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3.夜の町は闇の祭

【夜の町は闇の祭】



 人の気配のない家の前。暗くなっていく世界に同調するように憂鬱な気分を深めながら合鍵を取りだし鍵穴に差し込み、左に限界まで回転させてから右に回すと、ほんの少しの抵抗と共にカチリと音がなった。僕は何度も溜め息を吐きながら、心なしか重く感じる体を引きずるように扉を潜る。

 二つ並べられている靴の横に履いていた靴を置き、薄暗い廊下を進んでいく。一番奥にある扉を開けると十五畳程度の部屋に出た。奥には五畳程度のキッチンがあり、この家で一番大きな部屋だ。今の内に食料を補給しようとキッチンに向かって一歩踏み出してから気付いた。部屋の真ん中に置いてあるテーブルに不気味に佇む女性の人影があることに。驚きのせいで「あっ、」と声を出してしまった。その声でその女性も気付いたようで少し驚いたようにこっちを向いたが、すぐに興味を失ったかのように元の位置に目線を戻した。

 安心しながら僕もすぐに目線を外し、動揺を出来るだけ隠して予定通りキッチンへ向かい、冷蔵庫を開けて心なしか減っているような気がする自分の食べ物を取り出して、逃げるように自分の部屋に向かった。

 自分の母親に会ったのは久しぶりだ。いつもはお互い巧妙に時間をずらして会わないようにしているのだが、どうしたのだろう? ようやくどちらが親権を取るか決まったのだろうか? あり得ないと僕の前で僕の押し付け合いをする二人を思い出して少し笑った。

 ささやかな食事が終わり、いつも通り読書をしようかと本を開くが全く文字が頭に入ってきていないことに気が付いた。

 何故だかじっとしていられないのだ。じっとしていると今日あったできごとが何度も頭の中で流れてしまう。もう一度本に集中しようとしても、やはりぐるぐるぐるぐるとメリーゴーランドのように思考が回っていく。

 僕はそっと部屋を出た。

 まとわりつく暗闇、ヒヤリとしたフローリング、日中はどんなに静かでも聞こえない冷蔵庫等の低く唸るような電子音が混ざりあっておかしくなりそうだ。玄関が見えた。ふと、外に出てみたくなった。僕はその感性にしたがって操られるように扉に手をかけた。とたん、体温より少しだけ低い風が歓迎するように顔面を叩き付けた。

 夜の街は悪意に満ちていた。

 表面上は交友的に。だが、その中で巧妙な探り合いをしているのが感覚的に分かり、身の毛もよだつ感覚が身体中を襲う。僕は体を震わせながら人気の少ない方に少ない方にへと体を動かしていく。何度か知らない人から話しかけられたが、わざわざ表情筋を動かす気になれず亡霊のように無表情で音のしない方へ歩いているといつの間にか周りに誰も居なくなっていた。

「隣、良いかしら?」

 突然、透き通るような綺麗な声が聞こえたかと思うと、僕が座っている古びたベンチに座ってきた。

 ……激しいデジャブを感じる。

 やはりそこには作り物めいた完璧な笑みを浮かべながら座っている生徒会長がおり、僕が目線を向けていることに気付くと「あら、また会ったわね」と笑みを深めながら、少し申し訳なさそうな表情を見せた。

「いつから?」

「やっぱりそうなるわよね……最初から。と言いたいところだけど、実は部屋から外を眺めてたら偶然貴方が歩いているのが見えてついつい追いかけて来ちゃったのよ。あれからずっと貴方の事が気になってなにも手がつかない状態になっていたから……」

 どこまでが本当で、どこまでが嘘か……。僕は「ふぅん」と答えながら考えようとしたが、どう頑張っても彼女の言葉を信じることが出来ずに固まっていると、生徒会長はしんみりといった雰囲気を醸し出しつつ口を開いた。

「ねぇ、宇宙って信じてる? 私は信じてないの。ううん、違う、今はちゃんと宇宙というものはあると思っているわよ。そうじゃない、人が宇宙を認識した瞬間から、それは、星というものに興味を抱いたときからかもしれないし、天体望遠鏡で宇宙を覗いたときかもしれない。はたまた、人が地球の外に物体を送り出すことに成功した瞬間からかもしれない。それは分からないけど、この世界は別の世界が実験のために作り出したニセモノの世界じゃないかって思っているの。ゲームのような世界だから私はゲームのように完璧を、ハイスコアを目指して完璧を演じているの。それがどんなに辛いことだとしても、どれだけそんな自分が嫌いだとしても、ゲームだから……これはゲームだから生きていける。これはニセモノだから私はまだギリギリのところで生きていけているの。ねぇ……こんな私をどう思う? これを聞いても私を大人だと思えるの?」

「残念だけど、大人だと思うよ。だって貴女は自分達人間を中心にしか考えられてないからね。」

「……どういうこと?」

「人間が認識した瞬間に宇宙はできた。そんなの人間が人間を主人公に考えているだけだよ? 確かに地球上で一番存在している生物だし、頭の方もまあ、少しはいいかもしれない。でも、それだけでしょ? なに、自分達が一番優れていて、自分達が世界の中心だと思っているの? 神話とかでもそうだけどさ、もし神様とかいても、ちっぽけな一生物である僕達なんか助けるわけないじゃん。僕は他の世界の知的生命体がもっと世界を知るために一から世界を作って、シュミレーションの結果、偶然僕達が生まれたとか考えているけど、それだったら捉え方次第でゲームってことになるね。まあ、取り敢えず僕の中では世界に絶望しながらそれでも自分中心にしか考えられない人たちがオトナだと思っているよ」

 僕がいつも思っていたことをついつい全部話してしまうと、生徒会長は無言で着ていた長袖を捲り、その下に巻いてあった包帯をスルスルと慣れた手つきで外していく。包帯が腕から無くなり、現れたのは新旧様々な切り傷、青かったり黒かったりする打撲の数々。思わず息を飲むような生々しい傷の数々に思わず目をそらしてしまう。

「……これでも?」

 僕は何も言葉を発することが出来なかった。

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