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知らない人からお手紙ついた

 例の人物、名前をロモロというらしいのだが。彼との面会を始める前に、仕事を先に片付けた。被害報告と、復旧への動きについてだ。殺戮機械バーサーカーの大砲のせいでずいぶんと被害がでた。特にプルクラ・リムネーの城壁が酷い。完全修復には金と時間がかかるだろう。防御手段の増強を急がなくてはいけない。


 それ以外については一、二週間もあれば大体復旧する予定だ。けが人も三日もあれば復帰するだろう。霊薬ポーションと神の奇跡が無ければこうはいかない。


 流石にこれほど仕事をしていれば時間もかかる。彼にはあらかじめ説明したし、長旅だったらとも聞いたので早めに休んでもらった。俺も戦いで疲れていた。


 そんなわけで翌日である。それだけの時間があったので、名前も出たのでヨルマにダンジョンまで来てもらった。


 そんな彼と会う場所は、門前町に立てた役所の中。ダンジョンの中というのはやはり特別だ。身内でもないのに入れるべきではない、というのを前回痛い目を見て学んだのだ。


「ヨルマ・ハカーナ!」


 応接室で待っていたヨルマを見たとたん、彼は血相を変えて叫んだ。なお、この場に居るのは俺の他にイルマさん、ロザリーさん、エラノールである。妻二人は俺の左右に座り、ガーディアン二人は背後に立っている。


「よう。一年ぶりぐらいか。報告は受けていたけど、元気そうだな」

「お前、お前なぁ! もうちょっとこう、なかったのか!? 俺について、ここでの説明! 昨日なんか、冒険者に取り囲まれたんだぞ!?」

「そんなことを言われてもなあ。お前についての説明しても、立場が悪くなるだけだと思うんだが」

「そうだけど! そうだけどそれでも、フォローの一つもあれば……」


 ロモロ氏について、話し合いの前に本人とヨルマからある程度は聞いていた。セルバ地方を支配していた商業派閥の貴族、マジナ伯爵。彼はその下で働く商人だった。伯爵の下でこまごまとした仕事をしていたらしい。


 で、マーブル女史やハイランさん達があんな色めきだった理由。かつて彼らが俺のダンジョンを襲ったあの事件。それを依頼したのが彼だったのだ。態度もあまりよろしく無く、あのような対応になったと冒険者達から聞いている。


 結局彼は、マジナ伯爵がうちのダンジョンに仕掛けていた計画のしくじりがきっかけで逃亡。その逃亡を助けたのがヨルマだった。


 俺たちと妙な縁で繋がった人物である。元は敵というか、その手先。それがなんでまたうちのダンジョンにやってきたのか。ロモロ氏は、懐から大事そうに手紙を取り出すと俺に見せてきた。


「実はこれを、サイゴウダンジョンかミヤマダンジョンに届けろと脅されまして」

「脅された? しかもその言い回し、お前が関係者だってバレてたのか?」


 ヨルマの問いかけに、ロモロ氏はまたも血相を変えた。


「そうだよ! ばれてたんだよ! 潜伏中で、誰にも過去の事は言ってなかったのに!」

「……つまり、相手は相応の調査力を持っていると? そちらの手紙は読まれましたか?」


 エラノールの問いかけに、彼はトーンダウンし力なく首を横に振る。


「えー……いいえ。ですがある程度内容は聞いています。二つのダンジョンに危機が迫っているので、その警告だと」

「危機。穏やかではないですね。……失礼します」


 イルマさんが呪文で手紙を調べてくれる。開けたら呪われるとか爆発するとかのトラップ対策だ。彼女は問題ありませんと頷いてから、封を開け俺に見せた。読む。


『警告。サイゴウダンジョンとミヤマダンジョンに対しビクスラーダンジョンが攻撃を仕掛けようとしている。内容は以下の通りである。対処されたし。


・セルバ、バルコの国境へディアマン王国が軍を差し向ける。ダンジョンは示威を目的としているが、王国は領土を削り取ろうとしている。


・ビクスラーダンジョンが、先の抗議文についての話し合いという事で帝都に両ダンジョンマスターを呼び出そうとする。目的は身柄の確保と、傘下に入る事を強制する為である。


