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7.新しい僕・新しくなった僕・と思っているだけの自分

【新しい僕・新しくなった僕・と思っているだけの自分】




 緑の風が優しく音を鳴らす。彼女は静かにベンチに座りながら、その音に合わせて長い黒髪を優しく揺らしていた。

「遅かったわね」

 彼女はいつぞやと同じような言葉を発したけど、僕があのとき感じた負の感情は何故かどこを探しても存在していなかった。それどころか、胸が熱くなって笑みが溢れ出てきそうになる。

 勇気をだそう。変わる勇気を。変える勇気を。

「ねぇ──」

 僕の頬は赤く染まっているだろう。体が沸騰している。生徒会長が僕に微笑みかけながら首をかしげている。覚悟を決めろ。いや、僕はもうとっくに覚悟を決めている筈だ。

「貴女の名前を教えてっ!」

 ──瞬間、笑い声が僕の鼓膜を揺らした。


「……いつまで笑っているの?」

 目の前では、生徒会長が苦しそうにお腹を押さえながら震えていた。なにがいけなかったのだろう?

「だっ、だって! 初すぎるわよっ! ふふっ、名前を聞くだけなのにあそこまで緊張するなんて……っ」

「悪いかよ……」とふてくされたように言った僕に生徒会長はまたぶり返したように笑い始めた。

「あははっ! 最高っ……でも、私の名前なんか最初から知ってたのかと思ってたわよ」

 興味なかったからねと言うとひどーいと落ち込んだ表情を見せたが、不意に真剣な表情になって、いいわよ教えてあげると自己紹介を始めた。

「私の名前は夜月ひかり。病弱なのにスポーツ万能の優等生と思われているみたいだけど、実際は病弱でも、優等生でもない少しだけずる賢いただの女の子よ。テストで絶対に満点をとる方法とか知りたい?」

 僕は首を横に振る。彼女はため息を一つ、肩をすくめた。

「そんなの興味ないからね」

 点数が上がったところでなにが変わるというのだ。どうせ、僕にはできない方法だろうし。

「じゃあ、怒られない学校の休みかたは?」

「それは聞きたい」

 できれば邪魔されないで休めるようになりたいと思いながら、そうえば今僕は不登校中だったことを思い出した。

「まず、信用できる闇医者を見つけます」

「うん。無理」

 彼女がとぼけたように「そう?」と聞いてきたのがなんかおかしくて僕たちは笑い合った。

「ねぇ」

 ──ピリリと。

 突き刺すような声に空気が澄んでいくのがわかる。彼女の顔は張り付けたような笑みを浮かべていて、学校にいるときの生徒会長としての表情で、僕は思わず恐怖を感じ、警戒しながら「なに?」と聞いた。

「はるか……言いたいことってそれだけなの?」

 ……この人はなにをいいたいのだろうか? 真剣な表情をしているのに、声はなにかを期待するかのように震えていた。その笑顔も心なしかなにかを怖がっているかのように強ばっているように見える。もしかしたら、その生徒会長としての顔はなにか隠したい感情がある時にする顔なのかもしれないと僕は思った。その顔でも隠しきれないほどの感情らしい。

 僕がなにも言えないでいると、憑き物が落ちたように元の柔和な顔に戻り「そう……じゃあ、また学校で会いましょう」と微笑んで僕の元から離れていった。

 彼女はなにを求めているのだろう。僕はわからない。……でも、何故かそのまま彼女を帰らせたくなかった。

「まってッ!」

「…………」

 彼女は立ち止まった。

「一つだけ」

「うん」

「僕はまだ貴女のことが正義なのか悪なのか、オトナなのか子どもなのか、僕と似ているのか似ていないのか、対極なのか同亟なのかわからない」

「うん」

「ぼくは、貴女のことをもっと知りたい。」

 なにか反応があると思ってワンテンポ間を空けたが、彼女はまるで石になったように動かなかった。僕に背中を見せているため表情も窺えない。

 彼女はどんな表情をしているだろうか? どんなことを思っているだろうか? 怖い。でも、大丈夫な筈だ。根拠もなく僕はそう思った。

「だから……だから、少しの間、貴女と一緒に行動して……いいかな?」

 静寂になりきれない静寂が耳を揺らす。

 どれほどの時間がたっただろう? 一時間かもしれないし、十秒かもしれない。はたまたまだ一秒もたっていないかもしれない。彼女がゆっくりと振り向いた。

「ふふっ……愛してるよ、はるか」

「──え、」

 僕がその言葉を理解する前に彼女は「じゃあ、明日学校で」と軽く手を振って山に消えていった。



 夜咲遥へ


 僕はあの人のことを、



 ──僕はここまで書いてぐちゃぐちゃにした。



 僕はもう気付いている。自分の気持ちに。この心の中にいつの間にか存在していた気持ちに。

 でも、僕とひかりは友達だ。

 それ以上には絶対にならない。

 意固地になっている訳ではない。自分を守る為だ。

 僕は絶対に何があっても大人にはならない。大人になったら自由じゃなくなってしまうから。

 でも、なんだろうこの気持ち。

「…………くそっ」

 僕は我慢できなくなって、乱暴にポケットから白紙を取り出して書き殴った。


 ────大好きだよ ひかり。

これで完結です! 是非感想を下さいっ!お願いしますっ!

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