第一話「死因:50cmの飛び降りジャンプ」
帰り道というのは、妄想に最適な時間だ。
授業も終わり、部活もなく、やることも特にない一人歩き。
誰も見ていない。誰も気にしない。思う存分、頭の中で英雄になれる。
高校二年、十七歳。どこにでもいる普通の男子高校生——
合田律は今日も妄想していた。
(突然、教室にテロ集団が乗り込んでくる。
奴らは人質を取り、要求を突きつける。だが——そこに俺がいた)
無意識に歩幅が広がる。
(「お前たちの相手は俺だ」。静かに立ち上がる俺。
クラスメートが息を飲む。テロリストのリーダーが構えを取る。しかし俺はもう動いていた——)
「ふふっ」
何回目だろう。もはや日課だ。十七年間培った大事な習慣である。
それに今日はテンションが高い。
理由は単純で、帰り道に読んでいたなろう小説の新章が最高だったのだ。
主人公が六属性すべてを操る覚醒シーンで思わず立ち止まって読んでしまったくらい熱かった。
(やっぱ異世界転生っていいよな。俺もいつか——)
そこまで考えた瞬間、律は目の前のベンチを見た。
高さ五十センチほど。なぜかテンションのまま、その上に乗りたくなった。
意味もなくひらりと乗った。我ながら身軽だと思った。そして意味もなく飛び降りた。
「うわっ!!」
着地した瞬間、靴底が濡れた落ち葉を踏んだ。
足がすべった。体が傾いた。頭が地面に向かった。
ゴン、と音がした。
それが合田律の聞いた、最後の音だった。
暗い。
どこかで声がする。遠い声だ。
水の中で聞いているみたいに、ぼやけている。
(……あ)
律は気づいた。これ、死んでる。俺、死んだ。え。え???
(ベンチからジャンプして滑って頭打って……死んだ???)
暗闇の中で、律は自分の死因を整理した。整理した結果、叫びたくなった。
(えぇぇぇぇぇ……俺こんな死に方ぁぁぁ!?!?)
テロ集団と戦った訳でも、異世界で魔王を倒した訳でも、誰かをかばった訳でもない。
ただ、帰り道にテンションが上がって、ベンチから飛び降りて、滑っただけ。
以上。
終。
合田律、十七年の生涯。死因:ジャンプ。
(……墓石にそう刻まれたら泣く。普通に泣く)
その時だった。暗闇の中に、声が響いた。
《目覚めたか》
低い声だった。怒っているわけでも、優しいわけでもない。
ただ静かで、どこか——ひどく疲れているような声。
(……誰?)
《私はこの世界を作った者だ》
創造神か!なぜかすんなりと理解できた。
(……え、本物?)
《本物だ》
(あ、心読める系か)
《読める》
律は暗闇の中で少しだけ身構えた——身体はないが、気持ちの問題だ。
《お前に話すことがある。長くなるが、聞け》
《これから転生する世界の理を伝えよう》
(え、俺転生すんの??!)
世界には、六つの国がある。
「魔女の国・イキオクレティス」。魔法と知識の国。
「筋肉の国・ノーキンバルク」。肉体と闘気の国。
「暗殺の国・インキャニア」。闇と影の国。
「商人の国・シュセンドーン」。言葉と契約の国。
「信仰の国・ソーガッカイ」。奇跡と神権の国。
「騎士の国・ホマレーヌ」。剣と忠誠の国。
六国はそれぞれ相性がある。
剣は魔法に強く、魔法は筋肉に強く、筋肉は暗殺に強く、
暗殺は商人に強く、商人は信仰に強く、信仰は剣に強い。
互いに隣接している。だから——誰も動けない。
《攻めれば、背後が崩れる。六国は永遠に均衡したまま、互いを牽制し続けている》
(……はっ!!じゃんけんみたいな状況てことか!!)
《……そうだ。そして世界の中心には、地下深く広がるダンジョンがある》
深さは百階層。一度に入れるのは最大七人。
最下層に辿り着いた者には、願いが一つ叶う。
《お前に頼みたいことがある》
(頼みたいこと?)
《最下層を目指せ》
それだけだった。なぜ目指すのか。誰のために目指すのか。創造神はそこを語らなかった。
(……なんで俺に頼むんですか)
《それは、自分で見つけろ》
(不親切だな!)
