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【完結】決戦世界のダンジョンマスター【書籍一巻発売中】  作者: 鋼我
一章 ダンジョンはコボルトからはじめよ
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ダンジョン強化計画案


 そういうわけで、後の祭りではあるが最終確認をすることに。エラノールさんのダンジョン案内を兼ねて、まずは入り口方面から。……住居の方が先とも思ったが、イルマさんが落ち込みながらエラノールさん優先でいいとのお言葉だったので、そのようにした。


 前回の視察では楽しそうにダンジョンを見ていたイルマさん。今回は事が事なので、両目をスナギツネのようにすがめてダンジョンをチェックしている。まあ、前回より整備が進んだこと以外はあまり違いはないのだけど。


 対してエラノールさんは冷静だった。移動しながら、色々防衛計画案を出してくれる。


「マッドマンの沼ですが。これは通路いっぱいに広げてはいかがかと。我々の移動は戸板で済まし、防衛時にはそれを外してしまうのです。魔法的な何かがない限り、マッドマンのいる沼に入るしかありません。ついでに深さを付けましょう。泥がまとわりついた衣服では、まともに戦うのは難しくなります」

「なるほどえげつない」


 とか。


「バリケードですが、高さが欲しいですね。相手には不利に、こちらには有利になります。それからコボルトに投げさせるものを変えましょう。彼らの腕力ではよいダメージになりません。投石紐を訓練させて、投げものは小さな鉛にしましょう。上手くすれば鎧も貫きます」

「なるほどえげつない」


 とか。


「森側にも罠を仕掛けましょう。仕留めるのではなく、手傷を負わせる程度の。それだけで相手に消耗を強いることができます。場合によっては戦力の分散も見込めます」

「ゴブリン、ダンジョンに入ってこなくなるんじゃ……」

「別に構わないのでは? どうせどれほど倒してもコイン1、2枚なのですから。数匹逃すことより、各個撃破の方が大事です。掃除が必要でしたら、本隊をダンジョンで倒したのちに狩ればよいのです。すぐにこの森も把握してみせましょう。さすればゴブリンなど、いかなる小動物よりも楽に処分できましょう」

「すばらしく残虐」


 とか。うーん、この侍エルフ容赦なし。頼もしいことこの上ない。とかまあそんな話をして入り口から戻り、居住区に入った。


「御覧の通り、指摘事項の修正は完了してます」


 まず、俺のテントから。家族用の大型テント、タープ(日よけ)付にした。洞窟の中で日よけは意味がない、がそもそもテントは結露の水滴避けである。どこからぽたりと来るかわからない以上、くつろぐためにあった方がいい。タープの下にイスもセット。新しくしてよかったと思っている。


 エラノールさんのテントも、サイズは違うがタープ付きのものを用意した。イスやアウトドアベッド、物置用の棚等の家具も設置。生活環境の向上を含めた、格上の演出はできていると思う。


 俺が使っていたものは一まとめにしてとりあえず物置へ。コンパクトにできるのがキャンプ用品のいいところだ。また使う事もあるだろう。


 その他生活雑貨も購入。設置済み。問題はないはずだ。


「どうでしょうかイルマさん」


 スナギツネの表情で一通り見て回っていた彼女。深々とため息をついて表情が戻る。


「はい、テントの中も見させていただきましたが、長期滞在に必要な最低限が整っていると確認しました。……が、最低限なのでこれからも向上をお願いしますとセンター職員として言わせていただきます。……よかった、これでダメな点があったら冗談じゃすまなかったよ」


 ぼそっと、小声で本音を漏らしている。強化されている俺の耳と、エルフの笹耳にはばっちり届いているが、聞かなかったことにするやさしさが俺たちにはあった。下手に突っついてもいいことないしね。


「はい、向上の件了解しました。風呂に入りたいですしね、俺も」

「ああ、お風呂……」


 俺の言葉に、心底の同意を思わせるつぶやきをするエラノールさん。俺が見ると、笹耳を立てて慌てだす。


「いえ! 私は大丈夫です! 毎日体を清めさせていただけるだけでも贅沢なのです! 温かいお湯など、贅沢すぎて鈍ってしまいます!」

「でも、温泉とか作ったら入りたいよね?」

「温泉……ッ! い、いえ! そのような贅沢は!」

「イルマさん、ダンジョンに温泉って作れます?」

「もちろん作れます。工務店に言えば一発なんですけど……まあ、別ルートがないわけではありません。相応にコインが必要ですけど」

「よーし、コイン貯めて温泉作るぞー。でもその前にマジックアイテムのお風呂とかあったらそっちも買うぞー」


 その意気です、と同意してくれるイルマさん。さらに慌てるエラノールさん。実に華やかな雰囲気である。なんというか、気持ちが軽い。今までは、先の見えない道を全力疾走している気分だった。その道がどれだけ危険でも走るしかなかった。今は少しだけ道が開けた気分。相変わらず危険だらけだが、それが見える分まだまし。一つ一つ対処していけばいいんだ。


 /*/


 お茶を入れた。お客様を迎えるのだからと奮発して購入。緑茶ではなく、ジャスミンティーのようなやつだが。


 イルマさんは帰った。かなり後ろ髪引かれていたようだが、仕事がーしがらみがーと泣きまねしながらのご帰還だった。もちろん、お見送りもした。


 今日は色々疲れた。戦闘もあったし。あとでコアルームの椅子に座るか……まるでマッサージ椅子扱いだな。疲れは取れるが体は痛くなるんだが、あれ。


 焚火を前に、お茶を飲みながらのんびりとする。これだけなら、日本にいた頃も経験した。隣にエルフがいるのは初体験だが。


「ミヤマ様、一つ、お伺いしたいことが」


 一息ついた後。同じく椅子に座ってお茶を飲むエラノールさんからこの言葉。


「なんでしょう?」

「……ミヤマ様。契約し、主従となったのです。私に敬語はもう不要でございます」

「えーっと……親しき中にも礼儀あり、という言葉が故郷にありまして」

「それはよい教えですね。ですがミヤマ様はこのダンジョンの長でございます。上に立つものは、相応のふるまいを求められるもの。下のものに丁寧すぎる対応をしていては、内情どうあれ外からは侮られます。どうぞ、改められますようお願い申し上げます」


 むむむ。頭まで下げられては受け入れざるを得ない。……横柄にならないよう気をつけねば。


「えーと、では改めて。質問って何?」

「はい、ミヤマ様の故郷について、です」


 ああ、その話題か。たしかに、俺の方にも疑問がある。というわけで、困るものでもないので一通り答えた。地球の事、日本の事、地元の事、自分の事。きわめて簡略的に、だけど。一通り聞いて……特に歴史部分に大きく反応した彼女は、納得できたと頷いた。


「やはり、ソウマ様と同じ世界、同じ国からいらっしゃったのですね」

「時代はずいぶん違うと思うけど。……で、そのソウマという人はダンジョンマスターでいいんだよね?」

「はい、我らリアドン氏族の救い主。ソウマダンジョンのマスター、ソウマヤタロウ様です」


 そして彼女は語りだす。奇妙な運命をたどった一人の侍の話を。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 相馬の小次郎さんかと一瞬思った
[気になる点] あら? ソウマは名前だと思っていたら名字だったの!
[良い点] 「なるほどえげつない」 「すばらしく残虐」 ……まあ森の人ってこういうものだよね!
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