戦力

 最初の襲撃は、俺がこの世界に来て七日目に起きた。二回目は、それから三日後。三回目の襲撃、前回から二日後。四回目の襲撃、前回から二日後。


 そして五回目、やっぱり二日後。


「多いわぁぁぁぁ!」


 本日の襲撃は、バカでかい鹿モドキが三匹。軽トラぐらいの大きさのやつを鹿とは言いたくない。鱗もあったし角から雷出したし。


「たしかに、少々頻度が多すぎますね」


 今日も見事な槍さばき&大弓ナイスショットによってキルスコアをあげたエラノールさんが同意してくれる。ここまでの襲撃で、彼女が苦戦したところを見たことがない。大物は必ず彼女がやってくれている。褒賞とかあげたいのだけど、ダンジョン強化が先だと固辞されている。せめてなにか、と思って彼女をべた褒め&山のような感謝を込めてご実家に手紙を送った。名声の足しになってくれればいいが。


「戦力増強しているとはいえ、さすがに追いつかないぞ……拡張が」


 いままで、あまり考えなしにモンスターを増やしたりしていたが。ダンジョンの広さというのは迎撃において重要なファクターだ。


 狭い通路では、横に並んでも二人か三人。どれだけモンスターの数がいても、各個撃破されてしまう。強いモンスターであってもそれは同じだ。こちら側の戦力を集中したいなら、相応に広い部屋が必要となる。


 現在、うちのダンジョンに迎撃部屋と呼べるものは基本的にない。襲撃の合間にコボルトに工事をすすめさせ、やーっと環境整備がひと段落した程度だ。自然洞窟部分の歩きづらい場所は全て整備された。排水路も簡易だが一応作った。


 これで洞窟内の移動が容易となった。濡れた戸板の上をおっかなびっくり歩く必要はなくなったのだ。


 唯一、迎撃部屋といえなくもないマッドマンの泥沼。通路いっぱいに広げ面積も拡張。俺の訓練場を兼ねる予定だったが、最近は忙しくてそれもできていない。ともあれ、マッドマンをさらに二体契約し、鉄壁……泥壁? まあ、ともかく分厚い壁となって防衛に励んでいる。


 コボルトたちに守らせるバリケードは、毎日アップグレードを繰り返している。エラノールさんのアドバイスに従い、少しではあるが高さを追加している。さらに、コボルト達に投石紐を配備。現在練習中なので戦闘には使用できていないが、火力向上に期待が持てている。練習中、けっこういい音で石が飛んでいくのだ。


 と、このように急ピッチで戦力を増やしているものの、それを上回る勢いで襲撃がやってくる。二回目のオーガ、三回目はオーク二十匹、四回目は大ムカデ五匹、そして今日は鹿モドキである。バリエーションが豊富だが別に頼んでいない。


 マッドマンの防御力とエラノールさんの攻撃力のおかげで怪我人は減った。ただし前線に出る俺の盾はすでに三枚目になっている。


「さすがにここまで多いと作為的なものを感じる。ダンジョンメイカーの嫌がらせか?」

「ダンジョンメイカー様が? いえ、まさか。かのお方はコアを作りダンジョンを生み出す以外、世に何かしたという話は聞きませんが」

「うーん……まあ、それはただの言いがかりだけど。誰か、何かやってるんじゃないかというのはあるんじゃない?」


 足元を、いつものごとくスライムが清掃作業にいそしんでいる。今日は、というか今日も戦利品はほぼないからコボルトたちも次への準備をする程度だ。


「このダンジョンに、誰かが誘因していると? ……もしそうであるならば、まじないを使える者かと」

「なんでまた?」

「もしはっきりとわかる何者かであるならば、シルフとコボルトが気付きます」

「なるほど確かに」


 呪文的な何かで移動させているなら、臭いをごまかすこともできるか。しかしそうすると、探すのも難しいか?


