表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】決戦世界のダンジョンマスター【書籍一巻発売中】  作者: 鋼我
四章 汝、味方を欲すならば迷宮の外を見よ
100/207

侍エルフの武勇伝

これで百話目だと思います。引き続きよろしくお願いいたします。

 今日はここで夕食かな……って、しまった。ルージュとノワールにここの事伝えてない。メシ作ってるかも。などという心配をしたら、バラサールが気を利かせてさっきの少年を走らせてくれた。ご飯作ってたら、彼とその仲間たちに食べてもらうとしよう。


 酒が各自にいきわたり、乾杯。うん、美味しい。いやぁこの世界、油断するとすげぇ酒が出てくるからなあ。贈り物としてもらったやつはハズレがないのだけど、自分で店から買ったやつだと時折とんでもないのにぶち当たる。


 とりあえず、喉も潤った。料理も運ばれてきた。下でまた試合も始まった事だし、気になった事を聞いてみる。


「なあ、バラサール。これ、ケンカとかになったりしない?」

「あん? そりゃなるさ。ま、なっても俺らが殴り飛ばす。大事になる前にな」


 うーん、ワイルド。そうだった、彼らはコントロールを考えている。俺は抑制ばかり気にしていた。彼らがここをまとめられるというのだから、任せよう。何かあったら俺が出ていけばいいのだ。


 ふと気が付けば、ダニエル君とエラノールが結構試合を気にしていた。青年人狼が口を開く。


「下の試合、俺も出たいのだが」

「おいおい。ワーウルフでハイロウのお前さんが出たら賭けが成立しねえよ。一般人との戦力差を考えろ」

「……力を押さえれば、問題ない」


 そんなことを言い出したダニエル君。なんと、見る見るうちに姿が変わっていく。モフモフだった毛が消えていく。尻尾もなくなる。狼そのものだった顔が、野性味あふれる青少年に。


「変身できたの!?」

「え? ミヤマ様にお見せするの初めてでした? はい、割と自在に」


 はにかむ彼は、いたって普通の十八歳前後に見える。……訂正、イケメンの十八歳だ。ということは、クロード殿やブレーズさんもそうなのか。彼らのヒトとしての顔はいかなるものか。とても気になる。


「これなら、問題ないだろう」

「それでもハイロウ、しかも戦闘訓練たっぷりだからなぁ……まあ、いい。なんとかする。バルバラ」

「はいはい。それじゃあガーディアン殿、まずはお召し物を変えましょうか。お尻が見えちゃうから」

「……あっ!」


 ダニエル君。手で後ろを隠す。そうか、尻尾の穴が開いているものね。そんなやり取りをしながら二人が階段を下っていく。それを横目に、エルフ侍が己を指さす。


「バラサール、私は問題ないだろう?」

「フォレスト・バーサーカー殿はご遠慮願いたい」


 いつの間にかその場にいた、ジアの一言にエラノールが驚き飛び上がった。というか、何? フォレスト・バーサーカー?


「なな、な……」

「何々? 面白そうな話じゃん?」


 ぱかぱか酒を飲んでいたミーティアが、ここぞとばかりににじり寄っていく。獲物はもちろん、耳を激しく上下するエルフ。そんな状態だから、あっさりと蛇体による拘束を受けてしまう。


「うあぁぁ! 離せハレンチ蛇!」

「やーだよー! で?」

「あー……どーしたもんかな。なあ、マスター?」


 バラサールがこちらを見る。ジアは、我関せずと新しい料理を並べていく。俺は、一杯飲みほした。椅子に深く腰掛ける。無駄に大物感を演出する。


「詳しく、聞かせてもらおうか」

「ミヤマ様ぁ!?」

「はっはっは。許可を出されちゃあしょうがないなぁ。……ここ数年、このねーさんは帝都の武術大会じゃあ常連だったのさ」


 そう話し出したバラサール。要約すると内容はこうなる。帝都には多数の大会がある。武術、魔術、戦術、エトセトラ。様々な技術を競い合い、己の能力を世に見せる。理由は当然、アピールである。


