第4話
目が覚めた。スマホで時間を確認したら、朝の8時50分だった。
今日は日曜日だからもう少し寝ようと思ったとき、今日は部活があるのを思い出した。
その直後に、例のアプリから東村のメールが来た。
『9時から部活だぞ。遅刻したら、今日のメニューを倍しなきゃならないんだと。』
やばい!急がなきゃ間に合わない!……いや、待て。家から学校まで全力で自転車をこいでも15分はかかる。つまり、どうあがいても遅刻だ。
休むか。
『仮病で休むんだったら、無理やり連れて来いって先輩に言われたんだけど。だから、お前の家に行ってものすごい嫌がらせをするから、よろしく。お前休みそうだから今から行くね。』
休もうと思ったタイミングで脅しのメールが来るとは……。
一瞬で体育着に着替えて、ラケットを持って出かけようとしたが、昨日、ファミレスでくそまずオムライスを食って以来何も食べてないのを思い出した。
リビングに行ったら、テーブルの上に置手紙があった。
『日帰りでお父さんと温泉行ってきます。今日の夜には帰ります。お腹減ったら、家にあるもので適当に作ったり食べたりしてください。母より♡』
とりあえず、家にあるものを確認した。あったのは、納豆、しょうゆ、みそ、わさび、ジャム、デスソース、ドリアン、なめこだった。あのときの恐怖を思い出した。……ピンポイントで嫌がらせをしてきてないか、これ?すごく泣きたい……。
しかたがない。途中、コンビニに寄ってなんか買って食べるか……。
はっ!忘れてた!昨日のファミレスで『小白ファンクラブ』に所属してる店員に『サービスをつけたので、通常の値段の10倍の額を支払ってもらいます』とか言われて、所持金を4円にされたのを忘れてた!
俺は何も食わずに部活に行けってか!いつも部活で死にかけるのに、空腹だったら絶対死ぬ!
そのとき、インターホンの音が鳴った。誰が来たのか確認したら東村だった。
「嫌がらせしに来たよ!」
「帰れ!俺は今空腹で倒れそうなんだ!お前にかまってるヒマはない!」
「まあまあ、そうカッカするなって。俺が食料を持ってき……」
すぐに扉を開けて、東村を家に入れた。
「で、何を持ってきたんだ?」
東村が持ってるビニール袋をぶんどって中身をぶちまけた。
納豆、しょうゆ、みそ、わさび、ジャム、デスソース、ドリアン、なめこ。
「どうしてお前もピンポイントなんだよおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
もしかして、東村はこんなしょうもない嫌がらせをしに来たってのか!
「こんなのはまだ序の口だよ。メインはここからだよ!」
東村を無視して、いちばん食べれそうで腹にたまりそうな家にあったドリアンと、東村が持ってきたドリアンにかぶりついた。ドリアンのトゲって痛いんだね……。
……ちょっと待て。東村がもうひとつビニール袋を持っているのがすごく気になった。
「それには、何が入っているんだ?」
「コンビニで買った弁当」
奪おうとしたが、東村に空手チョップをされた。
「何するんだ!」
「これは俺が空腹になってる弐星の目の前で食べる用のやつだからダメ」
くそったれ!
しばらく東村と乱闘してたが結局この世の天国は奪えなかった。
しばらく俺はドリアンを食べて、どうにか完食することに成功した。東村の食べてたコンビニ弁当、マジでおいしそうだったな……。
「食べ終わったからそこに座ってくれ。約束通りお前に嫌がらせするから」
「絶対嫌だわ!遅刻だけど、部活には行くよ!」
ドリアンの匂いを口から追い出すために、うがいしたり歯磨きしたりして、予定より1時間遅れて家を出た。
ドリアンのトゲの痛みが口に残ったままどうにか今日の活動場所の体育館に着いた。
体育館を見渡すと岩破先輩と小白さん、大陸、そして布団を敷いてその上で寝っ転がりながらゲームしてるおじさんがいた。
「あ、弐星!遅すぎるぞ!」
「すみません!………………あの、そこの男の人は誰です?」
「先生、自己紹介くらいしてください」
「えー、だるっ……。周回してる最中なんだけどな……。俺は竹土。数学担当でバド部の顧問。……これでいいよね?いいよな、もういいことにしよう」
「先生、生徒の前でだらしなさすぎです!もっとしっかりしてください!」
「教師にとって部活は残業みたいなもんだから、正直面倒だもん……」
竹土先生とやらは本当に先生なのだろうか?こんなめんどくさがりなのに、よく教員免許取れたな。
竹土先生は何かを急に思い出したかのようにはっとして、ゲームに向けてた視線をこっちに向けた。
「おい、岩破。こいつのことを弐星とか言ったか?」
「ええ言いましたけど、それが何か?」
「弐星って、入学早々遅刻しかけたり、生活指導RTAで1位になったりした問題児で噂のあの……?」
「ま、まあそうですけど……」
「お前、うちのクラスの生徒かよ!……はぁ、仕事増えるのやなんだけど……。弐星、これ以上問題起こすなよ!俺のゲームの時間が削れるから!」
この先生なんかすごくムカつくのだが!