「シャーマン殿。周辺に敵はおりますか?」

「ふうむ。外の見張りに聞いてまいりますのでしばしお待ちを」


 この洞窟の上の岩山にも監視所を作った。外に出られないのでどんな形かは俺も知らないのだけど、見つからないことを第一に作れと命じておいた。とりあえず今のところ襲撃されたことはない。

 シャーマンはすぐに戻ってきた。


「やはり、それらしい影は見えないと。ただ、シルフ殿は森の中に騒がしさを感じているようですぞ」

「ふうむ……ミヤマ様。私が一度偵察に向かってもよろしいか?」

「え」


 困る。めっちゃ困る。我がダンジョン最大火力が出撃となるといざというときの防衛に不安が発生する。いや、火力増強も考えているんだけど手ごろな奴がいないんだよなぁ。オーガとか強そうではあるがテキストが不穏すぎるんだもの。


『レッサーオーガ 五コイン 鬼です。筋骨隆々、怪力、意気軒昂。戦いに何のためらいも持ちません。敵を倒すことを至上の喜びとし、相手の強さは気にしません。敵が強かろうが弱かろうが暴力を振るう事を楽しみます。大抵の生き物ならば口にし、ゴブリンすらも踊り食いにします。一番好物とするのはヒトの女です』


 こんなの呼べるか。絶対コボルトたちが怖がるわ。イルマさんに相談したいところだが、忙しくてそれもできていない。……そうもいっていられないか。時間を作ろう。


 アタッカー増強は一旦置くとして。偵察についてどうするべきか。エラノールさんに出られると不安だからほかのモンスターに頼む?


 コボルト。単独では戦力にならないし、たぶん寂しくなって逃げかえってくる。じゃあ群れで出す? ……偵察にならないだろう。不適格。


 スライム。移動力に大いに難あり。さらに偵察行動そのものができないと考えて間違いない。意思疎通もなぁ……こっちの言っていることは理解してくれているようなのだがあちらの言い分はほとんどわからんからなぁ。体の動きで何となく察するのがギリギリのラインだし。不適格。


 シルフ。機動力よし、感知力よし、意思伝達よし。隠密行動も可能、なにせ風だし。おお、パーフェクト……なのだが、そもそも彼女が感知できていないのが原因だ。彼女が悪いわけではないのだが、今回ばかりは不適格。


 マッドマン。大体スライムと同じ理由により不適格。意思疎通はスライムよりましなんだが。


 ……だめだ。エラノールさん以外に適格者がいない。そして、このラッシュの原因を突き止めないと対応も取れない。倒せない敵が現れたらアウトだ。選択肢がない以上、覚悟を決めるしかない、か。


「えー……安全第一、でお願いします。最悪わからなくてもいいです。エラノールさんに何かある方がもっと困る」

「かしこまりました。では、準備してまいります」


 律儀に一礼すると、彼女は居住区に走って行った。


 /*/


 エラノールさんが出発した。シルフと協力するといっていたが、どの程度の効果がでるのやら。無事に帰ってきてほしい。彼女のためにも、ダンジョンのためにも。


 さて、コアルームに入りいつもの台座へ。モンスターカタログを開く。


「小型で強いモンスター、小型で強いモンスター、と」


 即座にヘルプ、はちょっと情けない。自力でできなかったらヘルプ、だろう。そう思ってページをめくる。まずモンスターの要求コインを見る。予算オーバーしてたら次。予算以内なら内容を読む。そんな流れで作業することしばし。


「……ほしいモンスター、みんな予算オーバーしやがる」


 ここで、今までのコイン収支を見てみよう。


コイン収支

・収入

初期五十枚

襲撃一回目 二枚(ゴブリン三十匹、ホブゴブ1匹)

襲撃二回目 七枚(ゴブリン五十匹、オーガ1匹)

襲撃三回目 十枚(オーク二十匹)

襲撃四回目 十五枚(大ムカデ五匹)

襲撃五回目 十五枚(鹿モドキ三匹)


合計収入 九十九枚


・支出

コボルト 三十匹 六枚

コボルトシャーマン 一匹 一枚

スライムクリーナー 三匹 六枚

シルフ・エリート 一体 十枚

マッドマン 三体 十五枚

ガーディアン 一人 十枚

大型冷蔵庫 一枚

換金 二枚


合計支出 五十一枚


収支合計 四十八枚


 という感じになっている。収入の大きさが脅威の質である。焦らないのは無理というものだ。……つくづく、エラノールさんに来てもらってよかった。いなかったら本気で死んでいた。


 さて、こうやってカタログをめくっていると、何となくモンスターの強さとその値段の関係が分かってくる。まず、弱いモンスター。筋力生命力が弱く特殊能力もない、そういうのは一山一コインで契約できる。ゴブリンやコボルトがこれ。オークも一枚で二体なのでここの枠だ。


