婚約者を断罪していたら、ずるいずるいと言う妹が乱入してきて婚約破棄が無くなりました
婚約破棄ものの断罪シーンを読んでいたら、頭の中に「ずるいですわぁ」と言う幻聴が聞こえて来まして……
卒業パーティの最中、赤い髪をまとめたサリナス=グルイエール王子は一段高い所に上った。
ここは卒業生と、そのパートナーとして招待された者達が集うパーティ。彼らは皆、サリナスが何をしようとしているのか注目していた。
サリナスは決意を黄金の瞳に秘め、今から重大なことを発表しようとしていた。
後ろにはふわっとしたピンク色の髪を結いあげ、零れ落ちそうなピンクの瞳に不安をたたえたリリィ=オコーナーがいた。
庇護欲をそそる雰囲気で、黄色いドレスに身を包み、サリナスの後ろに隠れながら、リリィはついて来ていた。
「我が婚約者、マグダレーナ=ヒルシュよここに。」
サリナス王子の声は、張り上げているわけではないが、辺りに響き渡る。
その声の余韻が消えぬ間にマグダレーナがサリナス王子の前に進み出て来た。
彼女は金色の髪を縦ロールに綺麗にカールし、きりりと吊り上がった紫の瞳を地面に落とし、サリナス王子に畏まっていた。
「マグダレーナ=ヒルシュ、御前に。」
マグダレーナの声も、静かではありながら、会場全体に届いていた。
「お前は我が愛するリリィ=オコーナーを虐めたな。」
声高に責めるサリナス王子。
「心当たりはございません。」
平然とするマグダレーナ。
耳をそばだてる会場の者達。
「嘘をつくな。お前はリリィの足を引っかけ、転ばせたではないか。しかもその時、『足元にお気をつけなさい』と捨て台詞を残したとか。」
平然と返されたことに苛ついたのか、少し声が強くなっている。
「あれはオコーナー嬢が足元の段差に躓いてこけたのです。ですから、『足元にお気をつけなさい』と注意したのです。」
それを知ってか淡々と返すマグダレーナ。
雰囲気としてはマグダレーナが少しリードか。
「ではリリィの制服をびりびりに破いて汚しただろう。リリィは変えも無く、その服で登校するしかなかったのだぞ。」
それならばとサリナス王子は声に力を籠める。
責めているよりもその後の惨事を言い聞かせているようだ。
「私ではございません。制服を汚したことも、破いたこともございませんわ。」
少し呆れているマグダレーナ。
「リリィにプレゼントした宝飾品も壊したな?」
それならばと言い募るサリナス王子。
「宝飾品をプレゼントしましたの?」
マグダレーナは少し驚いているようだ。表情を変えさせたかったのならば成功だろう。
「しらばっくれるな! 壊された物以外も奪われたと言っている。お前が奪ったのだろう!」
「人が贈られた物を奪うほど、宝飾品に不自由しておりませんわ。」
マグダレーナは静かに否定している。目は冷ややかだったが。
高位貴族の令嬢が、わざわざ他の者の宝石は奪わないだろう。
「認めぬのだな。リリィはお前がやったのではないとかばっているが、こんな事お前以外に誰がやるのだ。私とリリィの仲に嫉妬したお前がやったことだろう。」
言いながら、サリナス王子はリリィの肩に手を置き、自分の方に引き寄せた。
「もともと私たちの婚約は政略で決まった事、別にサリナス様がどなたと付き合おうが嫉妬など致しません。」
そう言うと扇を広げて口元を隠した。
「なにを「ずるい、ずるいですわぁ。」
サリナス王子とマグダレーナのやり取りをやけに甲高い声が遮った。
「そんなかっこいいお方の隣に立つだなんて、お姉さまずるいですわぁ。」
栗色の髪をくるくるに巻いて、フリルが沢山ついたピンクのドレスを纏った少女がサリナス王子の側へと近寄って行った。
「まぁ、かっこいい方。わたし、このお方を好きになってしまいました。お姉さまぁ、わたしに下さいな。」
両手を組んで、サリナス王子を見つめた後、サリナス王子がリリィを抱いているのとは逆の腕に抱き着き、少女はリリィに話しかけた。
あまりの行動に、固まっていたサリナス王子も、リリィに尋ねる。
「リリィ、これはお前の知り合いか?」
「これなんて言わないで下さいぃ。わたしの名前はポリーですぅ。」
サリナス王子にぐいぐいと迫るように、姉リリィよりも豊かな胸をポリーはサリナス王子の腕に押し付ける。
サリナス王子は腕を引き抜こうとするが、引き抜けない。
「ポリー、何故ここに来たの?どなたかと一緒に来たの?」
リリィはポリーが現れて以来混乱しているようで、サリナス王子に答えず、ポリーに尋ねた。
「お姉さまがぁ、一人だけパーティに行ってずるいからぁ、お父様とお母様に連れてきてもらったのぉ。」
