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ループ5回目、憑依しまくった苦労王女はウソを見抜く

作者: 大井町 鶴

短編12作目になります。今回は、死んだと思ったら別の人物に憑依を繰り返すという、ちょっと苦労人お姫様のラブストーリーです。どうぞ最後まで結末を見守ってやって頂けると嬉しいです(♥︎︎ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾

アンは不慮の事故により12歳で亡くなってから人生を繰り返している。


いや、繰り返すというか違う人物に憑依していた。


馬車の事故で死んでから、目が覚める度に違う人物の人生を繰り返していたのだ。そして、決まったように20歳になると死んでしまう。死ぬ原因は病気だったり事故だったりさまざまだ。


今回は目覚めると、広々とした豪華なベッドの上で寝ていた。


「あー、また繰り返すのね。今回は……私はどこの誰なのかしら」


アンはもともとシリル王国の1人娘であった。父や母に蝶よ花よと何一つ不自由なく育てられ大事にされていた。だが、馬車の事故であっけなく死んでしまった。


目覚める度に自分が生きていた時代とは違ったり、場所もいろいろであったりしたので、大抵のことには驚かなくはなっている。


ちなみに、1度目の憑依は侍女であった。元は王女であったから、何となくやることは見当がついたのと、憑依した人物の知識が勝手に頭の中に流れてきたので、特に困ることはなかった。


感覚としては元の人物の人生を俯瞰して見ているような……お邪魔させてもらっている感じというのがしっくりくるかもしれない。判断や行動はアンの自由にできた。


2度目の憑依は下女だった。侍女よりもワンランク下がったと思ったが、こちらも元の人物の知識と侍女時代の人に仕えていたスキルを活かしてうまくやることはできた。ただ、体力的にはとてもキツかったのを覚えている。同じ城で働く料理人の恋人が心の癒しだった。


3度目はなぜか村娘だった。身近だった城との生活はもはや関係なく、日々、生きるために働いて生活をするというシンプルな人生であった。でも、城とは違って自由に過ごした分、同じ村に住む男性と恋愛結婚できた。子どもを産む前に病気で死んでしまったが。


4度目はどういうわけか詐欺師だった。憑依した人物の一家は、みな詐欺業に手を染めており、選択する自由もなく詐欺業をして生活をすることになった。怪し気な投資話や結婚詐欺、脅し、人殺し以外は大体の悪いことはこの人生で学んだ。捕まって最後には獄死した。


5度目はスリだった。どうして憑依するたびにランク落ちするの!と恨んだ。詐欺師の人生よりも切羽詰まっていて、スリの親分が指名した人物から財布を盗むということを繰り返しさせられる人生だった。取った財布の中身は搾取され、生活に余裕などない。スリの現行犯で捕まると、多くの余罪も明らかになってアッサリと処刑された。


だから、もうアンは生きることに疲れていた。


(私は王女に生まれたのに、なぜ、犯罪者にまで憑依しなければならなかったの)


王女として生きた時代に横暴に振る舞ったわけではないし、なぜランク落ちしていくのか不満だった。


そんな思いもあり、新たに始まろうとしている6度目の人生に希望を見いだせないまま目を開ける。そっと目を開けて周りを見渡せば、今回はいいところのお嬢様らしかった。豪華なベッドにフカフカとした羽布団がかけられていた。


(今回はやっとラクできそう。というよりいい加減、20歳で死なずにまともに人生を送りたい)


部屋の中を寝たまま眺めていれば、アン王女時代の自分の部屋に似ていた。


「あら、あのぬいぐるみ、お父様からもらったクマさんにソックリ..........」


まじまじとぬいぐるみを見ると、とっても既視感があった。まさかと思う。


「アン!!」


男性と女性が部屋にいきなりバタバタを入って来た。そのままスゴイ勢いで抱きしめられる。


「アン!!目覚めて良かった!」

「オトウサマ、オカアサマ!?」


固まりながら思わずカタコトで話すと、父王が心配そうに言う。


「まだ意識がハッキリしないのだろうか?」

「ずっと眠っていたのですもの。意識がハッキリとしなくても無理はありませんわ」


父王たちのいつもの会話があまりにも懐かし過ぎてアンの目からは涙が流れ落ちた。


「アン?どうしたの?」

「会いたかったから...........ずっと」


アンがハラハラと涙を流すと父王たちも涙を流した。なんとアンは3年間、眠っていたという。


「私、馬車の事故で死んだと思っていたのだけど.........」

「死んでなどおらん。長い夢を見ていたのだ」

「夢?」


夢と言われてあの憑依し続けていた人生は夢だったのかと考えたが、侍女や下女、村娘、詐欺師、スリの人生で経験したことはあまりにもリアルだった。


(あれは、夢なんかじゃない。どういうわけか私は元の自分の人生に戻って来たのだわ)


朝、アンの様子を見に来たメイドが、指先をピクリと動かすのに気付いて急ぎ王と王妃に知らせたそうだ。呼びに行く間にアンの意識が戻ったらしい。


馬車の事故で瀕死の状態ではあったらしいが、治療を続け3年かけて回復したようだった。


憑依中は生きていた時代や場所が違ったせいで、この王国に繋がるものは無く、馬車の事故以降の自分のその後や父や母、王国がどうなっていたのか分からないままだった。だから、自分が生きているとは思ってもみなかった。


