突然の別世界!王女の危機と聖女の祈り!陽着!ソルテクター!(中編)
突然空から現れた俺を騎士達は不審に思い包囲していたが、お姫様抱っこされている姫に気付いたので俺が救出した事を告げると少しだが警戒を緩めてくれた。
騎士達の騒めきで姫が目を覚まし、騎士の1人が剣を収めて近づいてきて跪いた。
「アリエイル姫様よくぞご無事で」
俺は姫をゆっくりと下ろして騎士の真似をして跪く。一応礼儀正しくしといたほうがいいだろう、形式は良く分からないけど真似しとこう。
「ダイチよ大儀でした、しばらく休むと良いでしょう」
王女らしい仕草と口調で俺に告げると騎士やお付きの人達に神殿での出来事と俺が救出したことを説明してくれた。これで不審者扱いされることはなさそうだ。
姫を騎士達に引き渡してようやく一息つけた。水をもらって喉を潤してると年配の男性に声をかけられる、服装と立ち振る舞いからたぶん聖職者だろう。
「お尋ねしますが兵士達の話ですと貴方は[太陽へ通ずる道]を通って神殿からここまで走って来たのですか?」
「それってあの連なった岩のことですか? 神殿から脱出するのにちょうど良かったので走って来たんですけど、もしかして重要文化財とかで立ち入り禁止でした?」
「いえいえ![太陽へ通ずる道]はオーミ王国建国の王が聖女を抱いて走り切って太陽神の加護を受け、聖女を妻とし王国の礎を築いた伝説の場所、同じように王女を抱いて走り抜けた貴方に縁を感じのです」
「もしかしてオーミ王国の王族がここで洗礼を受けるのってその話しが由来ですか?」
「その通りです、おそらく今回の襲撃は国王の第一子であるアリエイル王女と聖女、そして太陽神が揃う瞬間を狙われたのです」
王家の洗礼の中でも第一子は男女問わず聖女が呼び出した太陽神の宝玉の光を浴びるという特別な儀式を行うらしい。その宝玉は太陽神の力が具現化したもので太陽神そのものだそうだ。宝玉が現れた瞬間、スケルトンが大量に押し入り気を取られた隙に宝玉が黒い霧に包まれて、儀式の場は大混乱に陥った。
「黒い霧には何か強力な呪いが掛けられていたようで宝玉から出る太陽神の力が封じられ法力が発動しなくなったのです」
法力っていうのは神様の力を借りて、怪我や病気を治したり呪いを解いたり悪霊を払ったりする能力らしい。修行を積んだ聖職者や神の加護を持った人間が使えるそうだ。
「それってこの世界に神様の力が作用しないって事じゃ………それってかなりヤバいんじゃないですか?」
「はい、事態は一刻を争います。それと襲撃時、賊の動きはアリエイル王女と聖女シルフィーを攫うことに重きを置いていました」
つまり姫、聖女、宝玉を使って何か良からぬ事をしようとしているって事だな。王女だけでも救えて良かった。でもまた攫いに来るかもしれないから手を打たないとな。
「ん? そういえば何で俺にそんな込み入った話をしてくれるんですか? 自分で言うのもなんですけど得体の知れない男だと思いますが」
「アリエイル王女から色々話を聞いての推測なのですが、まずは貴方が紋章の部屋に突如現れた事、あの部屋は強い法力が無いと入ることが出来ません。それは宝玉が力を失っても変わらぬはずです。今入ることができるのは聖女シルフィーだけなんです」
「俺には聖女に匹敵するくらいの法力があるんですか!? それとも神の加護?」
「貴方から感じるのは神聖な儀式の時や紋章の部屋など神聖な場所で感じる気配と同一の物です」
え! なにそれ?
