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【完結】決戦世界のダンジョンマスター【書籍一巻発売中】  作者: 鋼我
一章 ダンジョンはコボルトからはじめよ
11/207

ガーディアン来訪

 レナード氏との長話から二日後。


「よーし、こんなものか」

「わんっ」


 俺とコボルトたちは、ダンジョンでいつもの土木作業にいそしんでいた。整地作業は一端中断し、簡易排水溝の作成に手を付けていた。


 この自然洞窟部分、いくつか壁から水が染み出す部分があるのは前述の通りなのだが。排水路が自然任せだったから、あちこちに池じみた水たまりが存在した。


 で、この水たまりに虫が湧きそれを餌にする小動物がやってくる。それがここの生態系だったわけだが、俺たちが住むには不都合。生態系の破壊は楽しいゾイとばかりに、スライム・クリーナーをぶち込んだ。


 さらに洞窟の両端に溝を掘ることで排水路を作成。水たまりを減らそうと画策している。あくまで簡易。本格的はまた今度。これに加えてもう一つ。まさに今やっていたことがある。


「主様、終わりましたか。マッドマンの泥沼作り」

「おう。こんなもんだと思う」


 入り口から入って自然洞窟部分を2/3ほど進んだ地点。俺たちはここに穴を掘っていた。その穴に土を放り込み、流れ込んでくる水を引けば泥沼の完成となる。


 この地点を選んだ理由は二つ。まず、すぐ近くの壁から水が染み出ているという事。もう一つはこの上、天井部分に小さな穴が開いているという点だ。


 気付いたのはほかでもない、シルフである。彼女がそこから外に出入りできることに気づき、シャーマンに報告。そして俺が報告をもらったという次第。


 シルフとコボルトに穴の先を調べてもらった。このダンジョンは森の中の岩山にある、という話はモンスターたちから聞いていた(何せ外に出られないから)。穴は、岩山の中腹部分に繋がっていた。複数。穴というよりは亀裂だったのだ。亀裂そのものは小さく虫でもなければ通れないほど。だが深い。土を詰め込んだ程度では塞ぎきれないとか。つまり雨が降るとここから水が入ってくる。


「どうせ雨漏りがするのなら、それでも平気な場所にすればいい、と」

「名案でございましたな、主様」


 地味に悩んでいた問題がこういう解決を見せるとは。ダンジョン生活奇々怪々。このマッドマン沼が排水路の終点。ダンジョンに染み込んだ水はここに集まる。……水が集まりすぎて溢れるかな? とも思ったが、下は土だ。染み込んでいくだろう。最悪、スライム・クリーナーに吸わせてダンジョンの外に排水させよう。


 その後も作業を続けた。コボルトたちと土を運び込む。なるべく石は取り除いた。必要なのは泥なのだから。


 そんな作業中、小さなベルのような音が耳に届いた。……いやな記憶が喚起される。


「うっそだろぉ……また連絡してきたのかよ」


 もしそうだったら、開かずにこの泥沼に埋めてしまおう。そう思ってコアルームに入った。音を鳴らしていたのは……台座の本。センターからの連絡だ。よし!


「いや、よしじゃない!」


 生活区画へ取って返す。何せ土木作業の真っ最中だったのだ。汚れてもいるし汗もかいている。さすがに時間がないため作業服を着替えることはできない。顔を洗って汚れを払うぐらいしかできない。


 大急ぎでコアルームに再度突入。カタログを開いた。同時に、輝く通話窓が現れる。


「すみません、お待たせしました!」

「いえいえ、急なお呼び立て申し訳ありません。今、お時間よろしいですか?」

「もちろんで!」


 今日も、流れる黒髪に乱れなし。ヤルヴェンパー女史のスマイルに見惚れそうになる。


「先日お伝えしたガーディアンなのですが、ご紹介できる方が見つかりまして。早速なのですが、そちらにお連れしたいのですが」

「……はい? こっちでやるんですか? コレでやるのではなく?」

「ええ。ガーディアンとダンジョンの契約というのは疎かにしてはいけないもの。ですので直接ダンジョンで顔合わせをする、というのが誠意というものです。あと、私もガーディアン受け入れの環境が整っているかの最終確認もありますし」