茫然としていると、父王が言った。


「元気を取り戻したら、お前の失っていた時間分の人生を取り戻していこう」


父王の言葉の通りアンの体力が回復すると、急ピッチで淑女教育やらが始まった。


だが、憑依を繰り返してきたアンにとって学問やマナーといったものは簡単なものであった。宮中に出入りする人の把握も詐欺師の人生の時に人間観察を散々していたせいで、誰をどうすればいいかすぐに判断できた。彼らの仕草や表情を見れば何となく考えていることは分かるのだ。悪意ある者を簡単にすぐに見抜いた。


「おお、なんと素晴らしいのだ!アンはもともと賢い子であったが、天才だ!」

「眠っていた分、神様がアンに才能をお与えになったのよ!」


憑依の秘密を話していない両親には優秀だと褒められた。


ちなみに、憑依していたことを話さないのは、とても信じてもらえないだろうと思ったからだ。娘がおかしいことを言い出したら父王たちはショックを受けそうだし、正気を疑うかもしれない。無事に生き延びるためには、リスクあることを避けるのは鉄則だ。


...........ある日、そろそろアンも社交活動をさせようということになり、母が遠縁だというセシルという令息を連れて来た。アンが倒れた年齢はまだ社交活動する歳ではなかったから、男性との接し方を学ばせようと考えたらしい。


(そんな面倒なことは必要ないのに。私は憑依している間に恋人がいたこともあるし、結婚までしていたのだから)


だが、暇つぶしにちょうどいいかと思って素直に従った。居間に行くと、ダークブロンドの柔らかい髪質にキレイ瞳を持つスマートな男性が待っていた。顔も小さく背が高いので、スタイルがすこぶるよく見える。


(お母様はイケメンを連れて来たわね)


「こんにちは。アン王女様。僕はセシルといいます」

「こんにちは。あなたには会うのは初めてですね」

「ええ。ずっと父の仕事の関係で外国に住んでいましたからね」


物腰が柔らかい。だが、気になるところがあった。


(この人、脚を広げて座るあたり、自分に自信を持っているわね。女性と話すことも慣れている。話す時に口が一方だけひしゃげたように口を開くのは、心に思うことと違うことを思ってる証拠だわ......)


アンはセシルと話しながら、冷静に分析する。セシルが学んだという知識に対してアンが何度か質問すると、セシルは耳を触り出した。


(耳をやたらと触りだしたわね。これは私との話が不快だということ)


アンはすくっと立ち上がった。


「どうされたのです?」

「今日はたくさん話しましたからそろそろ、ここのあたりでお開きにしましょう」

「は、はあ……」


セシルは微笑んでみせたものの、アンに気に入られなかったと分かったらしく大人しく部屋を出て行った。


その日の夕食時、母からセシルの印象について聞かれた。


「セシルはどうだったかしら?」

「あの方は私と話すのが苦痛だったみたい」

「気に入らなかった?見た目も良いし、話し相手にいいと思ったけど」

「彼は私と話す時に、口を曲げて話します。それに鼻や耳に触っていました。しまいには眉毛も触りましたからね。不快だと言っているようなものです」

「あなた………どこでそんな知識を身につけたの?」


母と父は困惑していた。


「驚いた。アンに人を見抜く力があるとは。わしも参考にしよう」


それ以降、父は謁見などがあると、アンも同席させるようになった。謁見する者がいればまず話をさせ、アンが王に耳打ちする。それから、王が言葉を述べるのだ。


だから、アンの影響力はすぐに話題となった。近づこうとして媚びる者、贈り物を山のように寄越す者、怪し気な香りのする手紙を送りつける者、いろいろな者が出てきた。


ちなみに、怪し気な香りのする手紙はすぐに燃やさせた。媚薬まがいの薬品が染みこませてあったからだ。悪いことをしていた時によく嗅いだ馴染みのあるニオイですぐに気付いた。見せしめに厳しく処罰すると、状況はいくらかマシになった。


だが、アンの機嫌を損ねる者はかなり減らせたものの、世辞を言って媚びる者はより多くなった。


(どれもこれも私に気に入られようと必死ね。でも、私はすぐに見抜いてしまうのよ)


アンは長年の憑依経験により仕草や言葉、態度から彼らのウソをすぐに見抜いていた。心にもないウソを言う者には厳しい態度をとる。そのせいで、アンに求婚を考えていた男性達は減っていった。


「男なら美しいアンをどうにかして射止めたいとは思わんのか!情けない」

「アンが優秀過ぎるのですわ。3年間眠っていた分、神様が才能をお与えになったのですもの。そこらの男性では釣り合わないのでしょう」


母の言うことはなかなか的を得ていた。当たらずとも遠からずだ。


「お父様、お母様、私は一人娘だからいずれ結婚しなくてはならないことは分かっています。けれど、私の相手は、私と同等かそれ以上の話ができる方が良いです。ゴキゲンとりは必要ないの」

