第17話 敵討ちの幕開け
高校1年生、16歳の天音雫です!
何かと至らない点があると思いますが読んでいただけると嬉しいです!
鉛を全身に詰められているかのように身体が重い。
進む速度は亀よりも遅く、しかし、それでも、足は決して止めない。
呼吸は浅く、酸素の量が足りていない気がする。
「……俺、は」
意味もない言葉が息を吐くようなかすかさで口から漏れる。
「託されたんや、」
意志さえもぼやける中、守らなければならないものだけがハッキリと心にある。
それだけが生きることを選ばせる。
行くべき場所に足を引っ張らせる。
「俺が、」
脳裏には穏やかな慧人の顔が、壊れた映写機のように何度も何度もフラッシュバックされる。
「守らへんと、」
視界がぼやける。
涙が伝いそうになるのを袴の袖で乱暴に拭う。
そして、
「………」
ようやく辿り着いた神社。
慧人が神主として務めていた沙世神社に辿り着く。
神社の鳥居をくぐる。
それは何時もと変わらずにそこにある。
それなのに、やけにセピア色じみて見えるのはなぜだろうか。
そう自分に問い、しかしすぐに答えは出た。
乾いた笑い声が口からもれる。
変わってしまったのは湊の心だ。
折れそうなほどに打ちのめされたから、だからこんなにも周りにある全てのものが色あせてしまったように見えるのだ。
何も守れなかった。
何もできなかった。
自分の権能など、所詮はこの程度か。
己に打ちひしがれ、自己嫌悪に苛まれ、
「やっほー、おにーさん」
突如として聞こえた無邪気な声に、反射的に後ろを振り返る。
鳥居の真下、袴姿の幼い男の子が、こちらに向けて手をひらひらと振っていた。
「元気だったー?」
「…………誰や」
軽薄な口調と安穏とした雰囲気。
相反して、纏うオーラは純黒と憎しみ。
その濃度は尋常ではない。
湊は警戒心を高める。
「僕ー?僕は輝留!
おにーさんの様子が気になって見に来ちゃった!
でも、つらそーな顔してるね…
だいじょーぶ?
僕もね、大切にしてた人を失ったばっかりなんだー。その人、強かったんだけどね、ニンゲンに殺されちゃったの。炎に焼かれて。信じられる?
僕が守ってあげたかったんだけど、その時僕はその人から別の場所で任務をお願いされててね、」
「は、ぁ?」
流れるようにとうとうと語る男の子、輝留。
その言葉に湊の脳は理解が追いつかない。
「僕、あの人なら大丈夫だって信じてたんだけど、やっぱり数が多かったから負けちゃったみたい。
弱いものイジメなんてひきょーだと思わない?
ね、そう思うよね?ニンゲンなんて、いなくなっちゃえばいいって、そう、思わない?」
言葉の間中、輝留の両目は、まばたきすることなく、ずっと湊を見ていた。
その瞳にはいわずともしれた不気味さがある。
しかし、不気味さを切り裂き、輝留の最後の一言が湊の出来たばかりの傷口に触れる。
だから、声を荒げた。
「人間がいなくなったほうがいいなんてよくもいえたもんやなぁ?!
俺の師匠は人間やったけどな、メッチャいい人やったんや!
なんで人間がいなくなったほうがいいなんて思えるんや?!
俺たち神様は人間を守るためにずっとーーーー」
「はぁ……おにーさんとは分かり合えないのか……
…………残念」
「は」
激情に支配された湊の身体を、何かが貫いた。
瞬間、
「ーーーーッ!」
湊は轟音とともにふっ飛ばされ、地面へと大の字に倒れていた。
「う、ぶ」
呼吸が出来ず、強打した背中のせい吐き気がこみ上げる。
足は言うことを聞かず、目の前は色とりどりの星が言っている。
「ねー、おにーさん。
なんでそーやってニンゲンのこと守ろうとするの?」
視界の端、輝留がゆっくりとこちらに歩み寄ってくるのが見える。
しかし、体は言うことを聞かない。立てない。
「ね、ニンゲンの世界なんていらないって思わないの?」
そこには言葉通り、幼子がもつ失望の感情が込められていない。
「ぁ、が……」
「ねぇ」
倒れたままの湊を輝留が蹴りつける。
幼子からは考えられないような蹴りの威力にに湊の体はふっとばされ、地面を転がる。
「ニンゲンなんて、ヤな人ばっかりだよ?ヘーキで色んなもの傷つけたり、壊したりさー」
「ぁ、う……」
「傲慢だしー、自分勝手だしー、昔はカミサマも、ヨウマもどっちも傷つけてたんだよー?なのに、どうして守るの?なんでやり返さないの?
いなくなってほしいって思わないの?」
指を折り人間の悪辣さを述べる輝留。
その憎悪は無邪気さの裏に巧妙に隠されいる。
「っ…、過去の……ことに……こだわるのは、よくないねん……
それで言うたら昔は神様も妖魔も人間も全部ごちゃごちゃになって、戦争してたやろ…」
ゆっくりと半身を起き上がらせて、遠い昔の時雨夜の歴史をぶつける。
一部の神しか知らぬ過去、その醜さを。
この子どもが抱いているのが人間に対する憎しみなのならば。
それを解かなければならない。その一心で。
「“今”が大事なんや、だから」
「ふーん。
ま、おにーさんはそう思えるからニンゲンの神主さんと仲良くできるのかもねー
あ、仲良く”できてた“のほうが正しいかなー?もう死んじゃったんだもんね」
今、なんて。
湊の思考が停止する。
「何で、それ、知って…」
「ん?あー、まだわかんないのー?」
その双眸に凶悪な笑みが浮かぶ。
「あのお店の爆発、僕が起こしたからだよー?
特に、この神社の神主さんを、殺すことをもくひょうにし………おにーさん?」
湊は、輝留の胸ぐらをつかんでいた。
あれほど言うことを聞かなかった腕は、輝の留袴をしっかりと掴み、怒りに震えていた。
胃の底から心火が湧き上がる。
膝立ちのまま殺意を漲らせる湊。
その回り、権能者の意思を反映したかのごとく、顕現した水流が荒れ狂う。
輝留が黒く淀んだ目を向け、
「ね、無駄なことはしないほーがいいよ。
もう手遅れなんだしさー」
だって、と輝留は言葉を紡ぎ、またしても残虐な表情を顔に浮かべ、
「1つの神社が堕ちればあとは”氷鬼“がぜーんぶ氷漬けにするだけだから!」
いっそ快楽的な笑みを浮かべた輝留は、己の袴の袖から目にも留まらぬ速さで日本刀を取り出す。
「おにーさんも、ニンゲンの神主さんとおんなじところに送ったげる」
感情の宿っていない冷たい死刑宣告の声と共に、日本刀が振り下ろされた。