 ふんす、と力強く宣言なさる。誠意、誠意かーそれを出されると弱いなー。それぐらいしか出せるものないものな。まあ、ケトル商会から荷物はすでに届いている。面接するためのテーブルやらイスやらはなんとかなる。


「わかりました。それでは準備しますので少々お待ちください」


 一端通信を切って、コボルトを動員。面接準備をする。テーブルの場所は、石の椅子の前。流石にこの偉ぶった椅子に座って面接というのもどうかと思うので、自分用のは別に準備した。


 そして前回と同じ要領でカタログに手を置き、お呼びする。二度目のそれも、特に問題なく。赤い輝きの魔法陣。強く光ってから、二人の人影が現れる。


 一人はもちろんヤルヴェンパー女史。この間と変わらず、目を奪われるような美貌。だが、今回ばかりはそうはならなかった。隣にいたもう一人に、俺の目は釘付けになったから。


 ふわりとした、金色の髪は首後ろまで。長すぎず短すぎずのボブカット。長い笹の形をした耳はエルフの証。エメラルド色の瞳が俺をしっかりと見ている。その容姿だけでも見入るに十分だったが、最大の驚きはその装いと装備にあった。


 羽織、袴、足袋に草鞋。腰には刀、ではなく木刀。頑丈そうな長槍に刃はついていないが鋭く尖らせてあり。背負った漆塗りの棒はおそらく弦の張ってない弓。矢入りの矢筒も持っているようだし。


 そう、すなわち彼女は。


「エルフ……の、侍!?」


 /*/


 エルフ侍は、腰から木刀を引き抜くとその場で片膝をついた。


「お初にお目にかかります、ダンジョンマスター様。私、ソウマダンジョンの直系、ソウマ家が領地グリーンヒルの長き秋の森生まれ、リアドン氏族のエラノール。お言葉の通り、サムライでございます」


 俺はその場で正座した。正直痛いがそんなこと言ってる場合じゃない。準備したテーブルとか今は頭から追い出す。


「はじめまして。私はこのミヤマダンジョンのダンジョンマスター。生まれは異世界地球、日本国の愛知県名古屋市。名前は深山夏雄と申します」


 正座したまま、一礼。エラノールさんも正座。ヤルヴェンパー女史が面食らっているようだが、ちょっとそれどころじゃない。仁義の切り合いとまで言わないが、礼節を欠いたらダメな場面と肌で理解した。


「さてお侍様。我がダンジョンは始まってまだ十日かそこらの若輩です。ありがたいことにガーディアンの紹介を受けられるほどの信頼を得ることができましたが、私もダンジョンもまだ未熟。それでも、ここで働いていただけると?」


 とりあえず、初手、直球。


「どうかエラノールとお呼びください。そしてご質問に対してですが、まこと働き甲斐のあることこの上なしと考えております。ダンジョンを守ることこそガーディアンの本懐。我が心技体のすべてをもってそれを成すことに、何のためらいもありませぬ。ましてや、それが我らが氏族の大恩あるダンジョンマスター、ソウマ様に縁ある方とあっては」


 なるほど。そういうつながりを見て、なのか。


「だいぶ遠い縁だと思いますが」

「されど、縁であると考えます」

「左様ですか。……では次の質問をさせていただきます。ガーディアンとして、どのような働きができますか?」


 動機は聞いた。次は能力だ。彼女は小さく頷くと、横に置かれた木刀を取って見せた。


「文武両道を目指し、修練を重ねてまいりました。武事においては弓、槍、刀、無手組打。文事においては読み書き、そろばん、帝国歴史と帝国法。まだまだ至らぬ身ではございますが全身全霊をもって働きます」


 うーん、まさにお侍……なのだが。突っ込むべきか、突っ込まざるべきか。それが問題だ。……いや、面接なのだしやはり聞くべきか。


「一つよろしいですか。なんで、武器が全部木製なのでしょう?」

「うっ」


 おおっと、エルフ侍エラノールさん声を詰まらせたー!


