第30話
大海高校の後夜祭は毎年違うことをする。あるときはキャンプファイヤー、あるときは花火、あるときは未成年の主張。
では今年は一体何をするのか。
大海高校初のミスコンだ。
後夜祭に行うものは文化祭が始まる前の日に、全生徒にアンケートを取りその中で最も多かったものをやるのだと実行委員長から聞いた。それで選ばれたのはミスコンだったのだ。
なんとなく東村に、アンケートになんて回答したのか聞いてみたところ、奴はミスコンだと言ってきた。
どんなことをしたかはわからないが、どうせこいつが何かしたのだろう。
東村が絶対文化祭で何かやらかすと思って、対策として俺が文化祭実行委員になったが、結局悪の権化が裏で動いて俺が実行委員になった意味がなかった。
なぜこんな話をしているのか。
「さ、弐星ちゃんのかわいい姿を全校生徒に見せなきゃね!」
『写真撮りたいよー! にぼっしーが塩をまこうとしてきたら、その写真で脅したいし! それに予想以上にかわいいから永久保存したいー!』
今の状況から目を背けたいからだ。
今の状況というのは、あと少し経ったらツインテールのウィッグとメイド服を身に着けた俺が体育館のステージで晒されるということを示す。
このような経緯を簡単に説明すると、店番をサボった罰として、女子のふりをしてミスコンに出場するということになったわけだ。もちろん俺は逃げようとしたが、あまりに敵が多く捕まり、首輪がつけられ、迅城が首輪の縄をもっているという状況になってしまった。首が締まってしまうから暴れて逃げることができない。
「それでは次の方。お名m……。……あの首輪つけていて大丈夫でしょうか」
呼ばれた俺は司会の男に心配されてしまった。
「はい。問題ありません」
俺は裏声で答えた。
「……後ろの方も参加してるということでよろしいでしょうか?」
「この人は飼い主なので参加していません。実はわたし性奴隷なんですよ」
「えぇっ!」
司会者は少し鼻血を出しながら驚いていた。
開き直ってこのミスコンをぶち壊してやるぜ!
「えっとお名前でしたね。迅城優花でーす。趣味はエロゲ、特技はHな妄想をすることです」
(ちょっと! 私の苗字を勝手に使わないでよ! しかも趣味と特技を破廉恥にしないで! 迅城だからってことで、風評被害とかありえそうだし!)
『私の名前を勝手に使わないで! 趣味と特技は違……くないかもしれないけど、私にだって風評被害が……ないね。何この複雑な気持ち!』
お前ら、よくもまあ俺をコケにしてくれたよなああああああぁぁぁぁぁぁぁ!
迅城や照湊さんが張り切って化粧をしたから、ぱっと見男とはバレない。これを活かして仕返ししてやるよ!
「そ、それでは観客から質問をいくつかしてもらいましょう。質問のある方は挙手してください」
床をどんどん血まみれにしていく司会者は呼び掛けた。
すると、男子生徒の7割が全力で挙手してきた。
司会者が野郎に近づいてマイクを向けた。
「メイドの他に何のコスプレをしたことありますか?」
それも気になってたと言わんばかりと野郎どもが頷いた。
「そうですね。バニーガールの恰好はしたことありますよ♡」
「「「「「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」
野郎どもは歓声を上げた。
『そんな恰好したことあるの! 写真撮りたかった―……』
「……ほ、他にありますか?」
司会者は貧血で顔を真っ青にしながらも仕事をしていた。
また男子生徒どもが挙手した。
司会の男がポケットから取り出したティッシュをとにかく鼻に詰め込んで、適当に選んだ生徒に近づいてまたマイクを向けた。
「彼氏はいますか!」
この場にいる男子生徒たちは強面で固唾を飲んだ。
もし俺がいると言った場合、野郎どもが暴走してしまう恐れがありその様子を見てみたい気持ちもあるものの、俺と付き合っている奴が女ではなく男になってしまい、迅城が喜びのあまり暴走してしまうかもしれない。彼女は興奮すると何をしでかすかわからないから、ここは変に刺激しないほうがいいのだろう。
「いません。でも好きな人はいます♡」
「いなくてよかったああああぁぁぁぁ!!」「好きな人がいるのかー……。それは残念……」「でもそれは俺の可能性があるかもしれないってことか!」「漲ってきたあああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
彼氏はいないが好きな人がいるということで、野郎どもの暴走を抑えられると思ったが、逆効果だったみたいだ。一応言っておくが、俺に好きな人はいない。フェイクだ。
「え、いるってどういうこと。それは私なの? 私じゃないの? どっちなの? ああどうなのこれ。モヤモヤする。でも今聞くのも変だしな。でもでも、今すぐにでも聞きたい。でもでもでも……」
『やっぱりいるじゃーん! ねえねえ! 誰が好きなの!』
迅城はなんかブツブツ言ってるし、優花ちゃんは俺の肩を掴んで揺さぶってくるしでめんどくさい。俺の選択はミスだったのか?