「そしてシルフィーは混乱の中紋章の部屋に逃げ込みました、彼女しか入れない為安全だと判断したのでしょう。しかし宝玉の力を封じる事が出来た連中です、何らか方法で護衛を全滅させシルフィーを攫ったのでしょう」
俺が目覚めて外に出た時の状況から考えるとそうだろな。神様の力を持った宝玉を封じれるんだから、紋章の部屋のバリアー? みたいなヤツも突破出来るだろうな。
「そしてシルフィーがいなくなった紋章の部屋には聖なる気配を宿した貴方が現れアリエイル王女を救いだした、私にはシルフィーが貴方を呼び出したとしか思えないのです」
え!? なんか引っかかる………
「お願いします! どうか私達を救ってください!!」
あの時の声か! その後別の声が俺に助けを求めた。そう言えば俺の事を「人の想いが創った光の戦士」って言っていたな、ソルテラスの事だろうか?俺は演じていただけなんだけどな……
「たしかに俺は誰かの助けを求める声と共に光に包まれてこの場所に来ました、色々分からない事が多いけど助けを求めたのは間違いなく聖女だと思います、彼女に話しを聞くためにも助けに行きましょう」
「シルフィーの奪還に手を貸していただけるのですね! ありがとうございます!」
彼は俺の手をとって笑顔でブンブン振って喜んだ。
「申し遅れましたが私は、エンリーク神殿で神殿長を務めるフランチェスコと申します」
偉い人だった……
大鍋で煮た野菜スープと硬いパンの食事を食べた後、状況報告と作戦会議が行われた。
洗礼の時、神殿にいた人達は姫と聖女、死んでいた護衛以外は全員無事に脱出出来たそうだ。生きている人間で囚われているのは聖女シルフィーだけで神殿は厳重に包囲されている。
賊は元宮廷魔導師のズーランと弟子の魔法使いが6人、手練れの戦士は有名な傭兵でバランというらしい。ズーランはネクロマンシーと言う骸骨やゾンビ、幽霊とかを操る魔術が得意らしい。バランは義に厚く傭兵仲間や依頼者からも信頼されているという、金を積まれても気に入らない依頼者は受けない事から何か弱味を握られていると見られている。
神の力が封じられているため神官は法力がつかえず、聖騎士も只の騎士だ。そのため主戦力は、王国から派遣された騎士団と兵士120人と魔法使い12人だ。過剰戦力のようだが相手の得体が知れないので安全策をとったらしい。その戦力で神殿の正面から攻める。
俺は本隊が攻める間に単身で神殿に乗り込み姫と宝玉を奪還するという極めてシンプルな作戦だ。俺は神殿の関係者となっていて、フランチェスコ神殿長の推薦と姫を救出した実績により重要な任務を任された。作戦決行は明日の早朝だ。
服装は、今着ているジャージとスニーカーが動きやすいので良いのだが丸腰だと心許ないので武器を用意してもらう事にした。騎士団の馬車にある予備の武器から選んでみるのだが、西洋式の剣や槍、斧は馴染みがないので迷っていると一振りの片刃の長剣が目に入った。
鞘から抜いてみると良い感じだ。鞘や柄は西洋風の装飾だが刀身と使用感は日本刀そのものだ、試し切りに薪を切ってみると軽々真っ二つだった。殺陣の勉強で修行したので剣術と居合い術は師範の腕前だ。
「その剣はドワーフのドアン親方の自信作なのであるが扱いが非常に難しくてな、騎士団に使える者がおらぬのだ、貴殿は使い熟せるようであるので貰ってやってはくれぬか?」
今回の作戦の総司令官であるロデマス卿がそう言ってくれた。ラッキー! こんなに良い剣くれるんだ、ドワーフって工房の名前なのかな?
翌朝、日が昇りきる前に本隊が神殿に向かう、俺は単身で森の中を走る。塀の近くに来て様子を見るとスケルトン兵数体が見張りをしている、眼球が無いのに見えるんだろうか?
