越えられない壁
俺は、魔王ギルリスを倒すべく単独で、魔城に向かった。後悔はない。
これも俺に楽しさを教えてくれた。妹のためだ。やってやる。
チャチャル村から出発してだいぶ時間がたつ。日は完全に暮れて視界は灰色の霧に加え常闇に染まっている。俺は、その闇の森で青い炎で霧を燃やしながら一人、歩んでいた。
歩くたびに周りの木々は不気味に揺らいでいる。ここはチャチャル村ではない。つまり安全圏に離れたのでいつ何が起きてもおかしくない状況なのだ。
だが大丈夫だ。俺にはこの青い炎がある。まだ謎が多いがこれは、巨悪の魔族を一撃で殺せるのは確かだ。だったらこいつを何発か浴びれば倒せると思うはずだ。と言いたいところだが、正直自分でも本当にこの力で倒せるかどうかの不安感もあった。なぜならギルリスとはチャチャル村の人達に直接出会ったことないし能力も不明何よりこの世界のはるか昔あった大戦に参加した魔族だ。異世界デビューしてチート能力手に入れたばかりで経験のない俺に勝てるか分からなかった。
グ~~~~~~~
歩んでいる最中に俺の腹が減り突如の空腹感が襲った。
「やばい・・・・・・・・腹減ったな」
確かに腹が減るのは無理もない最後に飯をとったのは、朝食だ。その間にいろいろなことがあって気が付いたらこんなところにいるもんな。あーーーあ家に帰るときちょっと飯を食ってから向かうべきだったな。
俺は後悔しながら進むとガサガサと木陰から音がした。
「何だ?」
俺は、木陰の方を見る。木陰の向かうから鋭く赤い眼光が俺と目が合った。
目が合って数秒木陰から二体の狼のような化けものが俺を襲うべく飛びかかってきた。化け物は俺のことを餌と思いよだれをたらしながら迫る。以前の俺なら何もできなくて逃げるかもしれない。だが今の俺は違う。
俺は、右手に力を集中させ青い炎を発動する。
「ふっ」
右手を軽く振ると青い波のようなものが出てその力が化け物を包む。すると二体の化け物は鈍い悲鳴を出しながら青く燃え尽きた。
俺は右手をおろすと安心感と同時にまた空腹感が襲った。燃え尽きて後から思うが少し加減して食えるくらいの焼き加減で燃やしたかったが、そもそもあの狼のような化け物は食えるのか?そこは帰ってきたらリュミエールやミスティに聞くことにしよう。そう思いながら先を進む。
だが、所持物がなく喉が渇き空腹感が襲う俺にはイライラの感情しかなく進むたびに魔物や魔族に出会うが後先考えずに一発で燃やし続けた。
普通魔族なら少し痛めつけて魔王の力について聞き出すのが得策だがあいにく俺は様々な感情が入れ交じり何も考えずに進むしかなかった。
そしてたどり着いた。周りにカラスが不気味に泣いている中、俺が目の前に立っているのは、暗雲漂う古城だ。城の周りは、霧だけではなくどす黒いオーラのようなものが渦巻いていた。
この中に魔王がいる。そいつを倒せば霧が晴れ、村の儀式はなくなりリュミエールは救われる。
俺は一度深呼吸をする。ふう緊張するな。まさかゲームのラストステージがこんな実物で体験できるとはな。ここからはノンストップで敵がわんさか出る。休む暇はないな。
正直緊張しすぎて漏らしそうになる。だけどそうはいられない。俺は、アルマリアに託されたんだ。
そう自分の胸に当て俺は周りに警戒しながら進む。この村に幸せを取り戻すために・・・・・・・
だが進もうとすると俺は何かに当たった感じがする。咄嗟にそれを触ろうとすると見えない壁が俺に立ちふさがった。俺は、この状況を理解すべく周りに青い炎を放った。霧が晴れ改めてみると、見えない壁から所々現れる魔力のような模様がにじみ出ていた。
俺は、さらに青い炎で範囲を広げようとするができなかった。どうやら俺の青い炎の範囲は、約3メートルが限界でこれ以上伸びないらしい。
どうやら見える範囲はここまでだからあとは自分で、歩いて確認する。
濃いの霧の中で見えない壁を触りながら進むことであることを感じる。恐らくこの壁は、この古城の周りを覆っているから、例え一周しても意味がないのではと思った。
「やっぱ壊すか・・・・・・・」
俺は、右手に青い炎を纏い構える。これからこの壁を壊す為に正面突破を仕掛ける。
この考え方は、原始的だが、空腹やストレスで疲弊して、脳があまり働かったので、こうするしかなかった。
俺は右手を振りかざし壁に一撃を与える。それと同時に、爆音が古城の周りに鳴り響く。恐らくこの音で魔族に気づかれるだろう。
「どうだ・・・・・・・」
爆撃で煙が晴れ俺は、壁が破壊できたか確認する。だが、透明な壁は、傷一つつかなかった。
嘘だろ?これでも一応本気だったぞ!?
