蒼が目覚めた日
俺達は、急いで村に戻ることにした。すでに、村に向かう頃には、霧は薄くなっており、視界は前と比べたらやや良好だ。この霧なら払わなくても十分に見えるようだ。
村は騒がしく何人かが家から出ており、村民は、皆広場に集まっているようだ。
「あれ?村人がお祭りじゃないのに皆出てるこれから何が始まるんだろう?」
「とりあえず私が先にその原因を見ます。リュミエールあなたはミスティさんの事を頼みますよ」
「うん」
「だね。もし魔族の連中がその原因だったら私は確実に餌食になるからね。私たちは、物陰に隠れるとするよ」
二人が身を隠す中俺は、先導に騒ぎの原因に向かうことにした。嫌な予感が体全体がひしひしと感じてくる。俺は、流れる冷や汗を拭き人混みの中に入り込んだ。
人混みで密着する中俺は、それを押しのける。だがそうしてもなかなか通れやしない。声を掛けようが騒がしくて聞こえないし、進もうとしても体が言うこと聞かず進めない。今の体型は太ってないが女になった俺は、爆乳のせいでなかなか通れないようだ。くそっ豊満の体でもこんなリスクがあるのか。
それでも俺は前に向かうことにした。・・・・・・・・・・・っていうか誰だ?今俺の胸をわしづかみした野郎は、元の世界だったら即告発してやるぞ。っとその感情を押し殺しながらもようやく人混みを抜け出し、広場にたどり着いた。
「ふう・・・・・・何とかたどり着いた・・・・・・・・って何だよコレ」
俺は次の光景に絶句した。そこには、人の顔と似つかないトカゲや太った豚のような顔面をした4体程の化け物が、傷ついた人間を十字架のようなものに磔にされた6人の人間と鎖で首に繋がれて飼い犬のような扱いをされた一人の人間をさらし者にする姿があった。
拘束された人間は、七人ほどの小隊で皆着ていた服はボロボロでしかもひどい傷が数か所見られている。恐らく拷問された後で、その人間の表情に生気はなかったように見える。
その光景は、あまりにもひどいと思った。このような凌辱は、見るとマニアには興奮するが、実物を見ると吐きそうになる。
人をボロ雑巾みたいに扱うなんて胸が痛く感じる。
そして、鐘の音が再び鳴り響く、それと同時に周りは静かになった。そして、一人の豚の顔をした魔族が村人に注目した。
「皆静粛に悲しいお知らせだ。我らの世界に不穏な人間が紛れ混んできた。それがこいつらだ」
その魔族は、持ってた、杖のようなもので磔にされた人間を何度も突き上げる。
「これは冒涜だ。偉大なる我らの聖地にこの薄汚れた輩に足を踏み入れるとは・・・・・・」
魔族は、聖者のような口ぶりで、村民に演説をしている。支配してんのはお前らなのに何善人ぶってんだ。
俺は、奴が演説している隙に一度元に戻り、リュミエール達に報告するために、再び人混みに入り戻ろうとした。
魔族が延々と語り続いてる間に、人混みを抜け出して、リュミエールを探しに周りを見る。すると、壁際の道沿いから手が出てきて、俺に向けてこっちに来いと示してきた。俺は、その指示を通りにそこに向かうと、リュミエールとミスティが身を隠していた。
「姉さんどうだった?」
「それが・・・・・・・」
俺は、広場で見た光景をありのまま明かす。すると、ミスティが顔を青ざめて絶句している。
「え?七人の人間が、拘束されている?・・・・・・その七人って私が一緒に同行した仲間と同じ数じゃない・・・・・」
「それじゃあもしかしてミスティがさんの仲間があそこに捕まってるってこと?」
「そういうことになりますね・・・・」
「・・・・・・何てこと」
捕まった人間についてはあまり顔は見てないが、恐らくミスティの仲間に間違いないだろう。その証拠にミスティがいつも以上に慌ててる様子がみえていた。
「とにかく、私は仲間の顔が見たい。今すぐ案内してほしい」
「でも、探してるのは貴方なんですよ。ここで見つかったら、彼らの思う壺ですよ」
俺は取り乱すミスティに落ち着かせるようにする。そりゃここからじゃ人が集まって見えないし、逆に見えるところに前に向かったら魔族に見つかるリスクが高い。
奴らの事だ。村の人間は全員把握してるからな。ここで見知らぬ人間がいたらそれでおしまいだ。
「それは・・・・・・」
「まあまあ、ようは顔を見えなければいいんだよね。私についてきて・・・・」
俺とミスティは、リュミエールの指示に従い、魔族が演説している中、静かに彼女の後を追った。
リュミエールが案内された場所は、どこかの家の裏口だった。でもこの汚そうな外見どこかで見たような・・・・・
「リュミエールちゃんここは・・・・?」
「あ、そうかミスティさんははじめてだっけ?ここは、私がいつも買い出しに行っているお肉屋さんの裏口なの」
「お肉屋さん?」
やっぱりかーーーーーーーーーーーー、道理で外見が糞汚いと思った。
「ここなら魔族に見つからずに広場の光景が、見えるよ。じゃあ入るよ」
入るよって店の主人に了承を貰ったのか?
