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第7話 目覚めない神

高校1年生、16歳の天音雫です!

何かと至らない点があると思いますが読んでいただけると嬉しいです!

「……志乃さん?」


呼びかけに応答はない。


咲夜と別れ、渚冬に連れられるがままにして治療院に入り目にした光景に、葵は棒を飲んだように固まった。


寝台に寝かされている彼女の様子は”異質“そのものだった。


大人びた顔つきの少女は、瞳を閉じて、しかしその顔には苦悶の表情を浮かべている。


葵の声には一抹の反応も示さない。


時折うわ言のように何か呟くが、それ以外に身動きは一切ない。


まるで、死んでしまったように。


「し、志乃、さん…?」


声が震える。

寝台の側に膝をつく葵の手を、瑠依がそっと握った。


「安心して、大丈夫よ、あおちゃん。

志乃さんは生きてるって、渚冬さんと湊さんが……」


「じゃあ、どうして……」


どうしてこんなに苦しそうな顔を、しているのか。


「葵ちゃんと桜、瑠依ちゃんと志乃さんであの時、離れ離れにさせられたね?」


丸椅子に座る渚冬の声は穏やかだが、その顔にはどうしようもない切なさが滲んでいた。 


「はい……記憶の、罠に…」


「志乃さんは、……蘇ってはいけない、禁じられた記憶を蘇させられてしまったみたいなんだ」


禁じられた記憶。

そんなものが神には存在するのか。


「志乃さんが封じておきたかった辛い過去をあの人達は無理矢理思い出させたのよ。私達は何気ない日常の記憶だったけど……」


封じておきたかった、過去。


それはつまり、志乃の精神の安定性に直結するもので。


精神が不安定になればどんな強戦士も、強神も、執行人も、戦闘不能になってしまうわけで。


「今の志乃さんはまだ、過去の記憶の中を彷徨っているんだ。

まだ、抜け出せていない。

解術師の人達がいろんな処置を施してくれた。それでもまだ……」


「妖魔は、私達の戦力を削るためだけに、そんな事を?」


ゆっくりと首を縦にふる渚冬に葵は奥歯が折れるほど強く唇を噛み締めた。


雅を救いたいという自分勝手な願望で志乃を過去の記憶の迷路に迷わせることになった。


まさか、こんなことになっているなんて思わなかった。


誰も傷つかないで帰ることは難しいかもしれないと覚悟していた。


でも。

こんなことになってしまうなんて、考えもしなかった。


「まぁ、そんな落ち込むなよ。

お陰で俺の命は助かった。

ま、多分価値的なことで言えば、俺よりそっちの執行人の方が遥かに命の価値は重いけどな」


渚冬の左隣の丸椅子に頬杖をつきながら座る雅がそうフォローを入れる。


何処までも冷たい雅を葵はキッと睨みつける。


「……そんな事、言わないでください。神の前では命は皆平等って言葉、知らないんですか」


「神は大量に目の前にいるし、なんなら今記憶を彷徨ってる奴も神だ。けど、俺はこいつらと俺が同じ価値を持ってるなんて驕る気はねぇよ」


葵の突っ張った言い方にも平坦な口調で返す雅の横顔には何の感情も読み取れない。


葵はそれ以外言い返す気になれなかった。


何故なら、自分でも、自分と志乃が同じ生命の価値とは思えないし、何なら姉と自分でも価値が同じだと思えたことはなかったのだから。


リン、と音がして、渚冬の右隣の丸椅子に眠りながら座っていた桜の膝から何かが飛び降りる。


琥珀色の燐光を纏うそれは、渚冬の相棒の狐の精霊ーー神使だ。


まるで慰めてくれるように、葵の腕に擦り寄り、間近に座る。


「それよりも今は重要な事が2つあるだろ、俺の命の恩人さん方」


「あ、そうだったわね!

私ったらてっきり忘れてたわ!」


「っ…!今の志乃さんよりも大事なことなんて、」


「……現状、今の時点では、志乃さんのこれ以上の回復は望めない。

あとは志乃さんの精神力に頼るしかないんだ。

志乃さんが、自分の意志の強さで過去の記憶と決着をつけるしか、復帰する方法がないみたいだ。

歯がゆいことだけれど……

救ってあげたいんだけど、それができないんだ。」


「コイツの戦闘不能、及び執行人としての任務遂行不能にあやかって悪い奴らが動き出してる。

そっちを対処しなきゃやべぇって話になってくるんだよ」


声を荒げた葵に渚冬と雅の補足が入り葵は無力感に苛まれた。


自分のせいでひどい怪我を負った人が目の前にいるのに、その傷口を消毒することもできないような、そんな感覚だった。


「そう、ですよね。

時雨夜の執行人さんですもんね。

やっぱり治安とか悪くなっちゃったりするんですね。」


「あぁ。人間の奴らが思ってるより、神の世界も物騒だからな」


呆れたように肩をすくめる雅。


「……その悪い奴らの話に入る前に、1つだけ、聞かせてください。」


「あぁ、かまわないよ。」


葵は渚冬の黒瞳をまっすぐに見つめる。

これだけは譲れない。


この確認が取れなければ例え黒靄の鞭が100本飛んでこようと次の論題には移らない。


「志乃さんは、いつか絶対に、目覚めますよね?このまま死んじゃったりしないですよね?」


「この意地っ張りで真面目な執行人がいつまでもグースカ寝てると思うか?

電光石火の勢いで目覚めて仕事しだすと俺は思うけどな」


結局2つ聞いた葵に対して、口を開きかけた渚冬に代わって、雅がそんな意見を出す。


確認するように渚冬を見れば、渚冬も力強く頷いた。


「志乃さんの精神力の強さは凄い。

あの神様は、凄いんだ。僕の神代にかけて誓うよ。

志乃さんは必ず目覚める。

今すぐにっていうのが少し難しいだけだ」


「……分かりました」


「1日も早い目覚めを祈りましょう、あおちゃん」


「……うん」


瑠依が優しく葵の頭を撫でる。


責任を感じる妹、その重荷を少しでも軽くするように。


「何回も話の腰を折ったりしてすみませんでした。

それで、その、悪い奴ら、っていうのは…?」


「これだ」


雅が近くのサイドテーブルから1枚の手紙を取り、葵へと差し出す。


白い封筒に白い便箋。

一見普通のお便りだが、


「志乃さんと怜央、つまり2人の執行人の神代を頂くという果し状が届いたんだ」


葵の全身に、激震が走った。






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