「わかった。この国だけでなく異国からもお前に釣り合う男がいるか探してみよう」


アンの結婚相手になる男性については、王と王妃が広くから探し出すことになってとりあえず落ち着いた。


(人生経験を積んだ分、なかなか話が合う人がいなくなってしまったわね)


結婚したくないわけではないが、一度好きな人と結婚して人生を歩んだ経験がある分、少なくとも尊敬できる男性と結婚したい思っていた。


(4度目と5度目の憑依では人の悪意をイヤというほど知ったから、尊敬できて心を許せる人がいいわ)


人の心が分かり過ぎて人と親しい関係を築けなくなってしまったのは、アンの新たな悩みになっていた。年齢以上に落ち着いているアンは、同じ年代の令息や令嬢では話が合わない。


(なんか気分転換したいなあ。そういえば、アンに戻ってから街歩きをしていないのだった)


後ろ控えている護衛騎士のバリーに声をかけた。彼は最近、付けられた護衛である。


「バリー、これから私は町娘の恰好をするから、あなたもそれに合う服装をしてくるように。これから30分後に街に出発よ」


バリーに用件を簡潔に伝えると、アンはさっさと自分の部屋に戻って用意を始めた。侍女のベラが慌てた様子で付いて来る。


「急に街に行かれるなど!王や王妃様の許可を頂かねば!」

「許可なんていらないわ。私は自分のことは自分で守れるし。少し様子を見て来るだけなのだから。バリーも連れて行くから心配はいらないわ」

「それでも!いくらバリー様が優れているとはいえ、2人だけなんて危ないです!」

「ゾロゾロと人を引き連れて歩いたら目立って身軽に動けないでしょ」


話しながらクローゼットの中をチェックしていくと、動きやすそうなミモレ丈のワンピースを見つけた。一人でサッサと着替えて髪を後ろで一つに縛る。ベラはやたらと手際のよいアンに驚いていた。


(うふふ、街に出るのが楽しみだわ)


久しぶりの外出で気分がウキウキしてきた。


「さあ、準備は終えたわ。ベラはこの部屋で待機していなさい。万が一、父や母に呼ばれた時は対処するように」


そんなあと、泣きそうな顔をするベラを部屋に残し扉を開けると、シャツにベストとパンツ姿のバリーが立っていた。


「行くわよ」

「かしこまりました」


城の外に出ると、街に向かって歩き出す。


「姫様、徒歩で街に行かれるつもりですか?」

「町娘が馬術などできないでしょ。歩かないと。あと、姫様なんて呼ばないで。私のことは、同じAから始まる……そうね、“アビー”とでも呼びなさい」

「かしこまりました」

「その口調もダメ。今から私とあなたは “恋人”という設定にしましょう。恋人という立場である方がいろいろと私を守りやすいでしょうし」

「恋人、ですか?……分かりました」


アンはテキパキと指示をした。バリーは驚いたようだが余計なことは言わずに、アンの横に並んだ。


「うん、私の前を警戒して歩くより横に並んで歩いた方がずっと自然だわ」


隣に並んだバリーは首まである金髪を無造作に後ろに流したヘアスタイルで、ライトグレーの瞳が美しい。


(バターブロンドの私の髪色と彼の髪色は合うわね。彼と並んで歩いたら恋人のように見えるでしょう)


しばらく黙々と歩いた。護衛であるバリーは自ら話しかけてこない。恋人設定なのに、黙って歩くのも変だと思って話しかけた。


「.........今日はね、何も考えずに街を歩きたいだけなの。気負う必要はないから」

「気分転換ということですか?」

「敬語はダメ。恋人はそんな話し方をしないわ」

「……アビーは、話し方も器用に変えられるのですね…いえ.....できるのだな?」


指示通り話し方を恋人らしく変えようとするバリーが面白かった。


「ふふ。私はね、人々の話し方をよく観察していたから状況によって話し方を変えられるのよ」

「そうなのか……?」


一般的な話し方は主に下女と村娘になった時に身につけたものだった。慣れぬ頃は、街で見かける人々の話し方を観察して真似ていた。詐欺師とスリ時代に知った言葉は、スラングが多くて普段の会話には使えないものが多かったが。


シリル王国の城下町にやって来ると街はとても賑わっていた。人々や馬車がひっきりなしに行き交っている。


(馬車が人を轢いたら大変。道を整備するべきね………)


そんなことを考えていると、バリーに急に抱き寄せられた。馬車がすぐ側をスレスレに通って行く。


「大丈夫でし…だったか!?」

「あんな速度でこの人込みの中を走るなんて非常識ね」

「そんな冷静に分析している場合じゃ............」


バリーがなにやら言っているが、バリーが抱き寄せなくても避けられる自信はあったから淡々としていた。


「さ、行きましょう」


歩き出そうとすると、バリーに手をつながれた。


「手をつなごう。混んでいるから」

「……そうね」


(手をつないで歩くなんて久しぶり。夫だったクライドとよく手をつないで歩いたな。彼は私が死んだ後、どうなったのかなあ?)


