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【完結】決戦世界のダンジョンマスター【書籍一巻発売中】  作者: 鋼我
一章 ダンジョンはコボルトからはじめよ
15/207

ローマ・ハスタティ

 兜(革製・ノーズガード付き)、皮鎧(胸部は金属補強)、ファウルカップ(下着の上に装着)、手甲と脚甲。以上が防具一式。


 左手に、長方形の大盾。右手に、短槍。腰に、短剣。これが、俺の新装備一式である。ケトル商会に注文して本日届いて、只今初装備となったわけで。


「防具は動きづらい、と本で読んだけど……思ったほどじゃないというか」


 確かに、動きの制限はある。特に兜は視界に制限が入る。ノーズガードついてるし。でも、鼻は人体急所の一つ。兜から延びるこのちょっとした部分だけで守り切れるとは到底思えないが、さりとてこのわずかな守りに救われる……こともあるかもしれない。


「ミヤマ様は、コアの加護がありますから一般的なヒトよりは違うかと」

「ああ。そういえばそうだった」


 最近は洞窟内に明かりも増えて、能力をあまり意識していなかった。ろくに鍛えていない俺の腕力で、木製とはいえこの大盾を軽々持てるはずがないのに。


 さて。なんで俺がこんなフル装備になっているかとえば、さかのぼること三日前。エラノールさんを迎えた日の翌日の事。


『現状の戦力だと、俺も戦わないといかんので鍛えたい。指導してもらえる?』


と、エラノールさんにいった所、めちゃくちゃ渋い顔をされた。


『一朝一夕の訓練で戦えるようになるなら戦士もモンスターもいらないのですが……』

『非常によくわかるけど、贅沢言ってられないので』

『……と、なれば。最低限の訓練で戦場に立てる工夫……あ』


 そう彼女が思いつき、ケトル商会に注文したのがこの一式。買うのにコイン一枚を換金した。いやあ、防具買わなきゃいけないって思ってたからよかったのだけど。ファウルカップについてはヒヤッとしたね。全く思いついていなかった。そうだよ、金的なんてやられた日には死ぬわ。魔法だのコアだの色々あったって、ここやられたら。


 なお、短剣だけは買ったものではなく戦利品だ。ゴブリンたちが持っていたものの中で一番いいやつをエラノールさんが研ぎなおしてくれた。鞘はコボルトお手製である。あいつら、どんどん器用になっていくなぁ。


「身にまとうのは、どうしても手間がかかります。コボルトたちに手伝いをさせましょう。手順を覚えれば、そう時間もかけずに装備できるでしょう」

「シルフ&コボルト索敵もあるから、奇襲も早々されないだろうしね」


 なお、一見全く防具を装備していないように見えるエラノールさんだが実際は違う。手甲と脚甲は標準装備。さらしも巻いているし、はちがねも持ち歩いているのだとか。うむ、常在戦場。


「さて、本来であれば身体もろくに出来上がっていない状態で戦闘訓練など愚の骨頂なのですが。そうもいっていられないのが我らの事情。なのでミヤマ様にはとりあえず”戦場で面倒くさい存在”になる訓練をしていただきます」

「……めんどくさいそんざい」

「無視できない、かつ、倒しづらい。そういうのが一人いるだけでも状況は変化するものです。ミヤマ様はダンジョンマスター。倒れれば一大事。特にコボルト達などは士気が崩壊、戦線総崩れとなります。そうならないためにも、まずは守りとけん制の訓練をしていただきます。ではさっそく……ああ、昨日の疲れは抜けていますよね?」

「なんとか」


 そう。根性試しとして地味な筋トレをひたすらやらされた……もとい、やったのだ。きつかった。めっちゃきつかった。


 コアによるパワーアップを極力抑えたうえで、コボルト背負ってのランニング。足元のおぼつかない道を、一定速度で走るのは地味につらかった。


 契約したてのマッドマン入り泥沼での水泳。水というか泥が体にまとわりついてめちゃくちゃ体が疲れた。


 腕立て、腹筋、背筋、スクワット、反復横跳び、踏み台昇降……。後半、何をやったか覚えがない。


 終わったときは、ほぼ気絶していた。しかも、石の椅子は使用禁止とされてしまった。あれで回復しては筋トレした意味がないらしい。


 朝起きたら、体びっきびきに固まっていたので、エラノールさんの指導でストレッチしてやっと動けるようになったというありさまである。


「さて、ではまず盾をしっかり構えてください。大盾一つ構えるだけで、攻撃を受ける面積は大幅に減ります……が、対モンスターの場合はこれが油断に代わります」

「油断」

「背の低い、それこそゴブリンなどは割と容易に足元への攻撃ができるので。守っているから平気、と足元をおろそかにしないように」

「はい」


 実際どうなるか、自分ではわからないので試しにエラノールさんに構えてもらった。例によって木製なので重量無視能力が発動して彼女は軽々と構えて見せる。で、正面から見てみると、まあ体のほとんどが隠れる。これでどうやって攻撃しろというのだ。


「硬い木を使っていますが、やはり木製です。何度も攻撃をもらえば壊れます。過信は禁物です。熟達すれば『攻撃を防ぐ』のではなく『攻撃そのものを邪魔する』こともできますが、今は考えなくてよろしいです」