とにかくリュミエールは、扉を開け中に入る。
「おじ~~~さんいますかーーーー」
リュミエールを先頭に肉屋に潜入し、主人がいないか確認する。
「おおーーーーリュミエールちゃんとアルマリアちゃんに後、君が・・・・・魔術師のお客さんかな?」
「はい、ここに派遣で参りました。魔導小隊のミストラルです。申し訳ないですが、ここから仲間の状況を確認していいですか?」
「そうか。君のことは聞いている。ささっ、上がりたまえ」
肉屋のオッサンの案内で、広場が見える窓際に案内された。
「ああっ、隊長っミリーニャ、みんな」
ミスティは、窓に近づき叫びだす。
「コレ、あまり叫ぶと、奴らに気づかれるよ」
「すみません、それより彼らはいつここに・・・・・」
「そうか君達は、先程この村にかえったんだな。魔族の人間がここに来たのはつい10分前だ。霧の中から馬車で来て、あそこにいる人間を奴隷のように連れてきて、そして、地面から十字架を出現させて、拘束されたんだ・・・・・・あそこにいる、鎖に繋がれた男を除いてはな・・・・」
肉屋のオッサンは静かにこれまでの状況を説明する。
「隊長です。あそこに跪いている人は・・・・」
どうやら今広場で魔族の足を舌で舐めている人はミスティの上官らしい。部下の前でこの醜態をさらすとはえげつないな。
「静かに・・・・・・奴らはこれから何かするつもりだよ」
俺達は静かに魔族の話を聞く。どうやら話は大詰めのようだ。
「我々は、彼らをいたぶることで彼ら以外の人間がこの村にいる人間がいることは分かった。もちろん彼らは喋っちゃいないさ、彼らの仲間の信頼は絶対だ。仲間を売ることはないだが、ここにいる私は、人の思考が読める・・・・・・・そしてお前達の思考も読める・・・・・・いるな侵入者が・・・・・・」
豚の頭をした魔族が、静かに語る。
「今そいつを渡せ・・・・・・でなければ、ここにいる囚われた人間を一人づつ殺す」
そういって魔族の仲間が、巨大な斧を用意して、鎖に繋がれている隊長と呼ばれる男の首を撥ねる準備をしている。
村人がガヤガヤと叫びだした。そりゃそうだろう。いまから殺戮ショーが開くなんてな。
「本来は村民以外の人間は殺す誓約になったが私は慈悲深い、そいつを渡せばここに磔られている人間は、村の一員として認めてやろう。お前達家畜がいくら集まっても取るに足りぬ存在だからな」
「くっ、」
ミスティは、急いで飛び出し店に出ようとする。それに対し俺は、彼女の左手を掴む。
「ミスティさん落ち着いて下さい」
「放して!!仲間が捕まってる時に黙ってるわけ行かないじゃない」
「ここであなたが顔を出すことは仲間は、望んでいません。今は静かに待ちましょう」
「分かってるっ分かっているっだけど・・・・・ここで仲間を見捨てることなんてできないじゃない」
ミスティは、俺の手を放そうとするべく抵抗する。そして、彼女の右手が光る。
「どうしても放さないなら、あなたの腕を落としてでも、助けに行く・・・・」
「やれるもんならやってください」
その言葉でキレたかすごい剣幕でミスティは、光る手刀で俺の腕を落とそうとする。
「あれ?あれってリュミエールちゃんじゃ」
肉屋のオッサンの一言でミスティの攻撃は止めた。そして窓の方に近づく・・・・・確かにリュミエールだ。あれ?あいついつの間に出て行ったんだ?
