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【完結】決戦世界のダンジョンマスター【書籍一巻発売中】  作者: 鋼我
一章 ダンジョンはコボルトからはじめよ
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ダンジョンマスター ソウマ伝

 大戦があった。ソウマヤタロウの父親はそれに参戦したが、仕える主を守れなかった。地元に居場所がなくなったソウマ家は、当てもない放浪の旅へ。幼いヤタロウには辛い旅路で、空腹を川水でごまかす日が何日もあったという。


 やがて、縁あってヤタロウの父はとある貧国に仕官がかなう。ヤタロウが成人したころ、母ともども病に倒れそのまま息を引き取った。畳の上で死ねて墓にも入れたのだから幸せといえるだろう、とはヤタロウ本人の言葉であるという。


 父の代わりに仕官してから十年。ヤタロウは必死で働いた。痩せた土地を肥やそうというお上の言葉に従い、毎日働きづめだった。一番若手で、しがらみもないという事もありありとあらゆることをやったという。農夫と一緒に開墾をしたり、家畜の世話をしたり、商人の手伝いをしたり、夜盗退治をしたり。


 そして、そんなある日。目覚めた彼は、真っ暗な部屋の中で石の椅子に座っていたという。両親の記憶を失って。


「……俺と、同じか」

「皆さま、ある日唐突にダンジョンマスターとして連れてこられると聞き及びます」

「家族の記憶が戻ったのは、いつか聞いてる?」

「……百年、かかったと」


 絶句、というのはこういう事か。頭を抱える。言葉もない。百年もたったら、家族はもうこの世にいない。……それが、目的か? ちくしょう、冗談じゃないぞ。


「……ミヤマ、様」

「ああ、うん。大丈夫……じゃ、ないけど。続き、おねがい」

「……かしこまりました」


 訳のわからぬ事態に巻き込まれ、当初は混乱した。だがセンターの助けもあり、次第にダンジョンマスターとしての生活に慣れていったという。習い覚えた武術、学術も大いに役立った。


 様々な事態に遭遇し、それに対処し。自分もダンジョンもモンスターも強く育ったある日、流民がやってきた。痩せ、汚れ、今にも死にそうな顔色の者たち。流民たちは、すぐ近くの森に住むことの許可を求めに来た。助けてほしい、とは言わなかった。


 ヤタロウは遠い昔の己を思い出し、流民にできうる限りのことをしてやった。そんな施しをされるいわれはない、と拒む流民もいたが問答無用で行った。


 うわさを聞きつけて、たくさんの流民が現れたがヤタロウは同じように手助けをした。流民たちが騒ぎを起こさなかったというのも大いに関係した。


 そここそが長き秋の森。流民となったエルフたちの新たな安住の地だった。


「なんでエルフは流民に?」

「小規模な、異界の侵略があったのです。小規模といえど、小さな里には脅威でした。人の国もいくつかその時滅んだと聞き及びます」


 異界。この世界ではない、どこか。はるかな昔より、突然現れる扉からモンスターがあふれ出てくる。ゴブリン、オーク、オーガ、トロルなどの邪妖精。常識からは考えられないほどの大きさをもつ巨獣たち。そして神のごとき力を振るう竜、巨人、異界の超生命(ゼノスライム)


 殺戮機械群バーサーカーズなどは最悪だ。生物、無生物問わず解体し新しい自分たちを作る素材にしてしまう。この恐ろしきからくりに滅ぼされた国が過去どれだけあっただろうか。


 そして、最大規模の侵略者。門ではなく、虚空の穴より現れる者たち。狂乱し、同族以外見境なく食らいつく満たされぬ者たち。様々な、本来ならば絶対協力しないであろう種族の群れ。体から、黒い茨を生やすものたち。苦痛軍アーミー・オヴ・ペインズ


 世界は時折、このような者共の侵攻を受けていた。エルフたちに降りかかったのは、巨獣の暴走だった。森の中での防衛戦なら、エルフに勝る者はいない。しかし、圧倒的な物量と質量を止められるほどの力を彼らの里は持ち合わせていなかった。最後には、故郷の森そのものを巨大な罠に変えて逃げ出すしかなかった。


 流民となったエルフたちは当初、より大きなエルフの里を目指そうとした。しかし、そのころはまだ異界の怪物が暴れまわっていた。けが人もいれば子供もいる。物資もほとんどなく、無事にたどり着ける保証はなかった。


 そこで近くの森で隠れようとしたところ、ソウマダンジョンを発見したという事だった。エルフたちも、ダンジョンの事は知っていた。アルクス帝国やハイロウの事も。下手に頼れば連中がどんなことをしてくるかわからない。それでなくても強力なモンスターを抱えている。積極的にかかわるつもりはなかったのだ。