「……どうなるかやってもらっても? ちょっと見てみたい」


 というわけでやってもらった。借りた木刀を槍に見立てて突く。が、その攻撃そのものを、盾で押しのけられる。木刀は盾のふちを滑るのみ。この大盾、両端が内側に湾曲しているから滑るのも抵抗がない。そしてがら空きになった俺の横腹を彼女の手刀が軽くつく。


「これでカウンター。盾を壊さず、敵を倒す……という感じです。繰り返しますが、今は考えなくて結構ですので」

「達人の技だ……」

「私などまだまだです。さて、では訓練です」


 まず、盾を構える。次に右手の槍を逆手に構え、顔の横に。


「では、肘を伸ばすように振り下ろしてください」


 実行。槍の先端が、前方に振り下ろされる。


「今度は、肘を曲げて戻してください」


 実行。槍が顔の横の位置に戻る。


「伸ばす、曲げる。たったこの動作だけで攻撃と、再攻撃への準備ができます。この動作をしっかりできるように訓練するのがしばらくの目標です」

「おお、たしかに。これなら素人の俺でも……。でも、こんな単純な動作、練習する必要ある?」

「……ほう? 愉快なことをおっしゃる」


 ……あ、とっても失言の予感。にっこりと笑う彼女の笑顔がとても怖い。というわけで、ひたすら同じ動作をやった。素早く振り下ろし、同じ速さで戻す。まあ、言うまでもないことだが、どんな単純な動作でもやってれば疲れるわけで。しかも片手はしっかり大盾を構えてるし。姿勢が乱れれば注意される。動きが鈍っても注意される。


 曲げて、伸ばして、曲げて、伸ばして、まげて、のばして……


「ナマ言ってすんませんでした! マジすんませんでした!」

「はい、無駄口たたかない。動きが遅くなっていますよ。いち、に、いち、に」


 エルフ侍容赦なし! というわけで、腕が動かなくなるまでひたすら繰り返させられたのだった。


 /*/


 ぐったりと、洞窟の壁に背を預ける。外からの風が気持ちい。シルフが気を利かせてくれたのだろうか。


「この方法、前方には強いのですが横合いから攻撃されると弱いのです。本来であれば同じ装備の兵士が左右について戦列を組むわけですが、今はそうもいきません。差し当たって、同じく短槍を装備させたコボルトを用意しましょう。攻撃ではなく、けん制のために槍を振らせれば横からの攻撃をある程度防げます。コボルトを楽に蹴散らせるようなものがこなければ、ですが」


 エラノールさんの声がどこか遠い。普通に疲れているだけともいう。しかし、戦列か。この、長方形の盾と逆手持ちの槍。短剣。なんとなく思っていたのだが、もしや。


「ねえ、エラノールさん。二千年前ぐらいにローマってところからも人来てない?」

「ご存じでしたか。はい、おっしゃる通り。細かい年代はわかりかねますが、確かにそのあたりの時代にローマなる帝国からマスターがたくさん選ばれたようです」


 ……やっぱりか。二千年前に栄えた巨大帝国。優れた建築技術と文化。日本食をこちらで量産できるほどに人を連れてきたのだから、ローマのそれだってパクらないはずがない。しかし、そうなると。


「……ほかに、覚えている国ってある?」

「そうですね……漢、イングランド王国、フランス王国、ドイツ帝国、ロシア帝国、オスマン帝国、ポルトガル王国、スペイン帝国、ラクシャラ……は、地球ではありませんでしたか。……ええと、最近は名前が変わった国とかあるんでしたっけ。イングランドの植民地が独立したのが確か……」

「ああ、うん、ありがとう」


 グローバルにもほどがある。地球文化を全部分捕るつもりだったのだろうか。しかも、地球以外からも連れてきているとかどんだけだ。これだけの数の国、時代の人間を大量に連れてきて、ダンジョンをやらせている。そして、現代でも俺のようなやつまで。


「しかしそうすると、ダンジョンって何千ぐらいあるんだろうね……」

「さすがにわかりかねます。この広大な帝国だけでも千を超えています。帝国が公表していない、把握していない数を含めたらどれほどになるか」


 ダンジョン量産しすぎじゃない? そんなに必要なの? 何が目的なの? さっぱりわからん。分かるはずもないか。それこそダンジョンメイカーとやらに直接聞かないと。


 ……しかし。推察できる事はある。それほどの数を用意しなければ、目的が達せられないという事。もう一つ、その目的はまだ達していないという事。ううむ。


「さて、休憩は以上です。訓練再開といたしましょう」

「すんません! もう腕上がらないんですけど!」

「では、基礎トレーニングとまいりましょうか」


 ああ、美しいエルフの笑顔がこんなにも怖い。無駄に頑丈になった己の身体が憎い。昨日の悪夢がよみがえる。


 明日の筋肉痛を覚悟しながら、俺の訓練は続いた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 悪役に問い詰めるスタイル?
[気になる点] 常駐戦場 常在戦場では?
[一言] 喋ることが可能なのがコボルト一匹のみで、これは良作の予感がすると思ったらエルフで侍とかいう色物が速くも登場してしまった なんだろうダンジョンでモンスター、化け物みたいな奴らって喋れないか意…
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