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世界最強の力

 武舞台には、私とレイアス兵の男ひとりが上がっていた。他の者たちはここから降り、下で観戦している。どうやら私は、レイアス兵計十人と戦わなければいけないらしい。だが、一気に十人を相手にするのではなく、ひとりずつと対戦する方式をとられたのは、幸運であった。この剣の重量を考えると、十人という人数は多いかもしれないが、それでも、どうにもできないというわけでもなさそうであった。

(早め早めに攻めていけば……勝てるかもしれない)

私は、あまりにも重い剣を握る力を強めた。そして、私は静かにレイアス兵と向かい合った。

 対する男の身長は、私よりも低い。そのため、上からの攻撃はそうはないであろう。足元に気をつけてさえいれば、勝てそうな気がした。

しかし、私はレイアスが剣を持って戦う姿など、見たことが無かったため、いったいどれほどの腕を持っているのか、まったくわからなかった。

(強いのであろうか……)

男の構えからすると、弱くはないように思える。だが、それほど強いという印象も受けなかった。ラバース兵と同等……または、それ以下か。

「はじめ!」

審判の声にあわせて、私たちは動き出した。男は躊躇うことなく、一気に私の方に向かって切り込んできた。私は、それを剣で受け止める。すると、すかさず剣をいったん引き、別角度から斬りこんで来る。なるほど、動きが速い。この重い剣では、反応するのがやっとであった。

(選ばれた十人の兵士は、みな素早さ重視……か?)

それは、私にとって厄介であった。しかし本来、素早さなら私も負けてはいない。重い剣があっても、彼らと同等の速さくらいならば、少なくとも出せると思う。現に、今のところ全ての攻撃を受け止めていた。

「悪いが……勝たせてもらう!」

私は一気に決着をつけようとした。手に力を込めると、そのまま男に向かって走った。剣が重ければ、振り下ろすだけで相当な圧力を相手に加えられる。私は、上から剣を思い切り振り下ろした。すると、それを受け止めようとした男の剣は無残にも折れた。

「なっ……」

剣を失った彼に、なす術は無かった。私は、喉もとに切っ先を突きつけた。

「私の勝ちだな?」

国王は、唇を悔しそうに噛み締めていた。

「勝者……カガリ」

私は、確かな手応えを感じていた。そんな中、会場には街の住人たちの非難の声が広がっていた。しかし、それにいちいち傷ついている間もなく、次の相手が武舞台に上がってきた。ほとんど動かないうちに勝負を着けられた為、私の体力は少しも減ってはいなかった。

 どうみても、このままいけば私の勝つ可能性は高いのだが……ジンレートは、他にも何か策を用意しているのであろうか。それだけが、不安要素だった。


 そして私は、順調に八人を倒した。一人目同様、私はそれほど難を有せずに相手を倒すことができた。しかし、あまりにも簡単にことが進んでいることが、私にとって気持ちが悪くて仕方なかった。国王とジンレートが、このままで済まさせるはずがない。何かがあるはず……しかし、それが何であるのかが、わからないままであった。

 私は、国王とジンレートの顔を交互に見ていた。何やら余裕じみた笑みをこぼしている。そして、審判が舞台にあがった。

「第九試合。カガリ対ルシエル!」

「なっ……」

私は、そのコールを聞いて硬直した。今……なんと言った? 私は、信じられない面持ちで、武舞台に上がってくる人物を見ていた。その人物もまた、複雑な表情を浮かべていた。

「ルシエル……様」

師匠は、軽くため息をついていた。だから注意していたのにとでも、言っているかのように……。しかし、今さらそのようなことを言われても、どうしょうもない。それより、師匠と本当に戦わなければならないのか? 師匠に勝てるはずがないし、師匠だって、やりづらいはずであった。私と師匠は、浮かない顔をしながら向かい合った。

「はじめ!」

そう言われてもな……と、私は胸中で独り呟いた。師匠はどうするおつもりなのだろうか……と思い、下をいつの間にかみていた私は、ふと顔を上げた。すると、思いがけない事態になっていたのだった。あろう事か……師匠の剣が、私の眼前にと迫っていた。

「……っ!?」

剣で受け止める時間はないと思い、私は咄嗟に横に飛びのいた。体勢を崩した私に向かって、容赦なく師匠の剣は襲ってくる。師匠は、まるで容赦していない。ぎりぎりのところで、交わすことがやっとであった。

(本気でやり合うつもりなのですか? 師匠……)

