初陣の草原
見渡す限りの青々とした綺麗な草原。
空も晴天で気持ちがいい。
「初陣の草原へようこそ!このステージでは出現する殆どが低レベルモンスターです。ごく稀に比較的高レベルのモンスターが出現することがあります。気を引き締めて頑張ってください。」
妖精さんが軽く解説をした後に決まり文句とでも言うようなセリフを放った。
「さぁ、ここからあなたのあなただけの冒険が始まります!どうぞ、未開拓のこの地にあなたの存在を刻んでください。」
それっぽいセリフだったのであまり心に響かなかったが次の言葉はとてもよく響いた。
「あ、このセリフは発売初日限定のセリフなのでレアですよ。」
「あ、あぁ、ありがとう」
…すごく…心に響いた。別の意味で。
気を取り直し武器をしっかりと握りしめて草原を進んでいくと、腰くらいまで生えた木が密集しているところがあった。
もぞもぞ
木の中で何かが動いた。
次の瞬間モンスターが出てきた。
[スライム]
無性
「あれはスライムです。かなりの強敵ですがシルヴァさんの武器なら問題ないですね。ちなみにスライムは雑食です。」
スライムが強敵?他のゲームでは雑魚キャラの印象しかかなったけど。
それと最後の豆知識っ!……いる?
僕は再度その武器を握りしめて相手の中心線を狙うように構えた。
「はっ!」
中段構えからの槍での一閃。
シルヴァの放った一突きはスライムに命中した。
だがスライムは何もなかったかのようにこちらの様子を伺ってくる。
「シルヴァさん、スライムは体内にあるコアを破壊しなければ倒すのにかなりの時間がかかります。槍で突いてコアにに当たらなければスライムに槍を刺したままコアめがけてなぎ払ってみてください。」
コアか、よしっ!
「はぁっ!」
十分すぎる掛け声とともに再度槍を突いた。
コアを目掛けて突いたはずなのにコアは移動してしまったが槍はスライムの体内に残ったまま、空かさずにコアを目掛けての薙ぎ払い。
コアは二つに割れその瞬間スライムは溶けたようにその体を崩れさせた。
スライムがいたその場所には幾分かのアイテムが残っていた。
「結構落ちるもんだな。」
取得アイテム
・スライムの紅コア
・スライムのコア
・スライムゼリー
・薄い膜
「妖精さん、このアイテムとかってどうすればいいの?」
「はい、それでは取得アイテムを拝見させて頂きます。……スライムコアは初期段階ではレアアイテムに分類されるのでとっておいた方が良いですね。紅コアはかなりのレア度です。売ればかなりのお金になりますし、それを素材にすると良い武器が作れますよ。それと取得アイテム一覧を閉じると自動的に所持アイテム一覧に組み込まれますのでご安心ください。」
「持ち歩く必要がないのか、便利だね。」
そこである一つの疑問が浮かんだ。この世界にはレベル設定があるはずだけどさっきのスライムはレベルが表示されなかった。
「妖精さん、さっきのスライムってレベルとか見れなかったけど、相手のレベルってどうやってみるの?」
「はい、敵のレベルはプレイヤーレベルが3まで上がるもしくは特殊なギフトを取得した者だけがみることができます。」
僕はギフトという心揺さぶられる言葉に反応してしまった。
「ギフトなんてのもあるのっ?」
「はい、レベルが上がると職業、種族などに関係のあるギフトを取得することができます。」
「やっぱりレベル上げないとダメなのか……。」
「いえ、実際はゲーム開始時にその種族、職業に関係のあるギフトがランダムで計4つ贈られるはずですが……シルヴァ様は無職ですので……。」
ごめんなさい無職で。
と心の中で謝りつつさらなるモンスターを求めて進もうとしてある事を思い出す。
「そういえば、スライムは強敵とか言ってたけど?」