「あ、そこは私が。エルフの方々は修行を積むと、木製のものは全く重さを感じなくなるのだとか。それこそ、長い槍も小枝のごとしと」


 手持無沙汰に状況を見守っていたヤルヴェンパー女史のアシストが入る。ほう、あんまり聞かない設定……いや設定言ってはいけない。能力、特殊能力と言おうな。


「なるほど。つまり鉄だと重すぎて振り回せないと」

「修業は、しているのです。こちらをお持ちください」


 やや伏せ気味の顔で、木刀を差し出してくる。持ってみると、見た目より重い。これは……ああ。


「中に鉄の棒が仕込まれていると」

「はい。その重さに慣れ、本物の刀を振れるようになれば免許皆伝となるのですが。まだまだ、私はマスターサムライには遠く。お恥ずかしい限りです」


 やっぱりあるのか、刀。漫画とかじゃ作るのめちゃめちゃ大変みたいな話をよく見るが。よく異世界で再現できたな。


 まあ、それはいいとして。能力も確認できた。後は何を聞くべきか。自分は就職活動の時に何を聞かれたろうか。志望動機、特技……プライベートについて? 趣味……はちょっと違うな。下着……はダメなセクハラ質問。異性の……ってこれもセクハラ。


 あ、定番のものを思い出した。


「貴女の長所と短所をおしえてください」

「……た、短所、ですか」


 笹耳を大きく動かして驚いている。……うーん、エルフだしプライド高いのかな。だとすれば見ず知らずの人間に短所をさらすのは人間以上に苦痛なのかもしれん。


「どうしてもお辛いなら言わなくても結構ですが」

「……いえ。これからお仕えしようとするお方に、隠し事など言語道断。お答えさせていただきます。まず、長所は先ほど申し上げた通り学び励んだ武術と学術。それからあとは……細やかな作業が得意です。針仕事もできます。あと、欠点ですが……その、えっと……」


 膝の上に乗せた両手をぐ、と握るエラノールさん。正直かわいい。


「故郷ではよく、典型的エルフといわれることが多く……正直、ガサツなドワーフとか本当ダメで……言葉に雅さというものがないし、詩的な言い回しをすると怒り出すし。きついお酒を平然とがばがば飲むし。あと、これは自分の事ですが不衛生なのが耐えられません。沐浴はできれば毎日したいです。汗はなるべく早く流したいです。洗濯も毎日。あとは、あとは……」

「はい、ありがとうございました。言い辛い質問に真摯に答えていただき感謝します。あと、うちのダンジョンは水豊富なんで行水も洗濯もできると思いますよ」

「本当ですか! よかったぁ……は!? こ、これは失礼を」


 なんだこのかわいい生き物。凛としたエルフ侍どこいった。あと、彼女の後ろに立つヤルヴェンパー女史がすげーにっこにこしてる。どうやら思いは同じのようだ。


 さて。人柄も見ることができた。問題なし、でいいだろう。もちろん意思もつヒト同士なのだから、意見の食い違いやら趣味の違いやらで衝突もあるだろうがそういうものだ。ない方がおかしい。そこはうまくやっていくしかない。それが社会というものだ。


 さっそく、採用について話を進めようと口を開こうとした、その刹那。


 わぉぉぉぉん、と洞窟に響くコボルトの切羽詰まった鳴き声。はっきりとわかる。緊急事態だ。


「失礼! お二人はここで!」

「襲撃ですか!? 襲撃ですよね!? 私も戦いますよ!」

「いやいや、ヤルヴェンパーさんはお客様ですし!」


 何を言い出すのか。今まで見たことないほどエキサイトしている。なんか、ぶわっと漏れ出しているのは魔力とか闘気とかそういうあれか。


「失礼、ミヤマ様。今はそのような問答をしている場合ではないかと。ダンジョンマスターなら防衛を第一に。ハイロウの上級貴族であるなら、戦力として申し分ありません」

「ですよー! 私、氷の魔法なら超得意です! 学校でもトップグループでした! あと、名前はイルマでいいですから!」

「と、言うことです。もちろん、私も助太刀させていただきます」


 どうしろというのだ。美女とも美少女ともいえる二人に言い詰められては手も足も出ない。


「怪我は、コボルトの術が及ぶ程度でお願いしますね!」


 怪我をさせない、と言えないのが弱い自分の情けなさよ。


ツイッターにて、シープネス様より素敵なイラストを頂戴しました。ご本人の許可をいただいたので、こちらでも紹介させていただきます。

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
かわいいコボルト良いですね~。
[一言] あらやだかわいい……こんなかわいいモフモフがコボルドなのかー
[一言] こんなに可愛いと一匹死んだだけでしばらく落ち込んじゃいそう。
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