霧漂う村
「はい。もう大丈夫ですね。ですけどしばらく安静してくださいね」
「ありがとうございました。先生。ほら、姉さんも」
「ありがとうございました」
妹である彼女に言われつられて先生に挨拶をする。
俺は自分の部屋のベッドで座り訪問してきた医者に服を脱いで診察を受けてもらっているようだ。
しかもその医者は40代のおばさんだからこの女性になった体を見てもらうのは安心感がある。
やっぱ男が医者だとその気はないがしてもジロジロ見られたらいい感じがしないと思う。
これは女性になった俺の初知識だ。
「先生いつもありがとうございます。しかも今度は姉の方で・・・・・・・」
今度はガタイのいい男が先生にペコペコ謝りながらお礼を言う。
どうやらその男がリュミエールが言ってたオジサンのようだ。
「いえ、大丈夫ですよ。仕事ですから。それより、リュミエールちゃん体調はどんな感じがしますか?発作はまだ続いてるみたいですか」
その医者は次にリュミエールの方に向けた。
「先生からもらった薬のおかげで最近はないですね」
「そう・・・・・・ですか」
医者はノートにメモ書きしながら答えた。
「とりあえず薬は3日前に渡したのがありますから大丈夫ですね。後・・・・・・・リュミエールちゃん最後に儀式の事なんだけど・・・・・・・私たちにはどうすることは出来ないけど自分を見失わずにしてね。祈り続ければ奇跡は起こるから・・・・・・・・・」
「・・・・・・・はい」
深刻な表情に言う医者の言葉を静かに受け入れるリュミエール。
儀式?何のことだ?
「では失礼しますね」
医者はノートを荷物にしまいそれを持って、帰ろうと部屋から出てと階段を降り玄関に向かう。オジサンもリュミエールも階段を降り見送る。
俺は、ベッドに寝て大人しくしているがこの見知らぬ異世界のことを知るためにこっそり部屋から出て階段ごしで盗み聞きをする。
「また何かあったら連絡下さいね。ピュールシュさん」
「ありがとうございます。先生あと治療費ですが・・・・・・・」
オジサンは財布からお金を取り出し医者に渡そうとする。
「いえ、今回はいいです。儀式の件もありますからサービスします。そのお金は家族で美味しいものを食べて下さい」
医者はそう言ってお金を受け取らなかった。
「先生・・・・・・・・・・・・・」
オジサンは何かを言おうとしたが途中で止めた。そしてそのお金を財布に閉まった。
「では、失礼しますね」
医者は家の玄関を開ける。
「それにしてもすごい霧ですね」
「ええ、外灯の光なんて意味がないほどの濃い霧です。」
霧?外に霧なんて出てたのか。女になった体をジロジロ見過ぎて、外なんて気にしなかったわ。
って、いうか俺いつからオッサン思考になったんだこれでも元は高校生だぞ。
「先生霧避けの魔法を使って辺りを良くしましょうか?」
「リュミエールちゃんお気遣いありがとう。でもね、そんなことをしてもすぐに霧が出るわよ。」
「でも・・・・・・・・」
「リュミエールちゃんそんな顔をしないの。自分の身は自分で守るからこの霧で迷ったりしないわよ。だからね。この力はこんなおばさんよりも家族を護るために使いなさい」
「・・・・・・・・分かりました。先生」
心配するリュミエールに対し医者は激励する。
「・・・・・・・・この霧いつか晴れて再び青い空が見たいですね」
医者は寂しそうな口調でそう言う。
「私もそう思います。奴らがこの地を飽きていればの話ですけど」
「ええ、彼らが来たせいで平和なこの村も荒れてしまいました。彼らがここに来なければリュミエールちゃんも・・・・・・・・っとこれ以上言ったら彼らに処罰されますね。これ以上はやめときましょう」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
医者がそう言うとオジサンもリュミエールも口をつむぐ。奴らってなんだろ?
