聖地創造その名はカガミ
ソーラリアンで時空の狭間に入ると、なんとも言えない風景が広がっていた。まさしく異次元空間だな、遙か上の方に地球が浮かんでいて足下には透明な球体に包まれた平面の大地がある。
海や山などの様々な地形があり平面の大地の周りを太陽と月、様々な天体がグルグルと回っている、おそらくあれがパンゲルアなんだろう。
周囲の空間はオーロラのような光が揺らめいていて銀河系のような星雲や黒い渦巻みたいな穴、光る川の流れのような物が絶えず現れては消えて幻想的な世界だ。
「大地さん、ここが世界の狭間なんですよね、もしかして足元に見えるのがパンゲルアなんですか?」
「そうだと思います、そして上の方に見える青い球体が地球です」
俺とソルテ様が亜空間の幻想的な風景に見惚れているとソルテクターのモニタービジョンが開きケーコさん、柿本さん、小浜さん、ナタさんが手を振っている映像が映し出された。
「大地くん、私達の映像みえてる? 声はちゃんと聞こえてる?」
「ばっちりですよケーコさん、通信は良好です」
「大地くん、ソーラリアンの位置を地球とパンゲルアの直線上に移動させて、そこに固定してくれないか」
小浜さんの指示に従いソーラリアンを移動させる。亜空間での移動は動くたびに地球とパンゲルアの位置が離れたり近づいたりしたり、大きさが変わったりするのでかなり気持ち悪い。
「そろそろ目的地かな? 大地くん、ソーラリアンのモニターに座標が表示されるから位置を合わせてくれない」
ケーコさんの指示に従いソーラリアンを移動させる。モニターに表示されている白い丸が目標地点で赤い三角マークがソーラリアンみたいだな、慎重にハンドルとアクセルを操作して座標をあわせると電子音が鳴ってモニターに大きくOKの文字が表示される。
「よし、大地くんソーラーブレイドの柄をブレイドを形成させずに地球に向けてかざしてみてくれ」
「大地くん、もうちょっと腕を真っ直ぐに伸ばして、もうちょっと右かな……そこでストップ! 大地くんちょっとビックリするかもしれないけど動かないでね」
小浜さんとケーコさんの誘導に従ってソーラーブレイドの柄を地球に向けていると地球からビームが伸びてきてブレイドの柄に吸い込まれていく。するとソルテクターとソーラリアン両方ののモニターにコンピュータプログラムのような文字と数字と記号の羅列が凄まじいスピードで流れていく。
ソルテクターとソルテ様から凄まじいエネルギーが沸き出てきてパンクしそうだ。
「よし! 大地くんソーラーブレイドを出すんだ。今、柄に降り注いでる光は気にしなくていいから」
「ソーラーブレイド!」
刀身を形成する為に柄に左手を当てると地球からのビームは軌道を変えてソルテクターに降り注ぐ。あと、ソーラーブレイドの刀身がいつもの3倍位の太さで色も虹みたいな七色なんだけど…………
いつもと違うソーラーブレイドに戸惑っている俺に対して今日は妙にテンションの高い小浜さんが気合いたっぷりで叫ぶ。
「よし! 大地くんソーラリアンからブーストジャンプで跳び上がって下に地面を思い浮かべるんだ!」
小浜さんの指示に従いソーラリアンからブーストジャンプで跳び上がり足元に地面を思い浮かべると本当に地面があるような気がした。
「そしてその地面に力一杯! 気合を込めてソーラーブレイドを突き刺せ!」
「でやぁぁぁぁぁぁ!!」
俺は想像上の地面に渾身の気合を込めてソーラーブレイドを突き刺す。するとソーラーブレイドを形成する虹色の光が刀身から滲み出るように広がっていく。
七色の光はゆっくりと広がって行って、やがてサッカーグランドくらいの広さになった。よく見ているとソーラーブレイドから滲み出る光だけでは無く、周りの空間から光の粒子が集まってきて形を作っている。
広さがサッカーグランドくらいになってからは拡がりは止まって立体的な形を作り出している。七色の光がソーラーブレイドから流れるのと同じくらいの速度でソルテクターのモニターにプログラムの式が流れていく。
ある程度形が出来た時、自分の身体にダルさを感じ始めた…………俺、もしかして疲労している?