《そういう設計だ》
律は暗闇の中で盛大にため息をついた。
《一つだけ言っておく》
創造神の声が、少しだけ変わった。静かな中に——後悔のような色が混じった気がした。
《最下層に辿り着けば、何でも願いが叶う。世界を変えることも、何かを取り戻すことも》
それ以上は言わなかった。
《転生ボーナスは…ない》
(え)
《この世界に来る際の特典は、何もない》
(えぇ!?)
《ただし——最初に生まれる国は選べる》
暗闇の中に光が差した。六つの扉が現れた。
重厚な石造りの扉。派手な装飾の扉。飾り気ゼロの鉄の扉。黒い扉。金色の扉。白い扉。
そんないきなり言われても…。
迷っていると、選ぶ前に目の前に画面が開かれた。
【ステータス】
名前 :合田 律(異世界名未定)
年齢 :17歳
前世 :高校生
死因 :ジャンプ(本人談:不可抗力)
適性属性 :全六属性
制限 :属性バランス制
(一属性を使いすぎると対極属性が弱体化)
初期ステータス
体力 :10
攻撃力 : 3
防御力 : 2
素早さ : 4
魔力 : 3
信仰値 : 2
交渉力 : 3
幸運 :10
特記事項 :転生ボーナス なし
※特秘事項あり
(……よわぁ)
全部が低い。突出したものが何もない。
幸運だけがちょっと高いが、転生ボーナスがない時点でたかが知れている。
んで特秘事項ってなんぞや。
(まあ、もともと普通の高校生だしな。ダサい死に方したし、
でも——これをどうしていくか、か)
律は六つの扉を見渡した。
(剣の国……最初から剣とか扱えなそう、剣道やったことないし)
(魔法は才能いりそうだし、魔力低いしすぐ死にそう)
(商人は頭よくないと無理だろ、経済とか交渉とか知らんし)
(信仰は神頼みだし、しかも俺無宗教だし)
(暗殺は……かっこいいし憧れるけど…)
視線が、三つ目の扉で止まった。飾り気ゼロの、分厚い鉄の扉。
(せっかく転生したんだ、長く楽しみたい)
(それなら最初は「死なない体」を作るのが先決じゃないか?)
ゲームだって最初はHPを上げる。防御を固める。生存力がなければ何もできない。
(筋肉の国で鍛えれば、少なくとも死ににくくはなる。あと正直——
やっぱモテるためには体は重要だろ)
それが本音だった。
律は鉄の扉に向かって歩き出した。
《選択:筋肉の国・ノーキンバルク》
(あ、創造神さん一個聞いていいですか)
《何だ》
(願いって、死んだ人を生き返らせることもできます?)
《……理論上は、可能だ》
(じゃあ、なんでもじゃないですか)
《…………》
(創造神さん、沈黙しないでください)
《はよう行け》
扉が開いた。眩しい光が溢れ出す。
律は目を細めながら、一歩を踏み出した。
◆ 均衡暦六六七年、六月六日 夜明け ◆
ノーキンバルク国境。ダンジョンへ続く道の検問所。
これから単身ダンジョンへ挑むため、
ノーキンバルクの王『BIGヒロ』がいた。
入り口の前――
赤ん坊の泣き声が聞こえた。
道の端、布に包まれた小さな命。
BIGヒロは近づき、抱き上げた。
その手を——赤ん坊がぎゅっと握った。
力強く。
「……なんだこいつ!!!」
―――律がこの世界に生れ落ちる前―――
「均衡暦六六六年、六月六日———」
深淵の闇に覆われるダンジョンから
世界を白く染め上げるほどの光が立ち上がった!
「この世界に存在する全てのものよ———」
「「挑み、覇を求めよ」」
理由はわからない!
その言葉は脳内へ刻まれた!
そして―――!
六国は動き始めた!
それぞれが、それぞれの方法で!
しかし!そこに一つの共通点があった!
シンクロニシティ―――
強者たちは一斉に後継者を求めた!
簡単に言うと同時多発子作りである!!!
そんな謎の一日があったことを律は知らない!
そして誰も知らなかった!このシンクロニシティが意味するものを!
その鍵が今!ノーキンバルクの王、BIGヒロの手を握り締めていることを!
メインではないけど、面白そうなものが浮かんだので書いてみました。
反応良さそうだったら続き書いてみたいです。
ギャグっぽいほうがたのしくかけますね




