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バドミントンでわんこそばの掛け声をやったった……  作者: 三好ペペロンチーノ
第4章 迅城、ツンデレキャラにチャレンジしたった!

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第29話

 翌日。

「ねえ。あの人、なんかすごくない?」「だよね。このクラスの展示物と同じくらいに気になるよね」「ちょっと話しかけてみる?」「でもちょっと怖くない?」「ああいう人は意外と気さくな人だったりするんだよ」「確かにそうだね」

 数人の女子たちが俺のほうへと寄ってきた。

「どうしました? 展示物で破損の箇所でもありましたか?」

 俺は紳士的な態度でお嬢さんたちに接した。

 フッ。モテる男はつらいぜ。

「……あの、なんであなたはチェーンで椅子と一体化されて、膝の上にのっているキングコブラと見つめ合っているんですか?」

「こういう趣味なもので気にしないでください」

 女子たちは見てはいけないものを目撃したような目でこちらをチラチラ見ながら教室から去っていった。

 昨日は酷い目にあった。迅城に、全ての関節を逆に曲げられて変な動きをするパペットのような姿にされ、『小白ファンクラブ』の野郎どもに、1人1回釘バットで千本ノックの刑を執行され体中の骨が折られて軟体生物と化した。あと照湊さんの罰があったのは覚えているのだが、具体的に何があったのかは一切覚えておらず、気がついたら俺は家でパジャマ姿で寝ていたというわけだ。しかもなぜかケガも治っている。照湊さんの罰は痛かったような気がするし、苦しかった気もする。とにかく死なせてほしいのに死ねないひどい状況だった気がするが、思い出せないのは不思議だ。まあ思い出したくもないが。

 あくまでこれは昨日の写真の罰。

 今行われているチェーンで拘束されてキングコブラのエサにされている行為は、昨日店番をサボった罰らしい。しかも誰かに何をしているのか聞かれた際は、趣味でやっていると言わなくてはならない。