・交渉を任された男は、セルバに対する様々な工作についての情報を握っている。ビクスラーダンジョンの情報も詳しいため確保するべし』


 手紙には、何かしらの証拠とするためか割り印まで入っていた。バラに似た、花弁の多い花だった。……さて。


「これ、信じていいものだと思う?」


 妻とガーディアンに見せると、女性三人は難しい顔をした。微笑んだのは一人だけ。


「何か考えがあるの、ヨルマ」

「はい。まずそもそもの信ぴょう性。いたずらか否かについてですが、それなりにはあると思われます。これの受け渡しにロモロを使った事がその理由です」


 俺? と自分を指さすロモロ氏を見ながらヨルマは続ける。


「飾らずに申し上げますが、ロモロは下っ端です。替えの利く駒でしかなかった」

「止めろよ、悲しくなるだろ」

「しかも一年前に雇い主から逃げ出して、潜伏までしていた。そんなロモロをわざわざ見つけて、メッセンジャーとして使った。サイゴウダンジョンについて長期間調査していなければ、ロモロの事なんて気づきもしないでしょう。エラノールさんのおっしゃったとおり、組織的な調査力を持つ証拠になります」


 なるほど。いたずらにしては要求労力が高すぎる。そこまで非常識に金を使っていたずらされる覚えはない。仮に誰かの恨みを買っていたのなら、同じコストを使ってもっと直接的な行動に出るだろう。ビクスラーダンジョンを支援するとか。


「となると次の問題はこの内容が真実かどうか、ですわね」

「はい、ロザリー様。現段階ではそれを見極めることはできませんが、調査は可能です。手紙にはディアマン王国が軍を動かすとあります。真実であれば、その予兆は必ず現れます」

「物資や人員の動きをつかめれば、手紙の真偽が明らかになると。お兄様にご協力をお願いすれば、情報は掴めると思います」


 イルマさんもこう言ってくれる。仮にこれが嘘であっても、そこを調べるだけなら大した被害にはならない。公爵家の調査員が罠の中に飛び込むことになるかもしれないが、その場合はうちからも救出のための人員を派遣するまでだ。


「……で。本当だった場合はどうしよう?」

「すぐにセルバとバルコに伝えるべきですね。初動がつかめれば対処の為に動くことができます。軍が移動するのは時間がかかります。攻めるにも、守るにも」


 エラノールの提案にハッとした。そりゃそうだ。事は俺たちだけの問題にとどまらない。手紙にも侵略が目的とあるじゃないか。防衛しなくてはいけない。そしてそれができるのは両国だけだ。


「二人の実家に、援軍を求めた方がいいかな?」

「それについては旦那様がお決めになる事ではありません。求められたら仲介する。その程度でよいのです」


 ロザリーさんにたしなめられる。……まあ、そうか。身内意識が強すぎた。セルバはまだ独立していないけど、主権を持つ(持とうとしている)国家だ。どう防衛するかは彼らが決める事。バルコも同じ。勝手に動いては彼らの面目が立たない。立て直そうとしている両国にとってはとても痛い事になる。


 彼女の言う通りの対応をするのが一番か。


「じゃあ、一番目に関してはそんな感じで。次に二番目なんだけど……これも事前に対処できるかな?」

「そうですね。これについては準備をしつつ、実際に帝都に呼び出されたら対処すればいいかと。……ミヤマ様、罠云々はさておき実際に会談となったらお会いになりますか?」


 ヨルマの問いには、強く頷いて返した。


「会いたいね。物別れになるとしても、相手の顔は見ておきたい。対処の仕方も変わるから」


 抗議文を送ったらこの反応。俺たちの反抗がよほど気に入らなかったらしい。そんな相手だからこそ、顔を見たい。話し合いができるのか、だめなのか。ダメだった場合どこまでやるべきか。その見極めが必要だからだ。


 ……普通だったら、土下座して命乞いするべき戦力差なんだけどなぁ。嫁さんの実家という後ろ盾があるからこういう事ができる。まあ、ほかにも頼る相手は思いつくけど確実に動いてくれるかはまた別の話だ。


 俺の返事に、ヨルマは自信の表れのように胸を張る。


「かしこまりました。対処の為にバラサール達を使います。それから、例の貴族たちも使いたいのですがよろしいでしょうか?」

「え。うん。酷い事にならなければ」

「もちろんです。きっと彼らも喜びますよ」


 本当でござるかー? と疑いの目を向けるも、大丈夫ですよーと笑顔で返された。……我がガーディアンが言うなら、信じよう。


「それでは三番目ですけれども……これ、前の二つに比べて感じが違いますわね」

「……ロザリーの言う通りです。前二つは危険を伝えるものですが、最後のこれは具体的な行動を要求しています。これが本命の罠、ではないでしょうか」


 妻二人の言葉を聞いて改めて読み返す。ビクスラーダンジョンの情報を握る人物を確保せよ、か。確かに、捕まえる事ができれば多くの情報を得られるだろう。しかし。


「これって普通に誘拐だよね。犯罪だよね」

「帝国の法にのっとれば、そのようになります。戦場でならともかく、話し合いの場で相手を捕縛して良いわけがありません」

「戦場……捕縛……あ」


 ふと、閃くことがあった。これについてみんなに聞いてみると。


「なるほど、それならば法に反しません。よくご存じで」

「昔読んだ本でそんな描写があってね」


 エラノールの太鼓判をいただいた。うむ、ラノベも読んでおくものだ。意外な所で役に立つ場合もある。もちろん一番良いのは専門書なんだろうけどね。サバイバルの本、読んでおけばよかったと何度後悔した事か。まあ、こっちで似たような本買えたけど。


