私が聖女?そんな訳が無い
「ヘレン、教会から手紙が届いているんだが」
「教会、ですか?」
お父様から手紙をもらい封を開けた。
『ヘレン・ロースタリー公爵令嬢を聖女候補とする』
私は手紙を読んだ瞬間、クシャクシャにしてゴミ箱に放り投げた。
「何が書いてあったんだ?」
「私を聖女候補にする、て。 この国の教会は能無しですか? それとも見る目が無いんでしょうか?」
「う〜ん、ヘレンが聖女候補……、確かにありえないな」
そう言ってお父様は苦笑いをする。
「国王様には言っておいたんだがなぁ……、流石に教会にはヘレンの事を話す訳にはいかないしなぁ。 一応釘を刺しておくし断りの手紙を書いておこう。 理由は……、適当で良いな?」
「えぇ、それでも何か言ってくるのであればちょっとお灸を据えた方がよろしいかもしれませんね」
「そんな事になったら教会の面子は丸潰れになってしまうな、しかし最近教会は権力を増してきているからな」
「聖職に付きながら権力を求める、て皮肉ですわね」
「相変わらず手厳しいな、ヘレンは」
そう言ってお父様は部屋を出て行った。
「はぁ〜、本当にこの国の教会は神からお告げを言われているのかしら? お告げが出ていたら私に聖女なんて務まる訳無いじゃない」
私はそんな事を呟いてため息を吐いた。
普通の令嬢だったらこの話に喜ぶだろうし、貴族として名誉な事だろう。
聖女に選ばれたと同時にこの国の王太子と婚約出来るからだ。
聖女の血を少しでも王族に取り入れる為、という理由らしいけど本来聖女は俗世から離れなければならない。
変に権力が入ってしまえば聖女としての能力は弱まってしまう。
そして聖女は清らかな心を持たなければならない。
そう言う意味で言うと貴族令嬢なんて不適格では無いだろうか。
それに私には聖女にはなれない明確な理由があるからだ。
私は正確に言うとロースタリー公爵の実の娘では無く養女である。
そして私は人間ではない。
私の正体は魔族を束ねる王、つまり『魔王』だ。
何故、魔王の私が人間のふりをしているのか。
理由は簡単、魔界から追い出されたからだ。
魔族には大きく分けて2つの派閥がある。
人類を根絶やしにするべきと唱える強硬派と共存するべきと唱える穏健派だ。
私は無駄な殺生や争いをしたくないのだが、強硬派からしてみれば『生ぬるい』らしい。
ある日クーデターを起こされて私は命からがら人間界にやって来た。
当然だが人間界に伝手はないし路頭に迷っていた私を拾ってくれたのがロースタリー公爵、人間界の私のお父様だ。
お父様とお母様は公爵という身分でありながらその暮らしは清貧そのもの、自分達の為にお金を使う事はなく民の為に
お金を使う、欲に塗れず清く正しい、私は人として尊敬している。
私は公爵達に私が魔王である事を話し、国を追い出された事を素直に話した。
私の話を聞いた公爵は『行く所が無いのであれば家にいると良い』と言ってくれた。
迷惑にならないのか、と聞いたら『家は子供がいない、親戚から養子を迎えなければならなかったのだがなり手がいなかった。だから可能であれば養女になってほしい』と言われた。
私はその言葉が嬉しくて公爵の養女になった。
その際に国王に面通しをしたので私が魔王である事を知っているのは両親と国王、大臣達だ。
教会関係者はその場にいなかったからこんな手紙を出してきたんだろう。
まぁ、後はお父様に任せておこう。
あ、一応牽制の為に教会が大事にしている女神像にヒビでも入れておこうかしら。
女神像って聖力で護られているらしいからヒビが入ったら大問題に発展するんじゃないかしら。