日常からの脱出(強制)
本編に入ります
「おい!もうやめないか!」
教室に怒声が響き渡る。その声の主は、黒目黒髪に意志の強そうな目の青年らしさの中に少年の面影の残る顔立ちに、178㎝という高身長の、名を輝星 快という。その彼が怒鳴る相手は土豪 毅という巌のような彫りの深い顔に鋭い目をのせた、格闘技でもやっているのか隅々までぎっちりと筋肉を詰め込んだ大丈夫だ。
「あ?うるせえぞ偽善者が。」
「いいからその手を止めろ!それと俺は偽善者じゃない!」
「は?どっからどう見ても偽善者だろうが。」
「くっ!この「まあまあ落ち浮いて二人とも、授業もう始まるよ。ほら座って座って。」っああ、そうだな、ありがとう池井君。」
「チッ」
「落ち着いてね二人とも、授業ももう始まるし。」
「ああ」
二人はそれぞれの席に戻っていった。そして二人に割り込んだ勇気ある人物は自分の席でため息をついた。彼は池井 俊二という、優しそうな眼を持つ、顔は中の上程度、身長は174㎝とそれなりにあるといういたって普通の人物だ。そして、クラス替えしてから割とすぐに起こった輝星と土豪の喧嘩を止めに入ったせいでそれ以降も暗黙の了解ですべて仲裁をさせられている不幸な人物だ。といってもこの光景はもはやクラスでは見慣れたものである。こうして次の授業が始まると誰もが思っていた。だが、非日常は突如としてやってきた。
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(はあ~・・・またかよ・・・勘弁してくれ)
俺は思わずため息をついてしまった。このクラスになってもうかなりの回数ため息をついている。
もう俺の運ってないんじゃないか?
そう思ってしまう。ああ、ほらきた。
「おい俊、ちょっと止めてきてくれ。」
こいつは松田 冬二、ザ・器用貧乏だ。一通り何でもできるし、趣味も手広い。こいつとはもう五年の付き合いだ。
「わかったよ、まったく・・・」
そうして俺は止めに入る。ああ、毎度毎度面倒だ。輝星はいい、少しウザいし正義感が強くて暴走しがちだが、普通にこちらの話を聞いて止めてくれる。
問題は土豪だ。いや、こいつ怖いんだよ、マジで。毎回止めに入るたびにこっちにらむんだよ。いつ殴られるか・・・いやまあそういうことしないっていうのは知ってるけどね、怖いものは怖いの。足も震えるし声も震える、ってか全身が震える、めっちゃ体に悪いわ、これ。って、あいつら俺の足指さして笑ってやがる。マジでウザい。一回殴られろ。
「おつ~」
「てめえ、あとで覚えてろよ。」
「はっはっは。マジすまん。超面白かった。」
ったくコイツ・・・
マジで一回変わってほしい。でもなんか教室中がけんかを止めるのが俺みたいになってるから余計にたちが悪い。
(はあ~・・・)
また俺の運が逃げていく・・・はあ。
とりあえず次の授業の準備するか。
そのとき教室の床と天井にいかにも魔法陣っぽい何かが浮かび上がってきた。ナニコレ。え、ちょっと待ってマジ何なの、なんかめっちゃ光ってるんだけど!
そして教室が光に包まれた。
「・・・ん?ここは・・・?」
いったい何なんだ全く・・・え?えええ・・・
目を開けるとそこは、宮殿の中のような広い場所だった。足元には、教室でも見た魔法陣みたいなものがある。おお・・・うちのクラスの連中も結構いるじゃん。これ全員いるんじゃね?これってあれだろ?定番の、
異世界召喚ってやつだろ?
・・・いやまて、落ち着くのだ俺よ。まだそうと決まったわけじゃない。集団誘拐かもしれないしはたまた俺の夢だって可能性も―――
バタッ
「よくぞ参られた、勇者たちよ!」
うおっ!びっくりした!
声のしたほうを向くと、そこには、
王冠被ったおっさんが。
うおっ!びっくりした!
