才田 才子 10
「才子。帰って来たのか」
メイドの後に私を出迎えたのは白い顎髭をたらしながら杖で歩いてくるのは才田家の当主であるお祖父様、才田 剛弦である。
「はい。剛弦おじいさま。ただ今帰りました」
「うむ。才子。今のお前は才田家には必要な人間。血迷ったことはしないように」
「もちろんですお祖父様」
お祖父様はこの悩み種が発症するまでは才田家の面汚しめと毎日私を罵っていた。毎日暇なんじゃないかと思うくらいに。
「ふん。能無しが帰ってきたのか」
剛弦お祖父様の後に2階の階段から降りて来たのは一つ歳上の兄、才田 才樹だ。才樹の見た目は眼鏡をかけて襟足を腰あたりまで垂らした黒髪が特徴だ。
「才樹。情けないことを言うな。才田の人間として器が小さく見えるではないか。恥を知れ」
「お祖父様!こいつはズルをしたに決まっています!でなければいきなりこのように才能が発言するわけがありません」
「そんなものわからんではないか。そんなこともわからんようでは才樹。お前は落ちぶれたものだな。非常に残念だ」
才樹兄さんは「ちっ!」と舌うちをした後、部屋に戻っていく。
「才子。愚か者など気にするなら。お前はお前のやりたいようにやれ。才田家は自由にやればもっと才能が育つのだから」
お祖父様はいつも同じことしか言わない。自由にやれと。才能は自由にやってこそ伸びるんだと。そんなものは天才どもにしかできない。私は悩み種になるまで努力するしかなかったのだから。
「お祖父様。では私は部屋に戻ります」
「うむ。それと才子よ。黒木家のお嬢さんとは仲良くするようにな」
黒木と仲良くだって?このクソジジイは本当に人の神経をさかなでするのが好きね。黒木と仲良くしろ?私にはもう無理な話よ。
「わかりましたお祖父様。黒木様とは懇意にさせていただきます」
「それでいい。今の黒木の娘はなかなかに賢い。いずれはおまえとも切磋琢磨できるようになろう」
お祖父様はそれだけ言うと私の前からゆっくり歩き出し部屋に戻っていく。
黒木メイア。かつては私は大親友だと思っていた女。でも今の私には憎悪の対象でしかない。あの日から。あんなことさえなければ私はメイアとは仲良くできていただろう。まさかメイアが天才の上をいく天才とは思わなかった。
私は自分の部屋に戻りベッドに寝転ぶと自分の悩み種にかかった時のことを思い出していた。