「え、えっとそれでは次で最後の質問にしたいと思います。質問したい方は挙手をお願いします!」
鼻に詰めているティッシュのほとんどが赤く染まっている司会者は、この場をまとめるように言った。
司会者の言葉を聞いた野郎どもは、さっきまでよりも本気で挙手をした。男らの腕はとてもまっすぐしていた。そんな中、1人の腕がすごく気になった。野郎どもと比べて細くて白くて美しかった。
司会の男もその腕が気になったのか、そっちへ向かって歩いて行った。司会者が周りの人たちを押しのけ、美しい腕の人の姿が現れた。
その人は髪が少々長く、全体的にスラッとしていた女子だった。ただ残念なことに仮面を身に着けていて顔が隠されていた。まさかミスコンで女子が挙手するとは思いもしなかった。
仮面の女子はカンペを持っていてそこに書かれた文字を司会者に見してきた。
「えっと何々。諸事情でミスコン中は喋れないのでここに書いた文字を読んでいただけますか。……わかりました」
俺のほうを見ている仮面の人の視線に違和感を覚えた。この視線は中学のときからこの視線を知っている?
カンペがめくられ、司会者は読み出す。
「迅城優花さんに質問です。あなたは本当に女ですか? ……え。迅城優花さんは実は男……? お答えしてください」
「そうだ、俺は男だああああああぁぁぁぁぁぁ!!! ちっくしょおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
俺はウィッグを投げ捨てた。
「「「「「ええええええぇぇぇぇぇぇ!!!!!」」」」」
観客と司会者は全員驚いた。
なぜあの人が俺のことを男だとわかった!
カンペ……。カンペといえば、入学してちょっと経った頃に東村がカンペで俺に指示したことがあったような……、まさかあいつ女子に変装してんじゃ…………。
仮面の人は抜き足差し足で体育館から抜け出していた。
完全に東村だ。
そりゃあそうだよな。東村が準備していた文化祭だもの。そりゃあ後夜祭にだっているわな。あの野郎、最後の質問になるまで俺に恥をかかせていたってわけか!
司会の人は真顔でもといた場所へと戻ってきた。司会の男だけじゃなく野郎どもも真顔だった。
……怖い。
「ウィッグをつけてください」
「……俺、男だから退場しなきゃですよね…………え?」
俺はよくわからないままウィッグをまた身に着けた。
「あなたも立派なミスコンの参加者ですよ。だって……」
「だって?」
「めちゃくちゃ似合ってるんですからあああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
「「「「「めちゃくちゃかわいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!!」」」」」
…………は?
「確かに普通の男が女装してもキモいだけですが、あなたはガチで似合っています! あなたが男なんて関係ないです! むしろ男のほうが……! あなたに好きな人がいるのはわかっています! でも俺と付き合ってください! 俺の気持ちは本気です!」
ちょっと待ってくれ! ミスコン中に、男である俺に司会の男が告白しているという状況って何なんだよ!