かつての夫、クライドは濃いダークブラウンの髪と瞳を持つ人で、優しげな表情をした男性だった。彼の微笑む姿を見ると、抱きしめたくなるような気持ちにいつもさせられたものだ。


ちなみに、病死してから4度目の憑依時にクライドを探そうとしたことがある。でも、時代は変わっていたし、村ももうどこにあるか分からなかった。今でもクライドを想うと切なくなる。


「...............どうした?」

「あ…ゴメン。何でもないの」


知らず知らずのうちに、思わず手に力を入れてしまったらしい。


クライドを思い出していたからか、ちょっと泣きそうな声になってしまう。慌ててごまかす。


「怖い思いはさせないようにするから..............」


バリーは馬車に轢かれそうになったのが怖かったと思ったのか、てんで見当違いなことを言った。しかもつなぐ手に優しく力を込めてくれる。励まし方がかつてのクライドに似ていた。


(不思議な感じ.........)


その日は、街の様子を見て、カフェに入ってリラックスして城に戻った。


...........お忍びで城下町を散策して以降、城下で気ままに過ごす時間を気に入ったアンは街に出掛けることが増えた。いつも付き添うのはバリーだ。幸い、王にも王妃にも気付いていないらしかった。


最初、バリーは貴公子っぽい見た目もあって、いいところの坊ちゃんが運よく護衛騎士の職に就いているのだろうと思っていた。だが、彼と街に出掛けるようになって彼を徐々に知っていくと、案外、頼れる兄にような人物であることが分かった。


前回のお忍び外出の時に、アンがスリを見つけて足をひっかけやろうとしたことがあった。


逃げようとしている男の前に、素知らぬ顔をして足をスッと出したのだが、男が転ぶ前にバリーが悪者の手をねじり上げた。すられかけた財布は無事、持ち主に戻された。


「ねえ、私がスリを転ばそうとしたことに気付いたの?」

「アビーの視線が急に鋭くなったからすぐに分かった。まさか足を出して転ばそうとするなんて思わなくてビックリした」

「だってスリの現場を見たら、どうにかしたくなるじゃない」

「危ないから絶対にやめてほしい。足が傷ついたらどうする!」

「でも……」

「“でも”、じゃない!」


いつの間にか、城の外では立場が逆転したようになっていた。アンの指示には逆らうことはないが、兄が妹を守るような、そんな気の使い方をするようになったのだった。


(クライドも年上だったから、似たようなことがあったな)


懐かしさもあって、偉そうだなとかは思わなかった。


...........街に再び散策にでかけたその日は、少し暑かった。少し歩くとノドがかわいた。


「あのカフェに入って飲み物を飲みましょう」


アンが指さした店はオープンカフェになっていて解放的な雰囲気だった。


どうやら注文は自分で店の中にしに行かねばならないらしい。バリーは注文をしにいく間にアンをひとりにすることが気になるようで違う店を提案したが、却下した。


「私、オープンカフェにまだ入ったことがないから入ってみたいわ」


ウソだ。本当は懐かしかったからだ。下女だった時に街中で恋人とオープンカフェに入ったことがあるのだ。


「すぐ、戻るから」


空いてる席に座ったアンを見て、バリーは急いで注文しに店の中へと向かっていく。アンは待っている間に、広場に集う人々を眺めていた。


「あんた1人か?」


不意に男に話しかけられた。


「いいえ、今、飲み物を注文しにいっている人と一緒よ」


そう答えたが、男は目の前のイスに堂々と腰掛けようとする。


「ちょっと。連れがいるって言ったでしょう?」


構わず目の前に座った男を見てアンは驚いた。


「アダム.............」

「アダム?オレはセドリックだよ。.........あんた、キレイだな。いいとこのお嬢さん?」

「そういうあなたは………傭兵でもしているのかしら?」

「当たりだ。よく分かったな」

「だってあなた、いい身体してるから」


セドリックと名乗った男は、髪の毛の生え際にかすかに剣傷があって剣を握る手をしていた。身体全体には武人独特な筋肉が付いている。城の兵士より砕けた話し方をするから、傭兵だと判断したのだが見事、当たったらしい。


「オレ、あんたに会ったことがあるような気がする」


アンはじっと男を見た。


「……そうかしら?」


(下女時代の恋人にこの人はとても良く似ている……!)


「運命を感じる。いきなりだけどオレ達、付き合わないか?」

「バカなことを言うな!そこからどけ!」


いつの間にか、飲み物を持って戻って来たバリーがいた。


「連れってコイツか。オレはこいつより強いと思うぞ」

「なんだと?」


2人の男が睨み合う。


「やめて。お店の迷惑になるでしょ」

「騒ぎにするつもりはなかったよ。オレはまたあんたに会いたい」

「また、街で会うこともあるでしょう」

「そんなんじゃ、いつ会えるかわからねえ。あんたは.........」

「おい、いつまでここにいる!早く失せろ!」


バリーが追い払うと、セドリックはアンにウィンクして去って行った。


「やはりこの店は良くなかった」

「こういったアクシデントもまあ、楽しいわね」

「楽しい? そういえば、慣れたようにあしらっていたが」

「内心、ドキドキしていたわよ」


違う意味でドキドキしていたのだが。あの、セドリックという男はかつての恋人であったアダムに似すぎていた。


「ふう、ノドが潤うと落ち着いたわ」

「今日はどこを見る?」

「近くの小物屋さんを。ハンカチを買いたいの。お父様が刺繍をしてくれって」


目当ての小物屋に来ると、無地から柄物、優しい色から鮮やかな色まで実に多くの種類のハンカチが売られていた。近くに、刺繍糸も売られている。


ハンカチを手に取るとまた、結婚していた時のことを思い出した。


(クライドとおそろいのハンカチを買って、刺繍したのをプレゼントしたことがあったな)