 ソウマヤタロウは、道義を知る男だった。食料、治療、安心して休める場所、モンスターの護衛。ここまでされて何も返さないのはエルフの誇りが許さない。恩には恩を。力を取り戻したエルフたちは、ソウマダンジョンのためにできることを探しはじめた。


「……の、ですが。何せ病み上がり。装備も土地勘もほとんどなく。加えて我らエルフはその、なんといいますか。好意ひとつ伝えるのも手間と時間をかけてしまうので」


 なるほど。エルフツンデレ。


「ソウマ様はまことに器の大きい方。我らの迂遠さに気分を害されることなくお付き合いくださったと聞いています。そうするうちに、我らの中にもソウマ様に真の友誼を抱く者たちが現れはじめまして」


 そうして、彼らは移動をやめてそこを新たな里にすることにした。里を失ったエルフは多く、氏族の違う者だらけだった。結局、最後には新たな氏族を立ち上げることになった。


 その後はヤタロウの庇護の元、里は大いに発展した。ヤタロウの持つ様々な技術、武術と学術もこのころから学び始めた。


 ヤタロウの子がハイロウとなった頃、アルクス帝国はソウマダンジョンまで支配地域を広げてきた。もともと、配送センター等の世話になっていたヤタロウは帝国に加わることに合意。ヤタロウの子が貴族となりそのまま周囲を領地とした。


「と、まあこれが我らとソウマ様のあらましでございます」

「なるほど。……さっきの百年って話でも思ってたんだけど。ダンジョンマスターになると、寿命が延びるの?」

「延びる、というよりは老いなくなると聞いております。とはいえ、それはあくまで体のみ。心の疲れはいかんともしがたく。常人は、数十年で子供にダンジョンマスターの座を譲り渡すそうです。……ソウマ様は、いまだ我らを導いてくださっています」


 仮に、戦国時代の人だった場合四百年近く生きているという事になるのか。どうすればそこまでできるのか、思いが及ばない。エルフたちとの絆によるものだろうか……。


「なるほどなぁ。エルフが侍になった理由が分かった」

「いえ、実はソウマ様の同郷の方はほかのダンジョンにもいらっしゃいまして。様々な情報交換、技術交換があった結果、今のようになっております」

「まだいるのか、侍ダンジョンマスター」


 グランドマスターはサムライ好きなのか? スシ、ハラキリ、ゲイシャ、バンザーイ、なのか?


「サムライだけでなく、農家、酒蔵、職人、果ては野伏など。まあ、ほとんどは代替わりされて本人は天寿を全うされましたが」

「文化分捕りしすぎでしょう……それだけ来てたら、米や味噌職人とかもいないかしら」

「はい、それなら伝わっておりますが」

「マジで!? 米あるの!? 味噌も!? 醤油は!?」


 衝撃的発言だった。記憶や寿命の話がぶっ飛ぶほどに衝撃だった。今までの人生で、米を一週間以上食べなかったことがない。味噌汁だってそう。ソウルフード呼ばわりも納得できるほど、俺は日本食に飢えていた。


「は、はい。米も味噌も醤油もありますが……」

「やったぁぁぁぁぁぁ! 超買うぅぅぅぅ! ケトル商会で取り扱ってるかなあ!?」


 散財かもしれない。でも買う。必要なんだ、俺の心のために!


「お待ちくださいミヤマ様! 実家に一言いえば山のように送ってくれますから!」

「え。いや、まだ報酬払えない状態なのに、食べ物まで送ってもらうってのは流石に」

「ご心配なく! ダンジョンマスターに献上するというのもまた名誉な事なので! というかたぶん、後援者からの支援で実家だけでは消費しきれないくらいいただいているかと。なのでどうかご遠慮なさらず!」

「う、うう。心苦しいが、今回はお言葉に甘えさせてもらう! ごはん! 白米! お礼のお手紙書かなきゃ……!」


 ひゃっほう、と騒ぐ俺。つられて集まってくるコボルト。微笑むエラノールさん。新たな仲間とうまくやっていけそうだと感じるのと、もう一つ。


 コボルトたちを仲間にした時から、本来ならば切り替えなければならなかった気持ち。責任者になったという、その自覚。会社を設立するのと同じ。俺はモンスターたちの命と生活に責任を持たねばならない。そして今日からは、エラノールさんについても。


 気が重くなる……というのは、だめだ。凹んでいても何も始まらないのだから。なのでとりあえず、米を食える喜びに浸ろうと思う。やったぜ!

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― 新着の感想 ―
日本人に必須な米・みそ・醤油があっさりとw
[一言] 実家が太い…! こういうところでコネの強さの重要性が身に染みますね…
[一言] こういう侍っぽい侍を物語で見たのは久しぶりだな。何事にも努力を怠らず少ない碌でもよく働くが悪事を見れば主であっても即座に誅殺せんと襲い掛かってくる侍いいよね。
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