リュミエールは、広場の中央で魔族と顔を合わせる。
「これはこれは誰かと思ったら次の候補のリュミエール 様じゃないですか。どうされました?」
「・・・・・・・・今すぐ処刑を止めて下さい」
リュミエールが、真面目な顔でそう言うのが見える。
「それは出来ますんね・・・・・これも仕事何で・・・・」
「それはギルリス様の命令ですか?」
「はてっ?何を言ってますか?」
魔族の人間はとぼけた顔をしている。
「だからギルリス様の命令か聞いています」
「いえ?私の独断でやってますが?」
「主の命も無しにこんなことをしていいのですか?」
「確かに主からは何も。だが、それをあなた様が割り込む必要がありません。」
リュミエールと魔族の話が続く止めないと俺は咄嗟に店から出ようとする。
「待って?今から何をするの?」
今度はミスティが俺の手を掴んで、阻止をする。
「勘違いしないで下さい。貴方と違い妹を止めるだけです。」
「それでもあなたはここに割り込む必要はない。くだらない偽善で事をうごかすなんてできないわ」
「ありますよ。力が無くても手助けたい。偽善だろうと、護りたい。それが、偽りの人間が今取るべき行動です」
我ながら臭いセリフでミスティの腕の力が弱くなった。この隙に俺は彼女の腕を払い店を出て、広場のリュミエールの方に向かった。
リュミエールを助けると思い続けるせいで神経が麻痺して、周りの音が聞こえない。それでも俺は、妹の方に走り続ける。
俺は広場にたどり着いた。麻痺した感覚も治った。すると、周りがどよめく声がした。俺は、リュミエールに近づく。
「リュミエール。何をやっ・・・・・・」
「姉さんゴメン・・・・・」
彼女の方に向かうと目に光はなく、ふらついていた。彼女から水音が聞こえる。これは涙なんかじゃない。彼女のズボンは濡れており、失禁していたようだ。
そして、流れる水先には、鎖で繋がれていたリュミエールの隊長の首が撥ねられて絶命している姿が見え、
その血と尿水が妙に混合していた。
俺はふらつく彼女を支え抱き着く。
「辛いものを見てましたね。後は、姉さんに任せなさい」
俺は、リュミエールを近くの村人に任せる。そして、怒りを堪え魔族の方に目を向ける。
「何でこんなことをするんですか?妹は止めたはずなのに・・・・・」
「さあ存じませぬな。例え生贄だろと我らの邪魔はさせません。家畜に話を聞くほど馬鹿じゃないのでね」
そう言うと魔族は、つられてケラケラと笑った。こんな奴最低だ。人を奴隷と勘違いしている。
「まあ、あなたの妹もそのうち我がいただきますけどね。その時は盛大によろしくお願いします」
「このロリコンが・・・・・」
俺は静かに言う。
「アァン。今なんつった」
「ゴフッ」
俺は魔族の一人のトカゲの顔をした男に腹を蹴られ数センチ吹っ飛ばされる。
体中所々打って痛く感じた。
俺は、嘔吐しながらも、立ち上がろうとするが、魔族の一人が、足で俺の頭を踏み潰す。
それをみてもなぜか村人は、俺をたすけようとしない。ただじっとみてるだけだ。
おい、なんでだよ。俺いたぶられてんだぞ助けろよ。まさか、こいつら魔族に心を売ってしまったのか?
「誰がロリコンだって舐めた口を利くじゃねえか。家畜の癖によ」
そう言って、俺の頭をガンガンと地面に叩き付ける。
「待て。もういいだろ。続きをやるぞ」
「ああ」
魔族が俺を叩き付けるのを止め十字架に磔にされた人間に注目する。どうやら次は彼らの番のようだ。
「アル。待ってろ。今すぐいくぞ」
声が聞こえる。ガイ叔父さんの声だ。どこにいるか分からないが来るのおせーよ。
俺は、霞んだ瞳で魔族の人間に睨み続ける。くそっ俺は護れないのかよ。あれだけ言ったのに何も出来ないのかよ。
とことん自分の出来の無さに腹が立つ。
豚の顔をした魔族が手を広げ、火炎を出そうと構える。この炎でそいつらを焼き殺すのかよ。くそっ神様め。
心底恨むぞ俺の人生を滅茶苦茶にして何も能力ないのに異世界に連れてきて、こんな目に合うなんてよ。
『ああ、・・・・・・神様なんてロクな奴はいないな』
その時不思議なことが起こった自然と俺に闘志が沸いて。意識もないのに体が起き上がる。何が起こったんだ。
「アルお前なんだ?その蒼い炎は?」
気が付くと隣に叔父さんがいた。いやそれよりも処刑を始めるあいつらを止めないと、
「ん?なんだこの炎は、ってギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
気が付くとこれから処刑するために炎を構えた豚の顔をした魔族の一人が、青い炎に包まれたいた。そしてその男はあっという間に燃えカスとなっていた。
「おい何だよこの炎はよ・・・・」
どうやらこの青い炎は俺が、発したもののようだ。
そしてその光景を見た残った3体の魔族が俺を襲いかかる。
別にいいよ襲っても、今の俺は、怖くない。今ある俺の感情に怒りも悲しみもない。あるのは、ただ燃やすだけの意志しかない。
俺がいるかぎり、魔族もそれに加担する奴はすべて燃やす。
「消えろ・・・・・・・・・」
瞬間魔族の周りに青い炎に覆われて、後に、青い炎の柱を作り上げた。当然魔族は跡形もなく燃え尽き、その美しい柱は村を覆った霧や曇り空を突き破り、一瞬青い空が見えた。
「アルお前は、一体?」
叔父さんは、驚きながらもそう聞く。
「・・・・・・・・私にも分かりません」
本当に今俺に何が起きているか分からなかった。
だけどこの力さえあれば、皆を護れる。そう汚れた手のひらを握りしめながらそう思った。