「あっ、あの野郎! 抜け駆けしやがって!」「司会者だからって調子に乗るな!」「奴をステージから下ろすぞ!」「邪魔だ、どけ! 俺が迅城優花さんと付き合うんだ!」「迅城優花さんは俺の嫁だ! だから手を出すんじゃねえ!」「汗臭いお前らに迅城優花さんを渡すものか!」
ステージ前で、司会者を巻き込んで学年という壁を越えて乱闘が始まった。
『にぼっしーは周りの人も変態にすることができるんだね』
「迅城。罰はこれで終わりにしてくれないか?」
「……う、うん。こんな状況になるなんて思わなかった」
こうなることを誰が予測していたのだろうか。
……この酷い状況を生み出したのは東村だ。
奴を思い切りドロップキックしてやりたい!
俺たちはステージ裏にある出入り口から出ようとすると、司会者と観客の野郎どもがものすごい剣幕で俺を凝視してきた。
「俺と付き合ってくれえええぇぇぇぇ!」「結婚してくれええええぇぇぇぇぇ!」「エッチしてくれええええぇぇぇぇ!」「俺を穢してくれええええぇぇぇぇぇ!」「俺の有り金全部使ってTSしてくれええええぇぇぇぇぇ!」「鼻の穴をペロペロさせてくれええええぇぇぇぇぇ!」
観客の男どもが変態ゾンビへと変わってしまったみたいだ。
『ゾンビ映画のリアル版を見てる気分になってきた。キャー、こわーい!』
「これぞまさにキャラ変だな」
「あんた、アホなこと言ってないで逃げるよ!」
俺たちは全速力で体育館を出た。奴らも全速力で俺らを追ってきている。
まずい! このままでは変態野郎どもに捕まって酷い目に合わされてしまう!
どうにか校舎にまた入れたが、一体どこに隠れればいいのだろうか。
「弐星! こっちだ!」
パニック状態で誰の声なのかわからなかったが、その人に従って案内された教室へと入ってドアを閉めた。教室には大陸、詫楼、模武がいた。
「これはどういう状況だ。小白さんが出ないって聞いたから、俺たちはここで明日に向けた会議をしていたところなんだ」
そういえば、他にも男が何人もいた。
「いや、クラスの店番サボった罰として、ミスコンに女装してミスコンに女のフリして出ることになって、俺が観客の男たちに、俺が男だってバレて、むしろ好きとか言われて今こうなってる。状況はわかったか?」
「「「わかるわけねえだろうが!」」」
「それにしても俺が女装してもお前らは襲おうとしないんだな」
「お前のアホな姿なんて嫌というほど見たからな」と大陸。
「小白さんを襲いたい気持ちはわかっても、弐星を襲いたい気持ちなんて1ミリも理解できない」と詫楼。
「弐星に欲情するくらいなら死んだほうがマシ」と模武。
周りの『小白ファンクラブ』の野郎どもも、うんうんと頷いていた。
まさか、変態宗教集団の奴らをまともだと思う日が来るとは思わなかった。
「正直、そのお前を襲おうとしている男どもに引き渡したいところだが、今回ばかりは奴らの仲間の加わるのは癪だから、お前に協力してやるよ」
大陸は意外なことを言った。
「サンキューな。でもどうやってここから脱出するんだ?」
「とりあえずまずは職員室に行くんだ。さすがに職員室だったら奴らも暴れられないだろ。で、職員室の窓から脱出ってわけだ」
なるほど。頭いいな。
「じゃあ迅城。また後でな」
「うん。気を付けて」
俺は教室から出ると、変態ゾンビの1人と目が合った。
急いで教室に戻りドアを閉めて押さえた。
「職員室に行くまでに見つかったら意味ねえじゃねえか!」
「「「「「ちっ!」」」」」
「お前ら、本当に俺に協力する気があるのかよ!」
「私は、弐星があの変態たちに捕まって犯されてほしいって少しだけ思ってるよ」
「迅城だけは俺の味方だと思ってたよ!」
