友達
人はいつどんなとき、どう生まれ変わるか分からない。
「待て、コノヤロー。」
「た、助けて~。」
どんな荒くれ者でもそれは平等にやってくる。
夕焼けに染まる河原に腰をおろす少年がいた。
ークソ、あのヤロー。
先ほど追いかけていたのは、どうやら彼である。
腹いせに小石を川にまとめ投げ。
「怪助。」
声のした方を見上げると、ジャージに短パン姿、黒の短髮の小柄な少女が立っていた。
「結。」
「ごめんね、ありがとう。」
気にするなと、首を振りつつ妖島怪助は立ち上がる。
「俺の荷物。重かっただろ?」
こっちに近づいてきた淡島結のフラフラの原因がわかった。
彼女に手を出した男、それを剣道の防具を付けたまま竹刀片手に追いかけた結果だった。
「後、これも。」
荷物を置いた結がバックからジュースとカレーパンを取りだし彼に渡した。
「おいおい、わざわざ買って来てくれたんだ。ごめんな。」
二人はまたその場に腰をおろす。
「お腹すいてるだろ、喰えよ。」
「え、でも。」
「荷物運んでくれたんだし、疲れすぎて逆に喰いきれねぇよ。」
結は半分にされたカレーパンを素直に受け取った。
私立山吹高校、怪助達の通う県内でも有名な高校である。
「おう、おはよう。がのめ、公太。」
「いきなり、後ろからどつくとはどんな神経してんだよ。」
冷ややかなツッコミを入れた彼はがのめ。本名は荒雅野元、縮めてがのめだ。
「そうだぞ、ほらボールが落ちた。」
次はボールを拾いながら時雨公太がツッコミを入れた。
「いいじゃねーか、ほんのあいさつだよ、あいさつ。」
そう言って怪助は先に行く。
この彼の態度は今に始まったものではない。それは二人だけでなく結も知っていることだ。
「おい、あれ見ろ。」
先に行った怪助いきなり立ち止まり目の前を指差す。
二人も何事かと見てみると、猫が横たわっている。
「どうした、怪助?猫がどうかしたか?」
「公太、お前確か薬屋の息子だったな。」
公太の家は江戸時代から続く名高い老舗の薬屋である。
「それがどうした?」
「だったら例えこんな小さな命でも救いてぇと思わねぇか?」
怪助は公太の目を見つめた。
そこからがのめを入れた三人の猫の救出作戦は開始された。
とはいえ、遅刻は遅刻。当の猫もただ腹が減っていただけだった。
「すまん…二人とも。」
「いや、気にすんなよ。俺もお前の一言で目が覚めた。」
放課後の部活帰り、朝の二人と一緒に帰った。
「そうだ。それに、そんな言い方お前らしくない。なんなら、どつき返してやろうか?」
馬鹿いえと、笑いながら数分歩いて道が別れる。
「じゃあな。」
手を振り向き様空を見ると東の方に月が光りつつあった。
ーとん、とんとん。
怪助の家は純和風の2階建て。夜は雨戸を閉める。今怪助の部屋のそれが突然鳴り始めた。
「あ…オヤジ。呑んで帰って来やがったな。」
寝ぼけて独り言を言ったのが良かったのかあることに気づいた。
ー待て、ここは2階だ。
怪助の部屋は二階。怪助の父親は商売柄呑んで帰って来ることが多い。だが今までにこんなことはなかった。
では、これはいったい。
おそるおそる雨戸に手をかけた。するとそこにいたのは、
「お前、昼間の。」
猫、昼間は気にしなかったがまるで今の闇の一部と思えるほど黒かった。そのため、一瞬目の輝きに驚いた。
「夜分すみません。」
怪助は雨戸を閉めた。
ーなんだこの状況は?
また、開けてみた。
「昼間は…。」
ーパタンッ。
ーマジだ。
開けた。
「お前なのか?」
「はい。昼間は助けていただきありがとうございました。」
これによって何故か怪助は何かが吹っ切れた気がした。
「お前ってその、なんだ、その妖怪ってヤツか?」
「はい。化け猫の響蘭と申します。」
響蘭は聞いたわけではないが自分のこれまでを話始めた。
生まれた頃から親が居らずそのためそのときから全国を旅するようになった。
だが、それは楽なものではない。野良との喧嘩はもちろん、今日のような空腹で倒れたこともあったそうだ。
「みなしごとは可哀想に。」
「でも、いつか両親に会えること信じてやってるので苦ではありません。」
強がっているようだが、明らかに涙声だった。
「そ、そう言えば…ご恩返しに何か一つやってほしいことをいっていただけませんか?」
怪助は一瞬よぎるものがあった。
―ばあちゃん。
「響蘭、妖怪に良い奴っているのか?」
「それは、どういう。」
「いや、なんでもない。ただ、友達になってくれよ。」
―こんなのに、悪い奴はいるはずない。
「いいんですか?俺なんかで。」
怪助は静かに頷いた。
響蘭の旅は一時の休息を迎えた。
小学校の頃から妖怪が好きだったので書いてみました