「............アビーは刺繍が得意なのか?」

「得意ね。なんでそんなこと聞くの?」

「................もし、その、練習用でいいからオレにも刺繍をしてもらえたらって」

「あなたがそんなことを言うなんて珍しい」

「その、女性から刺繍のハンカチをもらったことがないなんてと、仲間に言われたことがあって」

「まだ、もらったことがないの?」

「お恥ずかしながらまだ............」


バリーのように容姿が整っている男性がまだハンカチをプレゼントされたことがないなんて意外だった。


「あなた、モテそうなのに」

「オレはあまり女性と話すのが得意ではなくて。それにもらえるならあなたから...........いや!やはり、おかしなことを言いました。大変、申し訳....」

「ちょっと!恋人設定は?刺繍くらいしてあげるわよ。得意だから大丈夫!」


父とバリーのハンカチを購入した。


「私はね、お気に入りの人にはきちんと誠意を見せるわ。楽しみにしていて」

「お気に入り……」


恥ずかしかったのかバリーは顔を背けた。耳が赤い。照れていたくせに店を出ると、バリーが当たり前のように手をつないで荷物を持ってくれる。


(なんか、街歩きの時はバリーに手をつながれるのは当たり前になっちゃったわね)


気恥ずかしい気持ちで城に戻ると、部屋で待機していたベラが泣きそうな顔で近寄ってきた。


「王がお呼びです。いつ戻るか不安で……」


さきほど呼びだされたらしい。ちょうど良い時にアン達が戻って来たみたいだ。なにごとだろうと、行ってみれば、オーガスト国の王太子との見合い話だった。


「結婚相手を探す話は進められていたんですね。忘れかけてました」

「のんきだな。良い相手を得るためには、早く動かねばならん。ただでさえ遅れをとっているのだから............それで、このオーガスト国の王太子はアンより7歳年上だが、なかなか良さそうだぞ。妻がいたが、亡くなっていて子もいない」

「そうですか……少し、考えさせてください」


そういって部屋を出ると、バリーとベラがいた。


「姫様、結婚を決められるのですか?」


部屋に戻る最中、バリーが話しかけてきた。


「すぐに決められないわ。私が求めている方とは限らないし」

「アン様、オーガスト国のアルバート様は評判の良い方ですよ。ただ、側室の方がいらっしゃるみたいで……」

「側室?……お父様、肝心なことを私に隠したわね」


父はアンにウソが見抜かれぬように、いつも出るクセを封じていたらしい。


「ですが、それを差し引いてもあんな大国の王太子様ですから、アン様にふさわしいと陛下はお考えになったのでしょう」

「……なんかイヤな気分。刺繍でもして気を紛らわせるわ」


刺繍道具を用意させると、しばし刺繍に没頭した。図案は以前、クライドにあげた刺繍と同じにしたから黙々と刺繍をしていくだけである。


「アン様、とてもお早い仕上りでしたね」

「私は、大抵のことはできる自信があるわよ」


その日はそのまま疲れて食事と入浴を済ますと早くに休んだ。


………翌日、驚くことが起きた。街で会ったセドリックが兵に志願してきたのだ。


朝食後に散歩でもしようと庭に出たら、城門から兵士に連れられて歩いてくるセドリックがいて驚いた。


アンは瞬時に人の特徴を観察するクセがついていたので、前から歩いてきたセドリックにすぐ気が付いた。兵士は、アンに気付くと立ち止まり深く礼をする。後ろにいたセドリックはウィンクしてきた。


「...........この人は?」

「はい、以前、傭兵をしていたようですが、正式に兵士になりたいと志願しにやってきまして」

「..........そう、期待しているわ」


なんでもないように横を通り過ぎたが、アンはドキドキしていた。


(驚いた!兵士に志願するなんて、私の正体を知っていたってこと?それとも、あの人とは縁があるの?)


............後日、城内を散歩していると再び、セドリックに会った。城内を巡回していたらしい。


「こんにちは、王女様!」

「仕事は慣れた?」

「はい。あの、王女様、街でのことですが……」

「……あちらに行きましょう。話すのに丁度良い場所があるわ」


アンも彼の話を聞きたかったのもあって、庭の片隅にあるガゼボにセドリックを連れて行く。ガゼボに着くと、アンがイスに座ってセドリックは警護するようにガゼボの外に立った。


「あなたが兵士に志願して来るとは思わず驚いたわ」

「あんたに会いたかったんだ。話すうちに王女様だって気付いたよ。だけど、オレにとっちゃ、そんなこと関係ない。運命だから側にいなくちゃってな」


()()()()()!?やはり、セドリックはアダムの生まれ変わりなのかしら??)


