鬼のような冬子さん
季節は巡ります。
春が来て夏が来て秋が来て冬が来て。それが何回も来ると、何年もたちます。
長女の春香姉さんは、大学を卒業して学校の先生になっています。
次女の夏美姉さんも、大学を卒業して柔道の出来る会社に入りました。
三女の秋代姉さんは、高校を卒業した後、そのまま銀行で働き始めました。
四女の冬子さんは、今年ようやく高校生になりました。
相変わらずだんまりな冬子さんは、学校での友達が増えません。けれど余り気にしていません。
そんなある日、春香姉さんが泣きそうな顔で晩ご飯を作っていました。まだ、夏美姉さんも秋代姉さんもお父さんも帰ってきていません。
そんな春香姉さんのところへ、冬子さんはとことことやってきて、珍しく口を開きました。
「春香姉さん、ご飯の作り方を教えて」
「どうしたの冬子、突然」
泣きそうだった春香姉さんは、びっくりして妹に理由を聞こうとしました。
「いいから教えて! 私はやりたいようにやってるの! 教えてくれるの? くれないの?」
しかし、冬子さんが怒り出しそうになったので、慌ててまな板の前に立たせました。春香姉さんは、はらはらしながら冬子さんに包丁を持たせました。これまで、家のご飯はみんな春香姉さんが作っていたので、冬子さんにご飯の作り方を教えたことはありませんでした。
ガタンゴトンと不器用に、冬子さんは野菜を切っていきます。その日から、毎日冬子さんは春香姉さんと一緒に晩ご飯を作るようになりました。
半年後、何とかまともなご飯を冬子さんが作れるようになった頃。
春香姉さんは、お嫁に行きました。冬子さんが、家を心配してなかなかお嫁に行こうとしない春香姉さんを、怒って追い出しました。ひどい妹です。
次に冬子さんは、秋代姉さんから掃除と裁縫を習いました。きめこまやかで丁寧な掃除と縫い物を、冬子さんは怒りを我慢しながら身につけました。
取れたボタンも、簡単に冬子さんがつけられるようになった頃、秋代姉さんはお嫁に行きました。
「大丈夫? 大丈夫?」と心配そうな秋代姉さんを、またも冬子さんは怒って追い出しました。鬼のような妹です。
そして次に冬子さんは、夏美姉さんに──夏美姉さんに習うことは何もありませんでした。夏美姉さんは洗濯をしていましたが、いまの洗濯機はボタンを押すだけで簡単に服を洗ってくれたのです。
夏美姉さんは、長くお嫁にはいきませんでした。冬子さんが大学を卒業する頃まで、浮いた噂もありませんでした。冬子さんは夏美姉さんを放っておきました。
ある日、夏美姉さんが冬子さんにこう言いました。
「嫁に行っていい?」
冬子さんは怒りながら答えました。
「行けばいいじゃない!」
冬子さんは、コンピュータの会社に仕事が決まっていました。心の中でばかり考えることが好きだった冬子さんは、心の中でコンピュータとも語り合える娘に育っていたのです。風変わりな冬子さんでも、その機械は気にせず受け入れてくれました。
大の男でも投げ飛ばすような夏美姉さんが、見慣れない白無垢を着てお父さんと冬子さんの前で手をついています。
「お父さん、長い間ありがとうございました。冬子も、本当にありがとう」
「泣いたら目の周りがパンダになるでしょ! 気持ち悪いからやめて!」
せっかく夏美姉さんが、珍しく丁寧に挨拶を言おうとしたことも、冬子さんの怒りで台無しです。どうしようもない妹です。
そうして。
ひどく、鬼のような、どうしようもない冬子さんは、お父さんと二人で暮らすことになりました。