「名前が通れば、有力貴族の耳に入る。連中もダンジョンへのカードに手練れを配下に持とうとする。仕事も手に入ってダンジョンにも近づける。まあ、健全な帝国市民の夢見るルートだな」


 けれど、とバラサールは続ける。


「強ければ、必ず声がかかるというわけじゃない。正にその具体例がそこのねーさんさ」

「うっ……」

「どういうことだい?」


 うめく彼女の頬をつつきながら、ミーティアが促す。応えたのはジアだ。


「ミスマッチ。顧客が求める者ではない。エルフの前衛職は、求められていない」

「ううっ!」

「それの何処が悪いのか。俺は全く不満が無いのだが」


 聞き捨てならない市場の声に、言葉が出る。しかしハーフエルフは淡々と説明を続ける。


「マスター。貴方が前衛職に求める能力は何?」

「んー? そりゃ、なにをおいても防御力と生存力……ああ」


 納得できてしまった。前衛に求めるもの。それは敵の侵攻を抑え込む事。タフで硬い事。たしかに、エルフには求められない。


「そう。そして、帝国には多種多様な人材がいる。たとえば、ホルグみたいなオークなんてごろごろいる」


 下から、同じ名前が聞こえてきた。ちょっと目線をむければ、リングにマッチョなオークが仁王立ちしている。そして挑もうとしているのは……ダニエル君。なるほど、実力者を当てたのか。これは好カード。


「タフ。そして筋力があるから重装備可能。前衛として理想的」

「んんん、確かに一理ある。だけど、武術大会に常連になるほどの実力者。一声あってもいいのでは?」

「マスター。貴方がエルフに求める能力は何?」

「えーっと……それは、その。遠距離攻撃力と、魔法……」


 唸るように、言葉を絞り出す。なるほど、そういうことか。


「それができるエルフも、沢山いる。わざわざキワモノを選ぶ理由は、ない」

「……」

「おーい? なんかエラノールが動かないんだけど」

「酒のませりゃいいんじゃね?」


 すっかり凹んでしまったエラノールに燃料が無理やり突っ込まれている。あ、訂正。グラス分捕って自分で飲んでる。やけ酒だ!