私は、なかなか強く握れずにいた剣を握りなおすと、向かってきた師匠の剣を、はじめて受け止めた。そして、競り合いになる。

(師匠がその気なら……私も、本気でいきます)

勝てるとは思っていない。師匠と私との間には、測り知れないほどの力の差があると思っているからだ。けれども、私も男だ。例え相手が世界最強の男であっても、そう簡単に、負けたくはなかった。

 師匠は「世界最強の魔術士」。魔術の腕が最強ならば、剣の腕もまた、最強だった。そう、師匠は「完璧」な人間だった。

 このまま押し合いをしていても、私に勝ち目はないため、私はいったん飛びのいて、相手に間合いを詰められないように気をつけながら剣を構えた。師匠もまた、同じように間合いをとっている。

 自分の方から仕掛けたかった。今のように、師匠のペースで戦っていては、どこにも隙を見出せない。だから、私は仕掛けるタイミングを計っていた。しかし……どれだけ待っても、なかなかそのタイミングがつかめなかった。

(駄目だ……行けない)

そう思った瞬間だった。それが私の隙となってしまい、当然、師匠はその隙を見逃さなかった。

 一気に間合いを詰めると、師匠は切りかかってきた。なんとか初めの一撃は食いとどめたが、続いての第二撃が思いのほか速く、交わすことも受け止めることもできなかった私は、肩を斬られた。これが、この試合はじめての怪我となった。

 私は再び後退すると、斬られた肩口のところに手を当ててみた。思ったよりも深い。痛みがじわじわと押し寄せてきた。まだ、左の肩であっただけマシなのだが……しかし、この重い剣を傷ついた体で持つことは、困難であった。


 それでも、休む暇はない。私は、もう一度剣を構えなおした。


「うっ……」

私の体は、思い切り吹き飛ばされた。斬り込んだら、そのまま払われ、勢いよく吹っ飛ばされたのだ。私は、そのまま地に倒れた。

 師匠の攻撃はますます激しさを増していった。明らかに疲労している私と比べて、師匠は息ひとつ乱れていない。このままでは、私は一撃も与えることなく師匠に敗れる。

(何もないのならば、このまま負けてもいいんだが……)

もしも、私が負けたとたんに、何かが起きるのであるのならば……なんとしてでも、勝たなければならなかった。私は剣を支えにして、立ち上がった。

「……っ」

剣を支えに使っているというのに、足がガタガタと震えて、満足に立てない。先ほど吹き飛ばされたときに、膝を強打したようであった。それにしても、ただ剣でなぎ払われただけだというのに……私は、師匠の強さというものを、身をもって味わった。

 魔術士というものは普通、魔術に依存するため、剣などの武器の扱いはあまり得意とはしない人間が多い。ジンレートも、その類のひとりだと私は思っている。しかし、師匠は魔術がなくても世界一強いと思う。師匠には、何をもってかかっても、誰が立ち向かおうとも、一切通じないような気がする。いや、事実きっとそうなのだ。

(でも……勝たなければならないんだ)

まだ足が安定しないが、私は剣を持ち上げた。このまま剣を、体を支える為の棒に使っているわけにはいかない。なぜならば……師匠がまた、動き出したからだ。

「くっ……」

師匠が自分の間合いに入った……そう思った瞬間に、私は躊躇うことなく、師匠の急所を狙って剣を振りかぶった。これぐらいの気迫で臨まなければ、一生経っても一撃を与えることもできないと思ったからだ。しかし、そんな私の思いも虚しく、師匠はいとも簡単に、私の剣を受け止めた。それも……素手で、だ。重点を押さえられたのか。私は、押すことも引くこともできなくなってしまった。師匠はすまないというような顔をしながらも、次の行動に移った。ふと、師匠の髪が私の目の前を舞う。そして次の瞬間、腹部に激しい痛みが走った。

「……っ」

膝がガクリと力を失い、私はその場に崩れた。鳩尾に拳が入ったらしい。私は、息を吸おうと肩を上下させるが、なかなか空気を肺に送れずにいた。それどころか、何かがこみ上げてくる感覚がある。私は、耐えられずにそれをそのまま吐き出した。

「ごほっ、ごほっ……」

口元に手を当てて吐き出したそれは、赤かった。手のひらにべっとりとついたそれをズボンで拭うと、私は再び立ち上がろうとした。しかし、それは師匠によって阻まれてしまった。

「くっ……」

後ろから首を極められる。今度は、完全に私の呼吸は止められた。このままでは死ぬ。

「カガリ……」

師匠が、誰にも聞こえないくらいの小声で私の耳元に囁いた。

「降参しなさい。私は、お前に勝たなければならない」

(勝たな、ければ……?)

