妖精と織りなす物語 フェアリーズギフト
十数年前に発売され爆発的人気を集めたゲーム[フェアリーズギフト]。今日はその続編がフルダイブ型VRMMOとなって発売される。
ピピピピピ、ピピピピピ、ピピ……カチャ。
「もう朝か……」
時計を見ると時刻は午前3時。身支度を済ませて家を後にする。今日はあの大人気ゲーム[フェアリーズギフト2]の発売日だ。店が開くのは午前10時からだが確実にゲットするために早起きをしたのだが……店先にはすでにちょとした行列ができている。
「……買えるかな?」
少し心配になってきた。
列を見てみるとどうやら三十代くらいの男性が多いようだ。ちょうど世代だったのだろう。……だけど今日は平日で開店は10時からなのに大丈夫なのだろうか?
ここにいる人たち全員が有給を取っているのかと思ったら笑いがこみ上げてきた。
高校には有給なんて無いが、今日はすこぶる体調が悪くなる予定なので致し方なく休むことにした。さよなら…皆勤賞。
そこから開店まではひたすら我慢だった。我慢。我慢。我慢。と頭の中で唱えていると開店まであと1時間となっていた。
…ガラガラ
シャッターが開いた音がしたが開店まではまだ時間がある。
開店時間を早めるのかな?と思っていたら中から人が出て来た。
「開店まであと少しとなります。もう少々お待ちください。」
と声を張りながら言ったのちに、280㎖のペットボトルのお茶を配りはじめた。
ざっと見て150人は居るのだが、大丈夫なのだろうか?お茶もただでは無いのに、ありがとう。感謝しかない。
「ありがとうこざいます。」
「いえ、こんなに長い時間並んで、ご苦労様です。」
とても愛想のいい若い男性だった。いい店員だな。
そうこうしているうちに開店時間になった。
どうやら、先着数十名限定で限定アイテムのコードが貰えるらしい。公式サイトでも発表が無かったからサプライズなのだろう。もらえた人はすごく喜んでいた。
自分の番が来た。
「10800円になります。」
高校生には痛い出費だが…仕方なし!
「ちょうどになります。これで最後ですよ、良かったですね。」
どうやら先着限定アイテムコードは30人分だったようで、自分はそのちょうど30人目だったようだ。
「こちらもどうぞ、こちらは発売日購入者全員にお配りしているクジになります。」
これも運営のサプライズのようだ。
どうやら発売日購入者の中から抽選で10名にゲーム内で使える限定アイテムが当たるようだ。この抽選結果は明日の昼に発表らしい。どうやらゲームのキャラメイクの時にこのクジに書いているコードを入れて当たった人にはゲーム内に直接メールが届きアイテムが貰えるしくみらしい。
当たるとは思えないが楽しみが増えて良かった!
家に着いたのは11時を少し過ぎた頃だった。
僕は朝食も昼食も食べずに遊ぶための環境を整えた。
ウィーンという音が静寂の中に響き渡る。
どうやら上手く起動してくれたようだ。
ワクワクしていると無機質な感じの女性の声が聞こえて来た。
「VRMMOフェアリーズギフト2の世界へようこそ。まずは必要事項をご記入ください。」
年齢やら性別やら色々打ち込まなくちゃいけなくて案外めんどくさかった。
「ありがとうこざいます。次にキャラメイクに移ります。」
どうやら、性別で男性を選んだら男性キャラと無性キャラしか選べないらしい。もともとネカマをやるつもりは無いからいいんだけど…。
それにしても無性って何だ!
「キャラは男性でっと…えーと、種族と職業か…特に決めてなかったな。どうしよう。日本人だから人間でサムライ?いや、安直すぎるか……あ、こんなのもあるんだ。これでいいや、なんか面白そうだし!」
その後も色々と設定した後に、お待ちかねの言葉が聞こえた。
「お疲れ様でした。それでは、妖精と織りなす自分だけの物語をどうぞお楽しみください。」
あたり一面が真っ暗になった。
次に眼が覚めると[始まりの村]という所にいた。
ふと視界の端で何かが動いた。視線を移すととても可愛らしい妖精さんがいた。
「初めまして。私は、リリィと申します。これから8日間の間、初心者様の補助などをさせていただきます。」
「あぁ、僕は、シルヴァって言うんだ。よろしくね。」
どうやらこの妖精はゲームに慣れるまでのゲーム内時間での8日間の間色々サポートしてくれるらしい。それが終わると居なくなってしまうようだ、、、少し残念。
「それでは、簡単な説明から始めさせていただきます。」
説明は操作方法やゲームの時間の流れなど色々なことを聞くことができた。多分説明書に書いてあるんだろうが見ないできてしまったので正直ありがたいと思う。…でも、行動を見透かされているようでちょと複雑だ。
えーっと、こっちの1日がリアルの1時間で、リアルの1日での行動限界時間がゲーム内の6日だから6時間か…分かりやすくていいな。
「じゃぁ、早速はじめるかっと……その前に、自分の種族とか職業ってどうなってんだろう?」
あのとき、種族や職業をランダム設定にしたのでとても気になるっ!
