第7話
駅のホームにて。
東村が口を開いた。
「なあ暇だし、だるまさんがころんだをしようぜ!」
「別にいいけど。でも、周りの目を気にしながらやるのは……って今俺たちしかいないか」
「でも、それだけじゃつまらないんじゃないかな?」
俺と小白さんは言った。
「せっかくだし、負けた人が罰ゲームをするってどうだ?」
「それはおもしろそうだ!」
大陸と岩破先輩が会話に入ってきた。
「じゃあ、負けた人が難多羅高校に着くまでバニーガールの衣装を着る刑ね!それじゃ俺が鬼やるから。だるまさんが……」
「「「「えっ!ちょっ!」」」」
急に東村がだるまさんがころんだを始めやがった!練習試合の会場に着くまでバニーガールとか、さすがに恥ずかしすぎだろ!
「ころんだ!」
俺たちはぴたりと止まった。
ここで『俺はやりたくないから抜ける』とか言ってだるまさんがころんだを抜けても良いが、どうせ東村が『はい動いたからバニーガールね!』とかなんとか言って俺がバニーガールになる落ちしか見えないからこのゲームは、やるしかない!3人も同じことを考えたのかこれを続けるようだ。
これは電車が来る前になんとか終わらせないとな。
5分くらい経過しただろうか。
「だるまさんが……ころんだ!」
……だるまさんがころんだをしていて思ったのだが、意外と面白いぞこれ!
そのとき、電車が来る音が聞こえてきた。
そういえば、『まもなく、1番線に各駅停車最果て行きが参ります。危ないですので、黄色い線の内側まで下がってお待ちください』とかなんとかホームのスピーカーから聞こえてたな。
電車が来たらどうなるのか、俺は東村と中学の頃、共にしていたからわかる。悪友は遅刻だの何だのをしてでも俺たちをバニーガールにさせて、写真を撮りたいに決まっている。
「だるまさんが……」
……くそ!電車がホームに止まりやがった!どうするべきだ。
そのとき、大陸が俺のすねを思い切り蹴ってきた。
「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁ!」
「ころんだ!」
俺がすねの激痛でぴょんぴょん跳ねていたところで悪友は振り向いた。
「……」
大陸が口を開いた。
「なあ、もう電車が来たしやめねえか?」
「正直もうちょいやりたいが、諦めるとするか。本命の弐星を捕まえられたし!」
「なあ、どこで着替えられるんだ?さすがに、こんな公衆の場で着替えられないだろ」
俺は口実を作ってどうにかバニーガールにならないように試みる。
「おいおい、忘れてるのか?この電車の中にはな、トイレがあるんだぜ」
僕、詫楼は難多羅高校の門の前で部活メンバー全員と大海高校のバドミントン部の奴ら(顧問を除いて)を待っている。あっちの高校のバド部の顧問は先にここに着いている。……ビールを飲んでいるのが気になるが。
僕は大海高校についていくつか気になることがある。
まず、大海高校のバド部は廃部になるという噂があった。大海高校のバドミントン部はとても有名だ。この辺の地域であるうちの難多羅高校、大海高校、望緑高校の3つの高校のバドミントン部は何度も全国大会に出場していて、毎年全国を賭けて地区大会で争うのだ。そのうちの1つの高校のバド部がなくなるというのがすごく驚かされた。まあでも、それはただの噂だったが。
次に、大海高校の部長についてだ。名前は『岩破』というそうだ。名前を聞いたとき『誰?』ってなった。3つの高校の部長はこれまで中学のバド部で活躍してとても有名なのに、『岩破』は中学で無名であった。
最後に、東村だ。あの野郎はこの地区の中学のバドミントン部の間で『大会荒らし』と呼ばれている。中学の地区大会のシングルスで全国大会出場候補とされていた男がいたのだが、『大会荒らし』はそいつをパーフェクトゲームで制し、次の試合は棒立ちで点を一切取らず、試合を放棄したのだ。そんな野郎が大海高校のバドミントン部にいるということがすごく嫌で仕方がなかった。だが僕は対策をしている。あいつはシングルスに向いている。つまり、俺がシングルスをせず、ダブルスをすればいいということだ。ちなみに、僕のペア、模武も僕と同じような理由でダブルスを選んだ。
そんなことを振り返っていると、複数の人影が見えてきた。もしかして、大海高校のバド部かな?