「ただこの方法、強い人がいないと成り立たないんだけどこれは……」

「わたくしが、やります!」


 力強く、元気よく。ロザリー・ミヤマ婦人が全力で立候補成された。耳も尻尾も気迫がみなぎっている。


 が、流石にこれを即座に頷けるはずもなく。


「いやいやいや。ロザリーさんがやる必要は無いと思う。場に入れればいいんだから、ほかの人でも……」

「相手は末期ダンジョンの手先。女と見れば侮るやもしれません。そんな隙が一つでもあるならば、やりようはいくらでもありますわ。うふふ、久しぶりに血が騒ぎます」


 燃えていらっしゃる。とてもとても、燃えていらっしゃる。モンスターとの戦いとは別種の喜びがあるというのだろうか。


「あ、呪文使いが相手だったら私が出ますね」

「イルマさんまで!」


 うちの嫁さんたちが好戦的過ぎる。まあハイロウだし、普段から戦闘に参加しているのだから今更かもしれないが。


「エラノールからも何かいってやって!」

「奥様方、ここはガーディアンたる私の出番かと」

「話し合いの場に武器を持ち込むわけにはいかないでしょう? その点わたくしは自前のこれがあります」


 ロザリーさん、右手をスフィンクスのそれに戻す。見事な爪と肉球だ。鋭い爪は薄い皮鎧ぐらいならあっさり切り裂く。本気モードのロザリーさんはそこいらの戦士では歯が立たぬ魔獣なのだ。


「そして呪文使いの相手なら、大学時代さんざんやりました。実戦で腕を磨いた私なら、上位導師でも出てこない限り負けはありません」


 えっへんと、胸を張って自信満々におっしゃるイルマさん。ハイロウには呪文を使えるものは割といる。生来、そういう適正があるらしい。しかし本格的学ぶとなればお金も時間もいる。だから大学という施設があるわけだが。


 うちのダンジョンでも、彼女以上の術者はほとんどいない。なのでこれはうぬぼれではないのだろう。いざとなれば頼る事になるか。


「……ちなみに、ラニ先生と戦うとどうなるの?」

「呪文の威力で押し負けます。というか、あの方は呪文で戦ってくれません。呪文で勝てる戦場を作るタイプです」


 ふるふると、目のハイライトをオフにして首を振る我がお嫁さん。ううむ、恐るべきは英雄冒険者か。


「ごめん。話を逸らした。とりあえず、罠じゃなかった場合の対処はこれでいいか。罠だった場合は……」

「私の方の仕込みで対処できるかと。まあともあれ、まずは軍が動くかどうかなのですが……」

「あのー、お話が落ち着いた所ですみません。自分の事なんですがー」


 あ。ロモロ氏の事をすっかり忘れてた。


「おう。お疲れさん。帰っていいぞ」

「扱いが雑! いや待ってくれ。ここまで身銭切って来たんだ。あとアロンソ男爵……じゃない、子爵にも借りを作ったんだ。その辺をだなぁ」

「はいはい。それじゃあその辺も含めて仕事手伝え。家族に土産も買いたいだろう? 給料は弾む」

「マジか! やる! やりますやらせてください!」


 ……なんだかヨルマが上手くまとめてくれた。俺からは路銀の補填とお礼の手間賃、あとダリオへお手紙書けばいいかな。


 そして、そんなやり取りがあった二週間後。公爵家の諜報員から知らせが届く。ディアマン王国がセルバとバルコへ向けて軍を動かそうとしていると。情報はすぐさま両国首脳へと送られた。魔法的手段によって帰ってきた言葉は、援軍求む。俺はヤルヴェンパーとブラントームに連絡を取った。


 進軍開始までにはそれなりの時間があった。相手側の戦力を調べ、その上で十分な戦力を用意する。過剰ではいけない。シャレにならない経済的負担を負う事になるのだから。


 諸々の準備が急ピッチで進んだ。うちのダンジョンも物資の供与を行った。地下世界アンダーワールドで採取した素材で作った霊薬ポーションの需要は青天井。作れば作るだけ売れた。……まあ、貸付なので利益として帰ってくるのはずいぶん先になるが構わない。負けるのだけは許容できないのだから。


 そして両軍がそれぞれの国境で対峙し、小競り合いが始まった頃。ビクスラーダンジョンより、帝都にて話し合いの場を設けたいと連絡が入った。


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[気になる点] 薔薇紋章の人(仮)、イッタイナニモノナンダ……
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