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僕の心の中にはいつも君がいた。まだ五歳の頃に大きなハリケーンが発生し、巻き込まれた。もうダメだ、そう思いながらギュッと目を瞑ると見た事のない場所にいた。ここは何処だ?そこには僕の知っている景色はなくて、キョトンとする事しか出来ない。
「ここは一体」
ハリケーンに巻き込まれて絶体絶命だったはずなのに、どうしてだろうか。状況が掴めない僕は不安を抱きながら足を進めた。今の僕の身なりとは違う幼少の自分。父の顔を知らない僕は病弱な母に育てられた。生活は貧しかったけど、母と一緒にいる時間が何よりも大切で、守りたいと思っていたんだ。
働けない母の代わりに出稼ぎに出ていた。本来なら仕事を与えてもらう事が出来ない年齢だったが、知り合いのおじさんが声をかけてくれて、手伝いをしていた。そこまでお金をくれる訳じゃないけど、僕達の環境を知っているから、二人が生活出来るくらいのお金は貰っていた。
働きづめだった僕は寝坊をしてしまった。急いでおじさんの後を追い、どうにか辿り着く事が出来、すみませんと頭を下げた。
「疲れていたんだろう、お前は働きすぎだから」
怒られるものだと思っていたが、おじさんは優しく僕の頭を撫で、そういった。まるで父親のような大きな手は安心感を与え、少しむずがゆくなる。恥ずかしいというか、なんというか、自分でもよく分からない。
そんな時、行商人がこの街に来ているから、買い物に行こうと言われたが、寝坊してしまった僕は一人で行きます、といい、譲らない。困ったような顔をしながらも、お願い出来るか、と気持ちをくんでくれたのが嬉しい。
一人で買い物ぐらい出来る、そうやってこの場所へと走った。そして運悪くハリケーンが現れたんだ。
「ふぅ……」
ため息しか出ない。どうしてこんな事になったんだろうかと頭をポリポリとかく。それでも進む事をやめない僕は大きな木を見つけた。何かに引き寄せられるように走り出す。どうしてだか分からないが、早くいかないとと思った。
木の近くに行くと、人影が見える。
「誰かいるのか?」
更に前に進む。普段から走る事になれているので、息切れする事はなかった。こんな時日常の行動が役に立つんだな、そう思いながら木の下へとたどり着いた。
「何をしているんだい?」
ピンクのワンピースを着ている女の子の背中に声をかけてみる。ドキドキしながら。僕の声に引き寄せられるように振り向いた女の子を見つめて、時が止まったように感じたんだ。
綺麗な子、瞳は真っ黒で優しい顔立ちをしている。ふんわりとした雰囲気が僕の心を射抜いた瞬間だった。
「お空を見ているの」