……なんかバニーガールの衣装を着てる男がこっちに向かってきているのだが。あの高校のバド部じゃないよな?そうであってくれ!
いや、隣に憎き『大会荒らし』がいる時点でアウトだ、これ!
あの連中が僕たちの前までやってきて、僕より年上そうな女の人が口を開いた。
「どうも、大海高校です。今日はお世話になります。よろしくお願いします!」
この人があの『岩破』なのだろう。見た目から判断して、背はでかいが、筋肉があまりついているようには感じられない。もしかして、大海高校の先輩は1人だけなのか?僕は去年、大海高校の7月の学校説明会に行ったのだが、校長先生が『うちの学校の生徒の多くがバドミントン部に入っちゃって、他の部活が廃部になりそうで困ってるんですよね』的なことを言ってたけど。大海高校でいったい何が起きたのだろうか?
いつも無口な模武が珍しくしゃべった。
「あなたは何でバニーガールのコスプレをしているのですか?」
それは僕も気になってました。
「俺も何でこれ着てるかわかんない」
何でそんな回答をするのかわかんない。
とにかく、大海高校の人たちを更衣室に案内して、制服(一部、バニーガールのスーツ)から運動着に着替えてもらった。
うちの部長がウォーミングアップで軽く体操をするようみんなに指示した後、大海高校の人たちに基礎打ちをするよう伝えた。お手並み拝見するか。特に気になっている『岩破』の動きを観察して今回の練習試合で生かすことにしよう。
と思ったのだが、あっちの高校は5人、つまり奇数だから1人練習を抜ける話になったらしく、『岩破』は基礎打ちに参加しなかった。観察はうまくいかなかった。
『大会荒らし』と『岩破』を除いた3人の動きは経験者のレベルには達していないが、初心者にしては動けている。1年後くらい経ったらまあまあ強くなっているかもしれないな。その辺を注意しておくとするか。
そんなこんなで、あっちの高校の基礎打ちが終わり、今回のメインの練習試合が始まるようだ。
この練習試合のルールは1セットで15点マッチのデュースありとのことだ。
最初の試合はうちの部長対『岩破』のシングルスだ。
うちの部長はカットスマッシュを得意とする。カットスマッシュというのは、スマッシュのフォームからシャトルを切るようにカットして打って、初速は速く、相手コートに入ってから失速させて足元に落とすショットのことだ。これはコントロールが難しいのだが、なんと部長はコントロールが完璧にできるのだ。
『岩破』はどうやってカットスマッシュを突破するのかがカギとなる。
『岩破』はラケットを持つと、ヒョロヒョロだった身体はムキムキになって、身長が伸び、そして、少年漫画でありそうなオーラのようなものを放ち出した。
「ラブオールプレイ」
主審の模武がスタートの合図を送った。
部長がロングサーブをして、後ろのラインギリギリに行くようにシャトルをとても高く打った。普通なら後ろに下がるが、『岩破』は下がらず人の域を超えるくらいジャンプした。そして、シャトルをほぼ直角に打った。
「……え。わ、1、ラブ」
いつも無表情の模武が驚いた顔をしていた。
今度は『岩破』がロングサーブをした。そのサーブはさっきと同じで後ろのラインギリギリに行くようにシャトルをとても高かった。部長は後ろに下がって、強引にクリアと見せかけてドロップ(コートの手前に落とす技)をしてネットインした。さすがにこれは取れないだろうと周囲は思っていたが、『岩破』は力ずくでロブをした。部長はそのシャトルをクリアで打って、前にいた『岩破』を後ろに下がらせて体制を崩す作戦に出たが、『岩破』は大きくジャンプして、時速1Mmは超えているのではないかと思えるくらいすごいスピードのスマッシュをした。それが、ネットに当たってネットを破壊した。…………は?