「セドリック、私を見て………何か思い出したりすることはある?」

「思い出す?……なんか分かんねえが、運命だからそんなこともあるかも」


セドリックがアダムの生まれ変わりだったとしても、前世の記憶がないこともある。いろいろと確かめるためにきちんと向き合って話したいが、人に見られた時のことを考えるとセドリックは後ろを向いて立っている状態が自然だった。


「……良かったらオレを護衛騎士の一人にしてもらえないか?あんたを守るよ」

「あなたはまだ、新入りよ。それは難しい。それに、口のきき方に気を付けて。誰が聞いているか分からないのだから」

「りょーかい!」

「もう........」


セドリックはアンが心を許したと思ったのか、やたらと距離感が近かった。かつてのアダムも似たようなところがある人だった。


アンは時間がある時はセドリックを観察するために修練場に顔を出すようになった。“運命”だなんて言われたら、どうしても気になったのだ。


これに目敏くバリーが反応した。


「姫様、あれはセドリックという街で話しかけてきた男ですよね?」

「そうよ。驚いたわ。街で会った翌日に城に兵士として志願してきたのだから」

「あの者は、姫様だと気付いて近づいてきたのです。側に近づけてはなりません」

「分かっているわ」

「分かっていてなぜ許すのです?」

「確かめたいことがあるの」

「確かめたいとは?」

「もう、好きにさせてよ」


アンが言うと、バリーは不満そうな表情をした。


「安易に信頼すべきではありません。ヤツは傭兵をしていたぐらいですから、美味しい話があればすぐに嗅ぎつけて食いつくのです」


不愉快極まりない言った様子で言うバリーの姿に、かつての夫の姿が重なる。


(クライドも私に言い寄る人にこんなふうに怒ったことがあったっけ)


「心配しないで。私は人のウソを見抜くのが得意だから」


バリーの瞳を見ながらニッコリ微笑むと、強張っていたバリーの表情が柔らかくなった。そんなところもクライドに似ていた。


(見た目は全然、違うのにバリーはクライドに似てるところが多いわ。不思議)


………数日経ち、いつものように庭を散歩していると、こちらに駆けて来るセドリックの姿が見えた。


「王女様、こんにちは」


はあはあと肩で息をしながら話す姿は料理人のアダムも見せていた姿で、懐かしい気持ちになった。恋人であったアダムは、仕事を終えるとこうして駆け寄って迎えに来たものだ。


「お散歩ですか?お一人で?」

「ええ。そこらへんを軽く歩こうと思って。ふふ、あなた、走ってくるから汗かいてるわ」

「ハハ、なかなかアン様に近づくことができないんでね。見かけたらつい走っちまいまして」


いつも通りの言葉つかいのセドリックに苦笑する。彼はアンが王女という立場であっても良くも悪くも変わらなかった。


「最近よく修練場で見かけるけど」

「ええ」

「………気になることでも?」

「ええ、まあ」


セドリックは早口でいろいろと話しかけてくる。ずいぶんと積極的だ。


「アン様、こんなことを言ったら失礼にあたるだろうが、オレはあんたがオレを気に入ってくれているんじゃないかって思ってる。だとしたらオレは嬉しいよ。だってあんたとは運命の相手同士なんだから」


後ろからつき従うように歩くセドリックが告白のようなことを言い出した。思わずアンは歩みを止める。


「運命というなら……もう少し具体的に話してくれないかしら?」


(もし、以前の記憶が少しでもあるならなにか話して欲しい)


「説明?行動ならすぐできるぜ」


セドリックはそう言うとアンを後ろから抱きしめた。ちょうど、木の陰に隠れる場所だが、誰に見られたらマズい。


「セドリック、離れて」


焦るアンとは逆に、セドリックは大胆に振る舞う。顔をアンの耳に近づけると囁いた。


「……こうして抱きしめられると運命だって分かるだろ?」


このままではいけないとセドリックから逃れようとしたが、頑強なセドリックはビクともしなかった。


「どうして離れようとするんだ」


上を向かされた。そのまま口づけられる。


「............やめて!」

「嫌がるのもいいってサインだろ?」


調子に乗ったセドリックはまた口を寄せてきた。


「イヤだと言っているでしょう!」


全身に力を入れて抵抗する。


(ビクともしないわ.........!)