 そういったやつらの中でも、特殊能力があると一匹一コインで出ている。呪文が使える、毒がある、技能がある。コボルト・シャーマンとかだ。ホブ・ゴブリンもゴブリンよりは強いという理由でここに入っている。


 弱くても便利な能力があるとコインが増える。高い清掃力を誇るスライム・クリーナーは例外的なとがり方をしている。まともな攻撃手段はないが、使い方では窒息させられる。生命力は高い。特殊能力がある。これでコイン二枚はお得では? また余裕が出たら増やそう。


 そしてその上に、単純に強いやつらが名前を並べていく。大ムカデや今日の鱗鹿、レッサーオーガなど。現状こいつらが脅威なので、これらを倒せる戦力が欲しい。


 強くて特殊能力があるとコインの値段は天井知らずに上がっていく。シルフ・エリートなんてかわいいものだ。生産力やダンジョン強化力をもっていたりするとインフレしているんじゃと疑うレベルで跳ね上がる。アントクイーンなどがここだな。


 というわけで、俺の要求するモンスター『コインコスト十枚以上を倒せる、ヒトぐらいかそれ以下の大きさ』がかなりの難題になってしまうのは当然の話だった。


 まあ、いないわけではない。たとえばこいつ。


『グール 十コイン 死体を食らう怪物です。アンデッド型と獣人型の二種類があり、それぞれ特殊能力が違います。アンデッド型は麻痺毒を持ちます。生きている対象には効果的でしょう。ただし理性と会話能力はありません。獣人型はアンデッドではありません。理性も会話能力も所有しています。麻痺毒は所有していません。どちらにしても悪属性であるため使用には注意が必要でしょう』


 獣人グールとか、ちょっと聞かないが分からなくはない。つまりはハイエナという事だと思う。アンデッドは論外だがこちらなら選んでもよいかと思う、のだけど。悪属性というのがいただけない。エラノールさんがいてくれれば押さえも効くだろう。あるいは俺が強ければ。しかしどちらでもない以上、ちょっと導入には躊躇する。


 だいぶ高いが、こういうのもいる。


『ジャイアント・スパイダー 百コイン 大蜘蛛です。洞窟の壁や天井に巣をつくり、獲物を待ちます。戦闘方法は巣からの飛び降り、粘着糸による捕縛、麻痺毒の注入、物理攻撃などです。つがいで契約すれば繁殖させることが可能で、一年で百匹以上増やすことができます。また、吐き出す硬い糸はロープとして使用することができるため、販売も可能です』


 アントクイーンほどのインフレではないが、まあお高い。とはいえ生産力と繁殖力もあるのだから当然とも考えられる。当然、導入はできない。


 そして、探しに探した結果、かなり惜しいと思ったのがこのモンスター。


『ストーン・ゴーレム 二十コイン 石でできた人間大のゴーレムです。刃物では痛手を受けることがありません。怪力を持ち、質量もあるためその一撃は戦槌を超える破壊力を持ちます。動きは鈍重であるため、素早い敵を狙うのは苦手としています。食料は必要としませんが、自然治癒能力がありません。魔術師や錬金術師の修理呪文が必要となります』


 値段がちょっとつらいが許容範囲。高い攻撃力と防御力。速度が遅いらしいが、敵をマッドマンなどで足止めさせれば十分当てられるだろう。理想的なのだが、修理の問題がある。コボルト・シャーマンにすでに確認済みなのだけど、修理呪文は覚えていないらしい。新しく覚えるには時間がかかるともいわれている。


 こいつが壊れると復活にはコイン百枚必要になる。使うなら修理呪文は必須だ。というわけでこいつも残念ながら選べない。


 ページをめくる。めくる。めくる。


「手ごろなモンスター、いいモンスター、戦えるモンスター……うーん、ぬーん」


 ぺらりぺらりとカタログを読み進める。コボルトのページが出てくる。いまさらコボルトを増やしても。ページをめくる。コボルト・シャーマン。コボルト・ライダー。コボルト・スカウト。コボルト・アルケミスト……。うん?