「……オーバー1オール」
あのスマッシュは破壊してもネットの高さには届いていなかったから部長に点入るよな。
部長がサーブするはずなのだが、シャトルを持っていない。……気絶しているようだ。僕が部長と同じ状況にいたら僕も気絶してたかもしれないな。
ということで『岩破』の勝利となった。
次の試合は中学のとき僕のライバルだった、府董対大陸のシングルスだ。
大陸は僕たちと同じ1年生のようだ。中学の大会でこの人は見たことがないから、高校からバドミントンを始めたのかもしれない。もしそうなら府董は手加減をするのか?……いや、あいつは自分より弱い人をボコボコにするのを生きがいにしているから本気でするだろうな。
今回は僕が主審をすることになった。
「ラブオールプレイ」
いつもそんなに大きな声でしゃべっていないためちょっと声を張り上げなきゃいけなくてちょっときつかった。
府董はロングサーブに見せかけてショートサーブを打った。初心者にそれはやりすぎじゃないか?予想通り大陸とかいう名前のやつは後ろに行ってしまったな。
「1、ラブ」
今度は、サーブを平行に打って相手の脇を狙った。脇のあたりに来たシャトルを打つのは難しい。それを初心者が打つのはさらに打てる可能性は低い。
とそのとき、
「大陸くん、頑張って!」
大海高校の一目見ただけで失神しかけるほど可愛い女子が大陸を応援した。ん?大陸とやらの様子がおかしいぞ?
大陸は脇のあたりに来たシャトルを無理やり力強く打った。府董はこうなることを予想していなかったのか、動けていなかった。
「オーバー1オール」
大陸がロングサーブをした。府董はクリアして相手を後ろに下げて体制を整えようとした。しかし、大陸は大ジャンプしてスマッシュした。これに関して府董は予想していなかったのか対応できず動けていなかった。大海高校のバドミントン部は高くジャンプして無理やりスマッシュするのが普通なのだろうか?
「2、1」
府董は覚醒した大陸のスマッシュでボコボコにされて15―1で敗北した。府董が落ち込みすぎて魂が抜けてるみたいなかんじになってるところを初めて見た。
次の試合は難多羅高校バドミントン部のマドンナ、爾弧鋳と人間の域を超えたかわいさを持つ小白さんとのシングルスのようだ。
「ラブオールプレイ」
主審の府董が合図をした。
小白さんはロングサーブをした。……小白さんがサーブしてるところもかわいすぎ!爾弧鋳はスマッシュをしようとしている。爾弧鋳は嫉妬でもしているのだろうか?小白さんがスマッシュが来るとわかったのか涙目になっている。……かわいすぎだろおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!じゃなかった。僕は爾弧鋳に向かってスマッシュを小白さんに当てるなと本気で目で訴えた。周りの男どもも本気で目で訴えたからか、爾弧鋳はこの雰囲気に耐えられず空振りしてしまった。
「1、ラブ」
また小白さんはロングサーブした。爾弧鋳はさっきのことがトラウマになったのかクリアをして高くシャトルをとばした。小白さんがスマッシュをしたのだが、そのとき、小白さんの腹が1mmくらい見えた気がする。僕と周りの男どもは興奮した。中には鼻血を出している野郎もいた。爾弧鋳はというと、
「かわいいーーーーーーーーーーーー♡♡♡♡♡♡♡♡♡」
試合を放棄して小白さんに向かって突撃し、抱き着いた。なんかエロい感じになってる。僕のジョニーが暴れたくてしょうがないらしい。僕は鼻血を出しながら欲望を抑えることに必死になった。
そんなわけで、コートを無断で出た爾弧鋳の敗北となった。本人は全く気にしていないようだが。
さて、これまでの茶番は置いといて、今回のメインはこれからだ。次の試合は僕と模武が出るダブルスだ。相手は誰だろうか?丁度余ってるやつが2人だった気がする。名前を確認しようとしたとき、
「俺たちの相手はお前らか。よろしくな」
悪魔みたいに笑いながら声をかけてきたのは『大会荒らし』の東村だった。その隣にはうちの高校に来たときはバニーガールだった弐星とかいう変態もいた。これは悪夢か何かかな?