6.手紙・僕宛に
【手紙・僕宛に】
夜咲遥へ
手紙なんて人生のなかで数えるくらいしか書いたことがないからどういう風に書いたらいいのかよく分からないけれど、過去の、そして未来の自分に向けて今の僕なりに書いていこうと思う。なんでいきなりこんなことを始めようと思ったのか今読んでいる僕は不思議に思っていると思うけれど、今の僕の中の僕が崩れてしまいそうになったからというのが一番の理由じゃないかと思っている。ああ。自分でもよく分からないんだ。本当に頭の中がぐちゃぐちゃでハンバーグを作る途中のひき肉みたいになってしまいそうなんだ。自分は今まで、オトナを嫌悪してオトナにならないようにオトナから洗脳されないように壁を作って自分を守っていた。いつまでも子供でいられるように。さしずめネバーランドだね。でも、その壁はいとも簡単に壊され、外気に触れられることになった。その原因が生徒会長だ。名前は知らない。僕の心をあそこまでボロボロにしたのは彼女が初めてだと思うよ。自分のことが嫌いだからと自分の事を傷付けられるほど強い少女。彼女は僕に似ているようで似ていない。オトナを嫌悪しているという僕と同じところはあるけど、むしろ正反対だと思う。彼女はオトナが嫌いだからオトナを操ろうとして、自らもオトナに成りきろうとした。ルールのなかで一位になろうとしていた。僕には考えられないよ。だからかな? 似ているようで似ていない彼女だから、なにもない。なにももっていなかった僕の心にはじめて入り込ませ、弱らせられたのは。そのせいで素直にすべてを受け止めてしまった僕は死んでしまおうと思った。親のこともあったしね。自分でも信じられないけど本当に自殺しかけたよ。山のてっぺんにある崖からひとっ飛びね。気持ちよかったよ。死ぬ瞬間って人生で一番気持ちいいっていうのは本当かもね。でも、死なないで済んだのは生徒会長のお陰なんだ。生徒会長が引っ張ってくれて、叱ってくれて、抱き締めてくれた。しかも、あり得ないことにキスまでしてきたのだ。彼女は僕の心の壁を完璧に壊してしまった。そして、キスで、完璧に心のなかに溶け込んでしまった。彼女のことを考えると凄くドキドキするし、今まで絶対にあり得ないと思っていた彼女の生き方も別にいいのではないかと思ってきている。もう僕は今までの僕じゃなくなっているのではないかと諦めているよ。どっちみちこのままだと今までの僕は消え去ってしまうだろうからね。僕はオトナが嫌いだ。それはこれからも変わらないし、変えたくない。でも、だからといって全く関わらないというのはやめようと思った。確かにあのレールが引かれたような会話は虫酸が走るが、ネバーランドで一人寂しく佇んでいるよりははるかにましだと思った。手始めに明日、生徒会長と話してみよう。きっとあの山のてっぺんにいるはずだ。今までの僕では考えられないと思うけど、友達になれたらいいなと思う。生まれてはじめては少し盛っているが、中学に入ってからははじめての友達だ。そのためにまずは名前を聞かないとね。
手紙を書いているとぐちゃぐちゃしていたのが一つにまとまるかもしれないね。今度なにかに迷ったときは自分宛に手紙を書こうかな? ちょっとこれから検討してみよう。
ああ、一つ忘れていた。これだけは譲れない。
僕は僕だ。なにがあっても、どんなことがあったとしても。
夜咲遥より