なんとこのおっさん、ゴリマッチョだ。なんでだよ。
「ん?なんだ?なんでこんなに勇者がいるのだ宰相?」
「はて、私にはわかりかねますな。というか、あなたのほうが詳しいでしょうに。」
「いや、そうなのだがな、なにぶん勇者召喚など前例がないからな。」
「まあそうでしょうな。それよりも、勇者召喚で呼ばれたということは、ここにいる者は全員勇者なのでは?」
「そうかもしれないな。いやはや、こいつは頼もしいな。」
「ですが陛下、私は戦闘はあまりできないのですが、この者たちは強そうには見えませんぞ。」
「私にもそう見えるな。殺し合いなぞしたこともなさそうだな。ということは、この者たちは全員国もしくは教会に所属しているというわけではなさそうだな。」
「そうですな。私もこの者たちの顔は誰も見たことがないですしな。」
「いや、待て。あいつを見てみろ。あのでかいやつ。あの引き締まった体に油断なくこちらを見る目、かなりできそうだぞ。」
「おお、これは油断なりませんな。」
・・・なんか後から来た目元に隈のあるおっさんが先に来たゴリゴリのおっさんと話してる。土豪見ながら。
というか陛下って…これやっぱり異世界召喚だろ?会話の中に勇者召喚とか出てきたし。国王?と宰相?の後ろからめっちゃ威圧感ある鎧を着た人たちが来たし。
って騎士?多くね?あ、この広間を囲んでるな。俺たちが逃げないようにか?でもさっきの国王?と宰相?の会話を聞いたところではラノベによくある暴君ではないように見えるんだよな。だってマッチョだし。ほら、暴君ってぶよぶよでギラギラなイメージがあるよな。
「みんな落ち着け!真ん中に集まるんだ!」
国王?がこちらに歩いてくる最中、輝星が声を上げた。そんな輝星の言うとおりに真ん中に集まるクラスメイト達。なんでかよくわからんがとりあえず俺も移動しておく。全員まとまると輝星が一歩前へ出た。
「お前たち誰だ!何が目的だ!」
おお、さすが輝星。正義感が無駄に強いのは伊達じゃないな。そうだな、異世界召喚に見せかけた誘拐って可能性もあるよな、一応。
「ん?まあいい、ようこそ勇者たち。我はここワーピスの国王、ロイズ・レイ・ワーピスである。こいつは宰相のセロ・レイ・ルークライだ。」
「よろしくお願いします、勇者様方。」
ん~・・・本物っぽいな~。まあ誘拐犯がこんな手の込んだことするわけないよな。このロイズっておっさんは隠し事できなさそうだし。宰相のおっさんは社畜っぽさがにじみ出てるし。やっぱ宰相ってブラックなんだろうか。
「何を言っている!答えろ!」
え?何言ってんの輝星。今このおっさんたち話してるじゃんか。静かに聞こうよ。どうせ俺たちじゃあ逃げられないだろうし。だってあの剣本物っぽいもん。
そう思ったのはどうやら俺だけらしい。クラスメイト達は国王?を不安と怒りが混じった目で見つめている。え?なんで?
「どうしたのだ勇者たちよ。・・・ああ、そういうことか。すまない、おぬしたちを元居た場所に帰すことができるのは太陽と二つの月が重なる四年後なのだ。本当に申し訳ない。だがこちらも多くの人の命がかかっているのだ。どうか魔王討伐に協力してくれないか?」
「いい加減にしろ!俺たちをどうする気だ!これは犯罪だぞ!」
「?なんといっているのかよくわからんが、拒否しているのだな。まあそうだろうな。お前たちのほとんどが戦争とは無縁だったはずだ、肌を見ればわかる。おぬしたちに殺し合いなどできないだろう。
だが安心しろ、おぬしたちは勇者のはずだ。勇者は成長しやすいのだ、常人の何倍もな。この国の騎士がおぬしたちを超一流に育てる。
そして何より、おぬしたちは人数が多い。服を見たところここにおるものは皆同じ場所から召喚されたようだし、知っている者同士だと連携も取りやすいだろう。これならば千年前よりもより楽に魔王を討伐できるだろう。なにせ千年前の勇者はたった一人で魔王を討伐したのだから。」
「だから何を―――」
「どうか頼む―――」
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今、俺たちは、周りの騎士たちに剣を向けられている。・・・どうしてこうなった?