 昨日ろくに文化祭をまわれていないのに勘弁してほしい。

 そんなわけで現在、罰を受けながら展示物のお困りごとに関する受付の仕事をしている。

 今日一日中やれとかマジで勘弁。

 そして何よりも問題なのは……。

『キングコブラってよく見るとかわいいね! 触りたくなっちゃう!』

 優花ちゃんがやたら触っちゃうから、キングコブラが何事かと暴れていることだ。そのせいでうっかり噛まれたらどうしてくれるんだ。

「一日中店番とか嫌だよー……。俺、気になってたところいくつかあったのに! 図書委員会が秘密裏にやってるっていう猥褻図書館とか行ってみたかったのに……」

『もし、迅城ちゃんとそんなところに行ってたら、内臓の1つや2つくらい取られたんじゃないかな?』

「大丈夫。肺が1個なくなるくらいなら大丈夫だって」

『それを言うなら腎臓が1個でしょ。というかそもそも行こうとしないの』

「俺だって男なんだよ。三大欲求は全て満たさないと人生やってられないんだよ」

『にぼっしーが満たしたいのはどうせ性欲だけでしょ』

「お前だって満たしたいくせに!」

『いいよーだ! 私は別に何もされてないし、1人で猥褻図書館に行ってくるもんねー。感想はちゃんと20文字以内で伝えてあげるから感謝してね』

「悪かったから、俺を1人にしないでくれよ!」

 今、この教室には俺と優花ちゃんのみ。あとあえて言うならキングコブラも。

 だから、性欲おばけがここを離れたら話し相手がいなくて、ヒマすぎて蛇とお話するという悲しいことをしなくちゃいけなくなる。それだけは避けなくてはならない。

 どうにか優花ちゃんを食い止めようとじゃれ合っていたとき、俺たちの変態展示会にお客さんがやって来た。

「いらっしゃいませー」

 お客さんは他校の制服を着た爽やかイケメンで、男の俺も惚れそうなくらいかっこよかった。

『ああいう人はだいたい性格がカスだったりするんだよ。優しそうな見た目で女の子を騙してお金とったりしてそう』

 どんだけイケメンが嫌いなんだよ。

 麗しい男は俺のほうへと近づいてきた。

「すみません。ここに2年生の岩破という名前の女の子が来ませんでしたか? ……えぇっと、ひ弱そうな感じの人なんですけど」

「ラケットを持ったら覚醒する岩破先輩はここに来てませんよ」

「……は? 覚醒……? ごめんじゃあ違う人かな。いやラケット? もしかしてバドミントン部に入ってる?」

「はい。ちなみに部長も務めてて。早く引退してほしいくらい厳しくて……」

「……厳しい? 俺の知ってる岩破と全然違うんだけれど。でもバドミントン部だし……? どういうことだ? 俺がいなくなってから変わったってことなのか? まあいいや。とにかく岩破がここに来てないのならいいや。あいつなら変なクラスの出し物のところに行くと思ったんだがな」

「よければ岩破先輩を探すのを手伝いましょうか?」

「マジか! ありがとう助かr……。君はその状況で俺を手伝えるの?」

 そういえばチェーンで縛られてるんだった。

 どうしたものか。

「……えっと。鎖を外せばいいの?」

「外してくれると助かるんですけど、これは特別性のチェーンでして。東村っていう俺の友人が頼んだ特注品とかで、そいつしか外せないらしいんですよ」

 俺の言葉を聞いていなかったのかチェーンを無理やり破壊しようとしていた。

 男から一瞬岩破先輩が発するオーラと似たようなものを感じた。

「えいっ!」

 チェーンがはじけ飛んで拘束が外れた。

「力強すぎでしょ! 一瞬岩破先輩かと思った!」

「俺、力だけが取り柄だから」

 いや他にも顔とか取り柄でしょ。

『この人、にぼっしーを助けて何かする気なんでしょ! 私にはわかるよ。お金でしょ! きっとお金を取る気なんだ!』

「あの、いくら支払えばいいでしょうか」

「お金なんていらないよ。ただ岩破を探してほしいだけだから」

 性格もイケメンだ。

「探すって言ったってスマホで連絡すればすぐわかるんじゃ…………あれ?」

 いつもスマホを入れてるポケットに手を入れたが何も入っていなかった。

 ……そういえば!

「友達に仕事サボるなって言われてスマホを没収されたんでした! すみません。でもイケメン様が連絡すればいいんじゃないですか?」

 俺がイケメンに聞くと彼は複雑な顔をした。

「ごめん。スマホ持ってないんだよね。ネットで後輩への大量の悪口を見ちゃってどうしようもない気持ちになっちゃって、バキバキに割って燃えないゴミにしたんだ。……あとイケメン様って呼ぶのやめてほしいんだけど。俺は岌寳(たから)。君は?」

「弐星です。岌寳さん、これからは師匠って呼びますね」

『この人を師匠って呼ぶのはやめときなって』

 この人はイケメンだ。ということは、この人についていけば俺もイケメンキャラになれるのかもしれないのだ。

「岌寳さんでいいじゃん!」

「いや、師匠になんて言われようと師匠って呼びます!」

「なんで俺が君の師匠なんだよ!」

「一目見ただけでこの人は尊いなって思いまして」

「何を言っているのか全然わからないよ」

「それじゃあ行きますか」

「そうだね。ありがと。でもいいの? 弐星くんはここから出たらクラスの人たちは困るんじゃないの?」

「ここは変態しか来ないような場所だし、逆にサボったほうがいいですよ」

「……そ、そうなんだ。それより体に巻き付いてる蛇はいいの?」

 そういえばそうだった。

 身体から無理やり引き離そうとしたがしがみついてきた。

 キングコブラの顔をよく見ると、目がくりんってしていてかわいい。

 コブラは頬をスリスリしてきた。

 かーわーいーいー♡

「こいつは絶対に渡しませんよ!」

「いや別にいいなら、それでいいんだけど……。……それで岩破がいる場所に心当たりとかあるのか?」

「先輩はバドミントンバカなので基本的に体育館かグラウンドにいると思います。でも今は文化祭なのでどっちも使えなくなったからとかで、体を鍛えられる場所か、自分のクラスの店にいると思います」

