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彼女による彼女のための彼女だけの陰謀

作者: 劉龍

また、朝が来た。


朝は嫌いだ。


凡庸で退屈で代わり映えのしない日々がまた始まるのかと思うと、本当に辟易する。


そう思いながらも何にもしない自分に失望する毎日を過ごしていた。


朝になったら起きて、学校で授業を受けて、帰宅して寝る。


よく、『いつも大切なものは失ってから気付く。ありふれた日常こそが大切なものだったんだ。』とかなんとか言ってるけど、その模範回答みたいな正論なんかくそくらえだ。


反吐が出る。


そんなもの私は望んでなんかいない。


そんなありふれたものに価値なんて何一つ無い。


誤解されてたら困るから言うが、別に私自身学校が嫌いというわけでは無い。


寧ろ好きだと言っても差し支えない。


私は『学校』というシステムが嫌いなだけだ。


友達風の人間関係を築き、みんな仲良しみたいな生温い空気が気に食わない。


所詮、人間は本質的には孤独。


人間同士はどうあったって理解しあえることなんて決して無い。


『私達の絆は決して壊れることは無い』なんて詭弁だ。


実際それが為し得るのは、物語の中だけで、人と人との絆なんてちょっと突くだけですぐに崩壊するような余りにも脆いものだ。


それこそ詭弁だ、なんて言われるかもしれないが、実際それが現実で、残酷なまでに真実だった。


どうしてその日だったのかは今となっては思い出せない。


ちょっとした好奇心だった。


本当に微かな揺さぶりをかけただけの筈だった。


ただそれだけのことで、昨日まで見ているだけで吐き気を催すようなバカップルが、10年以上の付き合いがあったらしい幼馴染み達が、いとも簡単に険悪な雰囲気になり終いには互いに互いを憎むそんな関係になった。


楽しかったし、気持ち良かった。


ざまぁみろとさえ思った。


結局、絆なんか仮初めのものなんだと、自分自身の手で証明できたのが何より嬉しかった。


自分の人生が初めて灰色以外の色に染まった気がした。


今までの日々はどう足掻いても、平凡であったと確信できた。


どうして今までこんなに面白いことをしてこなかったのだろうと後悔した。


人の不幸は蜜の味、なんてよく言ったものだ。


まぁ、蜜なんてレベルじゃないけれど。


寧ろ中毒性の高い麻薬と言っても過言じゃない。


皮肉なものだけど人を不幸に陥れたその日から、私は自分が不幸だと思うことも無くなった。


この世界の幸福と不幸の量は等しいのかもしれない。


誰かが自分が幸福になるために誰かを不幸にする、それは普通にどこにでもあることだった。


その事に気付いた日から、私は自分の幸福の為に他人を不幸にすることに躊躇わなくなった。



手始めに、同じ学校のやつらから陥れてみた。


だけど、関係が稀薄過ぎたせいか徐々にどんな関係性を壊しても悦びを感じられ無くなった。


考えてみたら当たり前のことだった。


自分となんの接点の無い相手だと、相手の反応が見えづらいから楽しみは減るのだ。


それから、徐々に関係性の濃い人物を選んでいった。


相手の自分への信頼度の高い人物ほど反応が見えやすく、得られる快楽は大きくなった。


とはいえ、一年も続ければ学内の関係は愉しそうなのは壊し終えてしまった。


私は、またあの退屈な日々に戻るのかと落胆していた。


私の世界は再び灰色に染まった。


そんなある日、面白い場面を見かけた。


生徒と教師の不倫。


歓喜した。


今までで最も愉しそうな話だった。


間違いなく今までとは違い、今回のものは他人の人生を狂わせる程のものだから。


ゆっくりじっくり準備した。


何せ、生徒と教師の恋だけでは無い。


不倫だ。


私の求めていたインモラルな関係だ。


家庭崩壊にも繋がる素晴らしいネタだ。


別になんの恨むも無いし教師には悪いと思ったが、これを使う以外道は無いと思った。


そもそも、奥さんを放っておいて生徒と関係を持つ方が悪い。


準備に三ヶ月かかった。


でも、時間をかけただけあって自分の中で最高の完成度を誇るものに仕上がった。


夏休みに入る前日の朝、全てを公にした。


廊下に無数に貼った壁新聞。


校長宛に送った匿名の配達物。


事件の渦中の教師は退職し、奥さんとは離婚した。


生徒は世間体を気にして遠くの土地に引っ越していった。


もう笑いが止まらなかった。


教師の絶望に染まった顔が、生徒の泣き出しそうな顔が、私に悦び与えてくれた。


計算外だったのは一人の教師に見破られたことだった。


ただ驚いたことに、その教師は私の行為を止めるどころか、推奨し、手を貸してくれるとさえ言ったのだ。


始めは疑心を持って接していた私も、彼の驚異的な情報収集能力に警戒心をといていった。


それが間違いだった。


その男が私に近づいた目的は、とある女子と一緒に私を嵌めるためだった。


復讐だったらしい。


気付いた時には手遅れだった。


完全に嵌められた私は、その学校を離れることを余儀なくされた。


だけれども、私は嵌められたというのに別に悔しいとか思いは無かった。


寧ろ嵌められたことさえ愉しんでさえいた。


私はどこか壊れてしまっていたのかもしれない。


でも、そんなこと今の私にとっては些細なこと。


そう、些細なこと。


これからも私は他人を不幸にする。


自分の幸福の為に…………


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