『西瓜』
どうしてあんなに気持ちが悪いのだろう。
赤い、一面の赤、に、整列する、虫、のような、黒。まるで貴方の断面図みたい。そう言ったら、貴方は笑った。わらった。
今年の夏は暑いから、裏の湧き水の、あの冷たさは貴重だった。貴方が持ってきた西瓜はあまりにも大きくて、冷蔵庫の扉が閉まらない。だから湧き水の桶に入れておくしかなくて、だけど大きいから、他に何にも冷やせなくなってしまった。西瓜は大嫌いだって私はちゃんとそう言っておいたのに、貴方はたぶん覚えていない。
「アレ、おばちゃんおらんと」
「おらんよ。集会あるち言うたやん」
「それやったらやあ」
貴方が顔を近付ける。汗ばんだ肌が触れ合う、ねちゃ、という感触がとても不快で、ぞくぞくするから、私は目をつむる。息苦しくて開いた唇に、やっぱりねちゃ、という感触がして、生温かい舌が這入ってくる。湿って張り付いたシャツを引き剥がすように脱がされる。うつ伏せに押し倒される。私は畳の縫い目をずっと見ていた。
あちこちべとべとになった私をティッシュで乱暴に拭って、最後に自分自身をしまうと、貴方は西瓜を食べようと言った。
「皿やら用意しようけん、持ってき」
貴方が放り出した、いろんな液体に塗れたティッシュを手早くまとめながら、私は言う。貴方は珍しく素直に従った。汗染みの残った畳を眺めて、貴方の姿が消えてから、私は溜息を吐く。あからさまなその痕跡を、どうやって誤魔化そうか。のろのろとシャツを着る。ねちゃ、という感触。貴方の感触。私は溜息を吐く。
「持ってきたばい」
台所までの道のりが億劫でぐずぐずしているうちに、息を切らして、両手いっぱいに西瓜を抱えて、貴方が戻ってくる。その満面の笑みに、急に何もかもが面倒になる。私は畳の汗染みの辺りを指差して、西瓜を置くように言った。貴方の笑みが深くなる。
適当な棒がなくて、おもちゃのバットで代用した。手拭いも見当たらず、仕方なく貴方の手で目隠しをしてもらう。弾んだ声で右とか左とか言う度に指の隙間が開いて、目隠しの意味がなかった。プラスチックのバットは脆過ぎてすぐにひしゃげる。私はそれを何度も何度も振り下ろした。鈍い手応えがあって、貴方が歓声を上げる。飛び散った汁で、畳の染みが覆い隠される。私は満足して、それから、西瓜を見て気持ち悪くなる。一面の赤。虫のような黒。
「まるで貴方の断面図みたい」
そう言ったら、貴方は、笑った。