表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

卑劣な罠

 夜になると、いっそう街は騒がしくなった。出店の数が増え、人の出入りも激しくなっていく。私は、人ごみが嫌いというわけでもないのだが、どうも街に下りようという気にはなれなかった。


 昔は憧れていた。街で開かれる大規模な祭というものに……。私の村でも、祭事は度々行われていた。けれども、この街で行われているものとはどこか違った。一番の違いは、村の者以外の出入りはないということ。それだけ私たちの世界は狭かったのだ。


 いつかは一緒に、大きな祭へ遊びに行こう。


それが、弟のハルナや、友達と交わしていた約束であった。しかし、彼らがみな死んだ今となっては、どうやっても果たされることのない約束となってしまった。

(……うるさい)

そう思うと、さらに祭の音が耳障りになってきた。私は耳をふさぎ、必死になって音から逃げようとした。けれども、そうすればするほど、音は大きく聞こえるようになっている気がするんだ。


 とうとう耐え切れなくなった私は、早々と寝ることにした。


 いつもならば、祭の季節になっても憂鬱にはなるが、これほど苛つきはしなかったのだが……。おそらくはジンレートが、家族のことを思い出させたからであろう。約束のこともそうだが、彼らがいないという現実をつきつけられた。それに……。

「くそっ……」

母上と父上のことを……私のせいで、悪く言われてしまった。何も悪くない私の両親を愚弄するとは……許せない。けれどもそれ以上に、奴にそう言わせてしまう程の原因がある私の存在に、うんざりした。

これほどまでに怒りを感じている私の前で、楽しそうににぎわう祭の音は、ただの嫌味でしかなかった。これが私の八つ当たりだということはわかっているが、それでも腹が立ってしかたなかった。


 そして横になっていた私は、いつのまにか眠りについていた。


「起きてください。カガリ様」

まだ頭がぼーっとする。私は、むりやり現実の世界に引き戻された。戻した男はこの城に使える兵士。兵士といっても、ラバースのような戦闘中心の兵士ではない。ただの国王の家来。世話役。それから、不審人物が城内に入り込んだときに機能する役所だ。

「なんだ……何か用か?」

私は朝が苦手だった。体がとにかくだるくなる。重い体を起こすと、私は一度伸びをした。そして、いつもの上着を着る。

「国王様が召集をかけていらっしゃいます」

「国王が?」

今度は何をさせるのか……。王の召集に、ろくなことはない。私は露骨に嫌な顔をしていた。それでも、行かないわけにはいかず、私はしぶしぶ国王の部屋へ向かった。

 祭の時期に召集がかけられるとは……。私が城に入ってからは、ないことであった。たいてい私は、毎年城内の警備にあたっていた。


「集まったか。実は、今年の祭では、ある企画をしようと思ってな」

(……企画?)

私は妙な不安に駆られた。この男が企むことなど、どうせよからぬことに決まっているのだ。街の人間に危害を加えたりはしないであろうか。それが心配だった。

「レイアスの人間と、街の人間を戦わせてみようとな」

「なっ……」

私は思わず声をあげてしまった。嫌な予想は的中なのだが……。まさか、このようなことを考えていたとは……考え及ばなかった。

レイアスに、一般市民が勝てるわけがないではないか。魔術士に、ただの人間。それも、武芸のたしなみのない人間が立ち向かったところで、大怪我もしくは、命を落とすに決まっているではないか。こんなこと、賛成するわけにはいかない。

「陛下。そのようなことはおやめください」

私は前に出てそう申し上げた。レイアスの連中は、嫌な笑い声を上げている。このような人間の心を持たない魔術士を、市民を戦わせるなんて、絶対に許せない。

「反対するのか? カガリ。国王陛下自らのご提案であるぞ?」

ジンレートだった。もしかすると、昨日のことを根にもった彼が、国王に提案したのかもしれない。このようなことを提案すれば、私が歯向かうことを知っているから……。街の人たちを利用するなんて、いったいどこまで卑怯なんだ。情けない。このような男たちが、国を支えているなんて……。

「……賛成できません」

私は、諦めなかった。

「ほう……よいであろう。ならば多数決というのでどうだ?」

「多数決?」

そんなもので、私に勝てるはずがないではないか。私につくということは、それすなわち国王に反論することであり、また、ジンレートを敵につけることになるのだから……。この城にいる人間には、そのような行為はできない。私は、なす術がなくなってしまい、押し黙った。

「どうした? 自信が無いのか?」

自信とか、そういうレベルの問題ではなかった。何か、もっと確実な方法を探さなければ、なんの罪もない人の血が流れてしまう。多数決以外の決定を提案しなければ……私の負けだ。私は、焦った。早く答えを見つけなければ、この案が通ってしまう。

「なんだよ、カガリ。黙っちまって。そうだよな? お前に味方する奴なんていないからな?」

ルシエル様ならば、迷わず私の味方についてくれると思うのだが……。あいにく今日は、以前から別の地で任務があると言っていたから、この場にはいないようであった。

「……陛下。お願いします。どうか、街の人たちを危険にさらすような行為だけは、しないでください。民が傷つきます。肉体的にも、精神的にも……」

国王は、私の意見などバカバカしいという感じで、まったく聞こうとはしなかった。どうして、あたりまえの心を持てないのだろうか。このような男の気持ちなんて知りたくもないが、なんとかしたいとは思った。


 結局私には、許しを得ることなどはじめからできなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