「でも大丈夫ですよ。王都の人間が近いうちに助けに来てくれますよ」
「どうでしょうかね?王都は彼らだけではなく隣国との戦争の真っ最中ですし、それにこの霧は相当の魔術の霧で構成されていますから手練れの魔術師でも解くことは難しいでしょうね」
「そうですか・・・・・・」
オジサンはそう言われると再び暗く落ち込んだ。
「それじゃあ。儀式の時にまた会いましょう」
「ありがとうございます。先生」
そう言うと扉が閉まる音がした。どうやら帰ったのだな。
俺は改めて自室に戻り窓から外観の景色を見て確かめる。やっぱり周りが霧で覆われて視界なんて全く見えない。
それにしても儀式に魔術に隣国の戦争か。ますますRPG染みた展開になってきたな。それに対し俺はどう動けばいいんだろう。
ドンドンドン
階段から誰かが上がってくる。俺はけが人だからゆっくり横にならないと何か言われるから横になろう。
そして扉が開く音がした。上がってきたのはオジサンであった。
「おう。アル調子はどうだ?」
俺はアルマリアと言う少女を知らないからどう対応したらいいか分からない。とりあえずなるようになれだ。ベットで横になってやり過ごす。
「ハイ・・・・・・・大丈夫です」
「そうか・・・・・・・それならしばらくゆっくり休めよ」
どうやらバレてないようだ?
「お前リリーの為に青い百合を取ってくれたのだったな?」
「ハイ・・・・・」
「あの花はこの地域じゃ見れないから死んだ俺の妹も喜ぶ」
死んだ妹?ってことはそのリリーってのは俺ことアルマリアとリュミエールの母親ってことか。
「なあ・・・・・・・アルもうこんな無茶はするなよ。お前の両親も隣国の戦争で亡くなったんだ。これ以上リュミを苦しませるな。あいつにはこれから儀式が控えているんだぞ」
そうオジサンは静かに怒り出した。
「あのオジサン儀式って?」
「なんだ?お前大丈夫か?儀式ってのは三か月に一度この村より離れた山間の古城に住み着いている魔族に大量の食料と10歳未満の少女の生贄を行う為の儀式があるだろうが」
俺は冷や汗がダラダラと溢れるように出た。もしかして・・・・・
「あの・・・・・・それってまさか・・・・・」
「そうだ。次の生贄は、リュミエールだ。あいつは今年で9歳だからその枠に入る」
そんなまさかあの妹が生贄の対象になるなんて。つーか生贄ってなんだよ大昔の人間のくらだないイベントだろ?そんなもんここに持ってくんなよ。
「どうしてそれを止めないんですか?」
「お前それ前にも聞いたぞ?だから言ったろ。魔族の奴らには俺らの戦力じゃどうにもならねえ。お前もあの時見たろ。抵抗する人間には磔の刑にされその場で燃やされるんだぞ」
オジサンはもう思い出したくないと思うばかりに嫌々説明をする。
「じゃあ助けは・・・・・」
「それも無理だ・・・・あの霧を見たろ?この山中に霧が覆われている。あれじゃあ助けなんて来れねえ。無理にこの村・・・・・イヤこの山からから出ると魔獣の餌だ・・・・・・だからもうどうする事も出来ねえ」
「そ・・・・・・・んな」
俺はオジサンと同様に絶望する。他に言いたいことはあるけど悔しくて悲しくて言えない。
例えほんの数時間だけ知り合った妹がもうすぐ生贄にされるんだぞ。赤の他人でもそれはひどすぎる。
俺は泣きながら震える。
「おいなに泣いてんだ?もしかして具合が悪いのか?だったら医者に・・・・・・・」
「いえ、いい・・・・・です。落ち着きました。すみません頭を強く打ったショックで記憶が飛んでしまいましたが今思い出しました。大丈夫です」
俺はゼエゼエ言いながらオジサンのことを止めるよう声を出し誤魔化した。なぜならこれ以上ややこしくなってこの人をこれ以上困らせるのはよくない俺はそう思った。
「そうか・・・・・・・じゃあ俺仕事に戻るわ」
「え?戻るんですか?」
「当り前だ。お前のせいで仕事場から飛び出したんだ。急いで仕事場から戻らないとな」
「あの説教はもう終わりですか?」
「何だ?怒って欲しいのか?生憎最近は忙しいからあまり怒る気もしねえ」
「そうですか・・・・・・」
オジサンはそう言うと部屋から出ようとする。そして最後に・・・・・・
「アルお前はあいつの姉なんだ。最後まで姉としての立場を忘れんな」
そう言い残して階段から降り、家から出る音がする。どうやらもう行ったんだな。
俺はオジがサンが出るのを確認すると、今まで聞いたことを振り替えながら考える。
そして、流した涙を拭きこう考える。
『俺が妹を護るんだ。』
そう静かにそう思った。