そのとき、東村に急に声をかけられた。
「おい、弐星!サボってないで今日の練習メニューをしっかりしてくれよな!お前をいたぶってやるから……じゃなくて、お前は体力ないから鍛えてやらなきゃいけないからな!」
「お前今、いたぶってやるって言わなかったか?」
「言ったけど何か?……じゃなくて、お前いいのか?遅刻したから練習メニュー、倍しなきゃならないのに」
ヤバ!そういえばそうだった!どうにかして練習をサボりたい。
頭の中で緊急弐星会議を開いた。
眼鏡かけてる真面目そうな弐星:「正直、真面目に練習したら許してくれるんじゃないのか?」
雑魚キャラみたいな見た目してる弐星:「でも、これまでの練習を振り返って!死にかけたでしょ!どうにか、サボらないと倍は死んじゃうよ!」
怖そうに見えるけど意外と優しい弐星:「じゃあ、どうするってんだよ!サボりたいからサボりますとか言うってのか?」
眼鏡(以下略):「お前はバカか?そんなこと言ったら10倍くらいになる落ちになる未来しか見えないぞ」
怖(以下略):「じゃあ、仮病はどうだ?」
眼鏡(以下略)、雑魚(以下略):「「それだああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
雑魚(以下略):「……でも、なんて言い訳するの?」
眼(以下略):「腹痛を理由にするのはどうだろうか?腹が痛いならドリアンをそのままかじったからとか事実を混ぜれば完璧だろう」
こ(以下略):「さすが眼鏡野郎!頭いいな!腹なら本当かどうかわからないしな」
ざ(以下略):「じゃあ、決まりだね!」
緊急弐星会議は終了した。というわけで、
「先輩、腹が痛いんで保健室行ってきます!」
これでサボれる!保健室に行こうと歩き出そうとしたとき、
「わかった。あたしが弐星の腹痛を治してあげるよ!」
「え……、どうやって…………?」
「まあ、そこに立って。絶対に動かないでね!」
先輩に指示されてコートのど真ん中に立たされた。なぜ、ここに立たなきゃいけないのだろうか?
「ほんっとうに絶対に動かないでね!」
俺は『押すなよ、押すなよ。絶対に押すなよ!』って言われたら絶対に押さない男だ。神に誓ってもいい。しかし、頭の中にある危機感知センサーがビービー鳴っているのだが……。動いたほうがいいのだろうか?
岩破先輩はラケットを持ち、床に散らばってるシャトルをラケットで拾い上げ、シャトルを天井すれすれまで上げた。そして、ジャンプして弓を引くような動きでラケットを構えた。
……危機感知センサーが鳴りすぎてボンって爆発した。先輩の動きは素人でもこれはすごいと思う動きをしていた。そう、この動きは、………………スマッシュだあああぁぁぁぁぁ!!!
気づいた時にはもう遅くて、先輩はシャトルを打った。
足がすくんで動けず、シャトルはマッハ2くらいのスピードなんじゃないのかなって思うことしかできなかった。(スマッシュの世界最速は時速565kmだから、世界最速の約4倍ってことになる)
「ぎゃああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
超音速のシャトルが腹に直撃した!超絶痛い!しかし幸い、ギャグパワーかなんかで衝撃波とかはなかった。
俺は腹を抑えて丸くなりながら先輩に口を開いた。
「せん……ぱい……、なにす……るんです……か…………」
「何するかと言われても。お腹が痛いって言ってたから弐星のお腹にシャトルを思いっきり当てて治そうと思っただけなんだけど………」
「ぜった………い、そのかんが………えはまちが………ってますって…………」
「前の部長はこれすればみんな腹痛治るとか言ってたんだけどなぁ」
前の部長とやらに1度会ってみたいね。出会い頭に顔面を思いっきりぶん殴ってやる!
