第七話「JBBF本番・親御さんに見てもらう日」
会場はちびざっぷジムのメインホールだった。
入った瞬間、空気が違った。
熱い。うるさい。プロテインくさい。
保護者席が満員だった。全員でかい。全員首がない。全員目が本気だった。
(お遊戯会の保護者席じゃない。これ完全に観客席だ)
司会の兵士がマイクを持って立っていた。
「本日はJBBF年中の部にお越しいただきありがとうございます!!」
割れんばかりの拍手が起きた。
俺は小声で尚飛に聞いた。
「な、なんでこんなに盛り上がってるんだ」
「バブ(年中の部は初めて我が子の成果が見られる日だからな)」
「そういうもんか」
「バブバブ(あと賭けもある)」
「賭け!?」
「バブ(我が子のBIG3記録予想だ。外れると罰ゲームで3日間トレーニングを休む)」
(それが罰ゲームになる国なんだ……)
俺はBIGヒロを探した。
最前列にいた。
仁王立ちだった。
なぜかもう泣いていた。
「リツぅ……! お前が生まれた日から……この日のために……!」
隣の保護者が感動してBIGヒロの肩を叩いていた。
BIGヒロも感動して肩を叩き返していた。
二人とも泣いていた。
(何なんだこの会場)
◆第一種目「基本ポーズ審査」
一人ずつ壇上に上がって、規定のポーズを決める。
審査員は師範を含む三名。全員首がない。
最初の子が壇上に上がった瞬間——
「五番! 広背筋が翼じゃあ!!」
「大胸筋がバーベル台か!!」
「脚がデカメロン!!」
(これが保護者の掛け声なのか)
ゴリ太が壇上に上がった。
「バブ(気合い入れてく)」と言いながらポーズを決めた。
会場が沸いた。
「ゴリ太!! 背中に魔王が宿っておる!!」
「兄貴に続けぇ!!!」
「首がなーーーーい!!」
(首がないが褒め言葉になる国だった)
尚飛の番になった。
壇上に立った。
一呼吸。
静かにポーズを決めた。
会場が——静まり返った。
三秒後、割れんばかりの歓声が起きた。
「縦山尚飛!! 肩に要塞を載せておる!!」
「筋肉の密度が違う!!次代の王!!」
「わしの息子!!見て!!見ろ!!!!わしの息子!!!!!」
BIGヒロが立ち上がって叫んでいた。両手を天に向け号泣していた。
(息子のポーズだけで崩れ落ちるのか)
俺の番になった。
壇上に上がった。
会場を見渡した。
(大丈夫。基本ポーズだ。練習通りにやればいい)
ポーズを決めた。
会場が——静かになった。
違う静かさだった。さっきの尚飛の静かさとは違う。
「……細くないか?」
「バルクが……足りんぞ……?」
「でも——」一人の保護者が叫んだ。「仕上がっとる!!バルクは足りんが仕上がっとる!!」
「フォームが綺麗じゃあ!!」
「諦めるな!!まだ五歳じゃあ!!」
(諦めてないし何なら普通の五歳よりだいぶ鍛えてるんだけど)
BIGヒロが再び立ち上がった。目が真っ赤だった。
「リツぅぅぅぅぅぅ!!!!フォームが美しいぞぉぉぉぉ!!!!」
廊下の兵士が全員転んだ。
(また転んだ。毎回転ぶな)
◆第二種目「闘気持続」
一人ずつ闘気を開放して持続時間を測る。
ゴリ太——三十八秒。会場が沸いた。
他の子たちも次々とクリアしていく。
尚飛——三分四十二秒。
会場が静まり返った。
十秒後、爆発的な歓声が起きた。
「縦山尚飛!!闘気の密度が違う!!」
「天才じゃあ!!あれわしの息子じゃあああ!!」
BIGヒロがまた崩れ落ちていた。
(さっき立ち直ったのに)
俺の番。
目を閉じた。
体の中心に意識を向ける。
筋肉を縮めて——縮めて——
(生きたいという気持ちから生まれた闘気。俺の意志の形)
(形は魚だけど)
縮めて——一気に——
手がオレンジに光った。
十秒。十五秒。二十秒。
(消えるな——!)