「はい、それはですね、スライムはそのモンスターのレベルの少し上のレベルまでのハンマーや打撃などの一部の物理攻撃を殆ど無効にするんです。ですので魔法、刺突や切断などができる武器でないと倒すのに時間がかかってしまいます。」
僕の槍は刺突も切断もできるから大丈夫だったのか。
ハンマーとかグローブを選んでたら逆にやられてたかもな……。
数時間経ってスライムを50匹ほど倒したがレベルが一つも上がらない。
スライムって経験値効率悪いのかな?と思っていたら少し高い木の密集地帯の向こうから悲鳴が聞こえてきた。
「キャーーーーーーッ!」
急いで悲鳴が聞こえた場所へ向かう。
そこには今まで狩ってきたスライムの三倍はある緑色をした巨大なスライムがいた。
「あれはっ?」
「はい、あれはグリーンスライムの急成長体です。草食です。」
豆知識は華麗にスルー。
「急成長体?」
「はい、急成長体とは何らかの理由で本来の成長スピードの数倍の速さで成長した個体で通常の個体よりも形が歪で繰り出す技も拙いです。つまり、普通のグリーンスライムの成長体より弱いんです。」
「なんだ、じゃ大丈夫か。よかった。」
安堵のため息をついていると更なる情報が出てきた。
「いえ、いくら弱いと言っても通常のスライムの10倍は強いですよ?」
何故に疑問系、それに10倍って早く加勢しないと!
槍を構えながらグリーンスライムへ向かっていきコアを目掛けての横薙ぎ払い。
もちろんその一撃で倒せるはずもなくその後、数撃浴びせたのちその悲鳴の主の元へと駆け寄る。
「加勢しますっ!」
「へぇ?」
悲鳴の主は金髪のエルフだった。
そのエルフは気の抜けたような諦めているような声を上げてこちらをみた。
瞬間、絶望していたような目が小さな希望を見つけたように輝き始めた。
小さな希望にすがるような目。
シルヴァはその彼女を抱え近くにある木の密集地帯まで後退した。
「何かスキルは使えますか?」
シルヴァは彼女を座らせた後に落ち着いた口調で金髪エルフを安心させるような口調で聞いた。
「……えっと。
鷹の目、森の友、ポイントギフト……えっと、後は…」
「大丈夫、落ち着いて。」
彼女に深呼吸をさせてじっとその目を見てあげていると落ち着きを取り戻したようで、さっきまでの動揺は嘘だったかのように話し始めた。
「私の所持しているギフトは、鷹の目、森の友、ポイントギフト、俊敏です。」
「ありがとう、でもギフトの効果を聞いている暇はないから状況に合わせて使ってくれ。」
「はいっ」
その間にグリーンスライムは直線距離7メートルというところまで迫っていた。
シルヴァは勢いよく飛び出しグリーンスライムのコアに届かない軽い斬撃で挑発しながら後ろに回る。
「私のお友達、あの人の手助けをして。森の友。」
エルフがギフトを発動した瞬間、何処からともなく羽を勢いよくばたつかせた鳥たちが出現しグリーンスライムへの攻撃を始めた。
どうやら鳥類を出現させて戦う感じのギフトのようだ。
間を空けずにギフトの発動。
「ポイントギフト、俊敏。」
そのギフトを発動させた瞬間シルヴァの体が軽くなりより速く動けるような感じがした。
「ポイントギフトは任意の人に自分のギフトを一時的に貸し与えるギフトです。そして俊敏はより速くなり、より上手く武器が扱えるようになるギフトです。」
グリーンスライムの向こう側から彼女の声が聞こえた。
「わかったよ、ありがとう!」
シルヴァは槍を下段に構えてグリーンスライムに向かっていく。
「はぁっ、せいっ!」
いつもは一度攻撃したら一拍置いてからの次撃だったが、俊敏のお陰で流れるように攻撃を繰り出せる。
だがやはり大きいだけあってなかなか攻撃がコアまで届かない。
