第8話 別々の世界で
高校1年生、16歳の天音雫です!
何かと至らない点があると思いますが読んでいただけると嬉しいです!
「え…?!神代って、渚冬さんたち神様にとっては命と同じようなものじゃ…?!」
「それを、奪われてしまったら、いくら志乃さんが記憶に打ち勝てる精神を持っていても死んでしまうじゃない!」
その事実にゾッとする。
この眠りが、永遠になってしまう。
本人が神代を守れなくなることで、それが奪われてしまうことで。
自分の命が何の抵抗もできない間に無造作に奪われる。
それは、あってはならないことだ。
「渚冬さん、前に怜央さんに“逃げられた”、って言ってたわよね?その、逃げた時はまだ、乗っ取られていたのかしら?」
顔を青ざめさせる瑠依がそう問えば、
「…あぁ。完全に乗っ取られていた。
本来の怜央さんの自我は欠片も見られない……
完璧な妖魔だった。
確か”藍瀬“と名乗っていたが…今となってはそれすらも信じがたいな」
「執行人2人の命が狙われてる。
こりゃあヤベー事態だろ?
いつか目覚めるコイツの事より」
志乃を指差す雅は落ち着いているが瞳には鋭い光が宿っていた。
「どうするんですか…?」
執行人2人分の神代を守るなど容易いことではないはずだ。
「まずはこの果たし状を送ってきたやつが、誰なのかを特定したいところだね」
「心当たりがあるんですか?」
便箋には差出人の名は書かれておらず、筆記も至って普通の、女性が書いたとも男性が書いたとも取れるような字体だ。
……中身にそぐわない綺麗な字体ではあるのだが。
「そこ出でてくんのがその杖だよ」
渚冬の手の中に収まっている黒石がはまった杖を指差す。
「その執行人と取引した叶夢って奴、怪しくないか?」
「玲瓏にいる罪人だからですか?」
「……正確に言えば、志乃さんによって玲瓏送りにされているから、かな。
志乃さんを強く憎んでいてもおかしくはない。」
「あんまりそんな風な人には見えなかったですけど……
じゃあ、その叶夢さんはどうして怜央さんの神代まで奪おうとしているんですか?
恨んでるのは志乃さんだけですよね?」
叶夢と初めてあった時、フランクな感じだったのを思い出し、人柄を見抜く目が自分には全く無いのを実感する。
そもそも会う場所が違えば自分は彼を罪人だなんて思いもしなかっただろう。
もっと人を(神を?)見抜く目を養わなければ。
「……そのへんはよくわかってないんだけど、執行人全体を恨んでいるんじゃないかと僕は睨んでるよ。ちょっと前に叶夢が人間界で大暴れした時に、執行人十二支が総動員で止めたからね。」
「12人の神様が叶夢さんの事を止めたってことですか?!」
「いや、正確には双神や兄弟で執行人を担ってる年もあるから、12人以上かな」
「あおちゃん、その叶夢って人、結構……とっても、とーっても危ない神様なんじゃないかしら…?!」
「あー、叶夢は妖魔だ。
妖魔ってのは大体人間界に対して破壊願望持ってっからしょーがねぇよ。」
顔を見合わせる姉妹に、雅の物騒な発言が投下され余計に肝が冷える。
「人間界も危ないわね…
今までの平和に暮らしてたのが嘘みたい……」
「……まぁ、そういうわけで叶夢にこのまま杖を渡すのは危険な気がするんだけど……
皆はどう思う?」
それは約束を破るという趣旨だった。
日本人の心が痛む。
約束は守るもの。
破ってはいけない。
そんな思いが常に心にあった。
でも今回は、命がかかっている。
この杖を渡すことで叶夢は何か悪いことに使うかもしれない。
「その杖は、危ないものなんですか?」
「知らねーのか?これは叶夢の家に代々伝わる家宝、“黒魔杖”だ。これ1振りで人間10人は殺せるスグレモノだ。」
「渚冬さんその杖は今すぐ真っ二つにしてください!私からの一生のお願いですッ!!」
ふとした疑問を口にしただけだったがとんでもない物騒品だった。
破壊を請う葵に渚冬は眉尻を下げた。
「僕もできるならそうしたいんだけど……
何か特殊な術式がかけられているようで壊せないようになっているみたいだ。
…ふんっ、ふんっ!!ほら、ヒビ1つ入らない」
「どこかに隠しておくしかないのね……」
恐怖に顔を引き攣らせる瑠依がその結論をだせば、渚冬も仕方なさそうに頷いた。
「あぁ、そのようだ。
とにかく、杖は安全な場所に隠す。
そして、残る執行人と僕で志乃さんと怜央さんの神代を守るつもりだ。
犯行は2日後らしいから、それまでに準備を整えておかないと……」
「わ、私達は何もしないんですか?!」
任務に自分と姉が含まれていなかったことに思わず突っ込んでしまう。
こんな大変なことになっているのに自分達はただ指を咥えて見ているだけの傍観者になっていろというのか。
「今回危険な目に合わせてしまったから今後はこの世界に関わることは……って、言いたいところなんだけどね。
どうやらそうもいかなさそうなんだ」
「……というと?」
葵と瑠依は揃って首を傾げる。
「執行人12人のうち、2人欠けた状態だ。
特に志乃さんは今年の執行人。
現在は来年の辰年の執行人が代理を務めているけど、危うい状態なのには変わらない」
「執行人は、時雨夜もそうだが人間界も間接的に守ってんだ。
その守り手が2人欠けたとなると…」
「まさか、人間界にも危険が及ぶってことですか?」
最も恐ろしい推測を口にする。
否定してほしかった。
そんなことはないと言ってほしかった。
しかし、現実は甘くない。
「……あぁ。安全とは言い切れなくなっている。
僕は神代守りで桐ヶ谷神社からしばらくいなくなる。
君達で、人間界を……っていうのは広すぎるから、君達の街の安全を守ってほしい。
各地の僕と同じ立場の人達は、頑張ってくれるから、大丈夫だとは思うけど……」
「じゃあ、今回私達は戦う場所が、違う世界なのね。」
桐ヶ谷神社の神殿の扉1枚で繋がるとはいえ、世界と世界。
距離は大きいし、今回の任務的に簡単に会えるわけではなさそうだ。
「きっと何とかなるさ。
……あの街を、頼めるかな?」
「任せてください!」
「任せてちょうだい!」
「頼もしいね。
…………さすが、あの人が“自慢”していただけあるよ」
フフッと口元を隠して笑った渚冬。
後半、小さく囁かれた言葉は、葵には聞き取れなかった。
「そうと決まりゃぁ、早いとこ人間界に帰ったほうが良いんじゃね?」
話がまとまったのを見計らってそう提案したのは同じく神代計画には未参加らしい雅だ。
「お前ら、親が心配してんじゃねぇの?
もう結構経ってるくね?」
「……え?だって1時間くらいしか経ってないって咲夜さんが……」
「そうだわ!あおちゃん、早く帰らないと!
あおちゃんたち、杖を探しに行って丸々1日帰ってこなかったんだもの!」
「い、1日?!」
おかしい。咲夜は、確かにたった1時間しか経ってないと……
「……杖の邪悪な力の影響かな?
葵ちゃん達は1日と1時間くらい経ってここに戻ってきたんだよ」
「〜〜〜〜〜ヤバーイ!お母さん絶っっ対メッチャ心配してるーーーーー!!」
葵の絶叫が治療室に響き渡った。