タツノオトシゴ
歯ぎしりみたいなギターの音
バラバラだったものが繋がり
ひとつの現実にたどり着く
僕は当てもなく近所をぶらつく
公園はグリーンの空にすっぽり覆われていた
君が好きだったグリーン
見ると巨大な樹
樹は大きく広がり子ども達がぶら下がって遊んでる
ケンは裸足で玄関ポーチを行ったり来たり
僕は訊いた
「どうしたの?」
「ママに怒られたの」
「そうかい 遠くに行っちゃいけないよ」
僕はなにか善い事をしたような気分
でもそれは束の間の幸せだった
ドアを開けると
空っぽの部屋が無限に続いてる
重い足を引きずってラジオのスイッチを入れる
水槽の中には
君が飼っていたタツノオトシゴが一匹
歯ぎしりみたいなギターの音
そこから逃れるために
僕はキャサリンとトモに電話をした
そして反省してるフリをしたのさ
彼女がいないと僕の人生は不毛だと
二人は笑って答えた
また酔っ払ってるの?って
こいつらはダメだ
僕はそう思った
ふと振り返ると
タツノオトシゴ
歯ぎしりみたいなギターの音がかぶさる
ふと振り返ると
君が飼っていたタツノオトシゴ
ベランダで雑草だらけのハーブに水をやる
前に君がよくしていたように
カリフラワーみたいな頭のジャンキーが
歩道に寝そべっている
奴と僕 どっちがまともなんだろうか
僕はバランスを失ってゆく
窓から見下ろすと
ケンはフェンスによじ登り裸足の脚をブラブラ
口笛を吹き僕はケンに手を振った
ケンも笑って僕に手を振る
それ見ろ ケンだって反省なんかしちゃいない
バランスを失った心の中に
歯ぎしりみたいなギターの音が響く
グリーンの水槽の中には
タツノオトシゴ
それはプカプカただ浮いている
見ていると
今にも君が帰ってきそう
バランスを失った心に
歯ぎしりみたいなギターの音が
響いてる
ふと振り返ると
そこには
いつものタツノオトシゴ