「ぐぐぐ・・・・・くそが・・・・・」
俺は続けざまに青い炎を放出する。だが、先程と同じ傷がつかない・・・・・
どういうことだ?この炎は、魔族や魔物や霧そして雲を突き破いたんだぞ?
その炎がなぜこんな薄っぺらい壁ごとき破壊することができない。
考えてもしょうがないとにかく攻撃するだけだ。
「壊れろ!!壊れろ!!壊れろ!!壊れろ!!壊れろ!!壊れろ!!壊れろ!!壊れろ!!壊れろ!!壊れろ!!・・・・・・」
そう同じ言葉を呟きながら青い炎を使って殴る。怒りで殴っても壊れやしない。
おい・・・・・待てよ・・・・・何で壊れないんだよ?この壁を破れば魔王に挑めるんだぞ。
アルマリアに頼まれたんだ。リュミエールを守れって
先生から感謝されたんだ。「あの空を再び見せてくれてありがとう」って
見返すんだ・・・・・・魔族に指示をしている村民に・・・・・・
謝らなければいけないんだ。生きて帰って。ガイ叔父さんに
そして、最後に志和さんを思い出す。俺は元の世界に帰り・・・・・・・・アレ?
どうしてだ。彼女の顔が思い出せない。代わりに思い出すのは、ミスティの顔だ。
なぜだ。なぜだ。なぜだ。なぜだ。俺の彼女の志和さんの顔を思い出そうとするとどうしてもミスティの事を思い出す。違うんだ。お前は志和さんじゃない。性格も笑顔も何から何まで違うだから脳裏に浮かべてくんな・・・・・・・・・
俺は、この壁をミスティと思い浮かべ渾身の力で青い炎を繰り出す。これが俺の今ある力の限界だ。それを打ち込む。
「その顔で、・・・・・・・俺に近づくなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
激しい轟音と同時に地面が震える。やったか・・・・・・・?
だがそれでも透明な壁は壊れなかった・・・・・・
「そ・・・・・・んな・・・・」
俺は、膝をつき跪く。気が付くと騒ぎに気づき城から複数の魔族の人間が飛び出していた。
奴らは血相な顔で迫ってくる。
「いたぞ・・・・・賊だ捉えろ」
「我らに逆らう愚か者は殲滅だ」
魔族が俺に近づく・・・・・・今の俺は・・・・青い炎の使いすぎで力が入らない・・・・・・
もうだめだ・・・・・・
「アルマリア君!!捕まって」
突如として聞こえた声に俺は驚く。そして目の前には先程ミスティだと思って殴った壁から本物のミスティが突然現れた。彼女は黒い装束で俺に手を差し伸べる。
「早く」
俺は、最後の力を振り絞り彼女の手を掴む。手を掴むと不思議と彼女の手は温かかった。
そして魔族は城から透明の壁をすり抜けて現れる。
「くそどこだ?先ほどバカ騒ぎした馬鹿野郎がいないぞ」
「探せ。まだ遠くに行ってないぞ」
「我らをなめやがって~~~~~~」
魔族は、俺らの事を無視し四方に散る。どういうことだ?
奴らに俺らの事は見えないのか?
「こ・・・・・れは」
「しっあまり騒がないでね・・・・・・感づかれるから」
喋ろうとすると、彼女の指が俺の口を押さえつけた。そして・・・・・耳元に近づき小さな甘い声で言う。
「ゆっくりと行くよ」
「え?」
「ほらっ後で説明するから立って」
俺は重い腰を上げ、ミスティに連れられて道を引き返す。俺は抵抗する元気もなく彼女の手をつなぎながらこの場を去った。
俺はゆっくりと古城を振り返る。力を発散したせいか表情もなく眺め、ミスティに連れられこの場を後にした。