「まだお腹痛いならもう1回やるけど?」
「もういいです!」
仮病作戦は失敗し、結局、練習メニューを倍する羽目になった。
あの死にかけるほどきつい練習メニューをした。しんどい。しかし、俺が練習メニューの2周目をやろうとしたとき、竹土先生が部活の時間ないし、面倒だし、これ以上働きたくないから練習やめていいって言ってくれた。竹土先生、いいこと言うときもあるんだな。……ダメな人間の発言だけどな。
「なあ、どうして空気椅子で考える人のポーズしてるんだ?…………もしかして、小白さんを見ながらシ〇ってたから賢者タイムになったのか?お前、『小白ファンクラブ』に入らないか?素質ありそうだからさ」
「〇コってもないし、物騒な宗教団体に入る気もない!……というか俺、空気椅子で考える人のポーズしてたのか」
大陸に『小白ファンクラブ』に誘われたが、正直あそこにいる野郎どもが肉体的な意味でも精神的な意味でも怖いから関わりたくないのだが…………。
帰りのミーティングで岩破先輩は、シャトルは腕を振って打つのではなく手首を使って打たなければならないとか、ラケットでシャトルを拾うときコルクの部分を自分に向けると拾いやすいとか、アドバイスを言っていた。
バドミントンのアドバイスが終わって俺がちょうどあくびをしだしたあたりで先輩は残念そうにしながら大事なことを言い出した。
「そういやさ、次の土曜は練習試合あって日曜はあたし、バドミントンの大会に出なきゃならないのにさ、あたし、明日から金曜まで部活休まなきゃならなくてさ。しばらく練習は自分たちでしてほしいんだよね。経験者の東村にメニューを考えてもらうからよろしく」
これで帰りのミーティングが終わった。
先輩の練習メニューをやらなくていいのはうれしいが、東村の練習メニューをしなきゃならないのは嫌だな。喜ぶべきか悲しむべきか悩む……。
それにしても、練習試合か……。まだ、バドミントン始めたばっかりなのに練習試合するのは正直きつくないか?
「おい弐星、練習試合の件だが、絶対にお前は試合で負ける。だから、俺とダブルスをしないか?」
「えっ?絶対やだ」
「まあ嫌な理由の1割は俺の性格が原因なのはわかってるが、この提案はお前のためにしてるぞ。初心者はとりあえず経験者と組めばだいたいなんとかなる。仮に俺と組まなかったらお前はバドミントン部の恥となるだろうな」
「東村の性格は1割じゃなくて10割、嫌な理由なんだよ!……まあ、お前の言いたいことはよくわかったよ。初心者の俺は東村と組む以外ありえないっていうことなのか。じゃあ、ダブルス組もうじゃないか」
「なあ東村さん、俺も初心者なんだけど……」
「大陸は別に1人でバドミントンできるだろ」
「俺、1人じゃ心細いよ!」
「弐星に嫌がらせができるチャンスだから邪魔しないでくれ。大陸、よく考えてみてくれ!練習試合は当然仲間たちが応援する。つまり、シングルスだったら小白さんの応援を独り占めできるんだぞ!漲ってこないか?」
「確かに!東村、…………お前は天才か?」
「なあ、東村。ダブルス組むのさ、俺のためじゃなくて俺に嫌がらせするために言い出したのか?」
「よくわかったな」
「お前がバリバリ言ってたからな!」
来週の練習試合がすごく不安になった。
「あ、そうそう。ダブルス組んだからなんとかなるって俺言ったけどさ、さすがに経験者同士がペア組んでる奴らにはちょっときつい」
「そりゃあな」
「でも、作戦次第では勝てると思うぞ」
「そうなのか?俺の脳内シュミレーションでは東村が俺に嫌がらせしたり、そもそも相手が強かったりしてボコボコにされてるのだが」
「俺もそうなる予感しかしないけどな……。でも、俺の作戦だったらもしかしたら勝てるぞ。ちょっと耳貸せ」
東村の作戦とやらを聞いてみたがすごくふざけていた。
…………本当にこれやるのか?