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第28話 戦線離脱

高校2年生、16歳の天音雫です!

何かと至らない点があると思いますが、読んでいただけると嬉しいです!

時辰年の執行人、風和が志乃の聖域に現れた叶夢に死刑宣告をしたところまで巻き戻る。


「死んでください」


あの瞬間、風和の袴の両袖から顕現した双龍が叶夢の腕を食い千切り、頭を噛み砕き、心臓を潰すーーーーはず、だった。


渚冬のスマホから、ピコン、という電子音さえ響かなければ。


音がなった途端、風和も叶夢も咲夜も、天舞でさえも勢いよくズッコケた。


「な、渚冬さん…!

いまコイツを殺す絶好の機会でしたよね…?!

双龍も暴れだしそうですよ…?!」


涙目で抗議する風和に渚冬は応えられなかった。


何故なら、


『逃げろ』


「……湊?」


表示された通知、それ以降は何の言葉も送られない。


既読こそついたが、反応の言葉を返さない葵と瑠依。


「マズイかもしれない」


この志乃の聖域よりも、悪い状況が向こうの世界を襲っているのかもしれない。


「咲夜さん!

湊のところへ!桜を連れてお願いします!」


「え?!急すぎないッスか?!

だ、だってコイツが…」


「人間界に行くつもりなの?

え〜、それはおすすめしないな〜」


咲夜が指差す先、すでに体勢を整え黒魔杖を頭上にかざす叶夢の姿が。


渚冬は唇を噛んだ。


「頼む!ここは僕と天舞さんと風和さんで何とかする!

向こう(人間界)が堕ちたらマズイんだ!」


叫び、意識を掌に集中。


「わ、わかったっス!

御三方とも、絶対死なないでくださいッスよ!

解術師の俺がいなくなるんスから、解術できないのを肝に銘じてくださいっすよ?!

ホント、十分気をつけてくださいっスよ!!」


「行かせないよー?」


敬礼ポーズを取る咲夜、その意図に気づいた叶夢が黒魔杖を振る。


赤黒い光が黒魔杖から放たれ、咲夜に当たるーー寸前、


「この聖域を荒らすことは僕が許さないよ。

無論、天舞さんも、風和さんも、ね」


渚冬が作り出した巨大な氷柱が次々と空から落下し、赤黒い閃光を遮る。


美しいお花畑に、欠けた氷柱の破片が飛び散る。


一方の咲夜は、既に瞬間移動を使い、志乃の聖域からは脱出していた。


「チッ……面倒くさいなー。

大人しくやられてよ」


「はぁぁぁぁ?!

大人しくやられてほしいのはこっちだぜってんだ、よ!!」


叶夢に向かって中指を立てた直後、天舞は一気に叶夢との間合いを詰める。


その速度、まさに地を駆け抜ける馬ーーーーよりも遥かに速い。


「この聖域からとっととでてけっての!」


至近距離で怒鳴りつけ、叶夢に杖を1ミリも動かす隙を与えない。


天舞の怒り任せの拳が叶夢の頭上を掠め、聖域の地面に穴を開ける。


その隙に死角に潜り込もうとする叶夢、そこへ、


「龍の牙に砕かれるがいいです!」


「大人しく玲瓏に戻るんだ」


風和が再び顕現させた双龍が叶夢の首を食い千切らんと攻めかかり、圧倒的な質量の氷矢が一斉に叶夢へと向かう。


「わー、怖い怖い」


直後の攻防、それは瞬きすら致命につながるほどの刹那に交わされた。


文字通り逃げる隙が全くないはずの一斉攻撃に、叶夢は後退ではなく前進する。


超人的な身のこなしで双龍の追跡を避けて宙に身を躍らせ、


「砕けろ」


黒魔杖を突き出し、襲いくる氷の矢を全て美しい氷片へと変貌させる。


豪風、攻撃を無効化されたその衝撃波で周囲の空気が凍てついた。


「っ……あの野郎!

くっそ!あんな杖さえなけりゃあ余裕で勝てるってんのに!」


「本当に……杖ごと龍の胃の中でぐちゃぐちゃに溶けてほしいです」


再び距離を取られ、怒りのボルテージが3段階上がる天舞の横、風和もまた双龍を顕現させたまま憤怒に声を震わせる。


「この杖がなくたって、君たちは俺に勝てないよ?」


ゆっくりと地面に降り立ち、何のためらいもなく、霜に包まれた花を踏み躙る叶夢に風和は冷笑する。


「笑わせてくれますね、叶夢さん。

あなたを閉じ込めたのは、他の誰でもない僕たちですよ。記憶障害でも起こしたんですか?」


「あの時はちょっとしくじっただけだよ。

今の俺はあの時より強いしね」


一歩、前に踏み出した叶夢はそう言い置き、軽く膝を曲げて再び跳躍する。


周囲に爆風のような余波を生み、地面を伝う振動に花々が枯れていく。


「皆、避けて!

あれに当たったら死んでしまう!」


「はぁぁぁぁ?!マジかよっ!」


「黒魔杖の”死生開闢“です!

天舞様、当たったら文字通り、枯れますよ!」


「ふーちゃん、今追い打ちかけないで!!

今必要なのは事実よりも味方を鼓舞する言葉だぜ?!」


3人も揃って死の波動が蠢く地面を力強く蹴り上空へ飛翔、それぞれが死の根源を握る叶夢へと攻撃の動作を取る。


「いいね、皆威勢があって。

戦いっていうのは、やっぱりこうじゃないとね。

…………待って」


ふと、その視線が、何もない虚空へと向く。

その一瞬を見逃しはしない。


「その命、龍の礎になって朽ち果てるがいいです!」

「ぶっ倒してやるーーーー!」

「罪を償うんだ!」


乱暴な吠え声とともに、双龍、拳、氷柱、3方向から迫るくる破壊の暴力に、


「ごめん、俺の出番はもう終わったらしいよー。

もう戻んないと。意外と早く達成したみたいだね。

でも結果オーライってとこかな」


迫る攻撃を避けようともせず、上機嫌な様子のか叶夢は、


「じゃーねー。

またいつか、一緒に戦いたいね。

その時に、兎が死んでなきゃ良いけど」


その弾んだ声には感情があふれていた。


迫る攻撃、その純度と美しさを堪能し、それから大きく手を叩きーーーー


「「「いっっっっだ?!」」」


瞬間、3種の破壊が、叶夢がいたはずの空中でぶつかり合い、3人全員が、違う方向にふっとばされる。


へし折れた氷柱は爆音じみた音を立てて花畑へと深々と突き刺さり、双龍は空気と3人の衣服を切り裂き周囲に空間の歪みを与え、天舞必殺の拳は、


「ち、ちょっと天舞様!!

これ絶っっ対、歯折れました!

責任!責任取ってください!」


「………僕もちょっと、いや………

大分……ダメージを食らったかもしれない」


渚冬と風和の顔面に大損傷を与えていた。


かくして、3人の決死の一撃はどれも叶夢に当たることなく、自滅の攻撃と化した挙句、


「あいつ……どこ行きやがった?」


「神代は奪ってないですもんね。

不気味です…龍の瞳よりも黒く深い何かがありそうですね」


叶夢の行方とその目的さえも不明になり、見るも無残な状態になった花畑の中、3人は揃って沈黙した。


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