いやまあ、何となくこうなるんじゃないかって思ってたんだよ。だって輝星の正義感はすぐに暴発するからな。なんか国王との会話?にキれたのか国王に殴りかかたんだよあいつ、なにやってんだ。いや~マジで焦ったあの時は。だって国王殴ったら騎士に切られるだろ、下手したら連帯責任で俺たちも。で、止めるために飛び出そうと思ったら先に飛び出して輝星を止めたんだよ、土豪が。
そんで今は俺たちは騎士に剣を向けられ、輝星と土豪はにらみ合い、クラスメイトは怯えた目で騎士や二人を見ている。マジカオス。
ってかさっきから国王と輝星の会話というか口論を聞いていて俺は思った。
・・・言葉通じてないんじゃね?・・・
いくら輝星の正義感が暴発するからといって、人の話が聞けないわけではない。だっていつも俺の話聞いてるしな、喧嘩中でも。国王も輝星の話じゃなくて態度で判断していたようだしな。もしそうだとすると、当然一つの疑問が残る。
・・・なんで俺分かるの?・・・
いやほんと、なんで?周りの反応からして国王の言葉が分かってるの俺だけっぽいし。
これってやっぱあれじゃね?異世界召喚定番の言語理解みたいな能力じゃね?だとするとやっぱり一つ疑問が残るよな。
・・・なんで俺だけ?・・・
もしクラスメイトが実はちゃんとわかってます、じゃないならもう異世界召喚は確定だと思う。だって国王と宰相の喋ってる言葉日本語に聞こえるもん。でも俺だけな理由が分からない。だって異世界召喚に言語理解はつきものだろ。
ああ、俺だけチートなんてものは最初から考えてない。だってそうじゃん?ラノベ的に考えて輝星が勇者、俺はモブ、だろ?
今俺たちは非常に危ない立場にある・・・と思う。どうしよっか。とりあえず処刑だけは避けないとな。死にたくないよ、俺は。とりあえず国王と話し合いたいんだけど・・・俺の言葉が通じる保証もないし、下手にしゃべったらまたややこしいことになるかもしれん。うーん、どうするべきか。
「ふむ、おぬしたちは混乱しているようだ。落ち着くまでここで話し合うのがよかろう。下がれ近衛兵よ。」
国王と宰相が広間を出ていき、それにどうやらこの絵らしい騎士たちが続く。そして最後の騎士が広間を出ると扉を閉めた。おっさんナイス!さて、話し合うか。
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「宰相よ、単刀直入に聞く。あいつの言葉分かったか?我は全く分からなかったぞ。」
「私もですよ陛下。いったいどうなっているのでしょうか。今の世の中は言語がすべて統一されているはずなのですが。」
「我々も知らない、未だ見たものがいない山の山頂や谷の底などの秘境から来た、とかなのか。それとも魔法言語や龍言語、古代語なんかを日常的に使うところから召喚されたという可能性もあるな。誰かわかるものはいるか?」
「おそらくいないでしょうな。魔法言語個人が開発するもので、周期性はあるものの完全なオリジナルで開発者にしかわからないといわれています。龍言語は文字通り龍のみが使う言語で龍以外にはわかりません。古代語なんて世界中の言語学者が解読に挑戦しているのですよ。いまだ足掛かりさえつかめていませんが。」
「そうだよなあ、どうする宰相?あいつらかなり非協力的だぞ。」
「まあ陛下に殴りかかってきたからそうなのでしょうな。とはいえあんなひょろい拳なんぞ効かないでしょうに。」
「まあそうだな。とはいえあいつらは勇者。何とか協力してもらいたいのだが、言葉が分からんから説得もできん。」
「どうしましょうか。とはいえ混乱していただけなら今頃落ち着いているでしょう。一通り書類を片付けたらまた見に来るとしましょう。」
「そうするか。ほれ、行くぞ。」
「かしこまりました。しかし陛下、もし勇者たちが反抗的なままだったらどういたしましょう?」
「そのときは城の一室を与えて四年後まで待ってもらうさ。」
「いえ、そういうわけではなくてですね、貴族をどうするかという話なんですが。」
「ああ、それがあったな。勇者を囲わないように言っておくか。はあ、まったくもって面倒だ。」
「こちらでも言っておきましょう。」
「任せたぞ。」
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