「岩破ってそんな脳筋キャラだったっけ?」

「そうですよ。昔は違ったんですか?」

「半年前くらいまではシャイでオドオドしてて、強キャラ感はなかったんだけどな。もしかしたら弐星くんの知ってる岩破と俺の知ってる岩破は違う人なのかも」

「でもうちの高校で岩破って名前の2年生は1人しかいないですよ」

 師匠は首を傾げていた。

「まあ会ってみればわかるか。それじゃあ、体が鍛えられるところから行かないか? ちょっと前に2年生のクラスを片っ端から覗いてみたけどいなかったし」

 というわけで俺と師匠は『muscle is power』という、いかにも鍛えられそうなところへ向かった。

 目的の店にたどり着くと、ムキムキのむさくるしい男どもがたくさんいた。

 師匠は目を輝かせていた。

「俺さ、ムキムキに憧れてるんだよね。でもいくら鍛えてもザ・マッチョになれなくてさ……」

「師匠ってヒョロヒョロなんですか?」

 尊い男性はYシャツのボタンをいくつか外して、肌着をめくって、俺に腹筋を見してきた。

『ちょっと前の私だったらアタフタしてたのに、今はにぼっしーのせいで、裸に慣れてしまった自分がいるってなんかヤダな』

 師匠の腹筋は細マッチョとしては十分すぎるほどだった。

「もっと太くなりたかったんだけど」

「太くなったら師匠の美しい身体が! ……腹筋触っていいですか?」

「別に構わないよ」

 腹筋をツンツンしてみたらめちゃくちゃ固かった。

 なんとなく手をグーにして思い切り腹を殴ってみた。

「ぐわっ! めちゃくちゃ痛い! 師匠、充分すぎるほど筋肉ついてますよ!」

「弐星くん、お世辞とかいいから」

「じゃあ俺のを触ってみてくださいよ」

 俺はシャツのボタンをいくつか外して腹を出し、師匠は俺の腹を恐る恐る1本の指で触った。

「……はぁはぁ」

 俺は師匠の指に興奮して思わず荒い息を吐いてしまった。

「息を荒くしないでくれない? 俺が卑猥なことをやってるみたいだから」

「すみません。でも不可抗力なので許してください」

『何で、にぼっしーはどんどん変態になっていっちゃうんだろう……』

「君のお腹はぷにぷにしてていいね」

「俺くらいが普通なんですよ!」

 俺と師匠はシャツのボタンを留めると、店の様子を覗いてみると……。

「さすがは岩破様だ!」「ラケットを右手で持ってるっていうハンデがあるのにも関わらず、バーベル600kgを左手で軽々と持ち上げるなんて!」「俺、一生岩破様についていきます!」「それじゃあ俺が立派な右腕になります!」「いや俺が右腕になるんだ!」「ふざけんじゃねえ! 俺がなるんだよ!」

