太陽神ソルテ新生!
俺の正体って何人かにバレちゃってるんだ……完璧に隠せてると思ってたんだけどなあ。まさかバランさんがバラしてるとかは無いだろうな。
「大地君、誰かがバラしてる訳じゃ無くてね、剣を振るう時の太刀筋や体術、そして神気の質とかで何となく気がついたって感じなのよ」
あっ! なるほど、身につけた体術や気の練り方、戦い方の癖なんかは見える者が見れば分かるって事か!
「という事は少なくともギャバン卿とキースには俺がソルテラスだって事はバレてるんですよね?」
「そうだねキースは目が見えない分、魂というか本質を見ているし、ギャバン卿はバランさんにカマかけして見事に口を割らせちゃったからね」
ギャバン卿そのへんの駆け引きも上手そうだからなあ。まあ今までと変わらない付き合いをしてくれそうだから、あまり意識しないようにしよう。
「まあ、俺は冒険者ダイチで通っているし聖地の名前はカガミでいいです」
「じゃあ次はいよいよソルテ様の身体を作るんだけど、大地君が身につけているソルテクターが何で出来ているか分かるい?」
小浜さんがまたまた困る質問をする、ソルテ様は意思を持ったエネルギーだから形が無いけれどソルテクターはこうして俺の身体を覆っているからなあ。何も無い所から変身ポーズとかけ声で現れるし…………あっ!
「もしかして神気ですか?」
「正解! ソルテクターやソルテラスの武器、そしてソーラリアンも君の力で物質化した神気なんだ」
え!? ソルテクターもソーラリアンも俺が自分の神気で作り出してるの?全く自覚が無いんだけど。
「あっ、自覚無い事に戸惑ってるのね。ダイチ君はこの世界にソルテラスとして召喚されたから変身や武器、技の使用は普通に出来るんだけど材料もエネルギーも神気から出来てるの。ソルテラスの力は意識しなくても自然に使えるんだけど、他の事に使おうと思ったらコッチからプログラムを送らないと無理みたいなのよ」
「おそらく大地君にはヒーローとしてのスキルはあるけど神としてのスキルが無いからだと思うんだ。でも地球からの補助があれば、こんなふうに聖地の創造も出来ちゃうんだよね」
ケーコさんと小浜さんの説明で何となく分かった。俺の神気を使ってソルテ様の身体を作るんだな。
「つまり俺の神気でソルテ様の身体を作るんですよね? さっきみたいにソーラーブレイドから神気を出すんですか?」
「ふふふ、加賀美君、今ソルテ様はどこにいるんだい?」
柿本さんが悪戯っ子のような笑い顔をしている、今日は何だか質問が多いな。
「ソルテクターに憑依してますよね」
「そう、そしてソルテクターは物質化した神気。そしてさっきの聖地創造プログラムと同時にソルテクターにはソルテ様の身体を構築する為のデータをダウンロードしてあるんだよ」
「聖地カガミには空気があるからソルテクター無しでも大丈夫だよ。大地君、いつもはそのまま消しているみたいだけどソルテクターをパージするんだ」
「今、ソルテクターにはパージされると同時にソルテ様の身体に変換されるプログラムが施されているわ」
「あのう……この鎧が私の身体になるって言いましたよね、かなり硬いんじゃないでしょうか? それに出来れば女性の身体にしていただきたいです」
ソルテ様が心配そうに質問と希望を言うとずっと黙っていたナタさんが口を開く。
「あっ! ソルテ様の身体をソルテクターから作るのは最初から物質化した神気を使ったほうが大地にもソルテ様にも負担が少ないからだぜ。ソルテ様のデザインは俺が気合い入れて、バッチリ最高の絵を描いたから安心しな」
「あとソルテクターは一度神気に戻してから別の物質に再構成しますので、ちゃんと柔らかくて温かい生身の肉体が出来上がりますから安心して下さいねソルテ様」
ケーコさんが補足の説明をすると、ソルテクターの中にいるソルテ様がホッとしている事が伝わってくる。ヤッパリ金属製の身体は嫌だよな、パーソナリティは女性なんだし。