周りを見ると背の高い木の枝から塀に飛び移れそうだ。木に登って待機していると正門の方で戦闘が始まった、ビームみたいなヤツが飛んだり爆発があったりするけどアレが魔法なのかな? スケルトン兵達が正門に向かっていったので塀に飛び移って上から様子を見る。
塀の上を移動しながら見てみると昨日いた礼拝所の建物にズーランの弟子らしきフード付きマントの男達が出入りしている。あそこが奴らの拠点だな。
引き続き上から見ていると塀の角にある塔の前に昨日のおっさんがいた、バランといったかな。骸骨兵とズーランの弟子が正門に向かっているのに最大戦力が見張りをしてるってことは聖女と宝玉の場所はここで間違いない。
塀から塔の窓には飛び移れそうだ、それにしてもこの世界に来てから感覚や身体能力すごく向上してるな。このまま帰れたらトップスタントマンどころか、オリンピックで全種目金メダル取れるんじゃないか?
窓から飛び移ると部屋の角に女がうずくまっていた、こちらに気付き顔を上げると綺麗な青い髪と同じ色の瞳をした美少女だ。
「君が聖女シルフィーか?」
「え? あ! はいそうです、あなたは?」
いきなり窓から飛び込んだんだ驚いて当然だろう。でもこの声は間違いない!
「紋章の部屋で助けを求めたのは君なんだろう?俺はその声を聞き此処に来たんだ、姫は助けて安全な場所にいる護衛の騎士達は残念だったが神官達は無事だ」
すると彼女は跪き祈りのポーズをとる。
「ありがとうございます神の使者様、しかし早く宝玉を取り返さないと……」
すると扉が開きバランが入って来て抜刀すると部屋の隅っこに声をかける。
「ロッテこっちに来て俺の後ろに下がれ!」
小さな女の子がバランの後ろに下がる、何故か全く気配が無いからまったく気付かなかった。バランが俺に斬りかかって来る、かなりの手練れだが今の俺の動体視力なら見切れる!斬りかかるバランの手首を峰打ちで振り抜くき奴の剣を落とすと首筋に刃を突き付ける。
「あんたの負けだ!なぜあんたほどの男が奴らの悪事に手を貸すんだ!?」
「娘と村のみんなの魂が抜き取られたんだ、戻して欲しいなら言うことを聞けと……」
なるほど人質を取られていたのか、悪い奴のやる事って何処の世界でもドラマや映画でもあんまり変わらないんだな。それを聞いたシルフィーが深刻な顔で言う。
「急がなくてはなりません! ズーランは魔杖に人の魂を集めて魔力に変換しています! 使われてしまうと元に戻せません!」
大変だ! でも他に何か忘れてるような気がするんだけど……あっ宝玉だ! あれを何とかすればシルフィーや神官達が法力使えるから有利になるかも。ん!? いきなり変な気配がする!?
「役立たずめ! やはり名のある傭兵であっても魔力を持たぬ者はカスだな!」
イキナリ7人がワープして来た! センターにいる奴がズーランだな! 先っぽに大きな玉がついてる杖を持っている。
「なんて事! 宝玉を背徳の魔杖の先につけるなんて、人々の魂だけでなく神さえも生贄にするというのですか?」
「聖女よ真なる力を手にする者にとって俗人共の戯言や神の権威等は塵芥の価値も無いのだ。むしろ新世界の王……否、神となる我の糧となれる事を光栄に思うが良い」
なんか小難しい事言ってるけど、要は自分はこの世で一番偉いから他の奴はどうでもいいって事だろ……クズだな。だが自分に酔っている今がチャンスだ!
俺は直感に従いズーランに向かってダッシュ! 約10メートルは俺にとっては一瞬の距離だ、それに頭の中に声が響く!「杖を破壊せよ」と。
「させるかぁぁぁ! 死ねぇぇぇい!」
杖から黒くて気持ち悪い、ドロドロした嫌な物が溢れてきて俺を包み込む。全身に猛烈な痛みと倦怠感、吐気、頭痛など一気に押し寄せるが構わずに居合い抜きで杖を斬る!
「バカなぁぁぁ! 一瞬で数十人は骨も残さず消滅するほどの瘴気の中なぜ動ける!」
「そんなもん知るかぁぁぁ!」
俺の居合抜きが杖を真っ二つにすると沢山の光の粒子が杖から飛び出し、先っぽに付いていた玉が空中に浮かび強烈な光を放った。




