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 ということは、朧月に言われてバカ正直にやってきてくれたのかもしれないが、妖怪たちの口調と楼主から漣音の人となりを聞いている私は、出来れば見つかりたくなくてこっそりその場から立ち去って漣音をやり過ごそうとしたのだが、そんな私を目ざとく漣音が見つける。


「見つけた。どうして逃げるんだい?」

「……」


 私ではない。こんなにも端女郎が居るのだ。私な訳がない。そう思って顔をあげなかった私の前に影が落ちた。


 そして次の瞬間には目の前に端正な顔のどアップがある。


「君だよ。小春でしょ?」

「……はい」


 顔を覗き込まれて確認までされたら頷かざるを得ない。


「朧から聞いた。本当は人間の為に僕がそこまでしてやる義理なんて無いと思ってたけど、楓雅が人間を抱いたって聞いてね。少し興味が湧いたんだ」

「はあ……いえ、そんな無理はされなくても大丈夫——」


 嫌味気な口調の漣音に思わず私が言い返そうとすると、漣音はこちらの意見を最後まで聞かずに話し出す。


「無理はしていないよ。言ったでしょ? 楓雅が人間を抱いた。それを聞いた直後に本人から連絡があってね。小春を抱くなって。そんな事を言われたら興味が出ない訳がない。だから抱く抱かないは別として顔だけ見に行こうと思ったんだ。でも君、思ったよりも薄汚れているね」


 私を頭の先からつま先まで見下ろして漣音はそんな事を言うが、それは間違っていない。雑踏の中を這ったせいで髪は乱れ化粧は崩れ着物は泥だらけだ。


「……すみません」


 何ていうか……うん、面倒そうな人だ。私はそんな言葉を飲み込んで渋々頭を下げた。そんな私に漣音は言う。


「まぁ顔を見られたから良しとしよう。ところで楼主の所に案内してくれない?」

「へ?」

「なに? 買うか買わないかは分からないって言ったよね?」

「……それは買わないという方向で良いですか?」


 ただのお使いとして使われるという事? そう思いつつ漣音を見上げると、漣音は曖昧な反応をして歩き出す。


「僕は朧や楓雅のように簡単にそういう事はしない。こういう事はとてもデリケートな問題だ。きちんと話し合い、互いの人となりを知ってそれから——」

「えっと、こちらです」


 何だか長くなりそうなので私は遊郭を指さして歩き出すと、その後を漣音は特に文句も言わずについてくる。


 そんな私の後ろから端女郎達が追い打ちをかけるように笑い出した。


「泥に塗れて道案内させられるだけって! ウケる!」

「笑っちゃ悪いよ! まぁいくら誰かに言われてもあんなの抱きたく無いよね。分かる」

「顔が可愛くてもあの体型じゃね~」

「あの小ささはちょっと普通の感性じゃ無理だよね」

「……」


 もう好きに言ってくれれば良い。この体は生まれつきだ。それを今更嘆いても仕方のない事だし、彼女たちがそんな些細な事で嫌味を言ってくる気持ちも分かる。ここは戦場だ。私達はここに居る間は誰かしらから生気をもらわなければ生きてはいけないのだから。


「君はもしかして物凄く嫌われているのかな?」

「そう、ですね。多分」

「多分。なるほど。その認識はあるけれど現状を変えたいとは思わないという事かい?」

「はい。私はここに友人を作りに来た訳ではないので」

「それはそうかもしれないね。彼女たちもあんな風に話していてもきっと裏ではまた誰かの文句を言っているんだろう。そういう意味では君のように割り切ってここに居る方が幸せかもしれない」

「そう思います。変に仲良くなって誰かの陰口を聞かされたり言わされるのは嫌です。それなら一人の方が断然良い」

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