泣きじゃくるサリア
風は星のように降り注ぎながら馬車は走り続いていく。あたしの心を置き去りにしてただ前へ前へと。あたしは男の子の影を追い続けていた。何か大切なものをなくしたようにぽっかり心に穴を開けて。正直ヒエンの事もダーシャの事も、何も覚えていない。10年前にいなくなった子と似ているから、勘違いしているだけじゃないかとか思っても、なんだかしっくり来なかった。
「ダーシャ? 考え事?」
「ん? ああ」
「ふうん」
何を考えているのか知りたかったけど、そこは彼の心の部分に触れる気がして怖かった。だからそっと横顔を見ながら考えてみた。もしあたしがいなくなったサリアだったとして、この世界でいた頃の事を忘れていたとしたら、彼はどんな顔をするのだろう、どんな気持ちになるのだろう。ダーシャは完璧って感じの男性で隙がないように思う。だから余計に考えている自分がいる。
──ズキン
どうしてだろうか、ダーシャの立場をあたしに置き換えて考えてみると心が痛くなる。あの時の涙と同じでポロポロ零れ落ちそうになりそう。正直、泣き顔なんて誰にも見られたくない。自分がどうしてここまで感情的になるのかも分からない。
気づかれないように、髪で顔を隠した。
「サリア、どうした?」
「……」
話すと泣いている事がバレてしまう。それが恥ずかしくて苦しくて、どうしても無言になる。顔も見られたくない、どうしてだか、ダーシャにはこんな表情見られたくないの。
髪で隠していたはずの瞳はダーシャの手によって露わになる。彼は優しくあたしの瞼にキスをし、涙を拭う。こんな事、平気で出来てしまうのはあたしにだけ? それとも他の女性にもしているのだろうか。そう思うと切なくなる。
(どうしてこんな気持ちになるの? あたし何かを知ってるの?)
ぐしゃぐしゃになっていく自分、ずっと抱え込んでいた気持ちを放出するように泣きじゃくる。まるで子供のようだ。だけどどうしてだか、ダーシャの手が温かくて、素直なあたしに変えていく。まるで魔法にかかったようで不思議に落ち着く。
「ゆっくりでいい」
そう耳元で呟くダーシャの吐息がくすぐったい。ん、と瞼を閉じてしまう。今のあたしはきっと顔も目も真っ赤なのだろう。馬車の隙間から風が舞い込んでくる。あたしとダーシャを包み込むように、ゆったりと。
(落ち着く、この匂い、知ってる?)
風の匂いが心地よく、何かを思い出しそうになる。でもすぐに掻き消え、心の奥底へと隠れていく。あたしに何があったの? そう思えば思う程、混乱してしまう。
──ゆっくり、ゆっくりでいいよ
昔同じ事を誰かに言われた気がする、気のせいかもしれないけれど。