プレイヤーの可能性を見極めてランダムに設定、しかも初期では選べないような職業になれる可能性もありって、かなりの賭けだけどゾクゾクするっ!
「シルヴァ様、まずは簡易ステータス画面をお開きください。」
種族などを調べるためにあちこちいじっていると妖精さんが見方を説明してくれた。
「簡易ステータス?普通のステータス画面とは違うの?」
「いいえ、シルヴァ様が見ている普通のステータス画面と思っているものは実は簡易ステータス画面なのです。
実際の詳しい情報が載っているステータス画面は簡易ステータス画面の右下にある小さなマークを押していただけると開くことができます。」
「右下の小さなマーク?……あった!本当に小さいな。」
言われたマークを押すと簡易ステータス画面と呼ばれたものをも超す遥かに膨大な量の情報が載っていた。
「えーっと、種族と職業は………?あれ?」
種族と職業が書かれているはずの欄、そこには文字化けして本来載るべき情報が載っていなかった。
「妖精さん、これってバグかなんかかな?」
困った時の妖精さん。だ!
「はい、それは属している種族と職業がまだ解放レベルまで達していないので表示されていないだけでバグではありません。」
「解放レベルまで達していない?」
「失礼ながらシルヴァ様はどんな職業を選択なされましたか?」
「えっ?ランダム設定ってやつだけど……」
もしかして、マズイやつだったの?レア職業とかになれるかもって面白だからやっちゃったよ……。
「そうでしたか。実は種族などの選択の際、稀にレアなものが表示されることがあります。そのほかにランダム設定を行ったプレイヤーにも稀にレア職業などにつけることがありますが……二つ同時はとても珍しいですね。
選んだ職業などがわかれば解放レベルもわかるのですが……」
「よかった……。」
大丈夫な事にホッとしているとある事に気がついた。
どっちもレアって……解放した時、メチャ強じゃね?
「ねぇ、妖精さん、職業とかもわからないしどうやって戦えばいいのかな?」
「はい、それではこちらの武器の中からお一つお選びください。プレイヤーの皆様には職業武器や種族武器に慣れるまで運営からお一つ装備可能な初期レア度の武器が配られます。」
その説明を聞いたときになんとも心を揺さぶらせるワードが頭に響いてきた。
「え?待って!種族武器とか職業武器って?もらってないよ!」
「はい、職業武器などは初めて職業についた際もしくはレベルを一定レベルまで上げていただき新たな職業などについた際ランダムにもらえる武器になります。もらえる武器は全てレア度2以上になります。」
「俺、貰えてないけど……。」
「シルヴァ様はまだ正式に職業に就いているわけではないので職業などを解放できるレベルまで上げていただく必要があります。ですので、まずは戦うための武器をお一つお選びください。」
選択可能武器
1・剣
2・刀
3・槍
4・斧
5・弓
6・杖
7・魔法書
8・グローブ
9・盾
10・ハンマー
かなりの数だけども、選択可能?ってことは選べないものもあるのか……なんかそっちの方が気になるな。
と思っていると妖精さんが補足をしてくれた。
「本来なら選んだ職業に近い系統の武器しか選択肢はないのですが、現在は無職という事で殆どの武器を扱えます。」
妖精さんの話である一点が妙に引っかかった。
無職ってなんですか?別に無職では無いと思う。
でもまあ、本来扱えるはずのなかった武器まで扱えるってなると楽しくなってきた!
「じゃあ、これにするよ!」
勢いよく武器を選び取り出した僕は 初期ステージ:初陣の草原 にかけていく。