「シルヴァ様、相手はグリーンスライムの急成長体です。そのため体内でコアを移動させるのにまだ慣れていません、その隙をついてみたらいかがでしょうか?」
今まで戦いに夢中だったのと、妖精さんが静かだったこともありすっかり存在を忘れていた。
だが、必要な時に的確なアドバイス。さすがは妖精さんだ。
今度はアドバイス通りに片側に偏って攻撃を繰り返し行い、コアが移動したところで速くなったこの足でコアがある所まで行きコアを目掛けての一撃。
やはりいくらコアの移動に慣れていないと言ってもピンポイントで当てるのは難しい。
すかさず二撃目の横薙ぎ払い、またもはずれるが間髪入れず薙ぎ払いの遠心力を使い回転してからの再度の薙ぎ払い。
コアに当たったがたが破壊まではいかない。
分厚いゼリー状のものにより威力が下げられている。
連続して攻撃したためコアが反対側に移動した。ありがたいことに鳥たちが上から攻撃を続けているため上の方にはコアは行っていない。
反対側に移動する反動を使い少し捻りをつけた刺突。
思っていた以上にゼリー状のその体に突き刺さりコアの中心を穿つ。
コアは割れ、やはりデカくても同じなのか溶けるように崩れていった。
取得アイテム
・グリーンスライムのコア(中)
・グリーンスライムゼリー
・グリーンスライムの粘液
・翡翠色の玉
・グリーンスライムの膜
・薬草(体力回復)
「デカイ割にはあまりアイテム落ちなかったな。」
そう呟いていると彼女が近づいてきた。
「ほんっとうにありがとうございました!」
気合の入ったお礼。感謝の気持ちが強く伝わってくる。
「今回の取得アイテムは…えっと、お名前は?」
「あぁ、シルヴァだよ。もしよかったらこれかもよろしく。」
「あ、はい。私はルルナと言います。それで……今回の取得アイテムは全て貰って頂けないでしょうか?」
ルルナさんからの驚くような申し出。数秒考えてからの解答。
「ルルナさん、その申し出は本当に嬉しいけど、君のギフトが無ければこんなに速く倒せていなかった。だから報酬は五分五分だ。」
「本当にいいんですか?…でも、いや、はい、ありがとうこざいます。」
ルルナさんは驚いた後に困ったような顔をして次には笑っていた。感情が表に出やすいようで表情がコロコロと変わりみていて飽きない。
「それで、もしよかったらなんだけど本当たまにでいいから二人で組んでやれると嬉しいんだけどどうかな?」
まるで告白しているかのような恥ずかしさがこみ上げてくる。
「私からも是非お願いします!」
よかった。もし断られたら卒倒してこのゲームを引退していたかもしれない。
その後にフレンド交換をする為にステータス画面を開いた時にレベルが上がっていることに気がついた。
「そういえばルルナさんはレベルいくつなの?」
「私ですか?そんな高くないですよ?まだ3です。あ、さっき倒したので4に上がってます!シルヴァさんこそいくつなんですか?」
数秒の沈黙。
「……2。」
「いや、でも職業とか種族によってレベルの上がりやすさとか違うって言いますし……。」
すかさずのフォロー。
「そういえばシルヴァさんって職業とか種族って何ですか?あっ、ちなみに私は種族エルフで職業は狩人です。ちょっと鉄板すぎましたかね?」
ルルナは気恥ずかしそうに自分の種族と職業を、教えてくれた。
「実は、まだ種族とか職業は解放レベルまで達していないらしくて表示されていないんだよ。ごめんね、わかったら1番に教えるよ。」
やっぱ無職って恥ずかしい。……やっぱり無職なの?
気がついたら夕陽が差していた。
一面の草原に夕陽の光が当たって燃えているようだ。
その日は取得した素材を分けて解散した。そして後日会う約束をした。
そして僕は所持アイテム一覧をフカフカにして始まりの村へと戻っていく。