二十五秒。
二十八秒。
二十九秒——
三十秒——
三十一秒で、消えた。
静寂。
三秒後。
「合田律!!三十一秒!!」
会場がざわめいた。
「あの細い子が三十秒超えたぞ!!」
「バルクがないのに闘気がある!!」
「型破りじゃあ!!」
BIGヒロが三度目の崩れ落ちをしていた。
「リツぅぅぅぅ!!!!三十秒超えたぞぉぉぉぉ!!!!」
「わかってます!!」
尚飛が隣で「バブ(やったじゃないか)」と言った。
笑えた。
◆第三種目「フリーポーズ」
自由演技。筋肉と闘気で自分を表現する。
ゴリ太が山のポーズを決めた。圧がすごかった。
尚飛が全身から闘気を溢れさせながらポーズを決めた。
オレンジの光が会場を照らした。保護者が三名ほど泣き崩れた。
(フリーポーズで泣き崩れる保護者)
俺の番。
壇上に立った。
目を閉じた。
筋肉を縮めて——縮めて——
(形は魚でもいい。俺の意志の形だ)
(生きたいという気持ちから生まれた力だ)
(ダサくても——これが俺の闘気だ)
一気に——
全身が赤い光に包まれる。
ゆっくり腕を上げた。光の中で、体の輪郭が浮かび上がった。
会場が静まり返った。
違う静かさだった。
さっきまでとは——全然違う静かさだった。
それから——
「なんだあの闘気の色は!!」
「何飲んだらそんな色になるの!!」
「その色は世界を牛耳る色ーーー!!」
(え、自分じゃわからないけど、色が変わった?なんで?)
BIGヒロは崩れ落ち、兵士二名に支えられていた。
◆結果発表
審査員が結果を読み上げた。
総合順位
一位:縦山 尚飛
二位:ゴリ太
三位:合田 律
三位だった。
「バブ(よくやった)」
「お前には勝てなかったけどな」
「バブバブ(当然だ)」
尚飛が拳を出してきた。俺も出した。コツン、と当てた。
師範が俺の前に来た。
「合田律」
「はい」
「フリーポーズ、よかった」
(褒められた!!)
「バルクは足りないが、少し気になることもある…」
(色のことだろうか)
「が、よくがんばったぞ。来年の対抗JBBFに向けて、鍛え続けろ」
「……はい」
師範が静かに言った。
「ちなみに今日、保護者席で失神者が二名出た」
「去年より減ったじゃないですか」
「お前のフリーポーズで一名出た」
「俺のせいで!?」
「魂が入りすぎていた。名誉なことだ」
(名誉……なのか??)
◆帰り道
BIGヒロに担がれて帰った。
泣かれながら担がれた。
「リツ……三十秒超えた……闘気が……魂が……」
「降ろしてください」
「嫌だ!!今日は担いで帰る!!」
「五歳ですよ俺!!自分で歩けます!!」
「五歳でも担ぐ!!十歳でも担ぐ!!」
(何歳まで担ぐつもりなんだ)
尚飛が隣を歩きながらバブバブ笑っていた。
「バブ(仕方ない男だな)」
「どっちの話だよ」
「バブバブ(両方)」
プロテインくさい夕暮れの中、城に帰った。
担がれながら。
その夜。
部屋の天井を見上げた。
(三十一秒。一ヶ月前はゼロだった)
(来年は対抗JBBFがある。他の幼稚園の連中と戦う)
(ノーキンバルク中の園児が集まる、か)
手を見た。赤く光った。
魚の形で。
(……まあ、これでいいか)
ダンジョンはまだ遠い。
でも——一歩ずつ、確実に近づいている。
そういうことにしておこう。
【律のステータス・五歳・JBBF後】
■ステータス
体力 :80(+5)
防御力 :25(+3)
攻撃力 :20(+2)
素早さ :13(変化なし)
魔力 : 1(変化なし)
信仰値 : 2(変化なし)
交渉力 : 3(変化なし)
幸運 :40(変化なし)
■習得スキル
闘気(初級) :31秒・本番で更新
プロテイン耐性MAX :サバ風味まで制覇(不本意)
ぶら下がり :片手一時間
BIG3 :95kg
JBBF :3位入賞(バルク不足と言われ続けた)
■今回の収穫
・闘気31秒(自己記録更新)
・フリーポーズで保護者1名失神(名誉らしい)
・BIGヒロに担がれて帰った(五歳)
■来年の目標
対抗JBBF
ノーキンバルク中の園児が集まる
去年の優勝:ゴリ太の兄貴(首がない)