「大地くん、少し疲れて来た? 今やっている事はソルテクターとソーラーブレイドをサーバーとして地球から設計図をダウンロードして聖地の創造をしているんだけど大地くんの神気が主な材料だからヤッパリ疲れるよね。無理なら中断するよ」
「大丈夫です、軽く疲れは感じてますけどNAPのトレーニングや撮影に比べたら大した事ありませんよ」
少し疲労感はあるが軽くランニングした程度の疲れだから問題ない。なぜ疲労しているのか疑問に思っていただけだ。
「あのう、大地さん一人に負担がかかるのは申し訳ありませんので私の神気を使って下さい」
「ソルテ様の神気は別の事に使う予定ですので、今は温存しておきたいんです」
柿本さんが敏腕プロデューサーの顔でモニターに現れる。普段は穏やかで飄々としているがスイッチが入ると眼光が鋭くなり優れたリーダーシップを発揮する。
「と言うわけで加賀美くんもう少し頑張れるかい?今までの映像を見て分析する限りでは君の神気だと、余力を残した状態でこの作業を終わらせることが出来ると思ったんだけど。もしも体調が悪くなったら遠慮なく言ってね」
「なんで疲れてるのか分からなかっただけで、まだまだ大丈夫ですよ」
「ごめんね、小浜さんのテンションが高過ぎて工程を事前に説明する前に始めちゃったから」
小浜さんが手を合わせて「すまん」という感じのゼスチャーをしている。たぶん基本的なシナリオは小浜さんが作ったと思うから自分が作った作品が形になるのが楽しいんだろうな。
「お! そろそろ俺が気合い入れてデザインした聖地が実体化しそうだぜ」
ナタさんの言葉とほぼ同時にソーラーブレイドの七色の刀身がパッキィィィィンと
乾いた音を立てて砕け散ると、足元の方から光が粒子になって離れていき聖地がその姿を現す。
俺がソーラーブレイドを突き立てた位置はサッカーコート位の広さがある聖地の中心で美しい庭園になっている。手入れされた草木に様々な動物の石像、色鮮やかな花壇に綺麗な水の湧き出る泉、日本だと入場料が取れるレベルのクオリティーだ。
庭園の両サイドにはパンティオン神殿を小型化してスタイリッシュにした感じの美しい神殿とセンスの良い西洋建築の屋敷が建っている。驚いた事に亜空間内は上下左右の感覚や距離感がおかしかったが、聖地には重力があり地球やパンゲルアの大地に立っているのと全然変わらない。
「凄いです! 本当に私がここに住んでもいいんですか!?」
「神殿が仕事場で下界の人を招く場所で屋敷がソルテ様の住まいですよ」
ソルテ様がソルテクターの中ではしゃいでいるのがよく分かる、でも身体作るのはこれからだよね。
「よし! 引き続きソルテ様の身体を作ろうぜ、聖地も渾身の作品だけどソルテ様のデザインも自信作なんだ!」
「そうだね、加賀美君はソルテ様の身体を作ったら一度パンゲルアに帰って休息をとる方がいいよ」
ナタさんがテンションを上げてソルテ様の身体を作ることを推すと柿本さんは俺に休息を薦める。
「俺はまだ大丈夫ですよ」
確かに聖地を作った事で疲労しているがまだ大丈夫だ。もう一つ聖地を作れるくらいの余力はある。
「ああ、ソルテ様の身体作るとかなりの疲労感が出ると思うんだ。それと大地君には一度神殿に戻ってやってもらいたい事があるんだ」
「そう、聖女シルフィーとアリエイル王女を初日の出と共にこの「聖地カガミ」に招き入れる儀式の概要を神殿に説明しておいて欲しいんだ」
柿本さんに続いて小浜さんが俺に一度戻る理由を言う。そうだな、王族からの返事も聞かないといけないし儀式の段取りも伝えないといけないだろう…………ん? 聖地カガミだって!?
「なんで聖地の名前が俺の苗字になっているんですか!?」
「だって大地君この世界に初めて召喚された時、アリエイル王女や神殿関係者にダイチ カガミって名乗っただろう? この世界での苗字は地位のある人が名乗るもので主に領地や称号の名前がつけられるんだ。だから聖地の名前は「カガミ」が良いと思ってね」
えっと…………俺の苗字を知っている人は神殿関係者とアリエイル王女と、あとはバランさんとヨコナ村の住人達くらいだからややこしい事にはならないと思うんだけど、あまり神様やソルテラスと結び付けられる要素は増やしたくないんだよな。
「えっとね……大地君、実は空気を読んで知らないフリをしてくれているけど大地君がソルテラスだって気付いてる人間って結構いるのよね」
ビミョーな笑い顔で頬っぺたを掻きながら言うケーコさんに俺は絶句してしまった。