「このパーティは卒業生か卒業生に招待されたパートナーしか入れない筈だが。」
「入れたわよぉ。」
無邪気な答えに、責任者らしき男の顔が赤くなり、何人かのボーイの顔が青くなる。
「お姉さまぁ、綺麗なドレスを着てずるいですわぁ。私に下さいなぁ。」
サリナス王子の腕を離し、ポリーはリリィのドレスを脱がそうとする。
「何をするんだ、リリィのドレスが破れてしまうぞ。」
サリナス王子が止めようとするが、ポリーは止まらない。
「構いませんわぁ、お姉さまが私にくれない服なんて、全部破れてしまえばいいんですわぁ。」
力ずくで脱がそうとするポリーと脱がされまいとするリリィ。生地が悲鳴を上げている。もうすぐ生地が破れそうだ。
「まさか制服もそうやって破いたのではあるまいな。」
あまりの乱暴ぶりに、ボロボロになっていた制服を思い出した。
「制服ぅ? この前お姉さまがくれなかった服がそんな名前だったわねぇ。あの服はお父様やお母様も駄目だって言ったから、念入りに破いてやりましたわぁ。」
言いながら思い出したのかドレスを大きく破こうとする。
「なんだと、学園にはあの服でなければ着ていけないんだ。リリィは仕方が無く破れた服を着て、学園に来ていたんだぞ。」
ボロボロの服でも替えが無ければ着てこなければいけない。あまりにひどかったので、学校に遭った予備の制服をサリナス王子が渡したのだ。
「あらぁ、お姉さまなんてぼろ雑巾の服がお似合いだっていつもお母様が言ってますわぁ。」
不意に会場内の空気が凍る。この国では、子どもの虐待は重罪だ。例えなさぬ仲の子供と言えど、家の暮らしにあったの衣食住を整え、ちゃんと育てなければいけない。妹がこれだけのドレスを纏っているのに、ぼろ雑巾のような服で育てるなど許されない。
「ぼろ雑巾の服がかい?」
サリナス王子が確認するように尋ねた。
「ええ、ぼろ雑巾の服と残飯がお似合いよ~ってぇ。」
確定だ。ぼろ雑巾の服もだが、貴族の家で食事が残飯は無い。
会場中の見解が一致した。
「君の髪につけている飾りも素敵だね、どうしたんだい。」
髪飾りが以前リリィに贈った物とよく似ていると気づいて、サリナス王子は尋ねた。
「これはお姉さまの部屋にあったから貰ったのぉ。こんな綺麗な髪飾り、お姉さまが持ってるなんてずるいでしょう?」
ドレスを掴んでいた手を片方外して髪飾りを良く見せようとする。
服を破られる心配が無くなったリリィは服を整え始めた。
「そうかい、君に良く似合っているね。君に似合わなかった飾りも有っただろう?」
「私に似合わない物はいらないものぉ。ちゃ~んと壊してあげたわぁ。」
それを聞くとサリナス王子は頷いた。
「そうか、他にもいろいろ話してくれるかな?ここを収めたらすぐに行くから、先に部屋で待っていて欲しい。」
「いいわよぉ。早く来てねぇ。」
ポリーを部屋の隅にいた騎士に任せると、貴賓牢へと指示し、マグダレーナへと向き直った。
「マグダレーナすまなかった。私が間違っていた。」
サリナス王子はマグダレーナへと頭を下げた。
「サリナス様、謝罪を受け入れますわ。」
マグダレーナは扇を閉じると、笑顔と共に綺麗なカーテシーをして見せた。
「では、ここの事は任せても良いか?」
「はい、お任せください。」
マグダレーナは頷いた。
サリナス王子は会場を辞し、マグダレーナはリリィの側へ寄った。
「マグダレーナ様、申し訳ありませんでした。家でのことは喋らないようにきつく言われており、マグダレーナ様がやったのではないと言っても信じてもらえもらえませんでした。」
リリィは涙をためたままマグダレーナに謝った。
「構いません。サリナス様の暴走でしょう。真実はあなたの妹さんが話して下さいましたし、婚約破棄は次の暴走まで待たなければいけない様ね(ボソッ)」
「じゃあ次が楽しみだな。」
「えっ次は無いだろう、無いよな。」
マグダレーナの呟きの後、二つの言葉がどこからとなく聞こえた。
「貴方は、どうなりたいの?」
「はい、サリナス様の妾になって、破れていない服と暖かいご飯が食べられるようになれば、と。」
「そう。妾になれるかどうかはサリナス様次第ね、それまでは私の屋敷で働きなさい。」
「いえ、そんな、ご迷惑で「破れてない綺麗な服と暖かい食事を提供」有難うございます。心を込めて働きます。」
「では細かい事はこれから話しましょう。皆さんお騒がせしたわね。この後楽しんでくださいな。」
そう言うと二人は会場から出て行った。
そして婚約破棄の主役たちは全員退場し、パーティは平穏に戻った。
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