『私は味方だよ?』
幽霊が味方でも役には立たねえ……。
「お前のさっきの行動は少し意味はあったぞ」
大陸。お前は何か考えがあって、あえて俺を外に出させたのか。
「一体その意味とは何だ?」
「お前を襲おうとしてる奴がお前を見つけたから、お前が捕まりやすくなったっていうことさ」
「なるほど。あえて引き付けることで、お前らが囮になってくれるってことか!」
「そうじゃない。お前が捕まれば俺たちはハッピーだからな。お前に協力するメリットが1ミリもない」
「さっきまで言ってたことと違うぞ!」
「まあまあ落ち着けって。お前が捕まって俺たちがハッピーだってのは1割冗談だから安心しろ」
「9割本当だから心配だ!」
「ここに偶然爆弾がある。それを使ってこの教室を爆破する。すると、逃げ道が全方向にできるから簡単に逃げれるってわけだ」
偶然爆弾があるってどういうことだよ。
でもまあ、確かに逃げ道ができるってのはありがたいな。
……ちょっと待てよ。
「そしたら俺らは爆破に巻き込まれ、そのうちに奴らに捕まるんじゃないのか?」
「……ちっ。今度は騙せると思ったのによ」
「お前、やっぱり協力する気ないだろ!」
「ねえ、弐星が変態たちに見つかったわりには外が静かじゃない?」
迅城が気になることを言った。
そういえばそうだな。奴らならこの教室のまわりで騒いでいてもおかしくない。
俺はドアを押さえるのをやめた。
「おい大陸。ちょっと外の様子を見てくれないか?」
「……いいよ。そして奴らをこの教室に入れてやる」
大陸は物騒なことを言いながらドアを少し開けると一瞬で閉めた。
「俺は何も見なかった。俺は何も見なかった。俺は何も見なかった。俺は何も見なかった。俺は何も見なかった」
『あれ? どうしたんだろう?』
大陸はおかしな挙動をしながら急いで窓を開けて、そこから脱出した。
大陸の行動で何か感知したのか詫楼や模武、他のファンクラブの奴らも窓からここを脱出した。
本当にどうしたんだ?
変態ゾンビたちだったなら喜んで教室に入れただろうに。
教室のドアが開いた。
俺も迅城も優花ちゃんも開けてはいない。
開けたのは谷鉄先生だった。
「弐星。後夜祭ではな、あの後どのクラスが1番良い企画だったのか表彰して、その後ダンス部やら軽音部やら俺たち教師による出し物まである予定だったんだ」
「なるほど。もうすぐ表彰が始まるから俺たちのことを探してくれたんですか。ありがとうございます。それじゃあ今すぐ行きましょう」
俺は教室を出ようとしたとき、外にあったものを見た。
それは気を失っている変態ゾンビどもだった。
「弐星がな、ミスコンで暴れてしかも暴徒をたくさん生み出してしまったわけだ。それで体育館がその表彰がなくなった。……どういうことかわかるよな?」
「すみません、休養を思い出したので俺はこれで……」
俺はここから逃れようとしたが、谷鉄先生に肩を掴まれた。
「お前は何回特別指導を受けたら気が済むんだ?」
「いや、今回は俺だけじゃなくて、迅城も悪いと思いますよ」
「この場にいない生徒に罪を擦り付けようとするな!」
俺は教室を見回すと迅城がいなかった。
……もしかして谷鉄先生と会話している最中に逃げたのか!
「本当に俺だけのせいじゃないですって! どちらかと言えば迅城のほうが悪いですって!」
「東村からお前のことはすべて聞いたうえに、証拠もある。ほら立て! 指導するから来い!」
あいつは完璧な偽造の証拠を作り出すプロだ。つまり詰みだ。
『どんまい、にぼっしー!』
優花ちゃんはまるでおもしろいものでも見ているかのような顔で言ってきた。
こうして大海高校の最悪な文化祭は最悪な形で幕を閉じたのだった。