焦っていると、急にセドリックが地面に転がった。


「無礼者が!!」

「...........いいとこを邪魔しやがって」


バリーがセドリックを殴り飛ばしたのだ。


急いで来たらしいバリーは肩で息をしていた。殴られたセドリックはバリーを睨み返すと殴り返しにいく。2人は取っ組み合いのケンカになった。さすがに騒ぎが大きくなって、兵士達がわらわらと集まってきた。


「2人を止めなさい!」


アンが言うと、すぐさま兵士達が2人を引き剥がす。2人とも殴り合ったせいで顔が腫れあがっていた。所々、顔以外にも負傷をしているみたいだ。


「何があったのです!?」


駆けつけた兵士達に事情を聞かれたが、行き違いがあってケンカになったとだけ説明してその場を収めた。助けてくれたバリーが気になったが、軍内でケンカの裁きがあるということで、すぐに話せなかった。


アンがバリーに会えたのは、事件から3日後だった。彼は部屋で謹慎させられていた。ちなみにセドリックはバリーとは違って、下級兵士であり平民という身分であったから厳しい訓練を受けさせられているらしい。


部屋を訪ねると、アンはベラに頼んでバリーと2人きりにしてもらった。


「調子はどう?」

「もう大丈夫です………なぜあのようなことをされて、あの者を厳しく罰しなかったのです?」

「........彼は昔の知り合いに似ているのよ」

「昔の知り合いに似ている?だから許したというのですか?あんな者、処刑されるべきです!」

「......処分を下すにはそれ相応の理由が必要よ。抱きつかれてキスされたなんて、大勢の前で言えるわけがないでしょう?」

「それはそうですが.......」


バリーは2階の回廊を歩いている時に、偶然、アンに抱きつくセドリックを目撃したのだった。キスされたのを見て、回廊から飛び降りて駆けつけてくれたらしい。


「目撃したのがオレだけで幸いでした」

「助けてくれてありがとう」

「助けるのは当たり前です。姫様は大事な人なのですから」

「そうよね護衛対象だもの」

「そういうことだけではなく………その」

「はいこれ。渡すのが遅くなってしまったけど、お礼を兼ねてこれ渡すわ。早く顔の腫れも良くなるといいわね」


刺繍をしたハンカチを取り出してバリーに渡した。


「これは.........」


ハンカチを渡されたバリーは目を大きく見開いている。出来栄えには自信はあるが、バリーが固まっているので不安になった。


「どうしたの?下手だった?」

「いえ…黄色いラベンダーが」

「黄色いラベンダーがどうしたの?その絵柄には健康を願う意味があるのよ」

「知っています........................()()()()()()()()()()


こちらを向いたバリーはすごく真面目な顔をしていた。


「何を思い出したですって?」

「クライド...............この名前に覚えは?」

「......なぜ、その名をあなたが知っているの?」


クライドはかつての夫の名だ。バリーの口からその名前が出て驚いた。


「やはり......やはりあなたは覚えているのだな?」


バリーは興奮気味にアンの手をとる。アンは慌てたが、セドリックの時と違ってイヤな気分にはならなかった。


「........ずっと懐かしい気がしていた。だけど、それが何なのかずっと分からなかった。黄色いラベンダーを見て前世の記憶を思い出した」


黄色いラベンダーは村娘の時に住んでいた村の特産品で、健康を願う象徴だった。意図して刺繍したわけでなかったが、黄色いラベンダーの刺繍を見てバリーは前世の記憶を取り戻したのだった。


「あなたがクライドの生まれ変わりだなんて………見た目が全く違うから気付いていなかった。似たようなところがあるとは思っていたけれど」


バリーは涙を流してとても喜んでいた。妻であったケアリーが病気で自分よりも先に逝ってしまったから、かつての妻が元気な姿でいるのが嬉しいらしい。


「バリー、興奮しすぎ! あんまり声が大きいとベラが扉を開けるかも」

「あんまり嬉しくて。すまない。姫様の姿はずっと会いたいと思っていたケアリーの姿によく似ているよ」

「そう?確かに毎度、憑依する度に似たような顔だと思っていたけれど」

「憑依?毎度?」


アンは憑依した数々の人生体験を話した。バリーは、アンが時間を越えていろいろな人物に憑依していたと聞くと驚いていた。


「.......そのこともあって、セドリックがもしかしたらかつての恋人だったのかもしれないと思ってしまったの。……されたことは最低でイヤだったけど」

「アイツがかつての恋人なんてわけない!」


バリーは怒っていた。


「私、憑依していた間に人のウソを見抜くのは得意になったのだけど、セドリックとじっくり話せなかったから判断しがたくて」

「アイツのことばかり気にして.......。側にいたオレのことを真っ先に気にしてほしかった」


拗ねたようにバリーが言う。


「だって、さっきも言ったけどクライドとは見た目が違うんだもの。性格や仕草は似てると思っていたわ。バリーだって前世のことを忘れていたからおあいこよ」

「そうだね。ゴメン。..........なにより君にこうして再会できて良かった。今度の人生では絶対に最後まで添い遂げたい」

「え……添い遂げる?」

「当たり前だよ。前世を思い出したんだよ? オレは今世では公爵家の令息として生まれているし、父は大臣だ。王女の君に結婚を申し込むのは不可能じゃない。今すぐ結婚を申し込むよ。今すぐにね。いい?」