「さらに、常連というのがよくない。腕がいいのに、よく出ている。何か問題があるのではと邪推される」


 売れ残り……という言葉はかろうじてこらえた。ハイペースで酒を流し込んでいるエラノールがさらにやばい事になりそうだから。


「そういった武芸者はどうなるか。穏便に故郷に戻るならまだまし。犯罪グループに身を落とすのも珍しくない。だが、大抵は……地下闘技場にやってくる」

「つまり、フォレスト・バーサーカーってのは……」

「リングネームってことですねー。はい、追加の料理お待ちどうさまー!」


 パメラが、ピザっぽい料理をテーブルに並べ始める。どうやら料理は彼女の担当のようだ。エプロンつけてるし。


「いやー、凄まじい暴れっぷりだったよねー。地下の修羅共に負けずとも劣らない。出ればリングは大荒れ。舞い散る掛札」

「その名声を聞きつけて、帝都の底で燻っていた連中が這い出てくるほど。帝都地下名物、血祭ブラットフィステバルが久方ぶりの開催とあいなった」

「エラノール、どれだけ血生臭い青春送ってたの」

「私だって、好きでそんなことになったんじゃありませんよぉ!」


 思わず漏れた俺の感想に、侍エルフが爆発した。


「そもそも、あのリングネームだって嫌だったんです! でも、パンチが必要だって興行の人にいわれて仕方なく! マスクも衣装も、しょうがなく!」

「マスクと衣装?」

「ショーだから当然。かなりのハイレグだった」

「生半可な身体じゃあ、あれは無理。ぶっちゃけ、あのお尻目当てで会場に入ってた連中かなりいるよ」


 ハイレグ、そして尻。思わず彼女を見やれば、羞恥と酒で真っ赤になったエルフがいた。


「しょうがなかったんです……あれ着ればもっと強いのとカード組むからって興行の人にいわれて……」

「なーんだ。よくもまああたしの事をハレンチとかいったもんだねぇ」

「もろ出しと一緒にしないでほしいなぁーー!」


 わぎゃーん、と泣きわめく。……まあ、最近忙しくてストレス溜まってたしな。騒げば少しは発散できるか。逆に溜めないようにしないといかんが。


 いつの間にか、酒盛りにパメラとジアも加わっている。料理担当がグラス片手に、ラミアに巻かれたガーディアンを見やる。


「正直、ここで彼女見た時は本当びっくりしたよね。リングでの暴れっぷりが嘘みたいに真面目に仕事してるんだもの」

「暴れてるだけで良かったリングとは違うんですぅー!」

「あと、そんな彼女を抑え込めるあのラミア。何者?」


 ジアに問われたので、新しい酒を注ぎながら答える。


「ここの森に住んでた。野生のモンスター」

「在野も侮れない。帝都から離れた所に逸材が。……彼女、一般的なラミアよりも上位種では? エリートとかハイと付くレベル。流石にデミゴットまではいかないと思うけど」

「たぶんそういう感じ。詳しい事は分からないけど」

「一度専門家に見てもらった方がいいかもしれませんねー。モンスター配送センターにいると思いますよ」


 パメラの言葉にふむと頷く。今度イルマさんに聞いてみるか。さて、そろそろフォローに入ろう。真っ赤になっているエラノールに歩み寄る。


「うう……ひどいですよミヤマ様」

「うん、ごめん。興味本位で聞いた。正直めっちゃおもしろかった」

「ミヤマ様ぁ!?」

「だけど、あえていう。素晴らしい! 帝都のすごく強い連中とそんなに戦えたなんてすごいじゃないか」

「そ、そうですか? えへへ……」


 半泣きだった彼女が、クラゲのように緩む。うん、かわいい。だが、彼女に巻き付いているミーティアが混ぜっ返す。


「で? フォレスト・バーサーカーとやらの武勇伝、あのおっかない母親は知ってるのかい?」

「やめてー!? 母上と父上には絶対言わないで―!?」

「せやろな……みんなー、ご家族の前でこの話禁止ねー? ダンジョンマスター命令ー」

「「「はあい!」」」


 流石にね。エンナさんの耳に入ったらね。惨劇待ったなしだからね。あと、娘のそんなすごい姿は流石に父親に聞かせられない。


 下で、歓声が巻き起こる。ダニエル君とホルグの試合は、大盛り上がりだ。素早い動きでラッシュする人狼(変身してない)青年と、ガードを固めて耐えるマッチョオーク。


 奇しくも、店先で見た試合と同じ流れ。しかし、質がまるで違う。殴る蹴るだけでなくフェイントも混ぜ、掴みまで狙っていく。


 ホルグはそれを的確に防ぎ、カウンターを粘り強く狙っていく。手に汗握る攻防だ。……と、強烈な平手打ちがダニエル君の肩にヒット! 快音が鳴り響く。客の歓声がさらに上がる。


 ……そういえば、ここまでずっと静かなセヴェリ君はどうしたのか。気になって振り返れば、寝ていた。疲れがたまっていたか。あっさり酔いが回ったようだ。ちょっとそのままにしておこう。


「マスター。ちょっとお耳を拝借」


 階段を上ってきたバルバラが、黒蛇を片手に近寄ってくる。にっこりと笑う彼女が告げた言葉は。


「あのブタ子爵、動きましたよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 綱渡りだなぁバラサール一党がダンジョンにつく前に第三陣が来られていたらヤバかったぞ。
[良い点] 百話達成、おめでとうございます 毎回楽しみに読ませ頂いてきました これからもワクワクしながら、読ませていただきたいと思います [一言] ブタ貴族・・・なんか鳥貴族の親戚みたいな・・・ いっ…
[一言] 100話達成おめでとうございます! ここのところ毎日楽しませていただいています。 そしてこの展開、明日も楽しみだ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