「コボルト・アルケミストぉ?」


『コボルト・アルケミスト 三コイン 知識と技術を得たコボルトの錬金術師です。コボルトであるが故に戦闘は不得意ですが、生産技術に優れています。薬の生産だけでなくケガや病の治療、道具の修理なども請け負います。標準で竜語を習得しています』


 俺は速攻でモンスターカタログの通話紋に魔力を通した。いつものごとく輝く窓が現れ、イルマさんが笑顔で出てくれた。


「こちら、モンスター配送センターお問い合わせ窓口です。こんにちはミヤマ様、本日のご用件はなんでしょうか」

「質問です! コボルト・アルケミストはゴーレムを直せるような修理呪文使えるでしょうか!?」

「ええ? ……えー、個体差があるのでお望みとあらばそれが出来るコボルトをご用意できますが」

「よっしゃぁぁぁぁぁ! ゴーレム運用できるぅぅぅ!」


 渾身のガッツポーズを決める。イルマさん、困惑を継続。


「ゴーレムといいますと、ウッド・ゴーレムでしょうか? 確かに修理呪文があれば運用できますが、いかんせん木製ですので修理の手間がかなりかかりますよ?」

「いえ、使うのはストーン・ゴーレムです。石ならそこまで破損しないでしょう?」

「ストーン!? コイン二十枚じゃないですか! 襲撃があったにしても多すぎる……まさか、借金を?」

「いえいえ。……襲撃撃退して稼いだんですよ」


 かくかくしかじか、とエラノールさんを迎えた後の経過を話す。話が終わった後、イルマさんの顔にはこれでもかというほど渋い表情が浮かんでいた。


「……明らかに誰かの介入がありますね、それ」

「やっぱりですか」

「モンスターだって馬鹿じゃありません。獣に近いほど、用心深くなります。一日二日で縄張りの中の匂いが消えるわけじゃありません。最低でも、それが消えてから偵察に出ます。にもかかわらず群れでの移動。移動させた何かがいるのは間違いないかと」


 専門家のお墨付きを得てしまった。嬉しくはないがありがたい。ならばこそ、ストーン・ゴーレムの導入をしなくては。


「よし、じゃあすみません。アルケミストの斡旋お願いします」

「かしこまりました。……ああっと、そうでした。ミヤマ様は被造物系モンスターの契約は初めてでしたね? この系統はこちら側の工房で作成したものをお渡ししていますので、ほかのモンスターとは手順が変わります」

「え……もしかして受注生産だったりします?」

「いえ、大量発注というわけでもありませんので在庫で対応できるかと。少々おまちくださいね」


 画面が切り替わる。保留中の画面だろう、鎧を着た猿がナイフをジャグリングする簡易アニメーションが映し出される。……猿の、お手玉? 長いロード画面? う、頭が。


「お待たせしました。ストーン・ゴーレム一体、修理呪文習得済みコボルト・アルケミスト問題なく契約できます……どうかされましたか?」

「いえ、なんでも……じゃあ、さっそく」

「ちょっとおまちください。せっかくここまで準備されるのですから、ついでにゴーレム・サーバントもいかがでしょう?」


 彼女が画面の向こうで手を動かすと、こちらのカタログもページがめくれる。……こういう魔法的演出に慣れ始めた俺である。


『ゴーレム・サーバント 一コイン 執事、または侍女服を着た陶器製のゴーレムです。呪文を込められているため通常の陶器より頑丈ではあるものの戦闘には全く向きません。ダンジョンマスターの身の回りの世話が可能です。料理、洗濯、掃除等を申しつけてください。竜語が使用できます』


「ああ、家事ですか……」


 確かに、必要だ。迎撃と訓練で忙しく、最近かなりその辺がおざなりになっている。エラノールさんの実家から日本食材をいただけたからこそごまかせているが、料理は雑を極めつつある。洗濯もできないからスライム・クリーナー任せ。最初はぞっとしたが、慣れればたいしたことなかった。ただ、エラノールさんからは


『清掃はともかく、洗濯までスライム任せは堕落への第一歩ですよ』


と釘を刺されたが。正直わかる。こと清掃にかけては万能だからな、スライム。


「うん、必要ですね。それじゃあサーバントも……在庫、どれくらいあります?」

「問題なく。ミヤマ様のダンジョンなら二体いれば問題ないかと」

「じゃあ、それで」


 ストーン・ゴーレム コイン二十枚。コボルト・アルケミスト コイン三枚。ゴーレム・サーバント二体でコイン二枚。合計二十五枚支払い俺は新たな戦力を迎え入れた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 侍女人形導入開始!(ただし、陶器製)
[良い点] 徐々に拡充されて行くのを見るのが楽しい
[一言] もしかしてもふもふ王国になりつつある......?
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