 ラケットを持った岩破先輩の周りでマッチョどもが喧嘩していた。

 もう少し中の様子を見ていると……。

「おい野郎ども! 岩破先輩の邪魔だから騒ぐなよ!」

 なんと大島もマッチョに混じって取り巻きになっていた。

「あれが本当に岩破なのか……。去年はあんな取り巻きいなかったのに……」

「まあ話してみたら前と変わらないなんてこともあると思いますよ。さあ、中に入りましょう」

 俺は師匠を連れて中に入った。

「先輩、ここで取り巻き作って何してるんですか」

 岩破先輩に気さくに話し掛けた。

「あたしに聞かないでよ! あたしが1番わかってないんだから」

「おい弐星! 岩破先輩に気軽に話し掛けるな!」

 大島が話に割り込んできやがった。

「部活で世話になってる先輩だし別にいいじゃねえかよ」

 世話になってるというより、ボコボコにされてると言ったほうが正しいが。

「まあそれなら……、……いやそれよりも! 何でお前がここにいるんだよ!」

「何でって、岩破先輩に会いたいっていう人がいたから一緒に探してたとこだ」

 俺の言葉を聞いて岩破先輩は首を傾げた。

「あたしに会いたい人って一体誰?」

「俺の後ろに……。あれ? ……いなくなった」

「名前はなんて言ってたの?」

「岌寳って名乗ってました」

 先輩の腕の力が抜けたのかバーベルを落として床がへこんだ。

「絶対に逃がしてなるものか!」

『岩破ちゃんにとってあのイケメンは、仇か何かなの』

 岩破先輩は急いで教室を出て行った。

 周りのマッチョどもや大島は岩破先輩がいなくなってすごく落ち込んでいた。

「弐星。岌寳……さんは岩破先輩に何の用があったんだ?」

「俺にもわからん。制服を見た感じ他校の人だったのはわかったけどな」

「それはそうと……。……お前店番サボって何してんだよ!」

 大島が俺を捕まえようとしてきた。

「ちょっと急用を思い出した! ごめん。こいつ持ってて! お前に懐いてるみたいだし」

 俺はずっと頬に頭でスリスリしてたコブラを大島に預けた。

「シャーッ!」

「そいつ罰ゲームで持たせたキングコブラじゃんかよ! 威嚇してるし俺に絶対懐いてないだろ!」

「そういう愛情表現なんじゃないのか? それじゃサラダバー!」

「俺が悪かったから! こいつ噛みつこうとしてきてるから止めてくれ!」

 大島が何か叫んでいたが無視して教室を出た。

 それにしても、まさか本物のイケメンキャラが現れるとは。もっと早く会えたらよかったのに。……あの筋肉最高だったな。

『ねえ。涎出てるよ』

「おっとすまん。つい興奮して」

『にぼっしー。キャラ変えようとしたらどんどん変な方向へ行っちゃうから、もういつも通りのほうがいいんじゃない?』

 急にいつも通りと言われても、いつもの自分がどんなだったかもう覚えてない。

 前の自分がどんなだったか考えながら廊下を歩いていると「昨日ぶりだね」と小白さんが後ろから声を掛けてきた。

「岩破先輩見なかったか?」

 小白さんに尋ねたら、首を振った。

「ごめん見てない。……そういえばなんだけど、ちょっとやってほしいことあるんだよね」

「俺にできることなら何でもこい」

 どこかの宗教団体の琴線に触れるようなことでなければ。

「ありがとう。じゃあ片手でいいから出して」

 俺は小白さんのほうへ手を向けた。

 すると彼女はポケットから手錠を取り出して、俺の手と小白さんの手をつなげるようにして掛けた。

「何で手錠? 一体どんな変態プレイをするんだ?」

『ワクワク! たのしみーっ!』

「そそそそんなんじゃないから! ……はやちゃん。これでいいんだよね?」

 近くの教室から迅城や他のクラスメイトの奴らが出てきた。

「なるほど。察し!」

 俺は小白さんをお姫様抱っこして全力疾走し始めた。

「えっ! ちょっと!」

 小白さんの顔が赤くなっていた。

 体調が悪いのだろうか。ならば、少し我慢してもらいたい。ここで止まれば明日の俺がいないから。

「何で私じゃない女子をお姫様抱っこしているんですかぁ?」

 目の前に包丁を持った照湊さんが現れた。

「これは訳があってですね!」

「問答無用! 首を切ったら訳を聞いてあ・げ・る♡」

「その前に死ぬじゃねえか!」

『あー……。ヤンデレ化が進んでるね』

 優花ちゃんの意味不明な発言を無視して回れ右すると……。

「「「「「これはトマトの代わりに弐星の内臓でトマト祭りだなあああああぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」

「『……』」

 何で俺は昨日今日で嫌な目に合うんだろうね。

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