表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

美しいダーシャ


 あたし達はゆっくりと歩いている。歩くのが遅いあたしを気遣いながら歩幅を合わせてくれる。ダーシャは何処かの王子のような服装だ。まるでゲームや漫画に出てくる登場人物のようで、夢を見ているみたいだった。顔も整っている彼は、確実に女性からモテるだろう。彼はあたしを特別視しているようだけれど、きっと美しいお姫様みたいな人が現れると、何処か遠くへ行ってしまうんじゃないかって思ってしまう。


 傍にいたくても、手の届かない存在──


 頭の中は不安でいっぱい。知らない世界で知らない人々が行き交う街並み。あたしの知っている日常とは全くの別物だから、現実感が全くないの。ふう、と息を吐くと寒さの中で色を取り戻していく。遠くに忘れていた色が映えるように、再び動き出すように、あたしの白い息が目の前に広がってゆく。


 「ここはライカの街。他の街には雪は降らないのに、この街だけは違う」

 「そうなの?」

 「ああ。毎日降っているんだ。寒いけど美しい」

 「……貴方みたい」


 ポツリと呟くように吐いた言葉は当然彼の耳には届かなかった。ダーシャは「何か言ったかい?」と顔を覗き込むように聞いてきたけど、何も言ってないと断言する。咄嗟に出た言葉は純粋なもので、そこには何の汚れもない。どうしてだか「素直」になれないあたしがいる。


 雪がホロホロと舞い散りながら、全身を包み込んでいく。ぶるる、と体を震わすと、ダーシャは自分の羽織っているものを私の背中に回した。


 「寒いよね。少しはマシになるといいんだけど……」

 「風邪ひいちゃうよ?」

 「僕は頑丈なんだ。それに寒さには慣れてる。この街を中心に動いているからね」

 「……そうなんだ」


 「ありがとう」の一言が中々出てこない。簡単なようで伝える事の難しさに揺られながら、さっきまで彼が来ていた服にそっと右手を添える。ほんのりとダーシャの体温が残っている。まるで抱きしめられているみたい。目を閉じながら彼の残り香に酔いしれていると、頭に手を置く感触がした。何事が起ったのかと視界を開くと、真ん前に彼がいて、あたしの頭に飛んできた雪の結晶を払ってくれた。


 「サリア、行こうか。君こそ風邪をひいてしまうよ?」

 「……うん」


 あたしの心を汲み取りながら言葉を紡いでいく彼の姿は眩しくて、美しい。まるで雪が妖精のように彼を愛している。あたしも貴方と同じ世界で生きてみたい。その資格があるのか分からない。貴方の横を歩くのに相応しくないのかもしれない。


 ──でも。


 あたしはゆっくりと彼の表情を確認しながら、同じ時を歩いていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