体の中の酸素が減ってきたせいか、私の意識は朦朧としてきた。

「国王に言われた。この勝負でお前を倒せと。さもなければ、お前を本当に処刑すると……」

(私を……処刑?)

師匠は、私のために今戦っているというのか? それならば……私は負けたい。私が負けても、街の人たちには迷惑がかからないのならば……私は負けを、喜んで選ぶ。私は自棄になって、師匠に勝とうとしている訳ではない。

「……ルシ、エル様」

私は、無理やり声を絞り出した。すると、私が降参しようとしていることを理解したのであろう。師匠の腕の力が弱まった。そして、声が出せるほどまでに弱められたため、私は審判の方に目をやり、敗北を宣言しようとした……その時であった。

「カガリ殿……」

それは、審判の言葉であった。私はまた、嫌な予感を感じた。

「この試合での降参は認めません。負けを宣言するのならば、街の人間をこの試合に参加させます。そして、ルシエル様。もしも、カガリ殿に敗れるようなことがありましたなら、その時は、それ相応の処置をとらせていただきます。これは、伝言です」

私も師匠も、一瞬動きが止まった。私が負ければ街の人間が……。私が勝てば、師匠は処刑されるかもしれない。私は、横目で師匠に意見を求めた。どうするのが最善なのか。いや、私の命などよりも、街の者たちの命の方が大事なのだから、迷うこともないのかもしれないが……。

(そう……だな。私が処刑されれば済むことだ)

でも、私が勝てば師匠が国王に……殺されることはないと思うけれども、それでも私は、選択ができずにいた。

 そのとき、先に動きを見せたのは流石に師匠の方であった。

「約束が違うな。そんな話は聞いていないよ」

そう言って、師匠は私の首から腕を離した。そして、厳しい眼差しのまま、剣を鞘に収めた。

「ルシエル……様?」

師匠は振り向きもしなかった。そのまま、武舞台を後にする。当然国王は、それを黙って見過ごしはしなかった。

「ルシエル。お前、どういうつもりだ!? 私に逆らうのか!?」

国王は激怒していた。私は、最悪な事態が起こらないよう、ただ祈ることしかできなかった。

「先に約束を裏切ったのはあなたの方です、陛下。私は降ります。これ以上は戦いません」

その宣言に、街の人たちはどよめいた。さきほどの審判の声は、おそらく私とルシエル様。そして、この武舞台の近くにいたレイアス兵ぐらいにしか、聞こえていなかったと思う。

このどよめきは、完全に優勢であったルシエル様が、突然試合放棄をすると言い出したことへの、驚きの声であった。


 私自身。師匠の行動には少し驚いていた。


「ルシエル様……」

「ルシエル、分かっているのか? カガリに負けるということは、お前に……」

ルシエル様は、なおも厳しい目で国王を見据えた。少しも臆することなく、国王と接している。それは、私にはできないことであった。あんな王……と思いながらも、私の中にはあの男を、「恐怖」としてみてしまう心がある。しかし、ルシエル様には、それはまったく感じられなかった。

「体罰でもなんでも、お与えになればよい。私は降ります」

そして、そのまま武舞台を後にしようとしていたのだが、師匠はふいに立ち止まると、私の方を向いた。そして、もう一度武舞台を上がると、私のところまで歩いてきた。

「これでは、あまりにも不公平です」

師匠は、手のひらを私に向けた。そして、意識を集中させている。

「癒しよ」

言葉と同時に、師匠の手から緑色の光が現われた。そして、それが私の体を包んでいく。それはとても暖かくて、気持ちがよかった。みるみるうちに、口の中に広がっていた嫌な血の味も消え、痛みも全てなくなった。これが、魔術の力である。人間の力を完全に超越した力であった。

「ルシエル、貴様……!」

師匠は、まだ退かなかった。師匠の持っていた剣を私に差し出してきて、代わりに私が渡された粗悪でやたらと重いこの剣を回収した。

「これで平等でしょう。さぁ、最後の試合を始めてください」

「……ルシエル様」

師匠は、私にしか分からないくらいの小さな微笑を残して、この会場を後にしていった。これだけ国王に喧嘩を売れば、ただではすまないであろうに……。

 この光景を、街の人たちはどうとらえていたのだろうか。それが少し、気になった。



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