「ソルテ様、身体を得れば安全性が増すだけで無く聖地の機能を使って出来る事が飛躍的に増えます。ただ、今の私達の力だと元のエネルギー体に戻す事は出来ませんがよろしいですか?」
「はい! 絶対に後悔はしません! お願いします!」
柿本さんの最終確認にソルテ様はハッキリと答える、覚悟は出来たようだ。
「では、いきます! ソルテクターパージ!」
俺の体からソルテクターが弾け飛ぶように離れると、細かい光の粒子になってしばらく空中を漂っていた。
あれっ? ソルテクターをパージした瞬間から体が重い。何だか一気に蓄積されていた疲労が押し寄せて来た感じだ。
「ソルテクターと一緒に大量の神気もソルテ様に持って行ったから、かなりの疲労感があると思うけど大丈夫かい?」
「ええ、ハードなスタントを一日こなしたくらいの疲労がありますけど一晩グッスリと眠れば大丈夫な程度です」
空中を漂っていた光の粒子は渦を巻きながら一箇所にまとまっていくと縦に置いた黄金色の蚕の繭のような形になった。その過程が中々幻想的だ。
「これはもちろん、みんなが考えた演出なんですよね」
「そうだよ、なかなか凝ってるだろう」
「ギャラリーが俺だけって勿体ないんじゃないですか?」
「こういうのは気分の問題だぜ!」
「新年に行う聖地のお披露目と聖女シルフィーとアリエイル王女を招き入れる儀式、そして太陽神ソルテ様との謁見はド派手な演出を用意しているわよ」
繭が淡く光っている前でみんなと話していると光がだんだんと強くなって今では眩しいくらいになっている。
「そろそろだよ加賀美君!」
柿本さんの声と共に光る繭が細かい粒子になって弾け飛ぶと、そこには純白のワンピースを着た美しい女性の姿があった。石像のソルテ様をベースにデザインされているけどナタさんによってブラッシュアップされている。
閉じていた黄金色の瞳を開けて同じ色の長くて綺麗な髪を撫でると、体中を両手で触り首を動かして腕を曲げ伸ばしする。屈伸を何度かしてピョンピョン飛び跳ねたと思ったら突然「ワー!」と声をあげて聖地を走り回った。
ソルテ様は裸足だが神殿の床や庭園の石畳以外は柔らかい芝生なので問題無いだろう、むしろ綺麗な芝生を裸足で駆け回るのは気持ち良さそうだ。庭園を何周か走り回ると満面の笑みを浮かべて俺に抱きついてきた。
「ダイチさん! 凄いです! 手や足があって触ったり走ったり出来ます! 肌で風を感じたり口から声を出したり耳で音を聞いたり出来るんですよ! 目で見る風景がこんなに綺麗だなんて!」
身体が無いって状態は俺には全く想像がつかないけれどソルテ様の感激ぶりと燥ぎぶりから見ると身体と五感がある事って本当に素晴らしい事なんだな。
…………あれっ? 抱きついてきたソルテ様の身体は柔らかいし体温もあるし完全に生身の若い女の子じゃないか!
「ソルテ様! そんな気軽に男性に抱きついちゃ駄目ですよ! 今のあなたはちゃんとした生身の女性の身体をしてるんですから!」
俺は元々女性が苦手な方だった事もあるが突然、美しい女神に抱きつかれて軽いパニックになっていた。
「あら? ごめんなさい! はしたなかったですよね。それにダイチさんは女性が苦手でしたね、申し訳ありませんでした」
「ソルテ様、お楽しみのところ申し訳ありませんが聖地の機能を使うための初期設定をしたいので神殿の中に入ってもらえませんか」
柿本さんの声に俺とソルテ様は我に帰り神殿に向かう。
「あっ! 加賀美君はここまでだよ。神殿の中だと僕達とソルテ様の直接通話が可能なんだ」
柿本さんの制止に続いて、今度は小浜さんが俺に指示を出す。
「大地くんは大量の神気を消費しているから今日は神殿に帰って休んだほうがいいと思うよ。あと大地君には神殿でやってもらいたい事があるから、そっちをお願いしたいんだ」
それから俺は小浜さんに神殿での確認事項と指示事項を聞いた後、ソーラリアンで聖地カガミから神殿に移動した。
明日から年始までの間は忙しくなりそうだ。