「……うん」


バリーの勢いにアンは思わずうなずいたのだった。


バリーとアンの結婚話はうまいこと進んだ。父王は異国の王族と結婚させようと考えていたようだが、アンが“お父様たちと離れたくない”と言うと、簡単に折れた。


アンは自分の結婚話が落ち着いたところで、バリーにあるお願いをした。


「なぜ、もう一度確認する必要なんてあるんだ!」


バリーは不機嫌だった。


「私、セドリックが前世を忘れているだけなのか、ウソをついてそれとなく合わせていただけなのかハッキリさせたいの」

「もし、かつての恋人だと分かったらどうするつもり?」

「なにも。そうだったのかって思うだけ。..........心配しないで。私、スッキリしてあなたと結婚したいだけなの。私が思い切りあなたを愛せるように」


バリーの耳元で甘えたように言うと、彼もしぶしぶ折れた。男性陣はアンに甘かった。


………セドリックがバリーに連れられてやってくると、アンを見て嬉しそうな顔をした。


「会いに来てくれると思ってた」

「おい、口のきき方に気を付けろ!」

「いいのよ。いつも通りでいいわ」

「へへ」


セドリックが祈るようなポーズでアンを見つめてくる。


(行動を見る限り、悪意は感じられない………けど)


「………確かめたいことがあるの。あなたは、セーターの洗い方を知っているかしら?」

「へ?セーターの洗い方?」


下女時代、よくセーターの洗濯を頼まれて庭で洗っていた。厨房はすぐ近くだったので、アダムがちょいちょい話かけてきた。彼はセーターを丁寧に洗う様子を見て、もっと楽に洗えばいいじゃないかと言うから、セーターは優しく洗わなくてはいけないと、何度となく洗い方を話してあげたのだ。


「えーと、たしかブラシで洗うんだ。汚れが奥に溜まってるから」

「セーターは繊細な編み物よ。ブラシなんかで洗わないわ。洗剤を溶かした液の中に入れて押して洗うの」

「そうか、見たり聞いたりしたことがないからな……って、王女様のあんたがなぜそんなことを知っているんだ?」


セドリックはワケが分からないという様子で耳をガシガシと触った。……聞く気にもならない不可解な会話だったらしい。


(やっぱり、彼は他人の空似ね。...........随分と惑わされた)


「もう、結構よ。連れて行って」

「え?なんなんだ?セーターの話なんかしただけで.....」


セドリックは城の外に放り出された。


「あんな甘い処分で済ますとは……」

「あの者がしたことは許しがたいけど、目の前から消えてくれるだけでいいわ。だって、もう人が死んだりするのはコリゴリですもの。死とは縁遠くいたいの」


ケアリーとして生きた時も20歳で死んでしまった。バリーはアンの言うことを理解して、なにも言わずにアンを抱きしめた。


「結婚話、トントン拍子に話が進んでいるね。周りもすでにオレをアンの夫として扱い出しているし。だから...........そろそろ上書きしていい?」

「上書き?」

「アイツ、アンにキスしただろう?すぐ上書きしたかったけど、人の目が多くて自重していたんだ」

「そ、そうなの?」

「うん。いい?今なら誰も止めないし」

「う、うん」


許可すると、すぐに“ちゅうっ”とバリーがアンの唇に吸い付いた。とっても甘い気分になる。久しぶりの愛のこもったキスに顔が赤くなるのが分かった。


「かわいい。今度の人生ではぜったいにぜったいに最後まで添い遂げたい」

「うん、私も」


…………アンは18歳になるとすぐにバリーと結婚したのだった。


今、アンとバリー馬車の中で揺られていた。先代の墓へ結婚の報告をしにいくところだった。


「こうしてあなたと再び結婚して、結婚報告しにいくなんて不思議」

「確かに。また巡り会えて良かった」


2人で話していると、墓のある場所に到着した。


「ねえ、バリー、おばあ様のお墓が光って見えない!?」

「ああ、オレにも見えるよ!」


アンとバリーだけでなく、侍従たちにも見えているようだった。


「..........おばあ様って聖女様だったんだよね?」

「そう、そう聞いている」


実は、父コンラッドの母は聖女であった。アンも祖母が生きていたころ、たくさん可愛がってもらった記憶がある。


その光は何かをアンに伝えようとしているようだった。


「もしかしてだけど.........おばあ様が馬車の事故で死ぬ運命だった私を助けてくれたのかしら.........。私が小さい時に亡くなられたから、そういった可能性を考えていなかったけど.........」

「そうかもしれない。そして、オレたちを巡り合わせてくれた............」


バリーが墓の前にひざまずいて祈りを捧げる。アンもひざまずいて祈りを捧げる。


「ありがとうございます..........アンにはほかにも試練をお与えになったみたいですが、巡り合わせて頂いたことに感謝いたします」


祖母の不思議な力のおかげだとして、なぜ、何度も憑依させられたのか不明だが、あれは祖母からの試練だったと思うことにした。辛かったが無駄な経験にはなっていない。


バリーが立ち上がるとアンを抱き寄せて優しくキスする。アンからもキスのお返しをしていると、いつの間にか祖母の墓の光は消えていた。


「これからもずっと仲良く生きていこうね」


手をつないで微笑み合った。


その願いは叶えられることとなる。アンは20歳を迎えても人生を閉じることなくバリーと末永く仲良く年を重ねていったのだった。

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